幽くんは噛み合わない

柚木

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幽くんとラブレター

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 私と幽くんの席は近いです。
 そのおかげで私達は良く同じグループになります。そして四人で同じ班になります。
 私達の他には柳谷 小夜やなぎや さよちゃん。もう一人は幽くんとは別のタイプのイケメン湯布院 静ゆふいん しずかくんです。
 クールな幽くんとは真逆で明るくてチャラい湯布院くんは、見た目通りで女子がとても好きな人です。
 女子であれば顔も性格も関係なく優しいため女子人気がとても高いです。

 この日の授業は科学でいつも通り四人で一つのテーブルに座り、中学時代の復習を先生が教えてくれていました。
 そして当然そんな授業を真面目に受ける生徒はいません。
 もちろん私達もです。

「そう言えば今日下駄箱にラブレター入ってたんだよ」

「湯布院くんはやっぱりモテるんだね。でもメールでもメッセでもなくラブレターって古風だね」

「知り合いでもなかったら手紙しかないでしょ」

 当然のことでした。連絡先を普通に知っている体で考えていたため、一瞬だけ大和なでしこみたいな女性を想像してしまいました。

「そうなると他のクラスか上級生ってことになるけど、受けるのか?」

「受けないよ。ほら、俺ってこの高校のアイドルだし、誰か一人の物になれないだろ?」

「キモい死ねばいい」

「相変わらず小夜ちゃんは毒舌だな。そんな所も可愛いぜ」

 小夜ちゃんの本気の罵倒を受けてなおそんなことを言える湯布院くんのメンタルはとても頑丈です。

「それで幽に断り方を聞きたいんだよ。お前も俺ほどではないけど人気あるんだろ?」

「そうなのか?」

 私を見られても困ります。もしそうだと言って私以上の女子を好きになられてら私が困ります。

「それは正直なんとも言えないかな」

 つい答えを濁してしまいました。私だけを見て居て欲しい気持ちが先行してしまいました。
 女子に言い寄られている姿を想像しただけで卒倒してしまいそうです。

「結城の場合は顔がいいってのは女子の共通認識なんだけどな」

 普段言いよどまない小夜ちゃんが言いよどみました。珍しく言っていいものか悩んでいるらしいです。

「いかんせん奇行が目立つんだよね、たまに誰もいない場所に謝ったり、見えない誰かと手を繋いで歩いていたりな」

 霊感があると知っている私は幽霊にぶつかったのかなとか、迷子の幽霊を案内してたのかなって思いますが、何も知らない人が見たら奇行でしかありません。


「その結果、結城は遠くから見ているのが一番いいということにまとまった」

「その話私は知らないんだけど」

 なにせそんな奇行が有名って話もたった今聞いたばかりです。
 なぜ私にだけその情報が回っていないのでしょうか。

「桜が結城を好きなのは学年共通の認識だよ」

「それは俺も知ってた。だから俺も桜ちゃんにはあんまり馴れ馴れしくしなかったし」

「まさか幽くんも知ってたの?」

「知らなかったぞ。そもそも顔が良いという話でさえ初耳だし」

 どうやら綿密な情報操作があったらしいです。
 というか私達二人が仲間はずれでした。

「奇行って意味だと桜も結城と同レベルだし。いつも結城を見てうっとりとした女子としてやばい顔をしてるんだよ」

「あの顔は流石の俺も引いた」

 湯布院くんが引くくらいの顔って、私はどんな顔をしていたのでしょうか……。
 そこで幽くんにも引かれていないかと突然思い幽くんを見ました。

「俺はそういうところも好きだよ」

 そう言って私の頭を撫でてくれました。
 もうイケメン過ぎて顔を合わせられず、熱くなった顔を隠す様にうつむいてしまいます。

「桜と居る時は結城が普通に見えるんだよな。普通のイケメンって感じで」

 なんか酷い言いぐさですが、今は気分がいいので何も言いません。

「そろそろ時間だな。次からは高校の範囲をやるから今日みたいに話してるなよ」

 そうこうしている間に授業が終わり、みんながパラパラと教室に帰っていきます。

 その帰り道、聞いてみたかったことを聞きます。

「幽くんはもしラブレター貰ったらどうするの?」

 科学の時間に聞けなかったことを思い切って聞いてみます。

「当然断るよ。俺には桜がいるしな」

「私よりもいい人でも?」

 嫌な質問をしているのはわかっていても聞かずにはいられませんでした。
 正直不安で不安で胸が痛くて苦しいです。

「そうなるとわからないな」

「……そう、だよね…………」

 自分で聞いておいて凹んでしまいます。それは当然のことです。私よりいい人はいっぱいいてその人たちより私が先に告白しただけの事でしかありません。
 徐々に涙が私の視界を揺らします。
 泣いちゃダメだと思っていても湧いてくるものは仕方ないじゃないですか……。

「だって、桜よりいい人がいるとは俺には思えないから。いない人の事はいくら考えてもわからないよ」

 そう言って私の頭に手が置かれました。
 不意打ちのようなその行動に体がピクリと反応してしまいます。
 そのまましばらく頭を撫で続けられました。踊ってしまいそうなほど嬉しくて、死んでしまいそうなほどに恥ずかしい。

 今日も幽くんはズルいです。本当にズルいです。
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