幽くんは噛み合わない

柚木

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幽くんと結婚式

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 幽くんとの恋人生活も早二か月になりました。
 イケメンで優しい彼氏に毎日がとても充実しています。たまにお弁当を作ってみたり一緒にデートに行ってみたりしています。
 特に最近の一ヶ月は毎日合っていると言っても過言ではありません。
 そうなると一秒でも幽くんが目の前に居ないと震えてきます。少し前に流行った会いたくて会いたくて震える状況なのです。
 そして今日は震えが止まらない一日になります……。

「はぁー……」

 授業中に前を見ても幽くんはいません。そこにあなたはいないのです……。
 そうなると授業を受ける意味って何があるんでしょうか?

「朝から何回目のため息なの? いい加減にしてよ」
「だって小夜ちゃん。幽くんがお休みなんだよ。心配で居ても立っても居られないんだよ?」
「ただ親戚の結婚式なだけなんだから心配する必要はないでしょ」

 本日幽くんは親戚の結婚式でお休みです。私がため息を吐いてしまうのはもうどうしようもありません。

「なんで私は呼ばれてないんだろう」
「血のつながりが一切ない赤の他人だからね。呼ばれてたら私がビックリだから」
「もういっそ籍を入れたら万事解決なのに……」

 なぜ日本では男子は十八歳以上じゃないと結婚できないのでしょうか? 男女差別しているうえに恋愛の自由を全面否定です。

「私はたまにあんたが怖くて仕方ないよ。変な団体に入らないでね」
「幽くんの居ない団体に興味はないんだよ」
「あんたイケメン好きなら湯布院でもいいでしょ、外見だけなら十分でしょ」
「そう言うことなら俺が幽の代わりしてやっても――」
「いらない。幽くんの足元にも及ばないし」

 チャラいイケメンなんて興味ないし、パリピはパーリーでもしてればいいんです。

「湯布院ごめん。無駄に巻き込んじゃったみたい。本当にごめんあんたはイケメンだよ。カッコいいよ」

 何かパリピが落ち込んでいますが私の落ち込みはそれどころではありません。
 スマホを見ても連絡は一つも帰ってきません。式場はスマホ禁止なのでしょうか。そんなの破ればいいのに幽くんは律儀な人です。

「夕方には終わるでしょ。それまで待ってなよ」
「手が震えるくらいの禁断症状が出てるんだよ? もう写真だけじゃ震えも止まらないんだよ」

 わなわなと手が震え、シャーペンもまともに持てません。心電図のようなミミズ文字になってしまいます。

「アル中みたいなこと言い出したね。本格的に病院に行ってきた方がいいよ」
「そういう体で学校を抜け出せってことだね。急性アルコール中毒って言えばいいのかな!?」
「それが認められたら、間違いなくあんたは退学だ」
「そっか……」

 退学になったら困ります。今後も幽くんと日中離れ離れになってしまっては生きている意味さえ疑ってしまいます。

「昼には連絡が来ると思うから、後一時間頑張れ」
「ううぅぅ……、幽くんーー……」

 そして四時限目に入りました。
 黒板を見ても目の前には誰もいないので寂しいです。それでも桜は頑張りました。彼のいない午前中を耐え抜きました。
 昼休みになってすぐスマホを確認しましたが連絡はありません。メッセージも既読が付いていません。

「既読すらついてないってそれもしかして電池切れじゃない? 桜がメッセ送りすぎで結城は充電し忘れとか。あんたらならやりそう」
「俺が思うにいい女に靡いてるんじゃないの? 幽ならイケメンだしモテるだろ」
「ふざけたこと言ってんじゃねえぞ? その無駄に長い髪全部引っこ抜くぞ」
「冗談です、ごめんなさい許してください……、さっきの仕返しのつもりだったんです……」

 ふざけたことを言ったパリピに構っていられません。電池切れとなると今日の連絡は夜まで我慢ということになってしまいます。
 こんなことなら美琴ちゃんの連絡先も聞いておけばよかったです。

「この震えるほどに会いたい気持ちはどうしたらいいんだろう」
「私はこの震えて抱き付いてくる湯布院をどうにかして欲しいよ」
「湯布院くんなら幽くんの兄妹と連絡先交換してそうだよね。むしろパリピだからしてるよね」
「してるけど、俺は名前すらないんだ……」
「素直に教えておきな、今日の桜は周りが一切見えてないから」

 何やら小夜ちゃんと湯布院くんが何かを話していますが、今はそれより連絡が先です。
 早く声を聞きたいのです。
 素早く電話番号を打ち込み電話をかけます。
 四回目のコールで美琴ちゃんは出てくれました。

「もしもし私桜です。幽くんいますか?」
『はい、いますよ。代わりますね』

 流石美琴ちゃんはいい子です。私の気持ちを察して電話を変わってくれました。

『桜、何かあったのか? 用があるなら俺のにかけ……、電池切れてる。道理でスマホが鳴らないはずだ』
「やっぱり、そんな所じゃないかなって小夜ちゃんと話してたんだよ」

 おっちょこちょいの幽くんも可愛いいです。

『よかったよ。連絡が来てなくて俺も寂しかったし。充電して連絡着くようにしておくから一回切るな』
「うん。私も声聞けて嬉しかったよ。それじゃあね」

 通話を終わりました。やっぱり幽くんの声を聞くだけで安心します。
 手の震えも止まりましたし、これで午後の授業も乗り越えられそうです。

「あれ、湯布院くんはなんで小夜ちゃんの足に抱き付いてるの? 小夜ちゃんが困った顔してるから離れたら?」
「え、ああ、はい。離れます。申し訳ありませんでした」

 なぜか湯布院くんが敬語です。小夜ちゃんに蹴られたのでしょうか?
 それどころか、何やらクラス中が何やら震えています。寒いのでしょうか? いや寒さというよりも怯えている様な気がします。

「小夜ちゃん、クラスが凄い怯えてるけど何かあったの?」
「今度桜がそうなったら動画撮っておくから。しっかり見るんだよ」

 なぜかそんなことを言われてしまいました。

 私がその答えを知るのは、幽くんが風邪で休んだ翌月でした。
 愛はここまで人間を変えてしまうのかと身震いしてしまました。
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