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商売の国 テルトアルレシア
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ヴォールでの買い物の途中で、とあることに気が付いてしまった。
「あの、食材ってどこでしょう」
「それならこの街を出てすぐにある村に」
「ありがとうございます……」
アルシェが近くの人に声をかけるが、全員が同じ答えだ。
うんやっぱりそうなんだよな。
今更気づくのもどうかと思ったが、ここに来てから特に気にしていなかった。
出来合いの食堂はあっても、加工前の食材を売っている場所がこの国にはない。
何せこの国の首都には何もない。
これだけ活気があったとしても、ここはあくまでも防衛の拠点であって神の社だ。
そうなると当然揃っているのは、武器や街での移動手段。食材を売っている店がない。
「これは、次の国まで我慢したほうが早い気がします」
「俺もそう思う」
食料もほぼ城で食べ、小腹が空いたら何となく外で食べていたおかげで全然減っていない。
「よしもう出発だ。文句はあるか?」
「ない」「ありません」「ないよ」
三人の返事と共にヴォールを出発することに決めた。
滞在期間があまり長くなく、基本的に荷物は馬車に置いているおかげで荷造りはすぐに終わった。
馬車を移動してくれる人たちを待つ方が時間は長かった。
「じゃあとりあえず出発だ、目的地は温泉の国オールス」
俺達はまた馬車に揺られて旅路を進む。
もうすっかり俺よりも操舵が上手くなったアルシェの隣で、俺は念のため座っている。
「この道を真っすぐでいいんですよね」
「そうだ、後は途中にある国によって食料の補充だ」
「その国ってどこなんですか?」
「次の国は商売の国だよ」
のんびりした旅のおかげかフィルの話し方がよく馴染んでいる。
「フィルに言われたけど、買い物をするのは商売の国テルトアルレシアだ」
「凄いよ、この国に行けばなんでも手に入るから」
「なんでもですか」
「その国に行かなきゃ食べられない物とか、買えない服とか色々な国の物が売ってるよ」
「それに付け加えるなら各国に支店が最低一軒はある」
そこの支店経由で各国の特産品や食料品を扱っている。
そのおかげでこの国は年中通して最大級の盛り上がりを見せている。
「温泉も楽しみだけど買い物も楽しそう!」
「色々な食材も買えますね」
「折角だから服も買っていくか」
わいわいと買う物を決めながらテルトアルレシアを目指して馬車を進めていく。
「あそこが最初の町っぽいな」
テルトアルレシアの特徴の一つはここにもある。
小さな町がいくつか並びその町ごとに売っている種類が違う。
首都まで行けば何でもそろうがこっちの町に行けばマニアックな物が売っている。
「あそこの町は何があるの?」
「あそこは武器屋だな」
「興味ない」
「俺は用事あるんだよ」
魔力が切れても問題ないように武器はいくつか欲しい。
魔獣との戦いでそれが身に染みた。
「ルリーラとフィルの武器も買うんだからな」
「私いらないけどな」
「私も動きが鈍くなるし」
「お前達に一々武器を作ってられないだろ」
文句を言い続けるルリーラとフィルを引きずりながら最初の町に向かう。
活気が溢れる町並みは流石テルトアルレシアと言えるだろう。
職人たちの怒号に値切る客達、ただの世間話色々な情報が飛び交う。
「耳が痛い……」
「あたしも……」
身体能力の高い二人は耳を塞ぎながら歩いていく。
「流石に私もうるさく感じます」
この活気は確かにこの辺りだとうるさいのだろう。
武器だと俺はテンションが上がるから大して気にならないが、興味のない三人にはただの雑音に聞こえてしまうんだろう。
「なら早めに買い物を終わらせるか、二人はどんな武器がいいんだ?」
「私はこう、一撃必殺みたいなの」
「あたしは、動きやすいのかな」
そうなるとルリーラは戦斧か大剣ってところでフィルはナイフを二三本ってところか。
「アルシェは何がいい?」
「私は特にいらないですけど」
「そういえばネアンの精霊結晶を渡してたな」
「はい、なので制御は簡単になりました」
確かに魔力の媒介にするなら精霊結晶よりも優れている物はないし、杖とかはただ重くなるだけだしな。
「俺は買いに行くけど、みんなが辛かったら先に馬車に戻ってくれてもいいぞ」
「辛いけど行く」
「あたしも」
「私は二人に比べたら問題ありません」
「じゃあ行くか」
俺達は手当たり次第に店に入り武器を見て回る。
先に見つかったのはフィルの短剣だった。
「これ凄い手に馴染むよ」
「これって魔法の付与って可能ですか?」
「そこまで頻繁じゃなければ可能だよ、魔法付与ならこっちが一番だよ」
「じゃあその二本ください」
短剣をしまうホルダーと共に購入し、フィルに渡す。
興味ないなんて言っていたが実際身に着けると嬉しいらしく何度か抜き差しを繰り返す。
「こっちのは切れ味がいいものだから普段使ってくれ」
「わかった、それでこっちの綺麗なのは?」
「こっちは魔法を付与して使う。自分でもいいし俺とアルシェでもいい」
刀身が赤く光る短剣をフィルに渡す。
「私のは?」
「気に入った物がなかったんだろ? 次だ次」
更に探して四店舗目、ルリーラの目に大剣が映った。
「私これがいい」
無骨でシンプルだが大剣には珍しい片刃で刀身には波打った模様が特徴的だった。
見ていると吸い込まれそうな美しさは、武器としてより不気味に見える。
「じゃあこれを、これって魔法付与はできますか?」
「できますよ」
「じゃあこれを下さい」
綺麗だが、そのせいなのか細身の刀身は腕力だけではすぐに折れてしまいそうだ。そうならないように魔法を付与できるのは嬉しい。
「ほら、ルリーラ」
「やった」
ルリーラは身の丈よりも高い大剣を手にして喜ぶ。
「後は俺の買い物だけど三人はどうする?」
「一緒に行く」
ルリーラの言葉に他の二人もうなずき。俺の求める武器を探ししばらく街を探索する。
何店舗めかで目に付いた短い槍に手を伸ばす。
木製の柄、穂先は槍にしては少し長いが、その分攻撃の範囲が広い。
これに追加で魔法も使えれば剣としても使えるかもしれない。
「意外とこういうところも楽しいね」
「楽しかったね」
「私はあんまりおもしろくなかったかな」
「アルシェは買う物なかったからな」
馬車に乗り今度は日用品を買いに出かける。
主に服関連。
これに関しては三人の独壇場で俺は後を付いて行くだけとなる。
「これ可愛い」
「可愛いけど、アルシェにはおすすめできないかな」
「なんで? 私ってこういうの似合わない?」
「似合うんだけどアルシェの場合はね」
「いやらしくなるから」
「なんでですか!?」
「それには俺も賛同するぞ」
「クォルテさんまで?」
可愛い物ってスタイルがいいほどに卑猥さが増してしまう。
可愛いのは幼い雰囲気の物が多く、アルシェの様にスタイルがいいとその幼さが卑猥な方に進んでしまう。
今選んでいる肩を出している服だと、襟ぐりが広くなっているため胸元も強調しすぎてしまう。
「いいんです、着てみます」
「どうぞ」
三人で着替え終わるのを待つと、それはまあ予想通り。
「イメージと違いました……」
出てきたのは確かに可愛いがやはり胸が強調されエロい。
白い肌に薄いピンクの服は確かに似合っていて可愛いが、露出した肩と深い谷間、そして更にその胸を強調するようにあしらわれた大きなリボン。
いかがわしいお店に出てくるような卑猥さ、街に居る男性の視線も集まってしまう。
「だからアルシェはこういう方が似合うよ」
手渡されたのはシックな感じで綺麗とかカッコいいに分類される服。
「私も、可愛いのがいい……」
ルリーラに渡された長いパンツとシャツにジャケット。
顔がまだ少しだけ幼いアルシェだが、こういう格好も似合う。スタイルがいいためやはり変に可愛い服よりも似合っている。
アルシェの最後の抵抗なのか、結局部屋着ならと最初に選んだ可愛い服も買った。
「あたしはどんなのでもいいけどな」
「フィルは確かになんでも似合いそうだ」
スタイルは良いが強調しすぎない平均より少し上、可愛いもカッコいいも両方着こなせる姿に両極端なルリーラとアルシェは嫉妬の視線を送る。
「喧嘩してないで好きな物探せよ」
早々に俺は自分の服を買ったため三人を待つことになる。
それから一時間ほどでみんなの買い物が終わった。
結局みんな無難な服を戦闘用、外出用、部屋着と分けて買った。
「とりあえず買い物は終わったし宿探しに行くか?」
「宿は静かなところがいいな」
「宿屋だけの町もあるよ」
「じゃあ、そこで探すか」
向かった宿屋の町も活気にあふれていた。
飲食店が併設している店が多いため閑静とは言えないが比較的静かだ。
道なりに進むと飲食店の並びを抜け閑静な宿の通りへと変わった。
「静かだね、風も気持ちいいし」
「そうだな」
たくさん並んでいる宿屋から適当に入り、大き目の六人部屋にチェックインをする。
そして驚いたのはここは一人用の部屋だけの宿らしく、四人以上の部屋はコテージになるらしい。
「立派だね」
「四人用は埋まってたけど六人用でよかったな」
大き目のコテージで二階建て、二階には大きな部屋が二つ、一階にはキッチンなどのスペースがある。
周りは林に囲まれこのコテージの範囲を示しているのか生垣が周りを囲む。
「じゃあ俺が一部屋、ルリーラ達は三人で一部屋だな」
「クォルテも一緒に寝ようよ」
「そうですよ、一緒に寝ましょう」
「一緒に寝ようー」
「なんで男を無理矢理に寝せようとするんだよ」
「「「寂しいから」」」
三人が同じことを言う。
段々と俺は男扱いされていないんじゃないかと思って来てしまう。
「駄目だ、今回俺は一人で寝る」
流石に毎晩毎晩悶々とした気持ちで寝るのは辛い。
せめて一人で気楽に過ごしたい。
「我慢なんてしなくてもいいのに、あたしは他の二人と違って大人だけど?」
フィルがこっちに寄ってきてそっと耳打ちする。
「それでも駄目なんだよ。俺が決めたことだからな」
「まあ、そういうのは嫌いじゃないよ」
そして説得に失敗したとルリーラ達に報告に向かう。
これで今日は落ち着いて眠れるな。
†
「クォルテ」
深夜、寝ているといきなり体を揺すられる。
「ルリーラ? どうしたんだ」
「誰か近くに居る」
その言葉に脳が覚醒し体を起こす、いるのはルリーラだけでアルシェとフィルがいない。
「散歩とかじゃないってことだよな」
ルリーラが頷く。
「他の二人は?」
「まだ寝てる、まずクォルテに相談って思って」
ルリーラだけが気づいたってことは気配を消しているのか。
しかもフィルも気づかないってことはなかなかの手練れってことだな。
「人数は?」
「一人、さっきからこの建物の周りを移動してる」
「強盗とかじゃなさそうだな」
「だから呼びに来たの、どうしたらいい?」
人数は一人、それも手練れとみていいだろう、一番の疑問は入ってこないで周りをうろついていること。
強盗なら一人は変だ、それに土地勘のある強盗なら下見には来ない。
不審者の目的は何だろう。
「いつぐらいからここにいるんだ?」
「十分くらい」
それなら他のコテージと間違えている可能性はないか。
狙われる理由はたくさんあるよな。
まず第一に、俺達は昼に結構買い物をしているから金があるのはバレている。
次はルリーラとアルシェだな、ベルタとプリズマなら狙われる理由にはなる。
後はフィルの元主くらいか、まあその可能性はないだろうな。
ヴォールであそこまで恥を掻いたのに恥の上塗りはしないだろう。
「私見てこようか?」
「いや、俺が見に行こう」
ルリーラとアルシェを狙っているなら対策くらいしているだろうし、そんな所にルリーラを連れてはいけない。
「ルリーラは俺が危なくなったら飛び込んできてくれればいい」
「わかった。アルシェ達も起こしておくね」
「頼んだ」
階段を下りて玄関に向かう。
確かに歩いている音はする。
俺は目の前に来たタイミングを見計らって扉を開ける。
「何か御用ですか?」
「なっ!」
驚かれたことに驚いてしまう。
まさか長時間歩いていてバレていないと思っていたらしく咄嗟に後ろに飛び退いた。
「待て」
「水よ、槍よ、敵を穿て、ウォーターランス」
「くそ!」
咄嗟に放たれた魔法に驚き魔法を避けるために大きく横に飛ぶ。
水の槍はコテージの床に刺さりすぐに見ずに変わる。
念のため持ってきた槍に魔力を込め臨戦態勢をとる。
「何が目的だ?」
「水よ、飲み込め、ウォーター」
大量の水が壁のように現れこちらに向かってくる。
「こんなもんか」
小さな槍で水を突き破り近づく。
「くっ!」
顔は見えなかったがおさげの髪と体格で女だとわかる。
全体的に動きが未熟で何が狙いなのかわからない。
「悪いが捕らえさせてもらうぞ」
一足飛びで不審者に飛びかかる。
「水よ、鎖よ、我が敵を捕縛せよ、ウォーターチェーン」
水の鎖は真直ぐ不審者に向かって飛んでいく。
「水よ、鏡よ、虚像を映し身代わりとなれ、ウォーターミラー」
水の鎖が向かった先には水の現身、鎖はそれを本人と思い巻き付き捕縛する。
しかしその身代わりは捕らえられた瞬間に水に変わり地面に戻っていった。
「逃げたか?」
蛇を出そうかと思ったが、痕跡となる魔法の水はもはや地面に染みてしまい追うことはできない。
「クォルテ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「不審者は?」
「逃げたよ」
水の魔法を使う女、他の魔法ならまだしも水の魔法だと何も手掛かりにならない。
「追うの?」
「狙いが俺達ならまた襲ってくるだろう」
そして俺とルリーラはコテージに戻とアルシェとフィルも起きており、椅子に座っていた。
「大丈夫でしたか?」
「心配はいらないって、弱かったしな」
「そうなんですか?」
「ああ、びっくりするくらい」
こちらの動きを察知できる能力もなく、身体能力に魔力も高いわけじゃないいたって平凡な能力だった。
ただ偶然ここにいたっていうわけではないのはわかった。
見つかった後に攻撃してきたのはやはり何かを狙っているのは確かだろう。
「私が見張ってましょうか?」
「そこまではいらないな」
「いらないと思うよ、何か探してたみたいだけど殺気とかはなかったし」
「気づいたうえで寝てたのか」
「そうだよ、それにルリーラが呼びに行ってたし」
「じゃあ今度はまた何かあったら教えてくれ」
「わかったー」
部屋に戻るとなぜか俺の寝る部屋に全員が集まる。
「それで、なぜこうなる?」
「こっちのほうが早いし」
「移動が面倒だしー」
「一人は寂しいです」
三人共自分勝手な理由で隣を陣取る。
我がままを言えるようになってきたのは嬉しい限りだけど、少しくらい自分の時間が欲しいと思わなくもない。
「同じ部屋でいいが布団には入ってくるなよ」
「布団並べるのに無理じゃない?」
「それなら、並べなきゃいいだろ」
「じゃあ、これならいいんだね」
フィルがそう言って提案したのは俺を三角形で囲む敷き方だった。
頭の上にアルシェ、その足元にルリーラの足、アルシェの枕元にはフィルの頭。
俺を囲むように敷いたままみんなが眠りについた。
これで眠れると思ったが、実際はそううまくいかなかった。
片方にはフィルの整った顔がはっきり見えた。
この前接近している時は近すぎて見えなかったが少し離れたおかげで顔がはっきりとわかる。
日焼けに気を使っているのか薄い褐色の肌、二人とは違い大人っぽく完成した綺麗な顔。
普段の間延びした口調から子供っぽく思っていたがこうして寝ていると大人っぽさにドキドキしてしまう。
駄目だ、見るな目を瞑って。
「んふー……」
そしてこの体制が思いのほか不味いことに気が付いた。
フィルの吐息もそうだが、今日は上にアルシェがいる。
衣擦れの音に吐息交じりの寝息。
いつものような肉体的接触ではなく音のみでの誘惑。
「すぅー」
上空からくるアルシェの吐息に離れるように反対側を向く。
そして現れるのがルリーラとアルシェの足。
白と黒の競演と言える二人の足。
どこまでも透き通るような色素の薄い白い足、に健康的に日焼けした褐色の足。
運動をあまりしていないアルシェの足は少しだけ柔らかそうにわずかな振動で揺れる。
そしてよく動くルリーラの褐色の足は引き締まりながらも筋張ってはいない女性らしい足が布団から出ている。
これはこれでよくないんじゃない?
だけど、これなら見ていても変にならないだろう。
だがそう甘い陣形ではなかった。
俺の足に別の足が絡む。
「っ!!」
声はあげなかったが不意打ちの絡み。
温かく柔らかい人の肌、初めて交わる同年代の女性の肌に心臓が一気に動き出す。
本当は起きているんじゃないかと思う足で足を舐める動き。
柔らかく滑らかな感触に身もだえしそうになる。
「――っ!?」
そして更に重ねて襲ってくる不意打ちの吐息。
それがルリーラのものだと知っていてもぞわぞわと快感が背筋を登る。
そして予想外の出来事、ルリーラが俺の足を掴んだ。
すぐに振り払いたいが薄暗い空間で見えにくい位置のせいで振り払うと蹴り飛ばしてしまいそうでできない。
されるがままの現状にこの形を提案したフィルを恨む。
「あむっ」
そして何の夢を見ているのかルリーラは俺の足の指を甘噛みしてくる。
硬い歯に潰されそうになりながらも指の触れる柔らかくて熱い口内。
吹く吐息とは別の暖かいルリーラの呼吸。
味わったことのない熱と感触の虜になってしまいそうだ。
「って、そうじゃない」
俺は起こすことを決めた。
いくら何でもルリーラが足を舐めるのは止めなくてはならない。
いくら洗っているとは言っても汚い足をいつまでも舐めさせるわけにはいかないのだ!
「ルリーラ起きろ」
「ちゅぷっ、どうしたの?」
ルリーラの口から解放された指は短く糸を引き冷たい外気にさらされる。
「人の指を舐めるな」
「何言ってるのさ、美味しい飴を舐めてるのに」
眠いのか目を擦りながらこっちに体を預けてくる。
小動物のように体を小さくまとめ俺の膝に乗ってくる。
「自分の布団に入れ」
「むりー」
仕方なく同じ布団で横にする。
このままだとまた足を舐められそうだ。
俺が横になるとすぐにルリーラは抱き付いて眠る。
「すぅすぅ」
こうなるとわざわざ起こすことはできず仕方なく抱き付かれたままにする。
「結局こうなるんだよな」
こうなってしまうとどうすることもできずにルリーラの頭を撫でるとくすぐったそうに俺の体に顔をこすりつける。
本当に小動物をあやしているような感覚を感じながら俺の意識は落ちていく。
そして翌日。
「ルリーラちゃんズルい!」
アルシェの怒りの声で目を覚ました。
「なんでクォルテに抱き付いて寝てるの?」
「それはね、ルリーラがご主人のを舐めてたからご主人が自分の布団に寝せたの」
「それって、まさか」
「お前は確実に起きてたよな?」
フィルが意図的に説明を省いたためアルシェがものすごい顔で固まる。
「私もしてもらえますか?」
「何もしてないから!」
「ご主人に優しくしてもらってたよ」
「クォルテさん、売られても構いませんので私にもお願いします」
「その覚悟は捨ててしまえ! だから俺は何もしてないから」
朝から怒号が飛び交う中ルリーラはまた深い眠りに落ちっていった。
†
不機嫌が直っていないアルシェの操舵で馬車は首都の街に向かうことになった。
「今日は何を買う予定なんだ?」
「オールスに向けての食料の買い出しです」
可愛らしく頬を膨らませ不機嫌を表すアルシェはやはり変わってきた気がする。
変わったのはアインズを超えた辺りからだろうか。
「好きな物買っていいから機嫌直せよ」
「はい」
ルリーラも最初こんな感じだった気がするな。
慣れてきて自分の我がままをぶつけてくるようになった。
流石にルリーラみたいにアルシェに迫られたら困りものだけどな。
馬車に乗りながらこんなことを考えるなんてそろそろ俺も年なんだろうか。
「クォルテさん」
「なんだ?」
「あれ、魔力溜めてますよね」
進路上に魔力の反応があった。
それも明らかにこちらの進路を妨害する形で……。
薄い霧の様なものがそいつから溢れていた。
「アルシェ、俺が運転を変わる。お前はあいつを退かしてくれ」
「わかりました」
まだ姿の確認はできないが、おそらく昨日の不審者だろう。
その時にアルシェに頼んだことが失敗だったことを悟った。
変化しない水の魔法はここ最近強敵に使っていた魔法だ。
「炎よ、鎖よ、進路を塞ぐ者を退かせ、フレイム――」
「待てアルシェ」
「――チェーン」
「水よ、盾よ、我らを守れ、ウォーターシールド」
アルシェの魔法を予知していたのか、それとも進路を塞ぐためのものだったのか、
不審者は水を分解した。
そこにアルシェの魔法が加わってしまう。
それはつまり複合魔法だ、それもこんな道の真ん中で。
何度も使ったことがあるからわかる一瞬だけ激しく光その後に起こる爆発。
直前で水の盾で広範囲に広がるのを防いだが、道には大きな穴が広がった。
「今のは、……そうか狙いは俺か」
考えていなかったことだが、そう考えれば全てがつながった。
「今の何?」
「耳が痛いよー」
「襲撃者だ。身構えておけ」
その一言に後ろにいた二人も一瞬だけ構えた。
「誰もいないよ」
「そんなはず」
「いないよー、ほら」
フィルは風の魔法で辺りの煙を霧散させる。
そして目の前には誰もいなかった。
「あれだけのことをしておいていない?」
今こそが絶好のチャンスだったはずだ。
それなのにいないとは、ミールは何を狙っている?
そこからは慎重に首都に向かい首都の中に入る。
人がごった返し建物も密集している首都でようやく一息つく。
「ここでなら流石に無茶はしないだろう」
「さっきのはクォルテの知り合い?」
「たぶんだが、ミール・ロックス。俺の従妹だ」
水の魔法、そしてさっきの霧の様な魔法はロックスが使える魔法だ。
となると昨日俺に攻撃をしたのはわざとだろう。
「神様がおっしゃられていた方ですね」
「そうだ」
ロックスの名前に落ち込むルリーラの頭を撫でる。
「詳しくは聞かない方がよさそうだね」
フィルは隣の大人しくなってしまったルリーラを見て何かを察する。
「助かる」
過去のことを俺が話してしまっても構わない。
だが、話すとルリーラの事も話さなくてはいけない。
まだ棘としてルリーラの中にロックスへの恐怖があるならそれを抉るような話はしたくない。
「たぶん目的は俺だろうな」
「ロックス家を没落させたんでしたよ」
「そうだ、神の話ではそれを根に持っているらしいからな」
そうなると解決先を考えておかないとな。
ロックスから色々と持ち出されていると厄介だな。
伊達に水魔法の最先端技術を持っているわけではないしな。
「とりあえずここは大丈夫だろうから、買い物済ませて帰ろう」
そう言って歩き出すとルリーラは俺の手を強く掴む。
「大丈夫だ俺がお前を守ってやる。そう言っただろ」
「うん……」
小さく震えるルリーラの手を強く掴み後ろを見る。
「それに、今は仲間も増えたんだ安心してろ」
「わかった……」
ルリーラが掴む手は馬車に乗っても外れることはなかった。
「ごめんねアルシェ、フィルも」
「大丈夫だよ」
「あたしもここ座ってみたかったし」
俺は旅を始めて以来初めて荷台に乗って移動している。
ルリーラが離れないままのため助手役にフィルを置いて操舵している。
「今夜も来るかな?」
「怖いなら参加はしなくていいぞ」
昨日の様子なら実力で負けるはずはない。
「うん」
コテージに着くとルリーラ手を離した。
そっと自分から手を放しアルシェ達の元に向かう。
急に冷える手が寂しいが縋れるのが俺以外にもいるなら問題ない。
「みんなはミールを見つけても戦わなくていい。俺が全部やる」
それが俺のできることだろう。
下手にアルシェを向かわせたら、また爆発してしまう可能性もある。
それならお互いに手を知っているうえで実力が勝っている俺一人の方が勝率は高い。
「わかったー」「わかりました」
二人の返事にルリーラも合わせて頷く。
「今日はみんなどうする?」
「どうするってなにがでしょうか?」
俺の問いに代表してアルシェが返事をする。
「俺は今日ルリーラと一緒に寝ようと思うけど二人はどうするかなと思って」
「折角のお誘いですけど今日はやめておきます」
「あたしも今日はアルシェと寝るよ」
二人とも察しているらしく、変に絡んでくることはなかった。
「ごめんね、アルシェ」
ルリーラはアルシェに謝罪を述べるとアルシェは笑顔で答える。
「いいんだよ、久しぶりにいっぱい甘えてきて」
「うん」
アルシェの優しい言葉にルリーラはアルシェにありがとうと抱き付く。
「じゃあ、二人も何かあったらすぐに呼んでくれ」
「わかりました」「はーい」
「じゃあ寝るか」
今日は一組の布団にルリーラと二人で並んで横になる。
「ごめんね」
「今更だろ、いつも布団にもぐりこんでくるんだし」
「それは謝らないけど」
「そっちの方は謝れ」
「はは、みんなに気を遣わせちゃってるな」
落ち込んでいるのか腕にギュッと抱き付いてくる。
「いいんだよ、お前はまだ子供なんだから」
「うん」
「俺は今ちょっと懐かしんでるしな」
「何を」
「初めて旅に出た時のことだよ、あの時も怖いって俺に抱き付いて寝てたろ」
「私は変わってないのかな?」
「変わってるぞ、強くなったし大きくなった」
「クォルテおじさんみたい」
「おじさんじゃねえよ、せいぜいお兄さんだ」
「そう、だね……、すぅすぅ」
適当に話しているとルリーラは深く眠りについた。
この懐かしい感じ、最初の時も眠るまでよくこうしてたよな。
闇色の神は艶があり撫でると気持ちがいい。
太陽のように温かくていい匂いのするルリーラとともに眠る。
「クォルテ、来た」
「そうか」
ルリーラに揺すられて目を覚ます。
「アルシェ達と一緒に居ろ。すぐ戻る」
「うん」
不安そうにしているルリーラから離れ、玄関に向かい扉を開ける。
「よう、ミール久しぶりだな」
「兄さん、久しぶりだね」
数年ぶりに会うミールの姿は変わらない。
真面目さから明るい茶色の髪を二本のおさげにまとめ、父親譲りのきつい目つきは見ているものの本質を見抜くようにこちらを捕らえている。
厳格なロックスの血を全て受け継いだ容姿と雰囲気に父親を思い出してしまう。
「俺に復讐か?」
「違うよ、ただ会いに来ただけ」
「それを信じろと?」
「信じられないんだ従妹の私を」
「従妹だから信じられないんだよ」
俺を恨んで襲う理由があるのはロックスの一族だ。
ましてやミールはロックスと俺を尊敬していた。
尊敬していた俺が大事なロックスを没落させて奴隷と逃げたなんて復讐には十分な理由だ。
「私はねクォルテ兄さんが好きなの、好きで好きで大好きでだから追いかけてきたんだよ」
ん?
「ロックスとかどうでもいいの、ただ兄さんと一緒に居たい結婚して伴侶として一緒のお墓に入りたい」
あれ? ミールってこんなキャラだっけか?
「それなのにヴォールで聞いたよ女の奴隷を侍らせているって奴隷なんて買わなくても私が全て受け止めてあげる」
ミールって実はこんなに危なかったのか?
昔はもっとクールで素直だった気がするんだけど。
確かに好きってのは言ってたけどそれはこう家族的な好意じゃないの?
「だから兄さんを迎えに来たよ一緒に行こう。アリルドを手に入れたのも私のためだよね」
一歩ずつ近づいてきて見えてくる顔はとても言い表せない。
だらしない口元、怪しい目、膨らんだ鼻、紅潮した頬。
誰が見ても変質者ですと断言できる女の子のしていい顔ではない。
「ミール、どうした? 落ち着け」
なおも何を掴むつもりなのか両手を前に出し怪しい動きを見せる。
男女逆なら即処刑もあり得る状況に流石の俺も困惑する。
「落ち着いてるよ、ミールは落ち着いてるよ。ハァ、ハァ」
「待てそれは絶対嘘だ、興奮しすぎて変質者になってるから!」
「そりゃー!!」
突然疾風が俺の横をかすめていく。
直後にミールがいた場所に大きく穴が開く。
「ルリーラ?」
「クォルテに何すんのさ、この変態!」
どこからか弾丸のように飛び出してきたルリーラは、俺とミールの間に立ちはだかる。
さっきまで小さくなっていたとは思えないほどに凛としてミールに喧嘩を売る。
「あんたがクォルテを狙ってたんだ、相変わらず変態なんだ」
「誰かと思えばロックスのモルモットね。あんたがなんで兄さんと一緒にいるのかな?」
俺が知らないところで二人は知り合いだったらしい……。
そんな二人は視線をぶつけバチバチと火花を散らしている。
「私はクォルテに助けて貰ったの! ロックスを潰してまで私を助けてくれたの!」
「そんなわけないじゃない、兄さんがモルモット一匹のためにロックスを潰すわけないじゃない」
「本当だもん、私のためにロックスを潰してくれたんだもんね、クォルテ?」
「ロックスの縛りを解くために家を潰して実験のためにモルモットを連れ出したのよね、兄さん?」
そう言い合った末に二人とも同時にこちらを見る。
いや、見られても困る……。
「「どっち!?」」
「ルリーラの言い分が正しいんだけど」
「ほら見たか!」
「嘘よ! そんなの嘘に決まってるじゃない!」
そして二人は言い合いを続ける。
それにしても二人が怖い……、これが女の闘い? ってやつなのか。
「ふんっ! 今日の所は帰るわ、明日同じ時間に来るわ!」
「もう来るな!」
「いいえ来るわ、そして兄さんをかけて決闘よ!」
「いいよ受けて立つ!」
俺が当事者のはずなのに俺は蚊帳の外のまま話が進んでいく。
†
「というわけで襲撃者は俺の従妹のミール、それで今日の夜に決闘するらしいです」
アルシェとフィルは素直に聞いていたが、二人の顔には意味がわからないと書いてある。
その気持ちは痛いほどにわかる、なにせその場にいた俺も理解が追いつかない。
「えっと、そのミールさんってどんな人なんですか?」
「俺としては勉強熱心な真面目な娘って思ってたんだけど」
「あいつは変態、まごうこと無き変態なの」
「そうだったらしい」
昨日の動きを見るとルリーラが正しいみたいだ。
俺は男なのに貞操の危機を感じた、変質者に狙われる女性の気持ちを初めて理解した。
「つまり猫を被っていて昔からクォルテさんを狙っていたと」
「そうらしいな」
俺は本当に知らなかった。
年も五歳離れているから一緒に風呂とかも入っていたし。
いつからそう思われていたかわからないけど……。
「ご主人モテモテだねー」
他人事だからと気楽に告げるフィルに少し腹が立ったが、
フィルはこういう話し方だったと思い出す。
「それで、ルリーラはいつそのミールって子と知り合ったの?」
そう言われれば、貞操の心配ばかりでその辺りの確認を忘れていた。
「クォルテに助けてやる。って言われてから少し経ってからかな」
だとすると三年くらい前か。
「突然あいつが来たんだよ、モルモットのくせにお兄ちゃんに目をかけられてズルい、モルモットのくせに私より会っているのがズルい、家族でもないモルモットなのにお兄ちゃんと話すなんてありえない、あなたの実験に参加していじめる、お兄ちゃんは私のもの、ってひたすら言いに来てたよ」
その言葉の羅列に恐怖を感じた、というよりあんな可愛かったミールがそんなことになっていたことにも恐怖を感じた。
もう貞操どころか生命の危機を感じる。
アルシェとフィルまで恐怖のあまりに身を寄せ合っている。
「ルリーラちゃんよく耐えれたね」
「監禁されてたのもあるよ、その時は心が死んでたからね」
その言葉にアルシェとフィルの表情が更に固まる。
二人は戦闘用の奴隷だったから、実験用に買われていた奴隷の状況はわからないだろう、過去の話とかしたことないしな。
「二人ともそう固まらなくていいぞ、今のルリーラはこうやって笑って言えるくらいになったんだし」
過去のことはなくならないけど、過去と今を分けて考えられるくらいにはルリーラも落ち着いた。
「でも大丈夫なの、トラウマとかになって戦えないってことがあるんじゃない?」
「ないよ、あの変態だったら怖くない」
たぶんルリーラが恐怖を感じるのは、俺の両親とか実験に直接かかわった人間だけだろう。
それ以外の人間には恐怖も怒りも感じていなかったんだろう。
「決闘が今夜みたいだけど、勝ち目はあるの?」
「それは間違いなくルリーラの勝ちだ」
あっちは結局研究者の血筋で、ルリーラは盗賊やら魔獣やらと対決しているんだしどうやってもミールに勝ち目はない。
「何か秘策があるとか?」
「それはないと思うぞ」
ロックス家は水魔法の権威だ、だからこそ一族は水魔法しか使えないし本家の俺が使えない魔法を分家が使える可能性は限りなく低い。
「ならなんでそんな無謀なことをしてるんでしょうか?」
「あの変態の事だからクォルテは自分を勝たせてくれるって思ってるんじゃない」
「その可能性はありそうだ」
俺はロックスの人間と関わる気はさらさらないし応援するならルリーラだ。
「じゃあ対策はいらないってこと?」
「一応これつけとけ」
そう言って指輪を渡す。
「これって神様がくれた奴じゃない?」
「そうだよ、水の神ヴォールの神器水の魔法使い対策には完璧なはずだぞ」
なんの効果かは判明してないが、全員にくれる予定だったなら防御系の神器のはずだ。
「後はルリーラの大剣にも魔法を付与するするから持ってこい」
「ありがとう」
ドタバタと大剣を取りに二階に駆け上がる。
「対策しないって言ってたのにね」
にやにやとこちらを見るフィルの額に小さく手刀を入れる。
「決闘なんだから手位貸すさ、それにここまでしたらあいつも諦めてくれるだろう」
魔法の付与に神器の貸し出し、ただのモルモットとしてルリーラを連れているわけじゃないってことが伝わるはずだ。
「私も付与したほうがいいんでしょうか?」
「アルシェはやめておいた方がいいな」
「なんでですか?」
「魔力量が大きすぎる」
「そうですか」
魔力が大きすぎて大剣が壊れかねない。それに付与する力を抑えれば水の魔法に太刀打ちできない。
「持ってきたよ」
ドンと床に大剣が置かれるが、改めて見ると中々にデカい。
備え付けのテーブルからはみ出している。俺なら体が持って行かれるほどの大きさだ。
「じゃあ、まず切れないようにするのと重さの調整、折れなくする後は簡単な防御でいいか?」
「うん、重さはもうちょっと重い方がいいな、そんなに動いて攻撃しないし」
魔力を込める、刃を水の魔法で覆い重さを増すのに合わせて刀身の内部に魔力を巡らせ折れないようにする。
「完成だけど重さはこれでいいか」
ルリーラは持ち上げて少し振ってみると満足気に頷いた。
「じゃあ後は今夜を待つだけだな」
「うん」
そして翌日の夜をむかえ全員でミールが来るのを待つ。
「よく逃げなかったねモルモット」
「あんたこそね、変態」
「兄さんもお久しぶりです、昨日はお恥ずかしい姿を見せてしまい申し訳ありません」
俺が知っているミールの笑顔だが、昨日の姿を見た後だと恐怖しか感じない。
「そちらの駄肉と鈍間も兄さんを穢す輩ね」
笑顔から一転きつい目元を更にきつくしアルシェとフィルを睨む。
「安心してくださいね、すぐにそんなごく潰し達から解放してあげますから」
精神の不安定ぶりがやばい。
笑顔と憤怒の表情がコロコロと入れ替わりまるで人格が二つあるんじゃないかと錯覚してしまう。
「悪いな、俺は好きでこいつ等といるんだ。だから――」
「兄さまから離れろーーーーー!!」
俺がルリーラの頭に手を上げた瞬間ミールは手斧を取り出しルリーラに飛びかかる。
俺やアルシェなら間違いなく一撃貰っていたが、ルリーラはそんなことはなく、俺を突き飛ばしながら簡単に避けミールの腹部に一撃入れる。
「ぐぼっ!」
口から血を吐きながら生垣に飛び込む。
「クォルテに当たったらどうするつもりだ」
「当てないわよ、あんたの頭刈り取るつもりだったしね」
口の周りについた血を拭いながら立ち上がる。
「兄さんの手の感触をモルモット風情が享受していいものじゃないのよ。私だけがそれを感じていいの」
側にいたアルシェとフィルがあまりの強烈さに泣きそうになっている。
「残念だけど、あんたはクォルテに選ばれなかったんだ」
準備していた大剣を取り出し構える。
水の魔法が付与された大剣は青く光る。
「それって付与されたものよね、青いけどそれって誰がやったの? 兄さんじゃないよね? 兄さんがそのモルモットに力を貸すわけないもんね」
「それは俺が付与したんだよ。ルリーラに勝ってほしくてな」
「いいのよ兄さん、そんな嘘を吐かなくてもわかってる今実験中なんでしょ? このモルモットに魔法を付与した武器を渡してどうなるかどう数値に影響するか」
「あんた本当に気持ち悪い。クォルテは私達のクォルテなのあんたみたいな変態のものじゃない」
「さっきからさ、クォルテクォルテって兄さんの名前呼ばないでくれる!」
そう言って魔力を集めるためか生垣の影に隠れる。
「水よ、蜂よ、毒持つ水よ、我に従い敵を刺せ、ポイズンビー」
「毒魔法!? 触れるな剣で叩き落せ!」
ルリーラは言われた通り蜂に触れることなく剣で蜂の群れを潰していく。
「毒魔法って何ですか?」
「水魔法が他の魔法と違うのは異物と混ざることだ、おそらくあいつは毒の何かを持っている」
「私が行こうか?」
「駄目だ動くな、狙いがこっちに来る可能性がある」
「流石兄さん、私の事よくわかってるのね」
生垣に隠れたミールの姿は見えなくなっている。
蜂を倒すことに精一杯のルリーラもミールを探すことが出来なくなっている。
「気をつけてね、刺されると溶けちゃうから。あははは」
暗闇から笑うミールは余裕を持ち始めている。
「いずれ毒の元が無くなるそれまで耐えてくれ」
「わかった」
数えることすら嫌になる数の蜂を大剣だけで倒していく。
「これで終わりね」
「ルリーラ上だ!」
声をかけたのがいけなかったのか一瞬上を気にしたルリーラに隠れていた蜂が一斉に襲い掛かる。
それをかろうじて防いだのは大剣に付与した防御魔法。
「そう、この程度じゃ駄目なのね」
「水よ、蛇よ、無数の蛇よ、毒の水よ、我に従い敵を喰らえ、ポイズンパーティー」
毒を持った無数の蛇が地を這いながらルリーラに近づく。
空飛ぶ毒蜂と地を這う毒蛇。
対処しきれない量に囲まれルリーラは逃げ出す。
「私を直接討つつもりなの? 見つけられるまで持つかしら」
不敵に言い放つミールを探すためルリーラは動き始める。
近づく蜂と蛇を蹴散らしながらのため動きが遅い。
そのせいでミールとの追いかけっこは不利なまま時間だけが過ぎていく。
「くっ……」
流石のルリーラも長時間神経を使う小さな虫退治に体力がどんどんと減らされていく。
「息が上がってるよ、モルモットなんだから一生懸命動きなさいよ」
自分の勝ちを疑わないミールは上機嫌に語り続ける。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へー。あはははは」
喜びながら段々と隠れることはせず堂々と生垣の周りを走り回る。
「そこだ!」
痺れを切らしたルリーラが生垣を飛び越えると生垣から一匹の毒蛇が待ち構えていた。
「ルリーラ!」
蛇が一匹噛みつきそれに次いで蛇と蜂の大群がルリーラを地面に落とす。
ルリーラを攻撃し襲い役目を終えたものからただの水に変わっていく。
†
「噛まれちゃったね」
「嘘……」
「動かない方がいいよ、まだ魔法は発動してるし」
動こうとした瞬間毒の蛇達が俺達を囲み、ミールはゆっくりとルリーラの元に近づく。
「ごめんなさい兄さん、モルモット殺しちゃった。でもいいよねまだ二匹いるんだし足りなくなったらまた買えばいいよ」
ルリーラを殺しておいてのこの言いぐさに沸々と怒りが込み上げてきた。
「水よ、龍よ、――」
「クォルテさん?」
「――水の化身よ、わが敵を喰らい貪れ、――」
「ご主人?」
「その魂を地の底に送れ、災厄の名を背負いし者よ、――」
「兄さん、どうしたの? 怖い顔してるわよ、そうよね実験を台無しにしてしまったものね」
「――我の命に従い顕現せよ、水の龍アクアドラゴン」
怒りの感情が魔力に変わる。
魔力は周りを震わせるように肥大化し水の龍に姿を変えていく。
「今までで一番大きな龍です……」
水の龍は怒りに顔を歪め巨大化していく、魔力でできた蜂や蛇さえも飲み込み更に巨大化をしていく。
「ちょっと待った!」
怒りが俺を飲み込みかけた瞬間にかけられた声に反応してしまう。
「その変態の相手は私だから」
毒に侵されたルリーラが立ち上がる。
「ルリーラ!」
「えっ、どうしたの?」
すぐに駆け寄りルリーラを抱きしめる。
温かくてミルクのような甘い匂い、闇色の艶のある髪。
ここにいる存在がルリーラである確かな証拠、ルリーラが生きている証拠。
「モルモット、何をされているの? なんであんたごときが抱きしめられているの?」
「クォルテは変態は嫌いみたいだよ」
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない――」
「許さないのはこっちだ、ミール」
怒りに染まる水の龍はまだ宙に漂っている。
それを放てばミールくらいなら一発で仕留められる。
「いいよ、クォルテこいつは私が決着をつけるから」
ルリーラは再び大剣を手に持つ。
それを見て俺は龍を水に戻す。
「どうして兄さんはあんたばっかりーー!!」
怒りに染まる水の魔法は何の形も取らず無数の水の弾になる。
水の弾は全てルリーラに向かって放たれる。
そんな攻撃を全弾撃ち落とす。
「兄さんは、私だけのものだ他の女は近づくな!!」
ミールは再び手斧を持ちルリーラに襲い掛かる。
ただただ怒りに身を任せる原始的な方法で殺意を持って手斧を振り下ろす。
そんな攻撃とも呼べない癇癪はルリーラには効かない。
あっさりと大剣の柄で手斧を弾きそのままミールに刀身を押し当てる。
「うぐっ……!」
刀身が深く体に食い込み生垣を突き破る。
「なんで……、あんたなのよ……」
「それはわからないけど、私はあんたみたいに求めるだけじゃないから」
動かなくなったミールを見下ろしこちらに戻ってくる。
「ルリーラ、大丈夫か!? 毒は? 噛まれたところは?」
「ルリーラちゃん心配したんだよ! 治癒しようか?」
「なんで平気なのー?」
「何なのさーー!!」
俺達がもみくちゃにしたせいでルリーラに怒鳴られたため一度落ち着いてコテージに入ることにした。
「それでなんで無事だったんだ?」
「これだよこれ」
そう言って見せたのは神器の指輪。
「やっぱりこれは防御用の神器か」
「知ってて渡したんじゃないの?」
「そうかもしれないと思って渡したんだよ。神は結局何も言わなかったし」
結局何も言わないで、役に立つからとしか言わなかったしな。
「でもなんですぐに起き上がらなかったの?」
「疲れてたからちょっと休もうと思って」
「ルリーラちゃん?」
アルシェが鋭く睨む。
「ごめん、でも毒のせいで体がって思ったんだよ」
「無事だったからいいけどね」
「それはいいとして、この子はどうするの、ご主人」
外に置いておくわけにもいかず魔法と縄で身動きができないようにしたミール。
「一応従妹だから拾ってきたけど」
「衛兵に突き出す? それとも神様に突き出す?」
「うーん」
衛兵に出してもしょうがないんだよな、神に差し出したら俺達に会わないように計らってくれはするだろうけど。
「とりあえず今晩は置いておく。見張りは俺がやるからみんなは寝てくれ」
「私がやるよ?」
「私もできます」
「私は寝たーい」
「フィル以外はありがとう、だけど寝てくれていいぞ。こいつが起きたら話もあるしな」
ロックスの現在についても知りたいし。
「それに毒ももうないし問題ないから気にするな」
ミールを縛る時に仕込んでいた毒は全て回収した。
これで何もできない。
「わかった」
三人が部屋に戻るのを見送ってから捕らえたミールの前に座る。
「起きてるんだろ」
「バレてたんだ」
「それで、なんでこんなことしたんだ?」
「なんでだろう。暴走してたって言ったら兄さんは信じてくれる?」
俺の見たことのないミールがそこにいた、憑き物が落ちたような澄んだ顔年相応の顔を俺に見せる。
「暴走の理由によるな」
「私兄さんの事好きなの」
「知ってる」
さっきさんざん言われたしな。
「なのに兄さんはあのモルモットばっか相手してた」
「そうだな」
いつか連れ出そうと躍起になってた。
その結果が今だからそれに関して反省も後悔もない。
「だから嫉妬してた。あいつばっかり兄さんに構ってもらえて、挙句兄さんはあいつだけを連れて国を出て行った。それが許せなかったの」
話しながらもミールは涙を流した。
「なんで、私は置いていかれたの……、なんであいつだったの……」
涙は止まらず床に染みを作る。
「でもね」
そう言ってこちらを向く。
「わかった気がした。あの子は可愛くて強い、それにカッコいい」
「だろ?」
「それに比べて、私はまだ子供だった。年は私の方が上なのに子供だったんだよ」
「それがわかってるならいいよ」
「私ルリーラお姉ちゃんが好きになった」
ん?
「もちろん兄さんも好きだけどお姉ちゃんも凄い好きになった」
今流れが大きく変わったぞ? 舵の切り替えが凄すぎるぞ。
「だから兄さんとお姉ちゃんと一緒に旅に行きたいんだけど付いて行っていいかな?」
「すまん、ちょっと待ってくれ」
「他の二人にも許可が必要なの? それなら私媚びを売ればいいんだよね、あの二人は好きじゃないけど好きになるよ、だって兄さんとお姉ちゃんと一緒に旅するためだもんなんでもできるよ」
「いや、だからその待ってくれ」
「お姉ちゃんに言われて気が付いたの欲してるだけじゃ駄目だよね気に入ってもらえるようにこっちも精一杯求めてもらえるようにならないとだからあの二人にも媚びを売るよ私はいい子だってあの二人に認めて貰えれば一緒に付いて行ってもいいよね? 兄さんとお姉ちゃんが私を置いていくわけないもんね大丈夫もう暴走して殺したりしない。あの二人も仲間なんでしょ?」
「その話は明日にしよう。みんな寝てるし、さっきの戦いの後だとやっぱり印象はよくないからな」
こいつ暴走でこうなったんじゃないのか……、もともとこういう奴か……。
「そうだよねさっきはあんなに酷いことしたんだからまず謝らないとね眠っているところを起こして謝っても受け入れてくれるはずないもんね流石兄さんそう言ってくれるってことは兄さんは一緒に旅に出ることに賛成なんだよねあはっ嬉しいなお姉ちゃんも賛成だよねさっき私にアドバイスくれたんだからお姉ちゃんも好きなんだよね両思いだね残念ながら女の子同士だからお付き合いはできないけど兄さんと三人で仲良く暮らしたいな」
「よし、じゃあ全部明日だなお休み」
一息で言い切った所申し訳ないが、全てを聞く前におかしくなってしまった従妹を置いて、俺は自分の部屋に戻り眠ることにした。
翌朝一番に目を覚ました俺はルリーラ達を起こしに行った。
「ええっと、大変申し訳ないんだが」
寝起きの悪いルリーラとフィルは寝ぼけ眼で、寝起きのいいアルシェは膝を折って改まった俺の前に座る。
「ミールが俺達と旅をしたいと言ってきている」
「「「えっ?」」」
流石にそんな話が出てくるとは思っていなかったのか、三人が一斉に反応する。
「それ本気なの?」
「どうしてそんなことになったんですか?」
「超展開」
「気持ちはわかるが、とりあえず一緒に下りてきてくれるか?」
三人とともに下りていくとなぜかミールは拘束から抜け出して朝食の準備をしていた。
「おはようございます兄さんとお姉ちゃん、その他二名」
昨日とまるで違うにこやかな表情に流石に三人共固まってしまう。
「クォルテ、怖いよ凄い怖い」
「クォルテさん、これどうなってるんですか?」
「あたし今日死ぬの?」
震えたまま俺の後ろに三人がいっせいに隠れる。
「気持ちはわかるが落ち着いてくれ」
「兄さんとお姉ちゃんは相変わらず仲いいですね、そっちのだ、おっぱいの大きい方とそっちのの……んびりした方はちょっとお手伝いいただけますか?」
「クォルテさん、今あの子駄肉って言いかけましたよ!」
「ご主人、今鈍間って言おうとしてたよ」
「お二人のお名前をまだお聞きしてませんでしたので、お気に触りましたか?」
「クォルテさん、本当に怖いです助けてください」
「あたしも今死んじゃいそうなほどに怖い」
「クォルテもしかしてお姉ちゃんって私の事なの?」
混乱が混乱を呼ぶ大惨事がそれからしばらく続いた。
「まず昨日は申し訳ありませんでした」
ミールは深く頭を下げる。
「昨日お姉ちゃんに勝負を挑んで気づかされました。愛とは求めるだけではなくて与えなければいけないとなので兄さんとお姉ちゃんから愛してもらうためには私からも歩み寄って愛を与え続けなければいけないんですよね」
「私そんなこと言った?」
「はい、短い言葉でしたがお姉ちゃんが兄さんを愛して兄さんもお姉ちゃんを愛しているそれはとても理想的なことだと思います。なのでその愛の輪に私も入っていけるように努力しようと思いますのでぜひご一緒に旅をさせていただければと思います」
「ということらしいんだがどうする?」
俺ではこの勢いに負けて頷いてしまいそうになるため、みんなが起きているこのタイミングにした。
「立場的には一番下で問題ありませんよ。奴隷ではないから奴隷の上だなどとそんな小さいことを言う気はございません」
「そこは気にしてないので大丈夫ですよ」
「あたしも気にしてないよ」
「よかったですお二人よりも下の立場になるのでぜひ色々なことを教えてください。おっぱいさん、失礼アルシェさんと、年増、失礼フィルさんあなた達二人から奉仕の心を学んで兄さんとお姉ちゃんに尽くしていきたいと思います」
「この子喧嘩売ってます。私の事はっきりおっぱいさんって言いました」
「年増になったよ。あたし、今鈍間から年増になった」
「ミール頼むからちゃんと全員名前で頼む」
「そうですね。では皆さん席についてください、今日の朝食は私が準備いたしましたので今お持ちしますね」
そう言ってキッチンに入っていった。
「何も変わってないよあの子」
「そうは言っても変に刺激してまた殺しに来られるのも困るだろ?」
四人で話をしていると食事が次々と運ばれてきた。
アルシェのように豪華だったり立派だったりするわけではなく、家庭の食卓といった料理が並ぶ。
見た目は美味しそうだきっと味も美味しいのだと思うだが、昨日の毒を使った魔法を見た後ではすぐに頂きますとはならない。
「味は問題ありませんよこう見えて家事全般得意ですからちゃんと味見もしましたしそれとも何か嫌いな物が入っていたりしましたか? それは盲点でした皆さんと仲良くなろうと先走り過ぎてしまいましたこういうところが暴走してるって言われるんですよね。新しく作り直しますので嫌いな物を教えていただけますか?」
俺達の心の声は重なったと思う。
そうじゃない!
「ミール、お前は昨日毒の魔法を使っただろ? それでみんな緊張しているんだ」
どう出るかわからないがみんなの不満をみんなの主として口にする。
「そう言うことですか、お姉ちゃんお箸借りますね」
そう言うと全員分の食事を一口ずつ口に含む。
「もうそんなことはしませんよ、何度もお伝えしていますが皆さんと一緒に行くのに毒なんて入れるわけないじゃないですか」
ミールは笑うが俺達は笑えない。
ここまでおかしくなっている従妹を見てどう対応していいかわからない。
「朝は頂きますがお昼からは私が作りますね」
「給仕くらいなら一番下の私がやりますのでアルシェさんはくつろいでいてください」
「家事は私の分野なので、やっていないと落ち着かないので私がやります」
「そうなんだ、アルシェには家事全般をやってもらっているから仕事を取らないでやってくれ」
「わかりました、それならしょうがないですね」
みんなはどこが地雷かわからないせいで、緊張感を持ったまま今朝を終えた。
「それではミールを連れて行ってもいいかの採決を取りたい」
「皆さん一生懸命頑張りますので宜しくお願い致します」
俺の音頭とミールのお辞儀で始まった会。
「連れて行ってもいいなと思う人」
どうなることかと思ったが四人全員が手を上げた。
「じゃあ、決定」
「ありがとうございます」
この採決の理由を後でこっそり聞いてみたらみんなが口を揃えてこう言った。
「拒否しても絶対後ろからついてくる。それなら最初から一緒の方がいい」
「あの、食材ってどこでしょう」
「それならこの街を出てすぐにある村に」
「ありがとうございます……」
アルシェが近くの人に声をかけるが、全員が同じ答えだ。
うんやっぱりそうなんだよな。
今更気づくのもどうかと思ったが、ここに来てから特に気にしていなかった。
出来合いの食堂はあっても、加工前の食材を売っている場所がこの国にはない。
何せこの国の首都には何もない。
これだけ活気があったとしても、ここはあくまでも防衛の拠点であって神の社だ。
そうなると当然揃っているのは、武器や街での移動手段。食材を売っている店がない。
「これは、次の国まで我慢したほうが早い気がします」
「俺もそう思う」
食料もほぼ城で食べ、小腹が空いたら何となく外で食べていたおかげで全然減っていない。
「よしもう出発だ。文句はあるか?」
「ない」「ありません」「ないよ」
三人の返事と共にヴォールを出発することに決めた。
滞在期間があまり長くなく、基本的に荷物は馬車に置いているおかげで荷造りはすぐに終わった。
馬車を移動してくれる人たちを待つ方が時間は長かった。
「じゃあとりあえず出発だ、目的地は温泉の国オールス」
俺達はまた馬車に揺られて旅路を進む。
もうすっかり俺よりも操舵が上手くなったアルシェの隣で、俺は念のため座っている。
「この道を真っすぐでいいんですよね」
「そうだ、後は途中にある国によって食料の補充だ」
「その国ってどこなんですか?」
「次の国は商売の国だよ」
のんびりした旅のおかげかフィルの話し方がよく馴染んでいる。
「フィルに言われたけど、買い物をするのは商売の国テルトアルレシアだ」
「凄いよ、この国に行けばなんでも手に入るから」
「なんでもですか」
「その国に行かなきゃ食べられない物とか、買えない服とか色々な国の物が売ってるよ」
「それに付け加えるなら各国に支店が最低一軒はある」
そこの支店経由で各国の特産品や食料品を扱っている。
そのおかげでこの国は年中通して最大級の盛り上がりを見せている。
「温泉も楽しみだけど買い物も楽しそう!」
「色々な食材も買えますね」
「折角だから服も買っていくか」
わいわいと買う物を決めながらテルトアルレシアを目指して馬車を進めていく。
「あそこが最初の町っぽいな」
テルトアルレシアの特徴の一つはここにもある。
小さな町がいくつか並びその町ごとに売っている種類が違う。
首都まで行けば何でもそろうがこっちの町に行けばマニアックな物が売っている。
「あそこの町は何があるの?」
「あそこは武器屋だな」
「興味ない」
「俺は用事あるんだよ」
魔力が切れても問題ないように武器はいくつか欲しい。
魔獣との戦いでそれが身に染みた。
「ルリーラとフィルの武器も買うんだからな」
「私いらないけどな」
「私も動きが鈍くなるし」
「お前達に一々武器を作ってられないだろ」
文句を言い続けるルリーラとフィルを引きずりながら最初の町に向かう。
活気が溢れる町並みは流石テルトアルレシアと言えるだろう。
職人たちの怒号に値切る客達、ただの世間話色々な情報が飛び交う。
「耳が痛い……」
「あたしも……」
身体能力の高い二人は耳を塞ぎながら歩いていく。
「流石に私もうるさく感じます」
この活気は確かにこの辺りだとうるさいのだろう。
武器だと俺はテンションが上がるから大して気にならないが、興味のない三人にはただの雑音に聞こえてしまうんだろう。
「なら早めに買い物を終わらせるか、二人はどんな武器がいいんだ?」
「私はこう、一撃必殺みたいなの」
「あたしは、動きやすいのかな」
そうなるとルリーラは戦斧か大剣ってところでフィルはナイフを二三本ってところか。
「アルシェは何がいい?」
「私は特にいらないですけど」
「そういえばネアンの精霊結晶を渡してたな」
「はい、なので制御は簡単になりました」
確かに魔力の媒介にするなら精霊結晶よりも優れている物はないし、杖とかはただ重くなるだけだしな。
「俺は買いに行くけど、みんなが辛かったら先に馬車に戻ってくれてもいいぞ」
「辛いけど行く」
「あたしも」
「私は二人に比べたら問題ありません」
「じゃあ行くか」
俺達は手当たり次第に店に入り武器を見て回る。
先に見つかったのはフィルの短剣だった。
「これ凄い手に馴染むよ」
「これって魔法の付与って可能ですか?」
「そこまで頻繁じゃなければ可能だよ、魔法付与ならこっちが一番だよ」
「じゃあその二本ください」
短剣をしまうホルダーと共に購入し、フィルに渡す。
興味ないなんて言っていたが実際身に着けると嬉しいらしく何度か抜き差しを繰り返す。
「こっちのは切れ味がいいものだから普段使ってくれ」
「わかった、それでこっちの綺麗なのは?」
「こっちは魔法を付与して使う。自分でもいいし俺とアルシェでもいい」
刀身が赤く光る短剣をフィルに渡す。
「私のは?」
「気に入った物がなかったんだろ? 次だ次」
更に探して四店舗目、ルリーラの目に大剣が映った。
「私これがいい」
無骨でシンプルだが大剣には珍しい片刃で刀身には波打った模様が特徴的だった。
見ていると吸い込まれそうな美しさは、武器としてより不気味に見える。
「じゃあこれを、これって魔法付与はできますか?」
「できますよ」
「じゃあこれを下さい」
綺麗だが、そのせいなのか細身の刀身は腕力だけではすぐに折れてしまいそうだ。そうならないように魔法を付与できるのは嬉しい。
「ほら、ルリーラ」
「やった」
ルリーラは身の丈よりも高い大剣を手にして喜ぶ。
「後は俺の買い物だけど三人はどうする?」
「一緒に行く」
ルリーラの言葉に他の二人もうなずき。俺の求める武器を探ししばらく街を探索する。
何店舗めかで目に付いた短い槍に手を伸ばす。
木製の柄、穂先は槍にしては少し長いが、その分攻撃の範囲が広い。
これに追加で魔法も使えれば剣としても使えるかもしれない。
「意外とこういうところも楽しいね」
「楽しかったね」
「私はあんまりおもしろくなかったかな」
「アルシェは買う物なかったからな」
馬車に乗り今度は日用品を買いに出かける。
主に服関連。
これに関しては三人の独壇場で俺は後を付いて行くだけとなる。
「これ可愛い」
「可愛いけど、アルシェにはおすすめできないかな」
「なんで? 私ってこういうの似合わない?」
「似合うんだけどアルシェの場合はね」
「いやらしくなるから」
「なんでですか!?」
「それには俺も賛同するぞ」
「クォルテさんまで?」
可愛い物ってスタイルがいいほどに卑猥さが増してしまう。
可愛いのは幼い雰囲気の物が多く、アルシェの様にスタイルがいいとその幼さが卑猥な方に進んでしまう。
今選んでいる肩を出している服だと、襟ぐりが広くなっているため胸元も強調しすぎてしまう。
「いいんです、着てみます」
「どうぞ」
三人で着替え終わるのを待つと、それはまあ予想通り。
「イメージと違いました……」
出てきたのは確かに可愛いがやはり胸が強調されエロい。
白い肌に薄いピンクの服は確かに似合っていて可愛いが、露出した肩と深い谷間、そして更にその胸を強調するようにあしらわれた大きなリボン。
いかがわしいお店に出てくるような卑猥さ、街に居る男性の視線も集まってしまう。
「だからアルシェはこういう方が似合うよ」
手渡されたのはシックな感じで綺麗とかカッコいいに分類される服。
「私も、可愛いのがいい……」
ルリーラに渡された長いパンツとシャツにジャケット。
顔がまだ少しだけ幼いアルシェだが、こういう格好も似合う。スタイルがいいためやはり変に可愛い服よりも似合っている。
アルシェの最後の抵抗なのか、結局部屋着ならと最初に選んだ可愛い服も買った。
「あたしはどんなのでもいいけどな」
「フィルは確かになんでも似合いそうだ」
スタイルは良いが強調しすぎない平均より少し上、可愛いもカッコいいも両方着こなせる姿に両極端なルリーラとアルシェは嫉妬の視線を送る。
「喧嘩してないで好きな物探せよ」
早々に俺は自分の服を買ったため三人を待つことになる。
それから一時間ほどでみんなの買い物が終わった。
結局みんな無難な服を戦闘用、外出用、部屋着と分けて買った。
「とりあえず買い物は終わったし宿探しに行くか?」
「宿は静かなところがいいな」
「宿屋だけの町もあるよ」
「じゃあ、そこで探すか」
向かった宿屋の町も活気にあふれていた。
飲食店が併設している店が多いため閑静とは言えないが比較的静かだ。
道なりに進むと飲食店の並びを抜け閑静な宿の通りへと変わった。
「静かだね、風も気持ちいいし」
「そうだな」
たくさん並んでいる宿屋から適当に入り、大き目の六人部屋にチェックインをする。
そして驚いたのはここは一人用の部屋だけの宿らしく、四人以上の部屋はコテージになるらしい。
「立派だね」
「四人用は埋まってたけど六人用でよかったな」
大き目のコテージで二階建て、二階には大きな部屋が二つ、一階にはキッチンなどのスペースがある。
周りは林に囲まれこのコテージの範囲を示しているのか生垣が周りを囲む。
「じゃあ俺が一部屋、ルリーラ達は三人で一部屋だな」
「クォルテも一緒に寝ようよ」
「そうですよ、一緒に寝ましょう」
「一緒に寝ようー」
「なんで男を無理矢理に寝せようとするんだよ」
「「「寂しいから」」」
三人が同じことを言う。
段々と俺は男扱いされていないんじゃないかと思って来てしまう。
「駄目だ、今回俺は一人で寝る」
流石に毎晩毎晩悶々とした気持ちで寝るのは辛い。
せめて一人で気楽に過ごしたい。
「我慢なんてしなくてもいいのに、あたしは他の二人と違って大人だけど?」
フィルがこっちに寄ってきてそっと耳打ちする。
「それでも駄目なんだよ。俺が決めたことだからな」
「まあ、そういうのは嫌いじゃないよ」
そして説得に失敗したとルリーラ達に報告に向かう。
これで今日は落ち着いて眠れるな。
†
「クォルテ」
深夜、寝ているといきなり体を揺すられる。
「ルリーラ? どうしたんだ」
「誰か近くに居る」
その言葉に脳が覚醒し体を起こす、いるのはルリーラだけでアルシェとフィルがいない。
「散歩とかじゃないってことだよな」
ルリーラが頷く。
「他の二人は?」
「まだ寝てる、まずクォルテに相談って思って」
ルリーラだけが気づいたってことは気配を消しているのか。
しかもフィルも気づかないってことはなかなかの手練れってことだな。
「人数は?」
「一人、さっきからこの建物の周りを移動してる」
「強盗とかじゃなさそうだな」
「だから呼びに来たの、どうしたらいい?」
人数は一人、それも手練れとみていいだろう、一番の疑問は入ってこないで周りをうろついていること。
強盗なら一人は変だ、それに土地勘のある強盗なら下見には来ない。
不審者の目的は何だろう。
「いつぐらいからここにいるんだ?」
「十分くらい」
それなら他のコテージと間違えている可能性はないか。
狙われる理由はたくさんあるよな。
まず第一に、俺達は昼に結構買い物をしているから金があるのはバレている。
次はルリーラとアルシェだな、ベルタとプリズマなら狙われる理由にはなる。
後はフィルの元主くらいか、まあその可能性はないだろうな。
ヴォールであそこまで恥を掻いたのに恥の上塗りはしないだろう。
「私見てこようか?」
「いや、俺が見に行こう」
ルリーラとアルシェを狙っているなら対策くらいしているだろうし、そんな所にルリーラを連れてはいけない。
「ルリーラは俺が危なくなったら飛び込んできてくれればいい」
「わかった。アルシェ達も起こしておくね」
「頼んだ」
階段を下りて玄関に向かう。
確かに歩いている音はする。
俺は目の前に来たタイミングを見計らって扉を開ける。
「何か御用ですか?」
「なっ!」
驚かれたことに驚いてしまう。
まさか長時間歩いていてバレていないと思っていたらしく咄嗟に後ろに飛び退いた。
「待て」
「水よ、槍よ、敵を穿て、ウォーターランス」
「くそ!」
咄嗟に放たれた魔法に驚き魔法を避けるために大きく横に飛ぶ。
水の槍はコテージの床に刺さりすぐに見ずに変わる。
念のため持ってきた槍に魔力を込め臨戦態勢をとる。
「何が目的だ?」
「水よ、飲み込め、ウォーター」
大量の水が壁のように現れこちらに向かってくる。
「こんなもんか」
小さな槍で水を突き破り近づく。
「くっ!」
顔は見えなかったがおさげの髪と体格で女だとわかる。
全体的に動きが未熟で何が狙いなのかわからない。
「悪いが捕らえさせてもらうぞ」
一足飛びで不審者に飛びかかる。
「水よ、鎖よ、我が敵を捕縛せよ、ウォーターチェーン」
水の鎖は真直ぐ不審者に向かって飛んでいく。
「水よ、鏡よ、虚像を映し身代わりとなれ、ウォーターミラー」
水の鎖が向かった先には水の現身、鎖はそれを本人と思い巻き付き捕縛する。
しかしその身代わりは捕らえられた瞬間に水に変わり地面に戻っていった。
「逃げたか?」
蛇を出そうかと思ったが、痕跡となる魔法の水はもはや地面に染みてしまい追うことはできない。
「クォルテ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「不審者は?」
「逃げたよ」
水の魔法を使う女、他の魔法ならまだしも水の魔法だと何も手掛かりにならない。
「追うの?」
「狙いが俺達ならまた襲ってくるだろう」
そして俺とルリーラはコテージに戻とアルシェとフィルも起きており、椅子に座っていた。
「大丈夫でしたか?」
「心配はいらないって、弱かったしな」
「そうなんですか?」
「ああ、びっくりするくらい」
こちらの動きを察知できる能力もなく、身体能力に魔力も高いわけじゃないいたって平凡な能力だった。
ただ偶然ここにいたっていうわけではないのはわかった。
見つかった後に攻撃してきたのはやはり何かを狙っているのは確かだろう。
「私が見張ってましょうか?」
「そこまではいらないな」
「いらないと思うよ、何か探してたみたいだけど殺気とかはなかったし」
「気づいたうえで寝てたのか」
「そうだよ、それにルリーラが呼びに行ってたし」
「じゃあ今度はまた何かあったら教えてくれ」
「わかったー」
部屋に戻るとなぜか俺の寝る部屋に全員が集まる。
「それで、なぜこうなる?」
「こっちのほうが早いし」
「移動が面倒だしー」
「一人は寂しいです」
三人共自分勝手な理由で隣を陣取る。
我がままを言えるようになってきたのは嬉しい限りだけど、少しくらい自分の時間が欲しいと思わなくもない。
「同じ部屋でいいが布団には入ってくるなよ」
「布団並べるのに無理じゃない?」
「それなら、並べなきゃいいだろ」
「じゃあ、これならいいんだね」
フィルがそう言って提案したのは俺を三角形で囲む敷き方だった。
頭の上にアルシェ、その足元にルリーラの足、アルシェの枕元にはフィルの頭。
俺を囲むように敷いたままみんなが眠りについた。
これで眠れると思ったが、実際はそううまくいかなかった。
片方にはフィルの整った顔がはっきり見えた。
この前接近している時は近すぎて見えなかったが少し離れたおかげで顔がはっきりとわかる。
日焼けに気を使っているのか薄い褐色の肌、二人とは違い大人っぽく完成した綺麗な顔。
普段の間延びした口調から子供っぽく思っていたがこうして寝ていると大人っぽさにドキドキしてしまう。
駄目だ、見るな目を瞑って。
「んふー……」
そしてこの体制が思いのほか不味いことに気が付いた。
フィルの吐息もそうだが、今日は上にアルシェがいる。
衣擦れの音に吐息交じりの寝息。
いつものような肉体的接触ではなく音のみでの誘惑。
「すぅー」
上空からくるアルシェの吐息に離れるように反対側を向く。
そして現れるのがルリーラとアルシェの足。
白と黒の競演と言える二人の足。
どこまでも透き通るような色素の薄い白い足、に健康的に日焼けした褐色の足。
運動をあまりしていないアルシェの足は少しだけ柔らかそうにわずかな振動で揺れる。
そしてよく動くルリーラの褐色の足は引き締まりながらも筋張ってはいない女性らしい足が布団から出ている。
これはこれでよくないんじゃない?
だけど、これなら見ていても変にならないだろう。
だがそう甘い陣形ではなかった。
俺の足に別の足が絡む。
「っ!!」
声はあげなかったが不意打ちの絡み。
温かく柔らかい人の肌、初めて交わる同年代の女性の肌に心臓が一気に動き出す。
本当は起きているんじゃないかと思う足で足を舐める動き。
柔らかく滑らかな感触に身もだえしそうになる。
「――っ!?」
そして更に重ねて襲ってくる不意打ちの吐息。
それがルリーラのものだと知っていてもぞわぞわと快感が背筋を登る。
そして予想外の出来事、ルリーラが俺の足を掴んだ。
すぐに振り払いたいが薄暗い空間で見えにくい位置のせいで振り払うと蹴り飛ばしてしまいそうでできない。
されるがままの現状にこの形を提案したフィルを恨む。
「あむっ」
そして何の夢を見ているのかルリーラは俺の足の指を甘噛みしてくる。
硬い歯に潰されそうになりながらも指の触れる柔らかくて熱い口内。
吹く吐息とは別の暖かいルリーラの呼吸。
味わったことのない熱と感触の虜になってしまいそうだ。
「って、そうじゃない」
俺は起こすことを決めた。
いくら何でもルリーラが足を舐めるのは止めなくてはならない。
いくら洗っているとは言っても汚い足をいつまでも舐めさせるわけにはいかないのだ!
「ルリーラ起きろ」
「ちゅぷっ、どうしたの?」
ルリーラの口から解放された指は短く糸を引き冷たい外気にさらされる。
「人の指を舐めるな」
「何言ってるのさ、美味しい飴を舐めてるのに」
眠いのか目を擦りながらこっちに体を預けてくる。
小動物のように体を小さくまとめ俺の膝に乗ってくる。
「自分の布団に入れ」
「むりー」
仕方なく同じ布団で横にする。
このままだとまた足を舐められそうだ。
俺が横になるとすぐにルリーラは抱き付いて眠る。
「すぅすぅ」
こうなるとわざわざ起こすことはできず仕方なく抱き付かれたままにする。
「結局こうなるんだよな」
こうなってしまうとどうすることもできずにルリーラの頭を撫でるとくすぐったそうに俺の体に顔をこすりつける。
本当に小動物をあやしているような感覚を感じながら俺の意識は落ちていく。
そして翌日。
「ルリーラちゃんズルい!」
アルシェの怒りの声で目を覚ました。
「なんでクォルテに抱き付いて寝てるの?」
「それはね、ルリーラがご主人のを舐めてたからご主人が自分の布団に寝せたの」
「それって、まさか」
「お前は確実に起きてたよな?」
フィルが意図的に説明を省いたためアルシェがものすごい顔で固まる。
「私もしてもらえますか?」
「何もしてないから!」
「ご主人に優しくしてもらってたよ」
「クォルテさん、売られても構いませんので私にもお願いします」
「その覚悟は捨ててしまえ! だから俺は何もしてないから」
朝から怒号が飛び交う中ルリーラはまた深い眠りに落ちっていった。
†
不機嫌が直っていないアルシェの操舵で馬車は首都の街に向かうことになった。
「今日は何を買う予定なんだ?」
「オールスに向けての食料の買い出しです」
可愛らしく頬を膨らませ不機嫌を表すアルシェはやはり変わってきた気がする。
変わったのはアインズを超えた辺りからだろうか。
「好きな物買っていいから機嫌直せよ」
「はい」
ルリーラも最初こんな感じだった気がするな。
慣れてきて自分の我がままをぶつけてくるようになった。
流石にルリーラみたいにアルシェに迫られたら困りものだけどな。
馬車に乗りながらこんなことを考えるなんてそろそろ俺も年なんだろうか。
「クォルテさん」
「なんだ?」
「あれ、魔力溜めてますよね」
進路上に魔力の反応があった。
それも明らかにこちらの進路を妨害する形で……。
薄い霧の様なものがそいつから溢れていた。
「アルシェ、俺が運転を変わる。お前はあいつを退かしてくれ」
「わかりました」
まだ姿の確認はできないが、おそらく昨日の不審者だろう。
その時にアルシェに頼んだことが失敗だったことを悟った。
変化しない水の魔法はここ最近強敵に使っていた魔法だ。
「炎よ、鎖よ、進路を塞ぐ者を退かせ、フレイム――」
「待てアルシェ」
「――チェーン」
「水よ、盾よ、我らを守れ、ウォーターシールド」
アルシェの魔法を予知していたのか、それとも進路を塞ぐためのものだったのか、
不審者は水を分解した。
そこにアルシェの魔法が加わってしまう。
それはつまり複合魔法だ、それもこんな道の真ん中で。
何度も使ったことがあるからわかる一瞬だけ激しく光その後に起こる爆発。
直前で水の盾で広範囲に広がるのを防いだが、道には大きな穴が広がった。
「今のは、……そうか狙いは俺か」
考えていなかったことだが、そう考えれば全てがつながった。
「今の何?」
「耳が痛いよー」
「襲撃者だ。身構えておけ」
その一言に後ろにいた二人も一瞬だけ構えた。
「誰もいないよ」
「そんなはず」
「いないよー、ほら」
フィルは風の魔法で辺りの煙を霧散させる。
そして目の前には誰もいなかった。
「あれだけのことをしておいていない?」
今こそが絶好のチャンスだったはずだ。
それなのにいないとは、ミールは何を狙っている?
そこからは慎重に首都に向かい首都の中に入る。
人がごった返し建物も密集している首都でようやく一息つく。
「ここでなら流石に無茶はしないだろう」
「さっきのはクォルテの知り合い?」
「たぶんだが、ミール・ロックス。俺の従妹だ」
水の魔法、そしてさっきの霧の様な魔法はロックスが使える魔法だ。
となると昨日俺に攻撃をしたのはわざとだろう。
「神様がおっしゃられていた方ですね」
「そうだ」
ロックスの名前に落ち込むルリーラの頭を撫でる。
「詳しくは聞かない方がよさそうだね」
フィルは隣の大人しくなってしまったルリーラを見て何かを察する。
「助かる」
過去のことを俺が話してしまっても構わない。
だが、話すとルリーラの事も話さなくてはいけない。
まだ棘としてルリーラの中にロックスへの恐怖があるならそれを抉るような話はしたくない。
「たぶん目的は俺だろうな」
「ロックス家を没落させたんでしたよ」
「そうだ、神の話ではそれを根に持っているらしいからな」
そうなると解決先を考えておかないとな。
ロックスから色々と持ち出されていると厄介だな。
伊達に水魔法の最先端技術を持っているわけではないしな。
「とりあえずここは大丈夫だろうから、買い物済ませて帰ろう」
そう言って歩き出すとルリーラは俺の手を強く掴む。
「大丈夫だ俺がお前を守ってやる。そう言っただろ」
「うん……」
小さく震えるルリーラの手を強く掴み後ろを見る。
「それに、今は仲間も増えたんだ安心してろ」
「わかった……」
ルリーラが掴む手は馬車に乗っても外れることはなかった。
「ごめんねアルシェ、フィルも」
「大丈夫だよ」
「あたしもここ座ってみたかったし」
俺は旅を始めて以来初めて荷台に乗って移動している。
ルリーラが離れないままのため助手役にフィルを置いて操舵している。
「今夜も来るかな?」
「怖いなら参加はしなくていいぞ」
昨日の様子なら実力で負けるはずはない。
「うん」
コテージに着くとルリーラ手を離した。
そっと自分から手を放しアルシェ達の元に向かう。
急に冷える手が寂しいが縋れるのが俺以外にもいるなら問題ない。
「みんなはミールを見つけても戦わなくていい。俺が全部やる」
それが俺のできることだろう。
下手にアルシェを向かわせたら、また爆発してしまう可能性もある。
それならお互いに手を知っているうえで実力が勝っている俺一人の方が勝率は高い。
「わかったー」「わかりました」
二人の返事にルリーラも合わせて頷く。
「今日はみんなどうする?」
「どうするってなにがでしょうか?」
俺の問いに代表してアルシェが返事をする。
「俺は今日ルリーラと一緒に寝ようと思うけど二人はどうするかなと思って」
「折角のお誘いですけど今日はやめておきます」
「あたしも今日はアルシェと寝るよ」
二人とも察しているらしく、変に絡んでくることはなかった。
「ごめんね、アルシェ」
ルリーラはアルシェに謝罪を述べるとアルシェは笑顔で答える。
「いいんだよ、久しぶりにいっぱい甘えてきて」
「うん」
アルシェの優しい言葉にルリーラはアルシェにありがとうと抱き付く。
「じゃあ、二人も何かあったらすぐに呼んでくれ」
「わかりました」「はーい」
「じゃあ寝るか」
今日は一組の布団にルリーラと二人で並んで横になる。
「ごめんね」
「今更だろ、いつも布団にもぐりこんでくるんだし」
「それは謝らないけど」
「そっちの方は謝れ」
「はは、みんなに気を遣わせちゃってるな」
落ち込んでいるのか腕にギュッと抱き付いてくる。
「いいんだよ、お前はまだ子供なんだから」
「うん」
「俺は今ちょっと懐かしんでるしな」
「何を」
「初めて旅に出た時のことだよ、あの時も怖いって俺に抱き付いて寝てたろ」
「私は変わってないのかな?」
「変わってるぞ、強くなったし大きくなった」
「クォルテおじさんみたい」
「おじさんじゃねえよ、せいぜいお兄さんだ」
「そう、だね……、すぅすぅ」
適当に話しているとルリーラは深く眠りについた。
この懐かしい感じ、最初の時も眠るまでよくこうしてたよな。
闇色の神は艶があり撫でると気持ちがいい。
太陽のように温かくていい匂いのするルリーラとともに眠る。
「クォルテ、来た」
「そうか」
ルリーラに揺すられて目を覚ます。
「アルシェ達と一緒に居ろ。すぐ戻る」
「うん」
不安そうにしているルリーラから離れ、玄関に向かい扉を開ける。
「よう、ミール久しぶりだな」
「兄さん、久しぶりだね」
数年ぶりに会うミールの姿は変わらない。
真面目さから明るい茶色の髪を二本のおさげにまとめ、父親譲りのきつい目つきは見ているものの本質を見抜くようにこちらを捕らえている。
厳格なロックスの血を全て受け継いだ容姿と雰囲気に父親を思い出してしまう。
「俺に復讐か?」
「違うよ、ただ会いに来ただけ」
「それを信じろと?」
「信じられないんだ従妹の私を」
「従妹だから信じられないんだよ」
俺を恨んで襲う理由があるのはロックスの一族だ。
ましてやミールはロックスと俺を尊敬していた。
尊敬していた俺が大事なロックスを没落させて奴隷と逃げたなんて復讐には十分な理由だ。
「私はねクォルテ兄さんが好きなの、好きで好きで大好きでだから追いかけてきたんだよ」
ん?
「ロックスとかどうでもいいの、ただ兄さんと一緒に居たい結婚して伴侶として一緒のお墓に入りたい」
あれ? ミールってこんなキャラだっけか?
「それなのにヴォールで聞いたよ女の奴隷を侍らせているって奴隷なんて買わなくても私が全て受け止めてあげる」
ミールって実はこんなに危なかったのか?
昔はもっとクールで素直だった気がするんだけど。
確かに好きってのは言ってたけどそれはこう家族的な好意じゃないの?
「だから兄さんを迎えに来たよ一緒に行こう。アリルドを手に入れたのも私のためだよね」
一歩ずつ近づいてきて見えてくる顔はとても言い表せない。
だらしない口元、怪しい目、膨らんだ鼻、紅潮した頬。
誰が見ても変質者ですと断言できる女の子のしていい顔ではない。
「ミール、どうした? 落ち着け」
なおも何を掴むつもりなのか両手を前に出し怪しい動きを見せる。
男女逆なら即処刑もあり得る状況に流石の俺も困惑する。
「落ち着いてるよ、ミールは落ち着いてるよ。ハァ、ハァ」
「待てそれは絶対嘘だ、興奮しすぎて変質者になってるから!」
「そりゃー!!」
突然疾風が俺の横をかすめていく。
直後にミールがいた場所に大きく穴が開く。
「ルリーラ?」
「クォルテに何すんのさ、この変態!」
どこからか弾丸のように飛び出してきたルリーラは、俺とミールの間に立ちはだかる。
さっきまで小さくなっていたとは思えないほどに凛としてミールに喧嘩を売る。
「あんたがクォルテを狙ってたんだ、相変わらず変態なんだ」
「誰かと思えばロックスのモルモットね。あんたがなんで兄さんと一緒にいるのかな?」
俺が知らないところで二人は知り合いだったらしい……。
そんな二人は視線をぶつけバチバチと火花を散らしている。
「私はクォルテに助けて貰ったの! ロックスを潰してまで私を助けてくれたの!」
「そんなわけないじゃない、兄さんがモルモット一匹のためにロックスを潰すわけないじゃない」
「本当だもん、私のためにロックスを潰してくれたんだもんね、クォルテ?」
「ロックスの縛りを解くために家を潰して実験のためにモルモットを連れ出したのよね、兄さん?」
そう言い合った末に二人とも同時にこちらを見る。
いや、見られても困る……。
「「どっち!?」」
「ルリーラの言い分が正しいんだけど」
「ほら見たか!」
「嘘よ! そんなの嘘に決まってるじゃない!」
そして二人は言い合いを続ける。
それにしても二人が怖い……、これが女の闘い? ってやつなのか。
「ふんっ! 今日の所は帰るわ、明日同じ時間に来るわ!」
「もう来るな!」
「いいえ来るわ、そして兄さんをかけて決闘よ!」
「いいよ受けて立つ!」
俺が当事者のはずなのに俺は蚊帳の外のまま話が進んでいく。
†
「というわけで襲撃者は俺の従妹のミール、それで今日の夜に決闘するらしいです」
アルシェとフィルは素直に聞いていたが、二人の顔には意味がわからないと書いてある。
その気持ちは痛いほどにわかる、なにせその場にいた俺も理解が追いつかない。
「えっと、そのミールさんってどんな人なんですか?」
「俺としては勉強熱心な真面目な娘って思ってたんだけど」
「あいつは変態、まごうこと無き変態なの」
「そうだったらしい」
昨日の動きを見るとルリーラが正しいみたいだ。
俺は男なのに貞操の危機を感じた、変質者に狙われる女性の気持ちを初めて理解した。
「つまり猫を被っていて昔からクォルテさんを狙っていたと」
「そうらしいな」
俺は本当に知らなかった。
年も五歳離れているから一緒に風呂とかも入っていたし。
いつからそう思われていたかわからないけど……。
「ご主人モテモテだねー」
他人事だからと気楽に告げるフィルに少し腹が立ったが、
フィルはこういう話し方だったと思い出す。
「それで、ルリーラはいつそのミールって子と知り合ったの?」
そう言われれば、貞操の心配ばかりでその辺りの確認を忘れていた。
「クォルテに助けてやる。って言われてから少し経ってからかな」
だとすると三年くらい前か。
「突然あいつが来たんだよ、モルモットのくせにお兄ちゃんに目をかけられてズルい、モルモットのくせに私より会っているのがズルい、家族でもないモルモットなのにお兄ちゃんと話すなんてありえない、あなたの実験に参加していじめる、お兄ちゃんは私のもの、ってひたすら言いに来てたよ」
その言葉の羅列に恐怖を感じた、というよりあんな可愛かったミールがそんなことになっていたことにも恐怖を感じた。
もう貞操どころか生命の危機を感じる。
アルシェとフィルまで恐怖のあまりに身を寄せ合っている。
「ルリーラちゃんよく耐えれたね」
「監禁されてたのもあるよ、その時は心が死んでたからね」
その言葉にアルシェとフィルの表情が更に固まる。
二人は戦闘用の奴隷だったから、実験用に買われていた奴隷の状況はわからないだろう、過去の話とかしたことないしな。
「二人ともそう固まらなくていいぞ、今のルリーラはこうやって笑って言えるくらいになったんだし」
過去のことはなくならないけど、過去と今を分けて考えられるくらいにはルリーラも落ち着いた。
「でも大丈夫なの、トラウマとかになって戦えないってことがあるんじゃない?」
「ないよ、あの変態だったら怖くない」
たぶんルリーラが恐怖を感じるのは、俺の両親とか実験に直接かかわった人間だけだろう。
それ以外の人間には恐怖も怒りも感じていなかったんだろう。
「決闘が今夜みたいだけど、勝ち目はあるの?」
「それは間違いなくルリーラの勝ちだ」
あっちは結局研究者の血筋で、ルリーラは盗賊やら魔獣やらと対決しているんだしどうやってもミールに勝ち目はない。
「何か秘策があるとか?」
「それはないと思うぞ」
ロックス家は水魔法の権威だ、だからこそ一族は水魔法しか使えないし本家の俺が使えない魔法を分家が使える可能性は限りなく低い。
「ならなんでそんな無謀なことをしてるんでしょうか?」
「あの変態の事だからクォルテは自分を勝たせてくれるって思ってるんじゃない」
「その可能性はありそうだ」
俺はロックスの人間と関わる気はさらさらないし応援するならルリーラだ。
「じゃあ対策はいらないってこと?」
「一応これつけとけ」
そう言って指輪を渡す。
「これって神様がくれた奴じゃない?」
「そうだよ、水の神ヴォールの神器水の魔法使い対策には完璧なはずだぞ」
なんの効果かは判明してないが、全員にくれる予定だったなら防御系の神器のはずだ。
「後はルリーラの大剣にも魔法を付与するするから持ってこい」
「ありがとう」
ドタバタと大剣を取りに二階に駆け上がる。
「対策しないって言ってたのにね」
にやにやとこちらを見るフィルの額に小さく手刀を入れる。
「決闘なんだから手位貸すさ、それにここまでしたらあいつも諦めてくれるだろう」
魔法の付与に神器の貸し出し、ただのモルモットとしてルリーラを連れているわけじゃないってことが伝わるはずだ。
「私も付与したほうがいいんでしょうか?」
「アルシェはやめておいた方がいいな」
「なんでですか?」
「魔力量が大きすぎる」
「そうですか」
魔力が大きすぎて大剣が壊れかねない。それに付与する力を抑えれば水の魔法に太刀打ちできない。
「持ってきたよ」
ドンと床に大剣が置かれるが、改めて見ると中々にデカい。
備え付けのテーブルからはみ出している。俺なら体が持って行かれるほどの大きさだ。
「じゃあ、まず切れないようにするのと重さの調整、折れなくする後は簡単な防御でいいか?」
「うん、重さはもうちょっと重い方がいいな、そんなに動いて攻撃しないし」
魔力を込める、刃を水の魔法で覆い重さを増すのに合わせて刀身の内部に魔力を巡らせ折れないようにする。
「完成だけど重さはこれでいいか」
ルリーラは持ち上げて少し振ってみると満足気に頷いた。
「じゃあ後は今夜を待つだけだな」
「うん」
そして翌日の夜をむかえ全員でミールが来るのを待つ。
「よく逃げなかったねモルモット」
「あんたこそね、変態」
「兄さんもお久しぶりです、昨日はお恥ずかしい姿を見せてしまい申し訳ありません」
俺が知っているミールの笑顔だが、昨日の姿を見た後だと恐怖しか感じない。
「そちらの駄肉と鈍間も兄さんを穢す輩ね」
笑顔から一転きつい目元を更にきつくしアルシェとフィルを睨む。
「安心してくださいね、すぐにそんなごく潰し達から解放してあげますから」
精神の不安定ぶりがやばい。
笑顔と憤怒の表情がコロコロと入れ替わりまるで人格が二つあるんじゃないかと錯覚してしまう。
「悪いな、俺は好きでこいつ等といるんだ。だから――」
「兄さまから離れろーーーーー!!」
俺がルリーラの頭に手を上げた瞬間ミールは手斧を取り出しルリーラに飛びかかる。
俺やアルシェなら間違いなく一撃貰っていたが、ルリーラはそんなことはなく、俺を突き飛ばしながら簡単に避けミールの腹部に一撃入れる。
「ぐぼっ!」
口から血を吐きながら生垣に飛び込む。
「クォルテに当たったらどうするつもりだ」
「当てないわよ、あんたの頭刈り取るつもりだったしね」
口の周りについた血を拭いながら立ち上がる。
「兄さんの手の感触をモルモット風情が享受していいものじゃないのよ。私だけがそれを感じていいの」
側にいたアルシェとフィルがあまりの強烈さに泣きそうになっている。
「残念だけど、あんたはクォルテに選ばれなかったんだ」
準備していた大剣を取り出し構える。
水の魔法が付与された大剣は青く光る。
「それって付与されたものよね、青いけどそれって誰がやったの? 兄さんじゃないよね? 兄さんがそのモルモットに力を貸すわけないもんね」
「それは俺が付与したんだよ。ルリーラに勝ってほしくてな」
「いいのよ兄さん、そんな嘘を吐かなくてもわかってる今実験中なんでしょ? このモルモットに魔法を付与した武器を渡してどうなるかどう数値に影響するか」
「あんた本当に気持ち悪い。クォルテは私達のクォルテなのあんたみたいな変態のものじゃない」
「さっきからさ、クォルテクォルテって兄さんの名前呼ばないでくれる!」
そう言って魔力を集めるためか生垣の影に隠れる。
「水よ、蜂よ、毒持つ水よ、我に従い敵を刺せ、ポイズンビー」
「毒魔法!? 触れるな剣で叩き落せ!」
ルリーラは言われた通り蜂に触れることなく剣で蜂の群れを潰していく。
「毒魔法って何ですか?」
「水魔法が他の魔法と違うのは異物と混ざることだ、おそらくあいつは毒の何かを持っている」
「私が行こうか?」
「駄目だ動くな、狙いがこっちに来る可能性がある」
「流石兄さん、私の事よくわかってるのね」
生垣に隠れたミールの姿は見えなくなっている。
蜂を倒すことに精一杯のルリーラもミールを探すことが出来なくなっている。
「気をつけてね、刺されると溶けちゃうから。あははは」
暗闇から笑うミールは余裕を持ち始めている。
「いずれ毒の元が無くなるそれまで耐えてくれ」
「わかった」
数えることすら嫌になる数の蜂を大剣だけで倒していく。
「これで終わりね」
「ルリーラ上だ!」
声をかけたのがいけなかったのか一瞬上を気にしたルリーラに隠れていた蜂が一斉に襲い掛かる。
それをかろうじて防いだのは大剣に付与した防御魔法。
「そう、この程度じゃ駄目なのね」
「水よ、蛇よ、無数の蛇よ、毒の水よ、我に従い敵を喰らえ、ポイズンパーティー」
毒を持った無数の蛇が地を這いながらルリーラに近づく。
空飛ぶ毒蜂と地を這う毒蛇。
対処しきれない量に囲まれルリーラは逃げ出す。
「私を直接討つつもりなの? 見つけられるまで持つかしら」
不敵に言い放つミールを探すためルリーラは動き始める。
近づく蜂と蛇を蹴散らしながらのため動きが遅い。
そのせいでミールとの追いかけっこは不利なまま時間だけが過ぎていく。
「くっ……」
流石のルリーラも長時間神経を使う小さな虫退治に体力がどんどんと減らされていく。
「息が上がってるよ、モルモットなんだから一生懸命動きなさいよ」
自分の勝ちを疑わないミールは上機嫌に語り続ける。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へー。あはははは」
喜びながら段々と隠れることはせず堂々と生垣の周りを走り回る。
「そこだ!」
痺れを切らしたルリーラが生垣を飛び越えると生垣から一匹の毒蛇が待ち構えていた。
「ルリーラ!」
蛇が一匹噛みつきそれに次いで蛇と蜂の大群がルリーラを地面に落とす。
ルリーラを攻撃し襲い役目を終えたものからただの水に変わっていく。
†
「噛まれちゃったね」
「嘘……」
「動かない方がいいよ、まだ魔法は発動してるし」
動こうとした瞬間毒の蛇達が俺達を囲み、ミールはゆっくりとルリーラの元に近づく。
「ごめんなさい兄さん、モルモット殺しちゃった。でもいいよねまだ二匹いるんだし足りなくなったらまた買えばいいよ」
ルリーラを殺しておいてのこの言いぐさに沸々と怒りが込み上げてきた。
「水よ、龍よ、――」
「クォルテさん?」
「――水の化身よ、わが敵を喰らい貪れ、――」
「ご主人?」
「その魂を地の底に送れ、災厄の名を背負いし者よ、――」
「兄さん、どうしたの? 怖い顔してるわよ、そうよね実験を台無しにしてしまったものね」
「――我の命に従い顕現せよ、水の龍アクアドラゴン」
怒りの感情が魔力に変わる。
魔力は周りを震わせるように肥大化し水の龍に姿を変えていく。
「今までで一番大きな龍です……」
水の龍は怒りに顔を歪め巨大化していく、魔力でできた蜂や蛇さえも飲み込み更に巨大化をしていく。
「ちょっと待った!」
怒りが俺を飲み込みかけた瞬間にかけられた声に反応してしまう。
「その変態の相手は私だから」
毒に侵されたルリーラが立ち上がる。
「ルリーラ!」
「えっ、どうしたの?」
すぐに駆け寄りルリーラを抱きしめる。
温かくてミルクのような甘い匂い、闇色の艶のある髪。
ここにいる存在がルリーラである確かな証拠、ルリーラが生きている証拠。
「モルモット、何をされているの? なんであんたごときが抱きしめられているの?」
「クォルテは変態は嫌いみたいだよ」
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない――」
「許さないのはこっちだ、ミール」
怒りに染まる水の龍はまだ宙に漂っている。
それを放てばミールくらいなら一発で仕留められる。
「いいよ、クォルテこいつは私が決着をつけるから」
ルリーラは再び大剣を手に持つ。
それを見て俺は龍を水に戻す。
「どうして兄さんはあんたばっかりーー!!」
怒りに染まる水の魔法は何の形も取らず無数の水の弾になる。
水の弾は全てルリーラに向かって放たれる。
そんな攻撃を全弾撃ち落とす。
「兄さんは、私だけのものだ他の女は近づくな!!」
ミールは再び手斧を持ちルリーラに襲い掛かる。
ただただ怒りに身を任せる原始的な方法で殺意を持って手斧を振り下ろす。
そんな攻撃とも呼べない癇癪はルリーラには効かない。
あっさりと大剣の柄で手斧を弾きそのままミールに刀身を押し当てる。
「うぐっ……!」
刀身が深く体に食い込み生垣を突き破る。
「なんで……、あんたなのよ……」
「それはわからないけど、私はあんたみたいに求めるだけじゃないから」
動かなくなったミールを見下ろしこちらに戻ってくる。
「ルリーラ、大丈夫か!? 毒は? 噛まれたところは?」
「ルリーラちゃん心配したんだよ! 治癒しようか?」
「なんで平気なのー?」
「何なのさーー!!」
俺達がもみくちゃにしたせいでルリーラに怒鳴られたため一度落ち着いてコテージに入ることにした。
「それでなんで無事だったんだ?」
「これだよこれ」
そう言って見せたのは神器の指輪。
「やっぱりこれは防御用の神器か」
「知ってて渡したんじゃないの?」
「そうかもしれないと思って渡したんだよ。神は結局何も言わなかったし」
結局何も言わないで、役に立つからとしか言わなかったしな。
「でもなんですぐに起き上がらなかったの?」
「疲れてたからちょっと休もうと思って」
「ルリーラちゃん?」
アルシェが鋭く睨む。
「ごめん、でも毒のせいで体がって思ったんだよ」
「無事だったからいいけどね」
「それはいいとして、この子はどうするの、ご主人」
外に置いておくわけにもいかず魔法と縄で身動きができないようにしたミール。
「一応従妹だから拾ってきたけど」
「衛兵に突き出す? それとも神様に突き出す?」
「うーん」
衛兵に出してもしょうがないんだよな、神に差し出したら俺達に会わないように計らってくれはするだろうけど。
「とりあえず今晩は置いておく。見張りは俺がやるからみんなは寝てくれ」
「私がやるよ?」
「私もできます」
「私は寝たーい」
「フィル以外はありがとう、だけど寝てくれていいぞ。こいつが起きたら話もあるしな」
ロックスの現在についても知りたいし。
「それに毒ももうないし問題ないから気にするな」
ミールを縛る時に仕込んでいた毒は全て回収した。
これで何もできない。
「わかった」
三人が部屋に戻るのを見送ってから捕らえたミールの前に座る。
「起きてるんだろ」
「バレてたんだ」
「それで、なんでこんなことしたんだ?」
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「知ってる」
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涙は止まらず床に染みを作る。
「でもね」
そう言ってこちらを向く。
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「だろ?」
「それに比べて、私はまだ子供だった。年は私の方が上なのに子供だったんだよ」
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「私ルリーラお姉ちゃんが好きになった」
ん?
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今流れが大きく変わったぞ? 舵の切り替えが凄すぎるぞ。
「だから兄さんとお姉ちゃんと一緒に旅に行きたいんだけど付いて行っていいかな?」
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「他の二人にも許可が必要なの? それなら私媚びを売ればいいんだよね、あの二人は好きじゃないけど好きになるよ、だって兄さんとお姉ちゃんと一緒に旅するためだもんなんでもできるよ」
「いや、だからその待ってくれ」
「お姉ちゃんに言われて気が付いたの欲してるだけじゃ駄目だよね気に入ってもらえるようにこっちも精一杯求めてもらえるようにならないとだからあの二人にも媚びを売るよ私はいい子だってあの二人に認めて貰えれば一緒に付いて行ってもいいよね? 兄さんとお姉ちゃんが私を置いていくわけないもんね大丈夫もう暴走して殺したりしない。あの二人も仲間なんでしょ?」
「その話は明日にしよう。みんな寝てるし、さっきの戦いの後だとやっぱり印象はよくないからな」
こいつ暴走でこうなったんじゃないのか……、もともとこういう奴か……。
「そうだよねさっきはあんなに酷いことしたんだからまず謝らないとね眠っているところを起こして謝っても受け入れてくれるはずないもんね流石兄さんそう言ってくれるってことは兄さんは一緒に旅に出ることに賛成なんだよねあはっ嬉しいなお姉ちゃんも賛成だよねさっき私にアドバイスくれたんだからお姉ちゃんも好きなんだよね両思いだね残念ながら女の子同士だからお付き合いはできないけど兄さんと三人で仲良く暮らしたいな」
「よし、じゃあ全部明日だなお休み」
一息で言い切った所申し訳ないが、全てを聞く前におかしくなってしまった従妹を置いて、俺は自分の部屋に戻り眠ることにした。
翌朝一番に目を覚ました俺はルリーラ達を起こしに行った。
「ええっと、大変申し訳ないんだが」
寝起きの悪いルリーラとフィルは寝ぼけ眼で、寝起きのいいアルシェは膝を折って改まった俺の前に座る。
「ミールが俺達と旅をしたいと言ってきている」
「「「えっ?」」」
流石にそんな話が出てくるとは思っていなかったのか、三人が一斉に反応する。
「それ本気なの?」
「どうしてそんなことになったんですか?」
「超展開」
「気持ちはわかるが、とりあえず一緒に下りてきてくれるか?」
三人とともに下りていくとなぜかミールは拘束から抜け出して朝食の準備をしていた。
「おはようございます兄さんとお姉ちゃん、その他二名」
昨日とまるで違うにこやかな表情に流石に三人共固まってしまう。
「クォルテ、怖いよ凄い怖い」
「クォルテさん、これどうなってるんですか?」
「あたし今日死ぬの?」
震えたまま俺の後ろに三人がいっせいに隠れる。
「気持ちはわかるが落ち着いてくれ」
「兄さんとお姉ちゃんは相変わらず仲いいですね、そっちのだ、おっぱいの大きい方とそっちのの……んびりした方はちょっとお手伝いいただけますか?」
「クォルテさん、今あの子駄肉って言いかけましたよ!」
「ご主人、今鈍間って言おうとしてたよ」
「お二人のお名前をまだお聞きしてませんでしたので、お気に触りましたか?」
「クォルテさん、本当に怖いです助けてください」
「あたしも今死んじゃいそうなほどに怖い」
「クォルテもしかしてお姉ちゃんって私の事なの?」
混乱が混乱を呼ぶ大惨事がそれからしばらく続いた。
「まず昨日は申し訳ありませんでした」
ミールは深く頭を下げる。
「昨日お姉ちゃんに勝負を挑んで気づかされました。愛とは求めるだけではなくて与えなければいけないとなので兄さんとお姉ちゃんから愛してもらうためには私からも歩み寄って愛を与え続けなければいけないんですよね」
「私そんなこと言った?」
「はい、短い言葉でしたがお姉ちゃんが兄さんを愛して兄さんもお姉ちゃんを愛しているそれはとても理想的なことだと思います。なのでその愛の輪に私も入っていけるように努力しようと思いますのでぜひご一緒に旅をさせていただければと思います」
「ということらしいんだがどうする?」
俺ではこの勢いに負けて頷いてしまいそうになるため、みんなが起きているこのタイミングにした。
「立場的には一番下で問題ありませんよ。奴隷ではないから奴隷の上だなどとそんな小さいことを言う気はございません」
「そこは気にしてないので大丈夫ですよ」
「あたしも気にしてないよ」
「よかったですお二人よりも下の立場になるのでぜひ色々なことを教えてください。おっぱいさん、失礼アルシェさんと、年増、失礼フィルさんあなた達二人から奉仕の心を学んで兄さんとお姉ちゃんに尽くしていきたいと思います」
「この子喧嘩売ってます。私の事はっきりおっぱいさんって言いました」
「年増になったよ。あたし、今鈍間から年増になった」
「ミール頼むからちゃんと全員名前で頼む」
「そうですね。では皆さん席についてください、今日の朝食は私が準備いたしましたので今お持ちしますね」
そう言ってキッチンに入っていった。
「何も変わってないよあの子」
「そうは言っても変に刺激してまた殺しに来られるのも困るだろ?」
四人で話をしていると食事が次々と運ばれてきた。
アルシェのように豪華だったり立派だったりするわけではなく、家庭の食卓といった料理が並ぶ。
見た目は美味しそうだきっと味も美味しいのだと思うだが、昨日の毒を使った魔法を見た後ではすぐに頂きますとはならない。
「味は問題ありませんよこう見えて家事全般得意ですからちゃんと味見もしましたしそれとも何か嫌いな物が入っていたりしましたか? それは盲点でした皆さんと仲良くなろうと先走り過ぎてしまいましたこういうところが暴走してるって言われるんですよね。新しく作り直しますので嫌いな物を教えていただけますか?」
俺達の心の声は重なったと思う。
そうじゃない!
「ミール、お前は昨日毒の魔法を使っただろ? それでみんな緊張しているんだ」
どう出るかわからないがみんなの不満をみんなの主として口にする。
「そう言うことですか、お姉ちゃんお箸借りますね」
そう言うと全員分の食事を一口ずつ口に含む。
「もうそんなことはしませんよ、何度もお伝えしていますが皆さんと一緒に行くのに毒なんて入れるわけないじゃないですか」
ミールは笑うが俺達は笑えない。
ここまでおかしくなっている従妹を見てどう対応していいかわからない。
「朝は頂きますがお昼からは私が作りますね」
「給仕くらいなら一番下の私がやりますのでアルシェさんはくつろいでいてください」
「家事は私の分野なので、やっていないと落ち着かないので私がやります」
「そうなんだ、アルシェには家事全般をやってもらっているから仕事を取らないでやってくれ」
「わかりました、それならしょうがないですね」
みんなはどこが地雷かわからないせいで、緊張感を持ったまま今朝を終えた。
「それではミールを連れて行ってもいいかの採決を取りたい」
「皆さん一生懸命頑張りますので宜しくお願い致します」
俺の音頭とミールのお辞儀で始まった会。
「連れて行ってもいいなと思う人」
どうなることかと思ったが四人全員が手を上げた。
「じゃあ、決定」
「ありがとうございます」
この採決の理由を後でこっそり聞いてみたらみんなが口を揃えてこう言った。
「拒否しても絶対後ろからついてくる。それなら最初から一緒の方がいい」
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◇
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書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
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