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第1章 川上屋

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 下帯一枚になった仙千代の、頭のてっぺんから足の先まで、品定めするかのような目線が走った。

「うしろを向け」

 言われたとおりに主に背を向けると、今度は尻のあたりに目線が這いまわるのを感じた。

「四つん這いになりな」

 その命令に、仙千代は逆らうことはできないと頭では理解しつつも、躊躇せずにはいられなかった。

 あまりの屈辱に、体がぶるぶると震える。

 それでも、ぎくしゃくと手足を動かし、言われたとおりの姿勢になった。

「ようし、いい子だ。もうお前は武士でも何でもない、ただの蔭間、淫売なんだ。それを忘れるな。わかったか?」

「はい……」

「わかったら、尻を振れ」

 仙千代は、現実から目をそらすように、きつく瞼を閉じた。

 そして、言われたとおりにした。

 己は売られたのだ、もう士分ではないのだ、男娼になるとはこういうことなのだ──そう自分に言い聞かせながら。

「なんだい、その動きは。ちっとも色っぽくないぞ」

 主は煙管をもう一服して、茶を啜る。

「念者とやってるところを思い出して、いい気分になってよがって見せろ。俺をその気にさせるまで終わらない。できるまで、いつまででもやらせるからな」

 残酷な命令だった。

 仙千代は必死に腰をくねらせるが、蔵人のことを思い出すと、その気になるどころか、あまりの惨めさに熱い涙がこみあげてくる。

 それでも、亭主は容赦しなかった。

 主をその気にさせるまで、いつまででもやらせる──それは、文字どおりの意味で実行された。

 仙千代は一刻──現在の時刻に換算すると二時間以上もの間、その場に四つん這いになって尻を振りつづけたが、主の許しはもらえなかった。

 やがて早めの夕餉の時間になり、女中が部屋にお膳を運んで来たが、仙千代が動きを止めると叱責が飛んだ。

「おい、誰が止めていいと言った? お前は淫売なんだ、もう人様に見られて恥ずかしがるような身分じゃねぇんだよ。それがわかるまで何刻かかろうが、明日の朝までだろうが容赦はしないからな」

 そういうと、主は漬物をバリバリと嚙み、味噌汁を啜った。

 ──私は淫売だ、女中にどんな姿を見られても、恥ずかしがるような身分じゃないんだ……。

 仙千代は自分に言い聞かせた。
 まるで自己暗示にかけるように。

 そして、すっかり夜の帳が降りた頃──

「いい気分になってるじゃねぇか」

 川上屋権兵衛は下卑た笑い声をあげた。

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