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第3章 ちょんの間

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「出血は酷いが、傷は深くない。ここは細かい血管が集中してるから、切れると血がたくさん出るんです」

 仙千代の局部を手当てしながら、金剛の佐吉さきちは述べた。

 金剛とは、売られてきた少年を蔭間にすべく仕込みをしたり、蔭間の身の回りの世話をする従者のことである。

 傷の手当てといっても、蔭間が尻から出血するのはよくあることで、いわば職業病のようなもの。

 そのたびに医者に診せたり、専用の薬を使用していたら、その代金だけでも馬鹿にならない。

 そのため、白ネギを適当な長さに切って蒸したものを局部に入れて、傷が化膿するのを防ぎ、炎症を鎮める程度だった。

 先の客ほど手荒ではなくても、「ちょんの間」で遊ぶ客の中には、性急だったり執拗な者は少なくなかった。

 充分な遊興費がないからこそ、半刻という「ちょっとの時間」で蔭間を買うが、それでも庶民にしてみれば数日分の給金に相当する金額で、決して安い出費ではない。

 短い時間を少しでも無駄にすることなく目いっぱい楽しもうと張り切って、やたらと力を入れて愛撫したり、強く吸ったり、歯を立てたり、ろくに慣らしもしないで挿入したり、力まかせにガンガン突き上げてくる。

 ──あんなふうにされて、蔭間が「感じる」とでも思ってるのか。自分の乳首をつねくったり、尻になすびでも突っ込んで激しく抜き差ししてみれば良いのに。

 仙千代は皮肉に考えた。

 同じ人間、同じ男なのだから、そんなことをされたら一体どのように感じるか、どれほど痛くて辛いか、すぐにわかりそうなものを……。

 そこまで考えて、蔭間は客と同じ人間ではないのだ、少なくとも客のほうは、蔭間を自分たちと同じ人間だと見なしてはいないのだと思い至った。

 川上屋に来た最初の日のことを思い出す。

 亭主は仙千代を軽蔑する目で見下ろし、仙千代に自らの指で穴を拡げさせると、前戯もせずに荒々しく男根を突き入れた。

 そして、痛みと屈辱に泣き崩れた仙千代に、これが蔭間の現実だ、と言い放った。

 亭主の言葉は真実だった。

 蔭間を優美だ、綺麗だと誉めそやす者も、決して自分と同じ人間だとは思っていない。

 美しい外観をした玩具、愉しむための道具であり、手荒に扱っても良い物なのだ。

 そう思い知らされて、仙千代の目から涙がはふり落ちた。

 川上屋に来てからというもの、男らしくもなく泣いてばかりで、一度も泣かない日というのはなかったが、それでも涙はまだ尽きることなく残っていた。
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