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気象の国 ウェザークラフト その一
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グミと別れてから早三日。初めて車に改造してもらえてよかったと思っている。
「操舵席に座っても濡れないのは嬉しいよな。雨具が無くても濡れないんだから」
「私も普通の馬車でしたら音を上げていました」
俺達は豪雨の中を車で進んでいる。
アルシェすら音を上げると公言するほどの豪雨。
視界を保つために操舵席と荷台に設置されているガラスも、この豪雨の前では何の役にも立っていない。
激しい音とバケツを滝の中を進んでいるような雨量が視界を塞いでおり、周りの光景が全く見えない。
遠視の魔法を使い何とか進む道だけはわかる状況だ。
「私の発明だからね、利便性に関しては全く問題なしだから」
小さな体で大きな胸を張りオレイカが自信満々にそう言うが、利便性に関して言うなら視界も確保できるようにしてもらいたい。
俺達が今いる場所は気象の国ウェザークラフト。
様々な気象が各町ごとで起こり続けている。
雨が降り続ける町、雪が降り積もる町、雷が落ち続ける町など様々で、本来ならここに住み着く人はいないだろうが、国として成立している。
理由としては職人にとってはこの環境はありがたい。
この国で耐え切った装備、この国でも腐りにくい食べ物、この国でも物を作れる技量。
それだけでブランド化できるほどの拍が付く。
ここまで説明したところでルリーラは、雨で暇だから寝るね。と言って寝てしまった。
「それでオレイカはここに何の用があるんだ? 仕事の依頼にはここの名前は無かっただろ?」
「私の趣味。折角だからみんなの武具一式の調整でもしようかと思ってるけど」
職人魂に火が点いた。そう言うことか。
それでも当代きっての職人に仕立ててもらえるのは嬉しい。大して不満があるわけじゃないが手を加えてくれるなら嬉しい限りだ。
「クォルテさん、えっと、雨の町に着きましたよ?」
「そうなのか?」
車を止めておいてなんで疑問形なのかと思ったがすぐに納得した。
車のわずか先には確かに町がある。家もあるし人の姿もある。
だが、その半分が水に沈んでいる。
水上に家を建てるヴォールとは違いしっかりと地面に家が建っているしかしその家の下半分が水没している。
「この町クアは水没してるんだよ。主に水上に出ているのが居住区水没してるのが実験場だよ」
「俺水に溢れた町ってヴォールみたいなのをイメージしてた」
「でもこれ以上先には進めないですよね。この車沈んじゃいますよ?」
遠視をしてみるがこの近くに馬車が止まっている場所もない。他の来国者はどうやって移動してるんだ?
「移動手段があるんだと思ってたけど無いの? それならまず首都のクラフトに行かないと」
「最初に行ってくれ……」
ただ真直ぐ進んだが、どうやらそれは駄目らしい。
オレイカから話を聞くと移動手段がない場合は、最初に首都のクラフトに向かい移動手段の確保が必要らしい。
自分の準備不足を嘆きながらアルシェの運転で首都を目指すことになった。
雨の町クアから数時間ほど経ち、目の前に日の光が見えてきた。
この国の首都晴れの街クラフト。どこまで進んでも終わりが見えない雨の町の終わりがようやく見えてきた。
車を打ち付ける雨音に遮られる視界、その上湿度が高いせいで居心地も悪い。
今までの国で一番心が折れた道中もようやく終わりが見えてきた。
「あの中で耐久検査とか正気の沙汰じゃないな。俺には無理だ。絶対無理」
「そんなもんだよ。私もあそこで実験はしたくないしね。それにあの町では四日以上の滞在は禁止されてるよ」
「禁止はいいと思うが四日は長いな。俺は一日で死にたくなる。それに引き換えアルシェは平気そうだな」
俺は操舵席で座っているだけでこうなのに、更に集中力が必要な操舵をしているアルシェは平気そうに車を走らせている。
「私は魔法で辺りの景色を見ながらの操舵ですし、奴隷ですのでこういうのには耐性があるんです」
「なるほどな」
アルシェの言葉にそれしか返せなかった。アルシェの居た場所を見たことはないが、ロックスの地下やギアロの地下を思えば確かにこの程度は普通なのか。
そうなるとクアで耐久検査をしているのは、研究者とかではなく奴隷なのかもしれない。
ふとした瞬間に目に眩い光が届いた。
太陽光は雨雲に覆われ暗さに慣れていた目を容赦なく焼いていく。
日光に焼かれ白くなった視界が色を取り戻すとそこは荒野だった。
大地は風に吹かれると土煙を起こすほどに乾き、石造りの家が立ち並ぶ。
死線を乾ききったこの街から後ろの町に移すと湿地を思わせるほどの豪雨。
境目が綺麗に分かれているのは魔法が原因なのだろう。
両極端すぎるだろ……。
片や家が水没するほどの雨で片や大地にひびが入るほどの干ばつ。
二つの街に触れただけだが早くもここからどこか別の国に行きたいと思ってしまう。
「じゃあ、宿でも探すか」
一軒家を貸し出している宿屋を見つけそこをこの国の拠点にすることに決める。
部屋数は四つの二階建てのよくある一軒家だが、ここの宿には驚くことに部屋の中央に噴水が備え付けられていた。そこまで大きくはないが、人一人くらいなら入れそうなサイズ。
「なんで噴水? わかった泳ぐためだ」
ルリーラがそう言いながらも着ている服を脱ぎ始める。
「やめろっての、セルクが真似するだろ」
噴水につかろうとするのは目に見えていたたため、服を押さえ脱がないようにする。
することを読まれていたことにご立腹のルリーラは頬を膨らます。
脱衣を止めることができたと思った矢先に噴水に、誰かが入水した音がした。
「パパ、このプール狭い」
俺は頭を抱える。
セルクが全裸で噴水に立っていた。
精神的に幼いセルクに羞恥心なんてものがあるはずはなく、大人顔負けのスタイルを隠すようなことは当然しない。
噴水に飛び込んだせいで辺りは水浸しでセルクの肌に着いた水滴は玉を作り体の先端から滴っていく。
神だからこその完璧な美貌は水が陽光を反射し一種の芸術のようなたたずまいになっている。
「アルシェ、セルクの体を拭いて服を着せてやってくれ」
その神秘性に心を奪われるが、あまり凝視をするのは周りからの反感を買ってしまいそうなので目を背を向ける。
「やだ、パパに拭いてもらう!」
嫌な予感に後ろを振り向こうとした瞬間、背中に衝撃が走る。
しかしルリーラが抱き付きにくる衝撃とは明らかに違う。
硬い顔が先に触れるルリーラとは違い、はっきりと柔らかさが先に触れる。
だがそれはあくまで初撃が柔らかいだけで衝撃に遜色はない。俺は後ろを向こうとしていたため体が半回転しそのまま壁際まで吹き飛ばされてしまう。
壁際の棚にぶつかり上から硬い何かが頭にすっぽりと覆いかぶさり俺は闇に囚われる。
「パパ体拭いて? いいでしょ?」
俺の頭に被せられた何か金属製らしくセルクの言葉が顔全体に響く。
俺の胸元に感じる物は温かくて水に濡れている。
その水分が俺の服を濡らす。
この金属の外にはセルクの裸がある。そう意識せざるを得ない。
いやいや、ダメだぞクォルテ・ロックス。こいつはセルクだ。闇の神の生まれ変わりで俺を父親として慕っている。そんな子に邪な感情を抱くのは間違いだ。こいつは子供だ。生まれたばかりの子供。
「パパ?」
子が親に甘えるようなねだるような声が顔全体に響く。
いや、親ならそのくらいしてやるものじゃないか? 寧ろそれが普通なんじゃないだろうか。ここまで慕ってくれている子を無下にできない。
欲望に負けかけると胸の上にあった熱が離れていく。
そして俺の頭を覆っていた何かが外される。
「兄さん大丈夫ですか?」
目の前に現れたミールの手にはそこの深い鍋があった。どうやら俺の頭を覆っていたのはこの鍋らしい。
「悪い、助かった」
二重の意味で。
ミールから手を借り立ち上がる。俺を押し倒したセルクに目を向けると乱暴に体を拭かれながらお説教をされていた。
「荷物を片づけたら方針を決めよう」
†
「王様って意外と純粋なのに弱いよね。無邪気に弱いのかな、どう断っていいかわからないって感じ」
「そんなつもりはないんだけどな」
俺達は今雨の町に向かって車を操舵している。
ほぼ全員が過酷な環境に行きたくはないということで今回も二手に分かれている。
一方は俺達みたいにこの国の観光をして色々な物を見る。もう一方は晴れの街のみを好きに見て回る。ほぼ全員が後者でアルシェすら今回は同行していない。
「そんなつもりはないとか言ってもさ。その腕にぶら下がってるのを見ると弱いよね」
オレイカに返す言葉もない。
俺の右腕は今セルクに抱きしめられている。そんなにしっかりと抱きしめて深いじゃないのかと思ったが、神の力なのか俺達ほど不快感はないらしく、どうしてもパパと一緒に行く。と珍しく同行している。
寝てばかりではなくなったのは嬉しいことだが、こうも密着されると外を歩きにくい。
ただでさえ不快な環境に身を置く作業者の大半が男だ。そんな彼らの国で綺麗どころに抱き付かれたまま国中を闊歩する。それは喧嘩を売っているのに等しいだろう。
現にさっきからすれ違う男連中は明らかに俺を睨み舌打ちをしているのが窓の外に見える。
通り過ぎてからも背後から感じる殺意に冷や汗が出過ぎている。
「私も王様に抱き付いた方がいいのかな?」
にやにやと状況を楽しんでいるオレイカを殴りたい衝動に駆られる。
「そうだな。俺を殺したいならそうしたらいいぞ。すぐにその辺の男連中が俺を殺しに来るだろうぜ」
「パパは死んじゃダメなの」
セルクは俺の軽口を信じたらしくより強く腕に強く抱き付いてくる。
「セルク、少しだけ離れてくれないか?」
「パパはセルクの事嫌いなの?」
泣きそうな瞳で見上げられては俺になす術はない。
「そんなわけないだろ。あっはっはっはぁ……」
「ほらやっぱり無邪気に弱い」
オレイカに改めて言われ、本当にそうなのかもしれないと操舵席に座りながらそんなことを思った。
「改めて見ると本当に凄いね。これってもう滝だよね」
晴れの街と雨の町の境目。目の前の豪雨と背後の晴天のギャップに驚きを隠せない。
上の雨雲はこちらに一切入っておらず、綺麗に濡れた地面と乾いた地面で分かれている。
「それでオレイカは滝の中で何をするつもりなんだ?」
車の荷台にはオレイカの仕事道具が詰まっている。
槌やペンチなどの俺でもわかるような工具から一目ではわからない物もあるが、荷台で一番幅を取っているのはアトゼクスだ。
なぜかいつものように小さな姿ではなく人間より少し大きいサイズで大人しく座っている。
「水中でどれくらい持つか知りたいんだよね。シェルノキュリとかガリクラって雨がほぼ無いし耐水の実験ってしてないんだよね」
「この子壊れちゃうの?」
オレイカの言葉にセルクが不安そうに言ってくる。
それは俺も気になってはいる。ルリーラとの殴り合いでも壊れない機械人形が水なんかで壊れるのだろうか?
「そのための実験だから。魔力の流れに異変が出るのか、内部に水が入ったら機能にどういう支障が出るのか。それがわかればフリューの魔獣にも使えたんだけどね」
そういう理由らしい。
クロアが野放しな限りいつ魔獣に襲われるかがわからない。その時にアトゼクスが役に立つだろう。
「それならヴォールとかの海沿いの方がいいんじゃないのか? 魔獣が出てくるのは海が多いだろう?」
「海沿いには一度行きたいけどね。まずは自然環境にどれだけ対応できるかが大事なんだよ」
「パパ、暇だよ。早く雨の町に行こうよ」
またここに来る度胸がなかったがセルクに言われれば行かざるを得ない。
オレイカが車を動かすと大きな雨粒が車を何度も叩く。
ぬかるみなのか少しだけ車体が沈み車を走らせる。
操舵しながら魔法が使えるアルシェとは違い、今回は俺が遠視の魔法で位置を確認しながらオレイカに指示を出す。
「ここって凄いね。あんな生き物見たことないよ」
セルクの指の先には赤い光が雑草の影から覗くように無数に並ぶ。
鰐の群れ。数十の鰐がこちらをじっと見つめる。その中で一際高い位置にある瞳は俺の目の位置と変わらないように思える。
「オレイカ、少し速度を上げてくれ。やばいのに見られてる」
そう指示をしたのにオレイカはなぜか車を止めてしまう。
それに気が付いたのか赤い目が徐々にこちらに近づいてくる。
「いいじゃん。折角だしアトゼクスの性能実験させてもらおうかな」
そう言うとアトゼクスは荷台から下りてしまう。
ぬかるみと豪雨、視界も足元も悪い中アトゼクスは機械人形らしく指示に従う。
アトゼクスが赤い目の群れに近づくにつれ小さくなっている様に見える。
「なあ、アトゼクス小さくしてるのか? それとも目の錯覚か?」
見るからにアトゼクスが進む速度は遅くなっている。
これはあれだな。
「もしかしてアトゼクス沈んでないか?」
どうやらここは湿地帯というよりも沼地だったらしい。それも底の無い沼。底なし沼らしい。
草で見えないがこの沼は鰐たちの庭らしく俺達は誘い込まれているらしい。
そしてアトゼクスの体長が半分くらいにまで縮むとついに動きが止まり、赤い目が少しずつアトゼクスに近づいていく。
「小さくして戻すね。そうすれば沈まないから」
大きさの変化で重量も変わるらしくその方法で戻そうとするが、オレイカは突然大きな声を上げた。
「アトゼクスが食べられた……」
「大きくしたらいいだろ。それで鰐も倒せるだろ!」
「食べたのって人間なんだよね」
人間が食べたけどアトゼクスを大きくする? とオレイカに言われるが俺にもどうしていいかわからない。
そもそもなんで人間が鰐の群れに居て食べられていないのか、そしてなぜ餌を最初に人間が食べているのか。
「パパどうして慌ててるの? おトイレ?」
「セルク。少し離れててくれるか? ちょっと今忙しくなりそうなんだよ」
どうやったら人間の体からアトゼクスを取り出せるのか。それを俺は考えながら車から俺は跳び出した。
†
「うえっ、なんか飲んじゃったよ……。敵も消えちゃったし……泥がじゃりじゃりしてるよぉ……」
車を降りると雨の音に混じってそんな嘆きが聞こえた。
どうやら何者かはアトゼクスを誤飲してしまったらしい。
「蛙とかにしては口に入れた感触が小さいし、何だったんだろう今の毒とか無いよね?」
正直関わりたくはない。確実にこいつは面倒くさい奴だ。蛙を食べたことがあるのもそうだしこの豪雨の中で活動しているのもおかしい。アトゼクスが飲まれていなければ無視をして先に進みたい。
「んー、なんかこの声は聞いたことがある気がするんだけどな。雨のせいで前が見えない」
「白髪の女だな。泥に汚れているし背が小さいから子供だな。雨具は無し。周りには泥の中に鰐らしいのが五匹」
見えないと言ったオレイカに遠視で確認できる範囲の情報を伝える。
ただでさえ体が弱い白髪がなぜ蛙を食べたりして野生に戻っているのかは定かじゃないが、話しは通じそうだな。
「すまないが、その食べたのは俺達の物なんだが返してもらえるか?」
どうやって返させるのかは俺にもわからないが、とりあえず謎の人物に声をかけることにした。
「そうでしたか。それは申し訳ありませんでした。それで今の虫みたいのはなんですか?」
草むらをかき分けて出てきたのは遠視で見た通りの子供だ。
白髪で腰までの長い髪は服と共に泥に塗れている。身長も低く発育は良くないように見える。そしてその後ろには十の赤い目が泥の中からこちらを覗き込んでいる。
「シスタ? シスタだよね、久しぶり。オレイカお姉ちゃんだよ」
「本当だ! お姉ちゃん久しぶり! なんでこんなところに居るのお仕事?」
シスタと呼ばれた少女は泥だらけのまま勢いよくオレイカに抱き付いた。
それを何も言わないままオレイカも受け入れて抱き締めている。
そのまましばらく昔話に花を咲かせようとしていたところに俺は水を差す。
「オレイカ俺にも紹介してくれないか? それとこの泥人形も引っ込めてくれるように言ってくれ」
シスタはごめんなさいと頭を下げてから魔法を時泥の鰐は泥に戻り赤い目は全て消えた。
「自分はシストルデア・エンコードです。十歳です。お姉ちゃんの弟子です。シスタって呼んでください」
そう言ってシスタは深く頭を下げた。
行動はおかしいが礼儀正しい。とても蛙を食べた経験があるとは思えない。
「俺はクォルテ・ロックス。世界中を旅している。クォルテでいい、よろしくな」
「クォルテさんはお姉ちゃんの旦那様ですか?」
「違うよ旅の仲間! 他にも色々お嫁さんの候補はいるから。王様はモテてるからね私はただの仲間だから勘違いしないように!」
オレイカの盛大な自爆。
今までそんな素振りは無かったがオレイカも俺に気があるらしい。嬉しいには嬉しいが正直対応に困る。
そしてシスタは一度俺をしっかりと見て何かに納得したように頷いた。
聡い子の様で今の発言で全てを察したようだ。将来は立派な人になれるだろう。
「パパ、何してるの?」
車から顔を出したセルクにシスタは目を見開いてこちらを見る。
「クォルテさんは何歳ですか? あんな大きなお子さんがいるってことは三十を超えているんですか? お姉ちゃんは後妻ですか? 前妻の面影を追っているんですか?」
違ったこの子は頭がいいわけじゃない。耳年増なだけだ。
そんなドロドロとした恋愛に目を輝かせている。
「ごさい? ぜんさい? パパそれってどういう意味?」
「更に娘にも手をだしているんですか!?」
とてとてと近づき俺の手に抱き付いたセルクにシスタのテンションは更に上がる。
こっちが引くほどにキラキラとした目を向けながら、他にはどんな泥沼があるのかを期待しているらしい。
「セルクは本当の娘じゃないからな。それに俺はまだ二十二だ。前妻も後妻もいたことはない」
「そうなんですか。でも壮絶な女の戦いはあるんですよね? お姉ちゃんは何位くらいですか? 可能性はありますか?」
シスタがそう言うとオレイカもじっと俺の方を期待したように見つめている。
「それよりもアトゼクスの事だろう?」
「アトゼクスがどうかしましたか? ……あぁー」
どうしたのかを聞いた直後に今しがた自分が何を飲み込んだのかを理解したらしい。
「あなたが飲んだのがお人形だよ。早くぺってしてくれないとセルク達困るの」
「吐き出したいんですけど……、ああそうだ家に来てください。お父さんなら何か持ってると思いますので」
シスタはそう言うと四匹の泥の鰐を作り出しその内の一体に跨る。
「どうしたんですか? 早く乗ってください、もう出発しますよ」
俺達の横にそれぞれ泥の鰐が準備している。だが、俺達には車がある。雨にも濡れない理想的な乗り物があるのにこれに乗れと言うのか。
「おお、快適です。流石お姉ちゃん雨にも風にも負けない優れもの!」
そう叫ぶシスタは今現在荷台部分に目隠しの布をかけびしょぬれになった服をオレイカとセルクともども着替えさせている。
何も考えずに外に飛び出した結果全員が地肌に張り付くほどに濡れてしまっていた。
オレイカの透けて浮かび上がる下着に、無防備にも下着を付けないセルクの、完成された肉体は湿る衣服がぴったりとかたどる。泥遊びに興じていたシスタは慣れているのか中に防水の服を着ていたため大して問題はなかった。
そんな男としては眼福な状態だったが、そんな煽情的な姿のまま町に行くことはできなかった。
「シスタはあそこで何をやってたんだ?」
「自分は魔法の練習ですね。やっぱり泥になると水の魔力もあるので上手に造形できなくて」
「それでこんなところで練習してたわけか」
そりゃあ十歳には難しいだろうな。大人でも苦手な人がいるくらいだし。コツを知らないと扱いにくい媒体ではあるしな。
「お姉ちゃんは何か泥を操るコツとかは知らないの?」
「うーん……、わからないな。私って感覚の人間だからこう考えないで使えるから」
その天才の発言にシスタも言葉が無いようだ。
オレイカほどの才能があればそれが普通なのだろう。感覚と試行錯誤。成功した時の感覚を覚えて次から間違えない。
凡人には無理なことだ。
「折角だから使い方教えてやろうか?」
仕方がないので俺が多少指導してやることにした。
「王様って水だよね? 土の魔法使えないでしょう?」
「属性が違うだけで魔法の理屈はどれも同じだ」
車で移動しながらと思っていたが、オレイカが遠視の魔法は苦手なためこの場で授業をすることになった。
「まず勘違いが多いのは泥を水と土の複合だと思っていることだな。泥は水に濡れた土か土を含んだ水だ。言っておくが混ざっている物じゃないというのが大事なことだ」
「ああ、私はわかったよ。そう言うことなんだね」
オレイカは流石に今の説明でわかったらしい。もともとオレイカは使えていたから感覚に説明がついた程度の話なのだろう。
セルクもシスタもその説明でまだ首を傾げている。
「簡単に言うと土だけ魔力で動かせ。そうすれば土を濡らしている水も動くから。こんな風にな」
外にある泥を蛇に変え車の荷台に移動させる。
呪文も使わない簡易的な魔法なので俺の前まで来て完全に動きを止める。
「これに土の魔法を使ってみろ。あくまで土だけだ。楽しいぞ」
そう言うとシスタは半信半疑で魔法を使う。
すると泥の蛇が脱皮するように土と水に分離する。動かしていたのが水だったため綺麗な形の水の蛇とは違い。混ざっていただけの土の蛇は所々がかけて形が悪い。
「土の蛇が歪なのは水に含まれていた土だけを動かしたからだ。これが逆だと歪な形になるのは水の方だな。たぶん今までシスタが使おうとしていたのは両方が綺麗な形を保つ魔法だ。そんなのは不可能だ。あくまで魔法を使うのは一種類のみ。複合のように見えるのは本当に二人いるかこれみたいに片方にただくっついているだけだ」
俺がそう言い終わると三人が拍手をくれた。
「ありがとうございますクォルテさん。なんかできるような気がします」
「そんじゃあ、余計な時間を食ったけどシスタの父親に会いに行くか」
†
車に四人が全員乗り、俺の遠視で辺りを確認しながらオレイカの運転で雨の町を目指している。
魔法を使っている以外は暇を持て余している俺は悲惨な荷台に目を向ける。
「練習熱心なのはいいことだけどさ……」
荷台ではシスタが魔法の練習をしている。それをセルクが見て喜び大変微笑ましい光景が荷台で行われている。
それに魔法の練習は確かに大事だ。ましてや白髪のシスタは魔法が使えなければただの子供だ。
だがそれはそれである。
「荷台にそんなに泥を積んで何を作るつもりなんだろうな」
荷台には大量の泥。荷台に散乱していた工具を一度綺麗にまとめ、シスタの魔法で棚を作りその上に押し込める。
そうやって広くなった荷台を覆いつくすほどの泥に埋め尽くされている。
「シスタ。次はね、狼がいい狼! カッコいいの!」
「任せて最高にカッコいいの作るから」
シスタはセルクの注文を見事に応えお題を完璧にこなした造形をする。
俺から見ても確かに立派な造形で普段俺が使うような水の蛇や水の龍とは違っている。
一言で言って細かい。戦うために動けばいい俺の魔法とは違い、細部まで研究した造形にセルクが喜ぶのは当然と言えた。
「シスタってどんな魔法使いなんだ? あそこまで細かいと戦闘ではないよな」
「うん。エンコードの家は造形師の家系。私も細かい部品とかは造形師に頼んでる。私が作ると微妙に大きさが違ったりするから」
「納得した。それならあそこまで細かく作れないと駄目だな」
造形師の主な仕事は彫像の作成だが、シェルノキュリの場合は違うらしい。
寸分たがわずに作られる歯車や部品は自分で作るよりも高品質なため重要らしく、名家ともなれば引く手あまただとオレイカから聞いた。
造形師の息女ともなればオレイカと仲がいいのもうなずける。
「パパ見てこれセルクだよ。シスタ凄いの本当に凄いの!」
セルクの手に乗っているのはセルクの泥人形。バストアップの人形で本当に小型のセルクそのものだ。
「凄いな。これは将来有望な造形師なんじゃないか?」
「それに見ておっぱいがプルプルなの。あはは、面白いよ。パパも触ってみてよ」
セルクが人形のセルクの胸部に触れると確かにプルプルと揺れるそれを俺に触れろと言ってくるセルク。
人形とは言え、それは良くないんじゃないだろうか。完成度が高いゆえに触れるのは父親として越えてはいけない一線なのではないかと思ってしまう。
そして俺の気持ちがわからないセルクは尚も自分の人形の胸に触れろと迫ってくる。
「ほらほら、本当に触ってて気持ちいいの。押しても跳ね返ってくるし本物みたい」
天真爛漫に天使のような微笑みを向ける闇の神の小悪魔ぶりに俺はどうしたらいいのか。
本物みたいだよと言われ確かに本物も触れたことはあるが。ここで触って「本当に本物みたいだな」と言ってしまえば明らかな変態。逆に「本物とは違うな」と言っても確実に変態。触れることを断ったとしてもセルクは執拗に触れさせようとしてくるだろう。
このどう考えても詰みな状況にどうすればいいのか……。
「王様の考えもわからなくはないけど、深く考えすぎだと思うよ。ルリーラもアルシェもいないし」
結局俺は人形に触れることにした。確かに触れた感触は気持ちよかった。
しかしセルクの本物と比べてどうだったかは割愛する。
一体目のセルク人形が出来てから数分。車中には大量のセルクに埋め尽くされていた。
「子供って怖いな。加減がない」
「これには私もびっくりだよ。早く雨の町につかないかな」
「もう肉眼でも見えるころだぞ」
大小さまざまなセルクが総勢二十七体。そのどれもが胸が異様なほどに柔らかく作られている。
シスタ曰く胸の部分を空洞にしその中に水が詰め土で溢れないようにしているらしい。さっきまでうまくいかないと嘆いていた人物と同じとは思えない。
「パパ、この人形に色を付けたいんだけど何かない?」
人形に付ける色か、荷物の大半は宿に置いているし着色できるものは今ないか。
オレイカに視線を向けても首を横に振る。
「今は無いな。あとそろそろ着くから全部片づけなさい」
そこからセルク人形の片づけが終わったころにようやく雨の町にたどり着くことができた。
「着いたはいいけど結局車は置いてかないといけないよな。というか車から降りたくない」
目の前の雨に沈んだ町と変わることのない豪雨を見てそんな言葉を漏らす。
しかし車から降りないと町には入れない。そんなジレンマを抱えているとシスタが手を挙げる。
「自分が家まで運びます」
そう言うと泥から船を編み始める。
車を中心に一体の泥を使い船を編み続け、あっという間に小さな帆船が出来上がった。
なぜ帆船なのか。このサイズの船なら手漕ぎボートで問題ないだろう。
「お姉ちゃんこの船とこの乗り物を同期できる?」
「できるよ。えっと、こういう部品が必要でそれをここの部分に装着して――」
いきなりオレイカとシスタは相談を始めた。
ちょくちょく魔法を使い俺には見えないが何かしらを作っているらしい。
「パパ、二人とも凄いね。セルクも魔法使っていいかな?」
「使えないし使わせないからな。いいから見てろ造形師と発明家の合作だ」
そして十分ほどの時間を使い完成した時には雨の音は聞こえなくなり、本当の帆船が出来上がっていた。
空は完全に閉ざされてしまい中から外を見るには、結局遠視の魔法を使わないといけない。
遠視の魔法で船全体を見渡すと大きな帆は畳まれており甲板には何もない。そして驚くのはこの土の帆船の造形。
全てが土でできているのに帆布や縄、甲板に並ぶ荷物などまで全て土で作られていた。
「やりすぎだろ。どこまで作ってんだよ。明らかに無駄じゃないか」
「どこまで作っているのかって王様、何を言っているのさ。稀代の天才オレイカ・ガルベリウスと」
「造形師見習いシストルデア・エンコードは」
「「どこまでも本気で作らないと気が済まない!」」
幼馴染らしい二人は器用に連携しながらそう宣言した。しかもなぜかポーズ付きで。
その二人の暴走を見てセルクが拍手を送ると二人はまんざらでもなさそうにほほ笑む。
俺はせめて一人くらい真面目な奴を連れてくるべきだったと頭を悩ませる。
「そんじゃあ出発!」
オレイカが車を操舵すると船は動き出した。
どうやら車輪部分にオールを付け車輪が回転すると船が動く仕組みらしい。要は別にこの船は帆船である必要すらないらしい。
そして無駄に大きな帆船のせいで動きは遅く、着水したところから三軒目にあるはずのシスタの家に着くまで一時間もかかってしまった。
†
シスタの家は周りの家と同様に三階建てで一階部分が水に沈み、二階と三階が水面に出ている。
二階の玄関には五段の階段があり雨よけの屋根も付いていた。おそらく水が家に入らないようになっているのだろう。
「ところでこの船はどうするんだ? 流石にデカすぎると思うんだが」
家の高さと同じくらいの帆船の処遇をどうするのかとシスタに質問する。
ぱっと見ではこの帆船を格納できるようなスペースは無いように思える。
「そうですね。一階に落としましょう」
落とす? 不穏な言葉に止めようとしたが時既に遅く。
土の帆船はボロボロと水に溶けていき土の球体だけに変わり、その球もゆっくりと沈んでいく。
「大丈夫なのか? どうやって回収するんだよこれ……」
泥に汚れた水面で水底は見えないがおそらく今頃は地面についているだろう。
「クォルテさん、セルク早く家に入ってください」
そう言われても車の不安が否めない。だが次の瞬間家の脇から筒が伸びてきた。
それが何かはすぐにわかった。
何かが昇ってくる音が筒の中から聞こえ次の瞬間には泥水が噴き出した。
土砂降り。文字通りの土砂交じりの水が噴き出しそれが辺り一帯を茶色く染める。
当然家の中に入っていない俺とセルクは噴き出した泥によって跳ねた水を全身に浴びた。
玄関のドアの前でうわぁ……とこちらを眺めているオレイカとシスタに腹が立つ。
「お風呂入れてきますので。泥だけでも落として入ってください」
泥が降りやんでから開かれた第一声に俺は素直に従った。
「パパとお風呂だ」
セルクは嬉しそうに恥じらいもなく服を脱ぎ散らかし風呂に直行した。俺はそんなセルクの後片付けをしながら自分も服を脱ぐ。
自制できるかな俺……。
もちろんセルクと入るのは初めてではない。そして当然それは小さいセルクの話だ。凹凸の無い平らな体の時だ。幼く小さな時の話。等身も四つくらいで抱き付かれても腰までしかない幼い時代のセルクとの話だ。
今のように抱き付くと俺の顔は胸に行くし、ルリーラが羨ましがるほどに凹凸がはっきりとしていて、八頭身もあるような魅惑の姿では初めてだ。
そりゃあ一緒に入ろうとしていたがその都度ルリーラ達が止めてくれていた。
しかし今日はそれが無い。抑える人数が圧倒的に足りていない。おまけに泣きそうな表情で「パパはセルクと入るのは嫌なの?」と言われて拒否もできない。
「パパ早く来ないの?」
「今行く」
何とか思考を回し逃げ出す方法を考えているのだがセルクにせがまれあがきも無駄に終わった。
自分の欲望に蓋をして浴場の扉を開ける。
「ねえねえ、髪洗って。目に泡が入って痛いから」
浴場ではすでにセルクは洗ってもらう準備が万端だった。
鏡の前で椅子に座り目を閉じている。お湯をすでに被っているらしく体からは湯気が立っている。
「わかった。大人しくしてろよ」
平常心だ。平常心。見た目がどれだけ成長しようとセルクはセルク。生まれたばかりの闇の神だ。邪な妄想で穢すのは許されない。
自分に言い聞かせ冷えている自分の体にお湯を被り、念のためセルクにも声をかけてからお湯を被せる。
そして石鹸を使い泡立てたからセルクの髪に泡を付けていく。
なるべく肌には触れないように髪に優しく触れていく。
闇色の髪を白く染めていきながら丁寧に洗っていく。
「もお、パパくすぐったいよ。アルシェママみたいだよ。アルシェママもそう言う風に洗うんだよね。アルシェママは髪が長くて大変そうだよね」
一瞬アルシェが髪を洗っている姿を想像してしまうが、被りを振って妄想を振り払う。
「じゃあ、前みたいにわしゃわしゃ洗うか」
頭皮を揉むように指を動かしていく。天辺を洗い徐々に手を下に移動させていく。
するとセルクはひゃんと声をあげ体が小さく跳ねる。
「耳はいいよ、触られると体がぴくんってなるから」
「そうだったか、悪かったな」
浴場に響いた嬌声に俺の体も反応しかけた。
それから何度かセルクの体は跳ねたが何とか気にしないようにしようやく洗髪は終わりを迎えた。
「じゃあ、お湯賭けるから目と耳は閉じろよ」
「うん」
俺が頭から二度ほどお湯をかけるとセルクは口に泡が入ったのかぺっぺと泡を吐き出した。
その姿はやはり幼く俺はようやく一息ついた。
「パパこれ苦いよ。他に口に入ってない?」
そう思ったのも束の間セルクは突然身体をこちらに向けた。
先発に使った泡がいくらか体に残り苦いと言って舌を出しながら口を開ける。
おまけに体はお湯で湿っており目にお湯が入らないように目を閉じている姿は、俺を堕落させようとしてわざとやっているんじゃないかと疑ってしまう。
「大丈夫。入ってないから。次は俺が洗うから湯船に入ってろな」
俺も洗髪をしようとセルクと入れ替わり椅子に座ると俺の両肩がセルクに掴まれる。
「セルクが洗ってあげるね」
そう言われてしまった。
無防備な背中には闇の神が立っている。
無邪気な闇の神は石鹸を泡立て俺の頭髪に泡を付け、わしゃわしゃとわざわざ声に出して洗い始める。
娘が父親の頭を洗う。
言葉にすればそれはとても微笑ましい光景が浮かぶだろう。
だが今俺の頭を洗っているのは見た目は大人で血のつながりが一切ない娘。
羞恥心なんてものが芽生えてもいない女性は、その自分に備わっている爆弾と言っても過言ではない破壊的な二つの膨らみをためらいなくぶつけてくる。
首から肩にかけて触れる上等なスポンジケーキの柔らかさについ姿勢を正してしまう。
セルクは娘セルクは娘セルクは娘――
暗示のように自分に言い聞かせる。
「じゃあお湯かけるよ」
悟りの極致にたどり着いた俺は無言でお湯を頭から被る。
「誰かいるのか?」
「えっと汚れてしまったのでお風呂を借りてます」
男の声に返事をするが、それは果たして正しいのか考える余地はない。
「てめぇまさか家の娘に手を出してんじゃねぇだろうな! 開かないってことはてめぇはやっぱりそう言うことか彼氏なんてまだ早いんだよ!」
何せ間違っているのだから。
俺が声を出してからシスタの父親らしい男は、扉が壊れそうなほどに力を込めている。
俺だけなら別に開けられようが構いはしないが、今この場にはセルクが居る。少女ではなく女性がいる。
シスタに手を出していなくても他人の家で男女が風呂に居る事はまず間違いだ。
「さっさと開けやがれ!」
「無理だ! おい、オレイカ、シスタ! 頼むから来てくれ!」
「家の愛娘を愛称で呼んでんじゃねぇよ! 今すぐ開けろお前をぶん殴って裸で外に放り出してやる!」
「それを聞いて開けると思ってんのかこのくそ親父!」
「お前に親父呼ばわりされる筋合いはねぇぞ、すけこまし!」
数分の攻防の後にようやく現れたシスタに助けられ、俺達はようやく風呂場から脱出することができた。
出る時にドアに触れるとドアはただの板に成り下がった。
†
「遅くなりましたが、家主で父のアリアルアクリア・エンコードです」
「娘とお嬢が言っているからここにいることは認めてやろう」
家主は俺達四人の前に座り、風呂上がりの恰好のまま煙草に火を着けこちらをというか、俺をあらん限りににらみつける。
「ふぅ、そもそもお前の軟弱な姿はなんだ? 魔法頼りで体なんか動かしてもいないんだろう? 男は肉体を磨いてこそだろ」
挑発するその顔を見て言い返したいがこの男の姿を見ていると言い返すこともできない。
何せ後ろに流した髪の色は真っ白なのに、裸の上半身の筋肉は黒髪にも負けない程に引き締まっている。
その姿と比べると確かに俺の肉体は貧相だ。魔法頼りと言われても仕方がない。
「いや、気持ち悪いよお父さん」
「なっ……」
娘からの痛恨の一撃。
手に持っていた煙草は床に落ち湿った床に落ち火種が消えた。
挑発な笑みからの落胆の表情にこれはチャンスだと悟った。
「男を磨いた結果が娘に嫌われることだと恐れ入ったよエンコード。白髪のお前がそこまで肉体を鍛える苦悩を考えると俺は涙を禁じ得ないぜ」
さっきとは逆に見下す様にエンコードを見下ろすと、悔しそうにこちらを見る。
セルクが、パパ悪い顔してる。と言っているがそれはこの際気にしない。
「クォルテさん、違いますよ。お父さんは鍛えてません」
「そうだぞ、クォルテとやら。この姿が嫌われるというのならやることはただ一つ。作り変えるだけだ!」
次の瞬間にはあれほど引き締まった肉体にわずかだが脂肪がついた。
荒々しいほどの筋肉が脂肪という緩衝材を得てどこか優しさを醸し出している。
「娘よ。この体なら気持ち悪くないだろ? お父さんカッコいい! と抱き付いてくれてもいいんだぞ?」
「気持ち悪いので無理です」
シスタの一言に今度こそエンコードは膝を着いた。
自分のこの肉体のどこがいけないのかと本気で項垂れてしまった。
「言いすぎじゃないか?」
俺は一人の男としてエンコードに同情してしまう。
カッコいい父であろうと姿さえも魔法で変えた結果、気持ち悪いと切り捨てられてしまう無惨な姿に俺は自分を重ねてしまう。
「王様、父親は娘に嫌われるものだから」
その言葉にセルクを見る。
「セルクはパパ好きだよ」
そのセルクの天使の一言に俺は泣きだしそうになってしまう。
いい子に育ったなセルク。
「セルクは実子じゃないから大丈夫だよ。というよりまだ生まれたばかりでしょ?」
「そう言われればそうだな。生理的に嫌われる理由はないな」
娘が父親を嫌うその反応は血が近いもの同士に恋愛感情を抱かないようにらしいし、そもそもセルクは神様だった。
どうやら俺にあんな時代は来ることはなさそうだ。
「どうやら俺の負けのようだな。クォルテ・ロックス」
勝ち誇っている俺にエンコードは、俺の名前を呼び手を差し出してくる。
「名乗ってないと思うが、なんで名前を知っている?」
「お嬢が側にいる男。シェルノキュリでは有名だ。アリルドを倒して王になった知将でありながら本人の戦闘力も高い。顔が良いと聞いていたが俺よりは下だな」
本当にどこの国にでもシェルノキュリの人間はいるらしい。
伝聞の速度に驚きながらも俺はエンコードの手を取った。
「知っているとしても名乗らないといけないな。クォルテ・ロックスだ。アリルドの王で世界を旅している。それとこっちの黒髪がセルクだ。肉体の成長は早いがまだ子供だ。今は俺が親代わりだ」
セルクが慌てて頭を下げるとエンコードは手を差し出す。俺が促すとセルクはその手を握る。
「おい。ちょっと来てくれ」
エンコードが家の奥に声をかけると柔らかな女性の声が聞こえた。
パタパタと足音を立てながら人数分のお茶をお盆に乗せた若い女性が家の奥から出てきた。
年は俺よりも下ですらりとした長身の女性。茶色の長い髪を後ろの高い位置で止め、整った顔を全て出している。体は細いのに女性らしい丸みは損なわれていない。
「粗茶ですが」
そう言って柔らかく微笑みお茶を俺達の前に並べる姿は親しみやすいのに艶がある。
全員にお茶を配るとエプロンを外しエンコードの隣に座る。
「娘がまだいるのか?」
「そう見えるか?」
俺の質問に笑いながら応えると隣の女性がその後を笑顔で引き継いだ。
「そう言ってもらえると嬉しいわ、でも私はこの人の妻よ。ティア・エンコード、年齢も今年で三十六でこの人よりも二つ上」
その言葉に俺は止まりオレイカを見る。オレイカも若く見えるがそれよりも更に若く見える。
言われれば確かにこの色気は十代で出せるものではないが、それにしても若すぎる。
「うん、王様の気持ちはわかるよ。アルシェと同じくらいに見えるよね。でも本当だよ。十年以上前から見た目が変わってない」
「奇跡だな」
目の前の女性を見つめてもとてもじゃないがそうは見えない。
この見た目でこのおっさんの二つ上? どう見ても十代にしか見えない。
「これもおっさんみたいに魔法とかか?」
魔法で無理矢理に見た目を若い時に固定しているとしか思えないその姿にエンコードは反論する。
「ティアはそんなことしないぞ。それに顔なんて複雑な部分を変えれるわけないだろ」
「そうだよな。でもビックリしたから」
これで三十六だと言うのが信じられない。むしろ魔法で作りましたの方が納得できる。
「自己紹介も終わったことだし、小僧お前の乗っている車ってのを見せてくれ」
「それならオレイカの方が――」
オレイカの方がいいと言おうと思ったが、オレイカはすでにティアさんと美容の話で盛り上がっていた。
「そういうことだ。お前も少しくらいは説明できるだろ」
「わかったよ。あくまで大雑把にしかわからないからな」
おっさんの後をついて行くと下の階に案内された。石よりも少しざらついたような手触りの壁に囲まれた広い空間。
この空間が作業場であることは散乱した工具や山積みになった鉄で察する。
「これはどうやって動いているんだ? 馬車とは違い自走するんだろ」
俺は知っている限りの情報をおっさんに伝えた。
それを聞いたおっさんは車に触れ納得したように頷いた。
「なるほどな。理屈を知れば当然なのに想像をしていなかった。これが才能ってやつか」
どこか自虐のように笑う。
「オレイカは言ってた。ずっと考えてたってその考えを形にしたのがこれだって。才能じゃないんじゃないか? あいつも考えに考えてこれを作ったんだ」
「そんなことは誰もがやってる。百の完成に至るために九十九の試行錯誤をしても凡人は最後の一つが届かない。もちろんその一つが成功に必須じゃないこともある。でもその一つが必要なことの方が多いんだよ。俺達みたいな造り手にとっては」
それには何も言えない。その気持ちは俺にもわかるから。
なんでもできると煽てられている俺も同じだ。茶髪ゆえに万能、万能ゆえにエキスパートになれない。力も魔法も研究も全てが上手い止まりの俺だからこそ、その気持ちは痛いほどに理解できる。
「天才のお嬢も万能じゃないよな」
俺の心を読んだようなその一言におっさんに視線を向けると、車はひっくり返り車輪が外されていた。
「何してんの!?」
俺は全力で突っ込んだ。
おっさんはうるさそうに顔をしかめ部品の一つを手に取りこちらを睨む。
「うるせえな、部品の確認だ。どうもお嬢は発想と組み立ては得意だが部品作りは下手だからな」
「だからっていきなり分解するか?」
「そのためにお嬢はここに来たんじゃないのか?」
そうなのだろうか? そうなのかもしれない。自分でも部品作りはあまり得意じゃないって言ってたし。
「それに解体するからお前を呼んだんだよ」
「わかったよ。じゃあ、しっかり確認して部品作ってくれ」
「その代金だが、金の代わりに一つ頼まれごとをしてくれねえか?」
おっさんは真面目な顔で俺を見つめた。
「操舵席に座っても濡れないのは嬉しいよな。雨具が無くても濡れないんだから」
「私も普通の馬車でしたら音を上げていました」
俺達は豪雨の中を車で進んでいる。
アルシェすら音を上げると公言するほどの豪雨。
視界を保つために操舵席と荷台に設置されているガラスも、この豪雨の前では何の役にも立っていない。
激しい音とバケツを滝の中を進んでいるような雨量が視界を塞いでおり、周りの光景が全く見えない。
遠視の魔法を使い何とか進む道だけはわかる状況だ。
「私の発明だからね、利便性に関しては全く問題なしだから」
小さな体で大きな胸を張りオレイカが自信満々にそう言うが、利便性に関して言うなら視界も確保できるようにしてもらいたい。
俺達が今いる場所は気象の国ウェザークラフト。
様々な気象が各町ごとで起こり続けている。
雨が降り続ける町、雪が降り積もる町、雷が落ち続ける町など様々で、本来ならここに住み着く人はいないだろうが、国として成立している。
理由としては職人にとってはこの環境はありがたい。
この国で耐え切った装備、この国でも腐りにくい食べ物、この国でも物を作れる技量。
それだけでブランド化できるほどの拍が付く。
ここまで説明したところでルリーラは、雨で暇だから寝るね。と言って寝てしまった。
「それでオレイカはここに何の用があるんだ? 仕事の依頼にはここの名前は無かっただろ?」
「私の趣味。折角だからみんなの武具一式の調整でもしようかと思ってるけど」
職人魂に火が点いた。そう言うことか。
それでも当代きっての職人に仕立ててもらえるのは嬉しい。大して不満があるわけじゃないが手を加えてくれるなら嬉しい限りだ。
「クォルテさん、えっと、雨の町に着きましたよ?」
「そうなのか?」
車を止めておいてなんで疑問形なのかと思ったがすぐに納得した。
車のわずか先には確かに町がある。家もあるし人の姿もある。
だが、その半分が水に沈んでいる。
水上に家を建てるヴォールとは違いしっかりと地面に家が建っているしかしその家の下半分が水没している。
「この町クアは水没してるんだよ。主に水上に出ているのが居住区水没してるのが実験場だよ」
「俺水に溢れた町ってヴォールみたいなのをイメージしてた」
「でもこれ以上先には進めないですよね。この車沈んじゃいますよ?」
遠視をしてみるがこの近くに馬車が止まっている場所もない。他の来国者はどうやって移動してるんだ?
「移動手段があるんだと思ってたけど無いの? それならまず首都のクラフトに行かないと」
「最初に行ってくれ……」
ただ真直ぐ進んだが、どうやらそれは駄目らしい。
オレイカから話を聞くと移動手段がない場合は、最初に首都のクラフトに向かい移動手段の確保が必要らしい。
自分の準備不足を嘆きながらアルシェの運転で首都を目指すことになった。
雨の町クアから数時間ほど経ち、目の前に日の光が見えてきた。
この国の首都晴れの街クラフト。どこまで進んでも終わりが見えない雨の町の終わりがようやく見えてきた。
車を打ち付ける雨音に遮られる視界、その上湿度が高いせいで居心地も悪い。
今までの国で一番心が折れた道中もようやく終わりが見えてきた。
「あの中で耐久検査とか正気の沙汰じゃないな。俺には無理だ。絶対無理」
「そんなもんだよ。私もあそこで実験はしたくないしね。それにあの町では四日以上の滞在は禁止されてるよ」
「禁止はいいと思うが四日は長いな。俺は一日で死にたくなる。それに引き換えアルシェは平気そうだな」
俺は操舵席で座っているだけでこうなのに、更に集中力が必要な操舵をしているアルシェは平気そうに車を走らせている。
「私は魔法で辺りの景色を見ながらの操舵ですし、奴隷ですのでこういうのには耐性があるんです」
「なるほどな」
アルシェの言葉にそれしか返せなかった。アルシェの居た場所を見たことはないが、ロックスの地下やギアロの地下を思えば確かにこの程度は普通なのか。
そうなるとクアで耐久検査をしているのは、研究者とかではなく奴隷なのかもしれない。
ふとした瞬間に目に眩い光が届いた。
太陽光は雨雲に覆われ暗さに慣れていた目を容赦なく焼いていく。
日光に焼かれ白くなった視界が色を取り戻すとそこは荒野だった。
大地は風に吹かれると土煙を起こすほどに乾き、石造りの家が立ち並ぶ。
死線を乾ききったこの街から後ろの町に移すと湿地を思わせるほどの豪雨。
境目が綺麗に分かれているのは魔法が原因なのだろう。
両極端すぎるだろ……。
片や家が水没するほどの雨で片や大地にひびが入るほどの干ばつ。
二つの街に触れただけだが早くもここからどこか別の国に行きたいと思ってしまう。
「じゃあ、宿でも探すか」
一軒家を貸し出している宿屋を見つけそこをこの国の拠点にすることに決める。
部屋数は四つの二階建てのよくある一軒家だが、ここの宿には驚くことに部屋の中央に噴水が備え付けられていた。そこまで大きくはないが、人一人くらいなら入れそうなサイズ。
「なんで噴水? わかった泳ぐためだ」
ルリーラがそう言いながらも着ている服を脱ぎ始める。
「やめろっての、セルクが真似するだろ」
噴水につかろうとするのは目に見えていたたため、服を押さえ脱がないようにする。
することを読まれていたことにご立腹のルリーラは頬を膨らます。
脱衣を止めることができたと思った矢先に噴水に、誰かが入水した音がした。
「パパ、このプール狭い」
俺は頭を抱える。
セルクが全裸で噴水に立っていた。
精神的に幼いセルクに羞恥心なんてものがあるはずはなく、大人顔負けのスタイルを隠すようなことは当然しない。
噴水に飛び込んだせいで辺りは水浸しでセルクの肌に着いた水滴は玉を作り体の先端から滴っていく。
神だからこその完璧な美貌は水が陽光を反射し一種の芸術のようなたたずまいになっている。
「アルシェ、セルクの体を拭いて服を着せてやってくれ」
その神秘性に心を奪われるが、あまり凝視をするのは周りからの反感を買ってしまいそうなので目を背を向ける。
「やだ、パパに拭いてもらう!」
嫌な予感に後ろを振り向こうとした瞬間、背中に衝撃が走る。
しかしルリーラが抱き付きにくる衝撃とは明らかに違う。
硬い顔が先に触れるルリーラとは違い、はっきりと柔らかさが先に触れる。
だがそれはあくまで初撃が柔らかいだけで衝撃に遜色はない。俺は後ろを向こうとしていたため体が半回転しそのまま壁際まで吹き飛ばされてしまう。
壁際の棚にぶつかり上から硬い何かが頭にすっぽりと覆いかぶさり俺は闇に囚われる。
「パパ体拭いて? いいでしょ?」
俺の頭に被せられた何か金属製らしくセルクの言葉が顔全体に響く。
俺の胸元に感じる物は温かくて水に濡れている。
その水分が俺の服を濡らす。
この金属の外にはセルクの裸がある。そう意識せざるを得ない。
いやいや、ダメだぞクォルテ・ロックス。こいつはセルクだ。闇の神の生まれ変わりで俺を父親として慕っている。そんな子に邪な感情を抱くのは間違いだ。こいつは子供だ。生まれたばかりの子供。
「パパ?」
子が親に甘えるようなねだるような声が顔全体に響く。
いや、親ならそのくらいしてやるものじゃないか? 寧ろそれが普通なんじゃないだろうか。ここまで慕ってくれている子を無下にできない。
欲望に負けかけると胸の上にあった熱が離れていく。
そして俺の頭を覆っていた何かが外される。
「兄さん大丈夫ですか?」
目の前に現れたミールの手にはそこの深い鍋があった。どうやら俺の頭を覆っていたのはこの鍋らしい。
「悪い、助かった」
二重の意味で。
ミールから手を借り立ち上がる。俺を押し倒したセルクに目を向けると乱暴に体を拭かれながらお説教をされていた。
「荷物を片づけたら方針を決めよう」
†
「王様って意外と純粋なのに弱いよね。無邪気に弱いのかな、どう断っていいかわからないって感じ」
「そんなつもりはないんだけどな」
俺達は今雨の町に向かって車を操舵している。
ほぼ全員が過酷な環境に行きたくはないということで今回も二手に分かれている。
一方は俺達みたいにこの国の観光をして色々な物を見る。もう一方は晴れの街のみを好きに見て回る。ほぼ全員が後者でアルシェすら今回は同行していない。
「そんなつもりはないとか言ってもさ。その腕にぶら下がってるのを見ると弱いよね」
オレイカに返す言葉もない。
俺の右腕は今セルクに抱きしめられている。そんなにしっかりと抱きしめて深いじゃないのかと思ったが、神の力なのか俺達ほど不快感はないらしく、どうしてもパパと一緒に行く。と珍しく同行している。
寝てばかりではなくなったのは嬉しいことだが、こうも密着されると外を歩きにくい。
ただでさえ不快な環境に身を置く作業者の大半が男だ。そんな彼らの国で綺麗どころに抱き付かれたまま国中を闊歩する。それは喧嘩を売っているのに等しいだろう。
現にさっきからすれ違う男連中は明らかに俺を睨み舌打ちをしているのが窓の外に見える。
通り過ぎてからも背後から感じる殺意に冷や汗が出過ぎている。
「私も王様に抱き付いた方がいいのかな?」
にやにやと状況を楽しんでいるオレイカを殴りたい衝動に駆られる。
「そうだな。俺を殺したいならそうしたらいいぞ。すぐにその辺の男連中が俺を殺しに来るだろうぜ」
「パパは死んじゃダメなの」
セルクは俺の軽口を信じたらしくより強く腕に強く抱き付いてくる。
「セルク、少しだけ離れてくれないか?」
「パパはセルクの事嫌いなの?」
泣きそうな瞳で見上げられては俺になす術はない。
「そんなわけないだろ。あっはっはっはぁ……」
「ほらやっぱり無邪気に弱い」
オレイカに改めて言われ、本当にそうなのかもしれないと操舵席に座りながらそんなことを思った。
「改めて見ると本当に凄いね。これってもう滝だよね」
晴れの街と雨の町の境目。目の前の豪雨と背後の晴天のギャップに驚きを隠せない。
上の雨雲はこちらに一切入っておらず、綺麗に濡れた地面と乾いた地面で分かれている。
「それでオレイカは滝の中で何をするつもりなんだ?」
車の荷台にはオレイカの仕事道具が詰まっている。
槌やペンチなどの俺でもわかるような工具から一目ではわからない物もあるが、荷台で一番幅を取っているのはアトゼクスだ。
なぜかいつものように小さな姿ではなく人間より少し大きいサイズで大人しく座っている。
「水中でどれくらい持つか知りたいんだよね。シェルノキュリとかガリクラって雨がほぼ無いし耐水の実験ってしてないんだよね」
「この子壊れちゃうの?」
オレイカの言葉にセルクが不安そうに言ってくる。
それは俺も気になってはいる。ルリーラとの殴り合いでも壊れない機械人形が水なんかで壊れるのだろうか?
「そのための実験だから。魔力の流れに異変が出るのか、内部に水が入ったら機能にどういう支障が出るのか。それがわかればフリューの魔獣にも使えたんだけどね」
そういう理由らしい。
クロアが野放しな限りいつ魔獣に襲われるかがわからない。その時にアトゼクスが役に立つだろう。
「それならヴォールとかの海沿いの方がいいんじゃないのか? 魔獣が出てくるのは海が多いだろう?」
「海沿いには一度行きたいけどね。まずは自然環境にどれだけ対応できるかが大事なんだよ」
「パパ、暇だよ。早く雨の町に行こうよ」
またここに来る度胸がなかったがセルクに言われれば行かざるを得ない。
オレイカが車を動かすと大きな雨粒が車を何度も叩く。
ぬかるみなのか少しだけ車体が沈み車を走らせる。
操舵しながら魔法が使えるアルシェとは違い、今回は俺が遠視の魔法で位置を確認しながらオレイカに指示を出す。
「ここって凄いね。あんな生き物見たことないよ」
セルクの指の先には赤い光が雑草の影から覗くように無数に並ぶ。
鰐の群れ。数十の鰐がこちらをじっと見つめる。その中で一際高い位置にある瞳は俺の目の位置と変わらないように思える。
「オレイカ、少し速度を上げてくれ。やばいのに見られてる」
そう指示をしたのにオレイカはなぜか車を止めてしまう。
それに気が付いたのか赤い目が徐々にこちらに近づいてくる。
「いいじゃん。折角だしアトゼクスの性能実験させてもらおうかな」
そう言うとアトゼクスは荷台から下りてしまう。
ぬかるみと豪雨、視界も足元も悪い中アトゼクスは機械人形らしく指示に従う。
アトゼクスが赤い目の群れに近づくにつれ小さくなっている様に見える。
「なあ、アトゼクス小さくしてるのか? それとも目の錯覚か?」
見るからにアトゼクスが進む速度は遅くなっている。
これはあれだな。
「もしかしてアトゼクス沈んでないか?」
どうやらここは湿地帯というよりも沼地だったらしい。それも底の無い沼。底なし沼らしい。
草で見えないがこの沼は鰐たちの庭らしく俺達は誘い込まれているらしい。
そしてアトゼクスの体長が半分くらいにまで縮むとついに動きが止まり、赤い目が少しずつアトゼクスに近づいていく。
「小さくして戻すね。そうすれば沈まないから」
大きさの変化で重量も変わるらしくその方法で戻そうとするが、オレイカは突然大きな声を上げた。
「アトゼクスが食べられた……」
「大きくしたらいいだろ。それで鰐も倒せるだろ!」
「食べたのって人間なんだよね」
人間が食べたけどアトゼクスを大きくする? とオレイカに言われるが俺にもどうしていいかわからない。
そもそもなんで人間が鰐の群れに居て食べられていないのか、そしてなぜ餌を最初に人間が食べているのか。
「パパどうして慌ててるの? おトイレ?」
「セルク。少し離れててくれるか? ちょっと今忙しくなりそうなんだよ」
どうやったら人間の体からアトゼクスを取り出せるのか。それを俺は考えながら車から俺は跳び出した。
†
「うえっ、なんか飲んじゃったよ……。敵も消えちゃったし……泥がじゃりじゃりしてるよぉ……」
車を降りると雨の音に混じってそんな嘆きが聞こえた。
どうやら何者かはアトゼクスを誤飲してしまったらしい。
「蛙とかにしては口に入れた感触が小さいし、何だったんだろう今の毒とか無いよね?」
正直関わりたくはない。確実にこいつは面倒くさい奴だ。蛙を食べたことがあるのもそうだしこの豪雨の中で活動しているのもおかしい。アトゼクスが飲まれていなければ無視をして先に進みたい。
「んー、なんかこの声は聞いたことがある気がするんだけどな。雨のせいで前が見えない」
「白髪の女だな。泥に汚れているし背が小さいから子供だな。雨具は無し。周りには泥の中に鰐らしいのが五匹」
見えないと言ったオレイカに遠視で確認できる範囲の情報を伝える。
ただでさえ体が弱い白髪がなぜ蛙を食べたりして野生に戻っているのかは定かじゃないが、話しは通じそうだな。
「すまないが、その食べたのは俺達の物なんだが返してもらえるか?」
どうやって返させるのかは俺にもわからないが、とりあえず謎の人物に声をかけることにした。
「そうでしたか。それは申し訳ありませんでした。それで今の虫みたいのはなんですか?」
草むらをかき分けて出てきたのは遠視で見た通りの子供だ。
白髪で腰までの長い髪は服と共に泥に塗れている。身長も低く発育は良くないように見える。そしてその後ろには十の赤い目が泥の中からこちらを覗き込んでいる。
「シスタ? シスタだよね、久しぶり。オレイカお姉ちゃんだよ」
「本当だ! お姉ちゃん久しぶり! なんでこんなところに居るのお仕事?」
シスタと呼ばれた少女は泥だらけのまま勢いよくオレイカに抱き付いた。
それを何も言わないままオレイカも受け入れて抱き締めている。
そのまましばらく昔話に花を咲かせようとしていたところに俺は水を差す。
「オレイカ俺にも紹介してくれないか? それとこの泥人形も引っ込めてくれるように言ってくれ」
シスタはごめんなさいと頭を下げてから魔法を時泥の鰐は泥に戻り赤い目は全て消えた。
「自分はシストルデア・エンコードです。十歳です。お姉ちゃんの弟子です。シスタって呼んでください」
そう言ってシスタは深く頭を下げた。
行動はおかしいが礼儀正しい。とても蛙を食べた経験があるとは思えない。
「俺はクォルテ・ロックス。世界中を旅している。クォルテでいい、よろしくな」
「クォルテさんはお姉ちゃんの旦那様ですか?」
「違うよ旅の仲間! 他にも色々お嫁さんの候補はいるから。王様はモテてるからね私はただの仲間だから勘違いしないように!」
オレイカの盛大な自爆。
今までそんな素振りは無かったがオレイカも俺に気があるらしい。嬉しいには嬉しいが正直対応に困る。
そしてシスタは一度俺をしっかりと見て何かに納得したように頷いた。
聡い子の様で今の発言で全てを察したようだ。将来は立派な人になれるだろう。
「パパ、何してるの?」
車から顔を出したセルクにシスタは目を見開いてこちらを見る。
「クォルテさんは何歳ですか? あんな大きなお子さんがいるってことは三十を超えているんですか? お姉ちゃんは後妻ですか? 前妻の面影を追っているんですか?」
違ったこの子は頭がいいわけじゃない。耳年増なだけだ。
そんなドロドロとした恋愛に目を輝かせている。
「ごさい? ぜんさい? パパそれってどういう意味?」
「更に娘にも手をだしているんですか!?」
とてとてと近づき俺の手に抱き付いたセルクにシスタのテンションは更に上がる。
こっちが引くほどにキラキラとした目を向けながら、他にはどんな泥沼があるのかを期待しているらしい。
「セルクは本当の娘じゃないからな。それに俺はまだ二十二だ。前妻も後妻もいたことはない」
「そうなんですか。でも壮絶な女の戦いはあるんですよね? お姉ちゃんは何位くらいですか? 可能性はありますか?」
シスタがそう言うとオレイカもじっと俺の方を期待したように見つめている。
「それよりもアトゼクスの事だろう?」
「アトゼクスがどうかしましたか? ……あぁー」
どうしたのかを聞いた直後に今しがた自分が何を飲み込んだのかを理解したらしい。
「あなたが飲んだのがお人形だよ。早くぺってしてくれないとセルク達困るの」
「吐き出したいんですけど……、ああそうだ家に来てください。お父さんなら何か持ってると思いますので」
シスタはそう言うと四匹の泥の鰐を作り出しその内の一体に跨る。
「どうしたんですか? 早く乗ってください、もう出発しますよ」
俺達の横にそれぞれ泥の鰐が準備している。だが、俺達には車がある。雨にも濡れない理想的な乗り物があるのにこれに乗れと言うのか。
「おお、快適です。流石お姉ちゃん雨にも風にも負けない優れもの!」
そう叫ぶシスタは今現在荷台部分に目隠しの布をかけびしょぬれになった服をオレイカとセルクともども着替えさせている。
何も考えずに外に飛び出した結果全員が地肌に張り付くほどに濡れてしまっていた。
オレイカの透けて浮かび上がる下着に、無防備にも下着を付けないセルクの、完成された肉体は湿る衣服がぴったりとかたどる。泥遊びに興じていたシスタは慣れているのか中に防水の服を着ていたため大して問題はなかった。
そんな男としては眼福な状態だったが、そんな煽情的な姿のまま町に行くことはできなかった。
「シスタはあそこで何をやってたんだ?」
「自分は魔法の練習ですね。やっぱり泥になると水の魔力もあるので上手に造形できなくて」
「それでこんなところで練習してたわけか」
そりゃあ十歳には難しいだろうな。大人でも苦手な人がいるくらいだし。コツを知らないと扱いにくい媒体ではあるしな。
「お姉ちゃんは何か泥を操るコツとかは知らないの?」
「うーん……、わからないな。私って感覚の人間だからこう考えないで使えるから」
その天才の発言にシスタも言葉が無いようだ。
オレイカほどの才能があればそれが普通なのだろう。感覚と試行錯誤。成功した時の感覚を覚えて次から間違えない。
凡人には無理なことだ。
「折角だから使い方教えてやろうか?」
仕方がないので俺が多少指導してやることにした。
「王様って水だよね? 土の魔法使えないでしょう?」
「属性が違うだけで魔法の理屈はどれも同じだ」
車で移動しながらと思っていたが、オレイカが遠視の魔法は苦手なためこの場で授業をすることになった。
「まず勘違いが多いのは泥を水と土の複合だと思っていることだな。泥は水に濡れた土か土を含んだ水だ。言っておくが混ざっている物じゃないというのが大事なことだ」
「ああ、私はわかったよ。そう言うことなんだね」
オレイカは流石に今の説明でわかったらしい。もともとオレイカは使えていたから感覚に説明がついた程度の話なのだろう。
セルクもシスタもその説明でまだ首を傾げている。
「簡単に言うと土だけ魔力で動かせ。そうすれば土を濡らしている水も動くから。こんな風にな」
外にある泥を蛇に変え車の荷台に移動させる。
呪文も使わない簡易的な魔法なので俺の前まで来て完全に動きを止める。
「これに土の魔法を使ってみろ。あくまで土だけだ。楽しいぞ」
そう言うとシスタは半信半疑で魔法を使う。
すると泥の蛇が脱皮するように土と水に分離する。動かしていたのが水だったため綺麗な形の水の蛇とは違い。混ざっていただけの土の蛇は所々がかけて形が悪い。
「土の蛇が歪なのは水に含まれていた土だけを動かしたからだ。これが逆だと歪な形になるのは水の方だな。たぶん今までシスタが使おうとしていたのは両方が綺麗な形を保つ魔法だ。そんなのは不可能だ。あくまで魔法を使うのは一種類のみ。複合のように見えるのは本当に二人いるかこれみたいに片方にただくっついているだけだ」
俺がそう言い終わると三人が拍手をくれた。
「ありがとうございますクォルテさん。なんかできるような気がします」
「そんじゃあ、余計な時間を食ったけどシスタの父親に会いに行くか」
†
車に四人が全員乗り、俺の遠視で辺りを確認しながらオレイカの運転で雨の町を目指している。
魔法を使っている以外は暇を持て余している俺は悲惨な荷台に目を向ける。
「練習熱心なのはいいことだけどさ……」
荷台ではシスタが魔法の練習をしている。それをセルクが見て喜び大変微笑ましい光景が荷台で行われている。
それに魔法の練習は確かに大事だ。ましてや白髪のシスタは魔法が使えなければただの子供だ。
だがそれはそれである。
「荷台にそんなに泥を積んで何を作るつもりなんだろうな」
荷台には大量の泥。荷台に散乱していた工具を一度綺麗にまとめ、シスタの魔法で棚を作りその上に押し込める。
そうやって広くなった荷台を覆いつくすほどの泥に埋め尽くされている。
「シスタ。次はね、狼がいい狼! カッコいいの!」
「任せて最高にカッコいいの作るから」
シスタはセルクの注文を見事に応えお題を完璧にこなした造形をする。
俺から見ても確かに立派な造形で普段俺が使うような水の蛇や水の龍とは違っている。
一言で言って細かい。戦うために動けばいい俺の魔法とは違い、細部まで研究した造形にセルクが喜ぶのは当然と言えた。
「シスタってどんな魔法使いなんだ? あそこまで細かいと戦闘ではないよな」
「うん。エンコードの家は造形師の家系。私も細かい部品とかは造形師に頼んでる。私が作ると微妙に大きさが違ったりするから」
「納得した。それならあそこまで細かく作れないと駄目だな」
造形師の主な仕事は彫像の作成だが、シェルノキュリの場合は違うらしい。
寸分たがわずに作られる歯車や部品は自分で作るよりも高品質なため重要らしく、名家ともなれば引く手あまただとオレイカから聞いた。
造形師の息女ともなればオレイカと仲がいいのもうなずける。
「パパ見てこれセルクだよ。シスタ凄いの本当に凄いの!」
セルクの手に乗っているのはセルクの泥人形。バストアップの人形で本当に小型のセルクそのものだ。
「凄いな。これは将来有望な造形師なんじゃないか?」
「それに見ておっぱいがプルプルなの。あはは、面白いよ。パパも触ってみてよ」
セルクが人形のセルクの胸部に触れると確かにプルプルと揺れるそれを俺に触れろと言ってくるセルク。
人形とは言え、それは良くないんじゃないだろうか。完成度が高いゆえに触れるのは父親として越えてはいけない一線なのではないかと思ってしまう。
そして俺の気持ちがわからないセルクは尚も自分の人形の胸に触れろと迫ってくる。
「ほらほら、本当に触ってて気持ちいいの。押しても跳ね返ってくるし本物みたい」
天真爛漫に天使のような微笑みを向ける闇の神の小悪魔ぶりに俺はどうしたらいいのか。
本物みたいだよと言われ確かに本物も触れたことはあるが。ここで触って「本当に本物みたいだな」と言ってしまえば明らかな変態。逆に「本物とは違うな」と言っても確実に変態。触れることを断ったとしてもセルクは執拗に触れさせようとしてくるだろう。
このどう考えても詰みな状況にどうすればいいのか……。
「王様の考えもわからなくはないけど、深く考えすぎだと思うよ。ルリーラもアルシェもいないし」
結局俺は人形に触れることにした。確かに触れた感触は気持ちよかった。
しかしセルクの本物と比べてどうだったかは割愛する。
一体目のセルク人形が出来てから数分。車中には大量のセルクに埋め尽くされていた。
「子供って怖いな。加減がない」
「これには私もびっくりだよ。早く雨の町につかないかな」
「もう肉眼でも見えるころだぞ」
大小さまざまなセルクが総勢二十七体。そのどれもが胸が異様なほどに柔らかく作られている。
シスタ曰く胸の部分を空洞にしその中に水が詰め土で溢れないようにしているらしい。さっきまでうまくいかないと嘆いていた人物と同じとは思えない。
「パパ、この人形に色を付けたいんだけど何かない?」
人形に付ける色か、荷物の大半は宿に置いているし着色できるものは今ないか。
オレイカに視線を向けても首を横に振る。
「今は無いな。あとそろそろ着くから全部片づけなさい」
そこからセルク人形の片づけが終わったころにようやく雨の町にたどり着くことができた。
「着いたはいいけど結局車は置いてかないといけないよな。というか車から降りたくない」
目の前の雨に沈んだ町と変わることのない豪雨を見てそんな言葉を漏らす。
しかし車から降りないと町には入れない。そんなジレンマを抱えているとシスタが手を挙げる。
「自分が家まで運びます」
そう言うと泥から船を編み始める。
車を中心に一体の泥を使い船を編み続け、あっという間に小さな帆船が出来上がった。
なぜ帆船なのか。このサイズの船なら手漕ぎボートで問題ないだろう。
「お姉ちゃんこの船とこの乗り物を同期できる?」
「できるよ。えっと、こういう部品が必要でそれをここの部分に装着して――」
いきなりオレイカとシスタは相談を始めた。
ちょくちょく魔法を使い俺には見えないが何かしらを作っているらしい。
「パパ、二人とも凄いね。セルクも魔法使っていいかな?」
「使えないし使わせないからな。いいから見てろ造形師と発明家の合作だ」
そして十分ほどの時間を使い完成した時には雨の音は聞こえなくなり、本当の帆船が出来上がっていた。
空は完全に閉ざされてしまい中から外を見るには、結局遠視の魔法を使わないといけない。
遠視の魔法で船全体を見渡すと大きな帆は畳まれており甲板には何もない。そして驚くのはこの土の帆船の造形。
全てが土でできているのに帆布や縄、甲板に並ぶ荷物などまで全て土で作られていた。
「やりすぎだろ。どこまで作ってんだよ。明らかに無駄じゃないか」
「どこまで作っているのかって王様、何を言っているのさ。稀代の天才オレイカ・ガルベリウスと」
「造形師見習いシストルデア・エンコードは」
「「どこまでも本気で作らないと気が済まない!」」
幼馴染らしい二人は器用に連携しながらそう宣言した。しかもなぜかポーズ付きで。
その二人の暴走を見てセルクが拍手を送ると二人はまんざらでもなさそうにほほ笑む。
俺はせめて一人くらい真面目な奴を連れてくるべきだったと頭を悩ませる。
「そんじゃあ出発!」
オレイカが車を操舵すると船は動き出した。
どうやら車輪部分にオールを付け車輪が回転すると船が動く仕組みらしい。要は別にこの船は帆船である必要すらないらしい。
そして無駄に大きな帆船のせいで動きは遅く、着水したところから三軒目にあるはずのシスタの家に着くまで一時間もかかってしまった。
†
シスタの家は周りの家と同様に三階建てで一階部分が水に沈み、二階と三階が水面に出ている。
二階の玄関には五段の階段があり雨よけの屋根も付いていた。おそらく水が家に入らないようになっているのだろう。
「ところでこの船はどうするんだ? 流石にデカすぎると思うんだが」
家の高さと同じくらいの帆船の処遇をどうするのかとシスタに質問する。
ぱっと見ではこの帆船を格納できるようなスペースは無いように思える。
「そうですね。一階に落としましょう」
落とす? 不穏な言葉に止めようとしたが時既に遅く。
土の帆船はボロボロと水に溶けていき土の球体だけに変わり、その球もゆっくりと沈んでいく。
「大丈夫なのか? どうやって回収するんだよこれ……」
泥に汚れた水面で水底は見えないがおそらく今頃は地面についているだろう。
「クォルテさん、セルク早く家に入ってください」
そう言われても車の不安が否めない。だが次の瞬間家の脇から筒が伸びてきた。
それが何かはすぐにわかった。
何かが昇ってくる音が筒の中から聞こえ次の瞬間には泥水が噴き出した。
土砂降り。文字通りの土砂交じりの水が噴き出しそれが辺り一帯を茶色く染める。
当然家の中に入っていない俺とセルクは噴き出した泥によって跳ねた水を全身に浴びた。
玄関のドアの前でうわぁ……とこちらを眺めているオレイカとシスタに腹が立つ。
「お風呂入れてきますので。泥だけでも落として入ってください」
泥が降りやんでから開かれた第一声に俺は素直に従った。
「パパとお風呂だ」
セルクは嬉しそうに恥じらいもなく服を脱ぎ散らかし風呂に直行した。俺はそんなセルクの後片付けをしながら自分も服を脱ぐ。
自制できるかな俺……。
もちろんセルクと入るのは初めてではない。そして当然それは小さいセルクの話だ。凹凸の無い平らな体の時だ。幼く小さな時の話。等身も四つくらいで抱き付かれても腰までしかない幼い時代のセルクとの話だ。
今のように抱き付くと俺の顔は胸に行くし、ルリーラが羨ましがるほどに凹凸がはっきりとしていて、八頭身もあるような魅惑の姿では初めてだ。
そりゃあ一緒に入ろうとしていたがその都度ルリーラ達が止めてくれていた。
しかし今日はそれが無い。抑える人数が圧倒的に足りていない。おまけに泣きそうな表情で「パパはセルクと入るのは嫌なの?」と言われて拒否もできない。
「パパ早く来ないの?」
「今行く」
何とか思考を回し逃げ出す方法を考えているのだがセルクにせがまれあがきも無駄に終わった。
自分の欲望に蓋をして浴場の扉を開ける。
「ねえねえ、髪洗って。目に泡が入って痛いから」
浴場ではすでにセルクは洗ってもらう準備が万端だった。
鏡の前で椅子に座り目を閉じている。お湯をすでに被っているらしく体からは湯気が立っている。
「わかった。大人しくしてろよ」
平常心だ。平常心。見た目がどれだけ成長しようとセルクはセルク。生まれたばかりの闇の神だ。邪な妄想で穢すのは許されない。
自分に言い聞かせ冷えている自分の体にお湯を被り、念のためセルクにも声をかけてからお湯を被せる。
そして石鹸を使い泡立てたからセルクの髪に泡を付けていく。
なるべく肌には触れないように髪に優しく触れていく。
闇色の髪を白く染めていきながら丁寧に洗っていく。
「もお、パパくすぐったいよ。アルシェママみたいだよ。アルシェママもそう言う風に洗うんだよね。アルシェママは髪が長くて大変そうだよね」
一瞬アルシェが髪を洗っている姿を想像してしまうが、被りを振って妄想を振り払う。
「じゃあ、前みたいにわしゃわしゃ洗うか」
頭皮を揉むように指を動かしていく。天辺を洗い徐々に手を下に移動させていく。
するとセルクはひゃんと声をあげ体が小さく跳ねる。
「耳はいいよ、触られると体がぴくんってなるから」
「そうだったか、悪かったな」
浴場に響いた嬌声に俺の体も反応しかけた。
それから何度かセルクの体は跳ねたが何とか気にしないようにしようやく洗髪は終わりを迎えた。
「じゃあ、お湯賭けるから目と耳は閉じろよ」
「うん」
俺が頭から二度ほどお湯をかけるとセルクは口に泡が入ったのかぺっぺと泡を吐き出した。
その姿はやはり幼く俺はようやく一息ついた。
「パパこれ苦いよ。他に口に入ってない?」
そう思ったのも束の間セルクは突然身体をこちらに向けた。
先発に使った泡がいくらか体に残り苦いと言って舌を出しながら口を開ける。
おまけに体はお湯で湿っており目にお湯が入らないように目を閉じている姿は、俺を堕落させようとしてわざとやっているんじゃないかと疑ってしまう。
「大丈夫。入ってないから。次は俺が洗うから湯船に入ってろな」
俺も洗髪をしようとセルクと入れ替わり椅子に座ると俺の両肩がセルクに掴まれる。
「セルクが洗ってあげるね」
そう言われてしまった。
無防備な背中には闇の神が立っている。
無邪気な闇の神は石鹸を泡立て俺の頭髪に泡を付け、わしゃわしゃとわざわざ声に出して洗い始める。
娘が父親の頭を洗う。
言葉にすればそれはとても微笑ましい光景が浮かぶだろう。
だが今俺の頭を洗っているのは見た目は大人で血のつながりが一切ない娘。
羞恥心なんてものが芽生えてもいない女性は、その自分に備わっている爆弾と言っても過言ではない破壊的な二つの膨らみをためらいなくぶつけてくる。
首から肩にかけて触れる上等なスポンジケーキの柔らかさについ姿勢を正してしまう。
セルクは娘セルクは娘セルクは娘――
暗示のように自分に言い聞かせる。
「じゃあお湯かけるよ」
悟りの極致にたどり着いた俺は無言でお湯を頭から被る。
「誰かいるのか?」
「えっと汚れてしまったのでお風呂を借りてます」
男の声に返事をするが、それは果たして正しいのか考える余地はない。
「てめぇまさか家の娘に手を出してんじゃねぇだろうな! 開かないってことはてめぇはやっぱりそう言うことか彼氏なんてまだ早いんだよ!」
何せ間違っているのだから。
俺が声を出してからシスタの父親らしい男は、扉が壊れそうなほどに力を込めている。
俺だけなら別に開けられようが構いはしないが、今この場にはセルクが居る。少女ではなく女性がいる。
シスタに手を出していなくても他人の家で男女が風呂に居る事はまず間違いだ。
「さっさと開けやがれ!」
「無理だ! おい、オレイカ、シスタ! 頼むから来てくれ!」
「家の愛娘を愛称で呼んでんじゃねぇよ! 今すぐ開けろお前をぶん殴って裸で外に放り出してやる!」
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「お前に親父呼ばわりされる筋合いはねぇぞ、すけこまし!」
数分の攻防の後にようやく現れたシスタに助けられ、俺達はようやく風呂場から脱出することができた。
出る時にドアに触れるとドアはただの板に成り下がった。
†
「遅くなりましたが、家主で父のアリアルアクリア・エンコードです」
「娘とお嬢が言っているからここにいることは認めてやろう」
家主は俺達四人の前に座り、風呂上がりの恰好のまま煙草に火を着けこちらをというか、俺をあらん限りににらみつける。
「ふぅ、そもそもお前の軟弱な姿はなんだ? 魔法頼りで体なんか動かしてもいないんだろう? 男は肉体を磨いてこそだろ」
挑発するその顔を見て言い返したいがこの男の姿を見ていると言い返すこともできない。
何せ後ろに流した髪の色は真っ白なのに、裸の上半身の筋肉は黒髪にも負けない程に引き締まっている。
その姿と比べると確かに俺の肉体は貧相だ。魔法頼りと言われても仕方がない。
「いや、気持ち悪いよお父さん」
「なっ……」
娘からの痛恨の一撃。
手に持っていた煙草は床に落ち湿った床に落ち火種が消えた。
挑発な笑みからの落胆の表情にこれはチャンスだと悟った。
「男を磨いた結果が娘に嫌われることだと恐れ入ったよエンコード。白髪のお前がそこまで肉体を鍛える苦悩を考えると俺は涙を禁じ得ないぜ」
さっきとは逆に見下す様にエンコードを見下ろすと、悔しそうにこちらを見る。
セルクが、パパ悪い顔してる。と言っているがそれはこの際気にしない。
「クォルテさん、違いますよ。お父さんは鍛えてません」
「そうだぞ、クォルテとやら。この姿が嫌われるというのならやることはただ一つ。作り変えるだけだ!」
次の瞬間にはあれほど引き締まった肉体にわずかだが脂肪がついた。
荒々しいほどの筋肉が脂肪という緩衝材を得てどこか優しさを醸し出している。
「娘よ。この体なら気持ち悪くないだろ? お父さんカッコいい! と抱き付いてくれてもいいんだぞ?」
「気持ち悪いので無理です」
シスタの一言に今度こそエンコードは膝を着いた。
自分のこの肉体のどこがいけないのかと本気で項垂れてしまった。
「言いすぎじゃないか?」
俺は一人の男としてエンコードに同情してしまう。
カッコいい父であろうと姿さえも魔法で変えた結果、気持ち悪いと切り捨てられてしまう無惨な姿に俺は自分を重ねてしまう。
「王様、父親は娘に嫌われるものだから」
その言葉にセルクを見る。
「セルクはパパ好きだよ」
そのセルクの天使の一言に俺は泣きだしそうになってしまう。
いい子に育ったなセルク。
「セルクは実子じゃないから大丈夫だよ。というよりまだ生まれたばかりでしょ?」
「そう言われればそうだな。生理的に嫌われる理由はないな」
娘が父親を嫌うその反応は血が近いもの同士に恋愛感情を抱かないようにらしいし、そもそもセルクは神様だった。
どうやら俺にあんな時代は来ることはなさそうだ。
「どうやら俺の負けのようだな。クォルテ・ロックス」
勝ち誇っている俺にエンコードは、俺の名前を呼び手を差し出してくる。
「名乗ってないと思うが、なんで名前を知っている?」
「お嬢が側にいる男。シェルノキュリでは有名だ。アリルドを倒して王になった知将でありながら本人の戦闘力も高い。顔が良いと聞いていたが俺よりは下だな」
本当にどこの国にでもシェルノキュリの人間はいるらしい。
伝聞の速度に驚きながらも俺はエンコードの手を取った。
「知っているとしても名乗らないといけないな。クォルテ・ロックスだ。アリルドの王で世界を旅している。それとこっちの黒髪がセルクだ。肉体の成長は早いがまだ子供だ。今は俺が親代わりだ」
セルクが慌てて頭を下げるとエンコードは手を差し出す。俺が促すとセルクはその手を握る。
「おい。ちょっと来てくれ」
エンコードが家の奥に声をかけると柔らかな女性の声が聞こえた。
パタパタと足音を立てながら人数分のお茶をお盆に乗せた若い女性が家の奥から出てきた。
年は俺よりも下ですらりとした長身の女性。茶色の長い髪を後ろの高い位置で止め、整った顔を全て出している。体は細いのに女性らしい丸みは損なわれていない。
「粗茶ですが」
そう言って柔らかく微笑みお茶を俺達の前に並べる姿は親しみやすいのに艶がある。
全員にお茶を配るとエプロンを外しエンコードの隣に座る。
「娘がまだいるのか?」
「そう見えるか?」
俺の質問に笑いながら応えると隣の女性がその後を笑顔で引き継いだ。
「そう言ってもらえると嬉しいわ、でも私はこの人の妻よ。ティア・エンコード、年齢も今年で三十六でこの人よりも二つ上」
その言葉に俺は止まりオレイカを見る。オレイカも若く見えるがそれよりも更に若く見える。
言われれば確かにこの色気は十代で出せるものではないが、それにしても若すぎる。
「うん、王様の気持ちはわかるよ。アルシェと同じくらいに見えるよね。でも本当だよ。十年以上前から見た目が変わってない」
「奇跡だな」
目の前の女性を見つめてもとてもじゃないがそうは見えない。
この見た目でこのおっさんの二つ上? どう見ても十代にしか見えない。
「これもおっさんみたいに魔法とかか?」
魔法で無理矢理に見た目を若い時に固定しているとしか思えないその姿にエンコードは反論する。
「ティアはそんなことしないぞ。それに顔なんて複雑な部分を変えれるわけないだろ」
「そうだよな。でもビックリしたから」
これで三十六だと言うのが信じられない。むしろ魔法で作りましたの方が納得できる。
「自己紹介も終わったことだし、小僧お前の乗っている車ってのを見せてくれ」
「それならオレイカの方が――」
オレイカの方がいいと言おうと思ったが、オレイカはすでにティアさんと美容の話で盛り上がっていた。
「そういうことだ。お前も少しくらいは説明できるだろ」
「わかったよ。あくまで大雑把にしかわからないからな」
おっさんの後をついて行くと下の階に案内された。石よりも少しざらついたような手触りの壁に囲まれた広い空間。
この空間が作業場であることは散乱した工具や山積みになった鉄で察する。
「これはどうやって動いているんだ? 馬車とは違い自走するんだろ」
俺は知っている限りの情報をおっさんに伝えた。
それを聞いたおっさんは車に触れ納得したように頷いた。
「なるほどな。理屈を知れば当然なのに想像をしていなかった。これが才能ってやつか」
どこか自虐のように笑う。
「オレイカは言ってた。ずっと考えてたってその考えを形にしたのがこれだって。才能じゃないんじゃないか? あいつも考えに考えてこれを作ったんだ」
「そんなことは誰もがやってる。百の完成に至るために九十九の試行錯誤をしても凡人は最後の一つが届かない。もちろんその一つが成功に必須じゃないこともある。でもその一つが必要なことの方が多いんだよ。俺達みたいな造り手にとっては」
それには何も言えない。その気持ちは俺にもわかるから。
なんでもできると煽てられている俺も同じだ。茶髪ゆえに万能、万能ゆえにエキスパートになれない。力も魔法も研究も全てが上手い止まりの俺だからこそ、その気持ちは痛いほどに理解できる。
「天才のお嬢も万能じゃないよな」
俺の心を読んだようなその一言におっさんに視線を向けると、車はひっくり返り車輪が外されていた。
「何してんの!?」
俺は全力で突っ込んだ。
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