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二次創作
月女神と狩人
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『剣姫』ヴィントホーゼ・エリザベス敗れる
その情報は瞬く間に学園内を駆け巡った。なにせ対戦相手はヘキサウェポンを持たず、知略と駆け引きと時の運。己の全てを出し切ることで格上殺しを成し遂げたのだから
それはなにも無名の学生ばかりに広まった訳ではない。当然あの試合を見ていた人物は多く、記録されていたこともあり男が想像していたよりかなりの人数がその顛末を知る事となっていた
「はぁ…………そりゃあ確かに頑張って勝ったが、あの後の試合で結構ボロボロに負けたじゃん。なぁ、委員長」
「エリーの高速戦闘についていけているというだけで一目置かれますよ。現に私だって貴方には高い評価を与えています。奇抜なウェポンの使い方に目が行きがちですが、アレは基礎が忠実に出来ているからこそ出来ること。研鑽を重ね、自己を高める姿勢はとても好ましいものです」
日直として共にダンボールを運ぶ男女。先生に良いように使われてはいたが、学生としては珍しくない光景だろう
しかし、並んで話す両者は珍しい人物だ
片や今話題の『疵獣』
片や学園5位の『聖騎士』
強者というのはただ居るだけで覇気を振り撒く
見た目に似合わずフランクで人当たりのいい(と、されている)仮面の男ならいざ知らず、『聖騎士』ノラ・アーキテクトはその美貌と厳格な性格が相俟って神聖で近寄り難い雰囲気を醸し出している
「んなもんかねぇ……」
「到着しました」
学長室の前で二人は止まる
4回ノックし、荷物を運び入れる為に学長室のドアを開けて中に入る
「おっと、先客が居たようだ」
中には一年と思わしき人物が二人。両者ともに女の子のようだ
片方は亜麻色の髪の元気そうな子で、もう片方が銀髪の大人しそうな子
いや、桃髪合法ロリはほぼ寝ていて、ほぼ二人で話しているみたいだがな。仕事しろ学園長
「あ、先輩!」
「スローネさん。お疲れ様です。資料はここに置いておきます」
ノラは脇の方にダンボールを置いたので俺もそれに倣う。ようやく開放されるぜ……
それにしても、亜麻色の髪の子はスローネと言うのか。何処かで聞いた気もするが……
「ん~、君、よろしく~」
あ、起きた。そして開口一番解読不可能な言葉を此方に投げてくる。言葉のキャッチボールをしろ学園長
「えぇ!?本当に大丈夫なんですか?それに本人の意思も……」
ん?このスローネって子何に対して言葉を紡いでいるんだ?正常な脳みそをしているのなら学園長の言葉かもしれないが、あの断片的情報から何を読みとれると言うんだ
「学園長はなんて仰ったのですか?」
「『そこの君、この子の世話をよろしくね。これ、学園長命令』だそうです」
え、マジで学園長の言葉を解読してるの?凄くないかコイツ
いやぁ、俺にはその内容がサッパリだったぜ。そして今クソみたいな面倒事の気配がするワードが出現してるけどまぁ、うん。知らね。状況的に見てそこの銀髪の子の世話係だろうし
頑張れ委員長
「だ、そうですよ。頑張ってくださいね」
「嘘だろ」
やっぱ俺かぁ……
「ところで、先輩。この人って……」
「丁度いい機会ですし説明しておきましょう。先日転入してきた、武術科二年所属のシャアさんです。苗字不明、経歴不明の不審者です」
「おぉー!『剣姫』ヴィントホーゼを倒した赤い彗星ですね!」
「おい、説明の仕方がもう少しあるだろ」
というか今、色々な方面で危ない匂いがしたぞ。別に俺は三倍早い訳でもないし、年下女の子にバブみを感じたりしないからな!
「対してこちらは武術科一年所属、生徒会長のスローネ・フェネクスさんです」
ん?一年で生徒会長……?それまた随分な肩書きで……まぁ、この学園のことだから「最強の人物が生徒会長」みたいになるのか?
となると、目の前のコイツがこの学園最強ということに……
「生徒会長への推薦理由は学園長と意思疎通が可能という理由です。彼女もヘキサウェポン持ちであり、実力も申し分ありません」
「えへへ……」
ウッソだろ。そんなアホらしい理由で生徒会長になるなんて……いやでも、俺の時も欲しかったな。通訳が居ればもう少し色々と詰めて話せたはずなんだが……いや、こんなこと考えてる時点で俺も大概毒されているな……
もう少しマトモな学園に転入したかったぜ…………というか、色々ありすぎて忘れてたが俺そこの銀髪ロリの介護をしろと命じられなかったか?
「えーっと、世話ってなにするんだ?」
「恐らく、相部屋になって生活の補助をするのでは?貴方は現在、一人部屋ですし」
「ん、よろしく」
おぉ、嘘だろ。快適な一人生活がついに壊される時が来てしまったのか……いやだが、流石に男女が一つ屋根の下というのは問題ではないか?お子様ランチがまだ食べれそうなスレンダー(笑)な奴だが、生物学上は一応女だ。そして、料理とガーデニングが趣味の俺も一応生物学上は男だ!
そう、此処を攻めていけば勝機が拓けるッ!!!
「男女相部屋というのは風紀面で問題があるのでは?」
「きみ~、枯れてるんでしょ~?」
場が凍り付いた
まさか的確なカウンターを決めてくるとは……いやホントどうしよ。大勢の人の前で公言しちゃったよ……
「いやでも、万が一とか……」
「……ふっ」
あ、コイツ鼻で笑いやがった。なんかムカつく
その後もなんとか粘ったが、のらりくらりと躱されてなし崩し的に介護が決定した
なんで異世界に来てまで介護をしなければならないのか。運命とはまこと理不尽である
「俺の安寧がぁ……」
「まぁまぁ、役得というものですよ」
慰めにもなってない言葉をかけられながら、一旦俺とノラは学長室から退室する。後で部屋の整理をしておかねば…………デバイスの整備で散らかしたまんまだから、今結構汚いんだよな
「「あ」」
ん?扉の前で一年生が二人聞き耳を立てているな……って、ここで遭遇するか第一監視対象と第二監視対象
予想外の邂逅だが……まぁ、それは置いといて部屋に入る機会を伺ってたのか?となると、まだあの二人(学園長は基本寝てるので除外)の話はもう少しかかるかもと伝えてやるべきか
「あの、先日訓練室でヴィントホーゼさんと戦ってた人ですか?」
髪を後ろに束ねた黒髪の男。フリード・レクトがこちらに尋ねてくる
というか、見られてたのか。いや、見られてるよな……うわぁ……面倒臭いぞぉ……
「あ、あぁ。そういうお前さんはフリード・レクトか。そちらの戦いも少し見させてもらった」
「私も記録映像でしたが、拝見させて頂きました。両者ともによい戦いでした」
その隣に居る白髪の少女。『氷華の魔女』フロスティア・ライとの退学を賭けた決闘を少し前にしていたのを確認している。ノラは少し気を使っているが、試合内容を簡潔に説明するなら「瞬殺」だ。試合開始と共に速攻で距離を詰めて一閃。そこで試合終了
そういえば、フリード・レクトの姉の方が武術科の先生でアホみたいに強かったのを覚えている。やはり家系というものだろうか。それとも、良き師に恵まれたのか
姉の方といえば、あの一戦の後に目をつけられて授業の模擬戦でボコボコにされるまで扱かれた
『剣姫』許すまじ
「えぇ!?ホントですか?なんか恥ずかしいなぁ……」
「ハッハッハ、お互い様だな」
ファーストコンタクトは良好と言ったところか。いずれ(下手したら今でも)俺を瞬殺出来るほどの実力者とは敵対したくは無いからな……
人脈は力ともいうし、コミュニケーションを取って仲良くするのは良い事だ。俺を見習え学園長
「あのー、たまたま通り掛かった時にちょっと聞いてしまったんですが……貴方も?」
あぁ、通り掛かっただけなのか。して、「貴方も」という言葉の真意は……
そういえば、決闘の理由が「フロスティアがフリードとの相部屋を嫌がったから学園長に直談判したら、学園長が決闘して決めろと言った」というのが発端だったか。成績の芳しくないフリードは退学のリスクまで背負わされた一世一代の大勝負といったところだ
これを踏まえて考えると「貴方も勝手に女の子と相部屋にされたのですか?」というものだろうな
「あぁ、全く困ったものだ」
そう答え、苦笑いしてどちらからでもなく握手をする。こいつも苦労してんなぁ……
「それじゃあ、機会があったらまた会おう」
「はい!」
─────────────────
ということで予期せぬ邂逅が終わり、ノラとも別れた。さっさと自室に戻り、片付けを済ませておくか。それと同時にあの銀髪ロリの情報を集め……ん?そういや、名前聞いてなかったな
どうせ変なやつであるのは間違いない。学生のうちで要介護ってどんな人生送ってるんだよ
散らばったウェポンとその整備道具を隅の方に寄せ、スペースを確保する作業に従事していると扉が開く音がした。視線を向けると、銀髪ロリと生徒会長がチラリと見えた。生徒会長の方は少し話した後に去ったようで、後には銀髪ロリが取り残されていた
「おーっす。散らかってるのは勘弁してくれ」
「ん、大丈夫。私も片付けられない」
お、おう。そんな堂々と宣言する事でもないと思うが……
俺の時より少し大きなトランクケースを手に、銀髪ロリが部屋に踏み入る。足取りを見れば分かるが、多分コイツも強い。それもヴィントホーゼと同じくらいには
嘘だろ。なんで俺はこうもハズレくじを引かされるんだ。いや、アイツに比べたら襲いかかってきたりしないだけマシだが
「…………なにこの数。しかも、予備じゃなくてほぼ違うウェポン」
「少々変則的な戦いをするもんでな。端的に言えば使い潰す戦法だ」
かなりウェポンに詳しいみたいだな。俺には何処が違うのか皆目見当もつかないのだが、ウェポン開発の技術者はある程度の違いが分かるという話だ
「……私にみせて。調整する」
「ん?一応一通りの整備は俺でも出来るぞ」
あんな馬鹿みたいな戦法をするから、普通のメンテだけでは足りないので開発科に足を運んで簡易メンテの仕方を教えて貰った
向こうにも何かと面倒くさそうな奴はいたが、それは今は置いておく
「私、元開発科。今回武術科に転入した」
「マジか」
うん?強さを読み違えたか?武術科ならいざ知らず、開発科では大した戦闘訓練も無いはずだから強くなれる環境は整っていないはず
銀髪ロリはというと俺の考えなどいざ知らず、散らばったウェポンを一つ一つ手に取り検分していた
「……砕かれてる?あなたのフォーシス量なら、そうそう砕かれないはず」
「バーサーカーに攻撃型のヘキサウェポンでぶっ叩かれた」
ちなみに、あれからかなりの回数戦ってるが十回に一回くらいしか勝てない。いや、十回に一回は勝てることを喜ぶべきなのだろう。というか、回数を重ねる度に小技を覚えてきているので前より厄介になってきている
ちなみに勝ち筋として多いのは、小技を無理に使用しようとしたその隙を突いて……というパターンだな
「ヘキサウェポン、持ってるの?」
「生憎と今のところ適合した奴は見つかってない」
実は嘘だ。申請とかが面倒なので全くやってない。やたらと金髪バーサーカーが薦めてくるのだが、アイツは俺以外の対戦相手を探すべきだ。というか探して欲しい
それにヘキサウェポン持ちとなったらそれこそ挑んでくる人が増えそうで怖い。中途半端な強さというものは己の身を滅ぼすものだ
「……はい」
整備が終わったらしいウェポンを渡してくる。感覚を確かめるために展開してみたが、かなり驚いた。展開に必要なフォーシス量が減っており、それでいて硬度は保たれている
元開発科の肩書きは伊達ではないようだ
「これは凄いな……形状の調整とかも出来たり?」
「もちろん」
おぉ!!!
これは良いぞ。画一化されたウェポンというものは確かに利便性が高かったが、もう少し俺好みにカスタマイズしたかったところだ
世話をする代わりに色々調節してもらうとしよう。そうじゃなきゃ俺にメリットなんて微塵も無いし、これくらいは得してもいいだろ
「……そのヘキサウェポン使いに、勝った?」
「ボロ負けが続いてるが、たまに勝つ」
「映像、みせて」
「ヴィントホーぜ・エリザベスで調べたら出てくるぞ。あいつ、最近俺としか戦ってないし」
「ん」
銀髪ロリは生徒手帳(というよりかは身分証明可能な電子端末)を操作し、過去の記録を探っていく。すぐに見つかったのか、大量の試合記録を順繰りに見始めた
目線は生徒手帳の方に向けているが、整備の手は止まらない。ウェポン開発のことは分からないが、かなりの腕なのは確かだろう
邪魔しては悪いので、風呂の掃除に夕飯の買い出しと準備をすませるべく行動開始。学食で食うのも悪くないが、初日から学食ってのも味気ないだろうということで腕によりをかけて料理を振る舞うことにした
──────────────────
風呂掃除の後に買い出しに行き、戻ってきてもまだあいつは試合記録を見ていた。整備は粗方終わったらしく、自分のトランクケースの中から俺の知らない整備機器を取り出してカチャカチャと弄ってる
まぁいいか。悪いようにはならんだろうし
「アレルギーとか好き嫌いあるか?」
「ない」
「了解」
それなら今回のメニューは当初の予定通りで大丈夫。カレーやハンバーグといったみんな大好きシリーズの一つ、「からあげ」が今日のメニューだ!
俺はジューシーなからあげが好きなので鶏もも肉をチョイス。スジや脂肪部分を取り下味の揉み込みを開始する。油分の少ない調味料から仕込んでいくのがポイントで、最初に油分が多い調味料を加えると食材に油膜ができてしまい、ほかの調味料が浸透しづらくなってしまうとのことだ
塩、胡椒を最初に。次におろしニンニクとおろし生姜、その後に酒・醤油を揉み込み五分置く。そのどれもをしっかり浸透させることを忘れてはいけない。最後にごま油を軽くまぶして油膜により調味料を閉じ込める
次に衣だ。まず小麦粉を鶏肉に揉み込むように加え、次に加える片栗粉は表面にまぶすにしておく。こうすることでサクッとした食感になる
さて、揚げていこうか
ここは重要なので詳しくいきたい……え?要らない?OK、それなら飛ばそう
ということでメインのからあげを作り終わり、汁物に味噌汁。サラダを添えて完成
おっと、ちゃんと白米も忘れてないぞ?
「飯出来たぞ~!」
「わかった」
銀髪ロリは作業を一旦区切り食卓に着く。料理はお気に召したようで、目をキラキラさせている
「「いただきます」」
そういえば、驚いたことに「いただきます」という文化はこの世界に存在するようだ。言わないより言うほうが好きなので嬉しいことだ
「そうそう。お前の名前聞いてなかったな。俺の名前は聞いたと思うがシャアだ」
まぁ、偽名なんだが
「ルナ。アルマ・ルナ」
「おう、よろしくな」
「ん」
こうして、飯の時間は過ぎていった
話の中で分かったが、コイツ二年らしい。一年の生徒会長より背が低いぞ……
───────────────────
さて、寝る前に同居人の情報でも漁るとするか
<30分後>
いやぁ……なんかそんな気はしたけどさぁ……
目の前に表示されたプロフィールをもう一度確認して溜め息を吐く。ウィンテスト学園在籍時の情報なのだが、かなりの大物ということが分かった
要約するとこんな感じか
アルマ・ルナ
二つ名は『戦匠』
現在は返還しているが、当時はヘキサウェポン使いでもあった
開発科所属なのは事実であり、そちらの成績が芳しくなかったから実績重視のウィンテスト学園から退学を言い渡された
その戦闘記録は苛烈そのもの。普段の無気力さはどこへやら、圧倒的なまでの力で相手を倒している。金髪バーサーカとはまた違ったタイプの戦闘狂の気配がするぞ
そして、開発者としての才能が無いわけではない。むしろ、戦闘者としての才能よりもこちらの才能の方がある程だ。ただ、彼女が作るウェポンは汎用性が低く癖が強いとの評価が大部分を占めている。しかしながら、高い技術力を持ち合わせていた彼女は既存の仕事ならば高い精度で終わらせるために企業案件も幾つか請け負っていたようだ
戦闘者としも、開発者としても一流といえるコイツは本物の天才って奴なんだろうな。だが、せめて少しは家事を手伝って欲しい。流石に風呂は一人で入れるようだが、生活能力が皆無という極端なやつだ。いや、むしろ天は二物を与えないという言葉通り才能しか与えられなかったのかもしれない
まぁ、なんにせよそろそろ寝るとしよう。厄介事が無ければいいのだが……
──────────────────
アルマがこの部屋に来て今日で一週間だ。家事の全てを俺に任せ、悠々自適に寛いでいるアイツを見ていると偶にイラッとする。しかし、ウェポンの調節を偶にしてもらえるのでそこでトントンとしている
「決闘」
「開口一番それ?」
物凄く既視感を感じるのは気の所為だろうか。朝食を食べ終え、洗い物をしているとトコトコと歩いてきたアルマからそう告げられた
「私が勝ったら、神樹戦のどれかに出て」
「嫌だぞ。面倒な」
内容まで似てるぞ。コイツ、金髪バーサーカーの親戚か?
「あなたが勝ったら、私を好きにしていい」
「それなら一人で家事をして貰おうかな」
「それは不可能」
「じゃあダメだ」
「……むぅ」
可愛くむくれてもダメだぞ。というか、戦闘記録を見たのならあのやりとりも見てるだろ。何故自分なら食いつかれると思ったのか
「あなたの武器の整備およびオプションの付与。ならびに武器開発を無償でする」
「むっ」
それは魅力的な提案だということは分かる
学生のうちから企業に声をかけられるような天才の技術を無償で借りれるのだ。一人で整備するのも、オプションを付与したり新しく買うにも少なくない金がかかる
だが……
「俺はそこまでして強くなりたい訳では──
「それに加えて、『剣姫』との試合をたまに引き受ける」
「乗った」
あ、反射的に言ってしまった
コイツ、俺の弱みを的確に……
まぁ、当時のヘキサウェポンは学園に返還したと聞いたし大丈夫だろう。ここ最近、こいつがヘキサウェポンの適性検査受けた気配とか無いし
それでも油断ならないから、しっかりと頑張らないとな。神樹戦出場とかいう俺からしたら公開処刑みたいな状況は避けたい
──────────────────
そんなこんなであれよあれよと流されて訓練室まで連行され始める。朝っぱらから元気だなおい
すると前方に『聖騎士』と『剣姫』二名を発見。恐らく自主トレ後だろうか、タオルを首にかけている
「あら、おはようございます。校内デートですか?」
「デ、デート!?君、見た目が犯罪者正規軍なんだからそういうのはもう少し目立たない所で……」
「おはよ。決闘を挑まれて、受けてしまった」
犯罪者予備軍ではなく、犯罪者正規軍ってなんだよ。転校してから随分日もたったし、いい加減みんな慣れただろ
「私が勝ったら神樹戦に出てってお願いした」
「え、本当?【焔竜戦】か【明鶏戦】に出るなら一緒に出ようよ。【焔竜戦】は二人一組、【明鶏戦】は三人一組ですので肩を並べて戦えますの!」
「それはまた災難なことで…………それにしても私を飛ばして4位ですか。私は眼中に無いと言外に言われているようで泣いてしまいそうです」
「え、4位?」
おいおいおい。そんなの聞いてないぞ。第一、コイツ転校してきたばかりじゃないか。俺の知る限りそんな情報は……
「彼女の転入試験は私が担当しました。学園長曰く「10位以内に入れたら転入を認める」との事でしたので、手合わせした結果敗北しました」
「そういうの早く言えよッ!!!」
「ちょっとした茶目っ気です」
無表情でテヘペロを決めるノラにイラッと来たがそれどころでは無い
嘘だろおい。トップ10全員は基本的にヘキサウェポンを持っている。つまりコイツも持ってるって訳だ。というか、持たずに倒してても俺の敗北は確定事項みたいなもんだぞ……
持ってないからいいだろなんて軽い気持ちだったのに、今じゃ敗色濃厚の地獄送り待ちだ
「や、やっぱ無しとかダメ?」
「泣きながらあることないこと吹聴して回る」
「脅し文句が怖すぎる」
「ふふっ、これで君の神樹戦出場はほぼ確定したみたいなもの。私と組みましょうよ!」
「エリーステイ」
泣きたい……猛烈に泣きたい……
いや、ここはもう腹を括って勝ちに行くしかない。しかし、アイツは最近俺の戦闘記録を見て予習バッチリどころかどんなウェポンがあるかすら全て把握している
不利なんてレベルじゃない。あの日金髪バーサーカーに勝利できたのは「手の内を知られていない」というアドバンテージがあったからだ。本当に困ったな……
「さぁ、はじめよ?」
口の端を少し上げて銀髪の女は笑う。整った顔立ちに普段は浮かべない笑みを浮かばせるだけで女神然とした、浮世離れした魅力が溢れ出る
その眼を見て男は理解した。「コイツは本気でこの試合を取りに来ている」と
そこにあるのは獲物を狙う、狩人の眼だった
────────────────────
噂の転入生『疵獣』が『戦匠』と戦う
珍しい対戦カード、しかも二つ名持ち同士の決闘に生徒達は飛び付き、我先にと訓練室に入室していく。仮面の男は知る由もなかったが、学園ランキングの更新という自体は様々な生徒に関心を抱かせており未だ『戦匠』の戦いを見たことが無い生徒はどんなものかと期待に満ちていた
そして、決闘の内容は何かと心待ちにしている生徒達に銀髪の少女は爆弾を投げる
「私が勝ったら、あなたの人生を貰う。あなたが勝ったら私をあげる」
「おい、言い方ァ!」
ざわめく場内。なにしろその言葉の意味を普通に捉えれば「勝っても負けても付き合ってください」なのだから当然だろう。最も、彼女の方はそれも計算尽くで発言したのだが
「お前が勝ったら神樹戦出場に向けて努力する。俺が勝ったらお前は専属のウェポン技師になって、なおかつたまにヴィントホーゼの相手をする。誤解を産む発言はやめよう」
試合開始前からぐったりする男を他所に、機器の準備は完了したようだ。あとは開始のアナウンスを待つのみ
────────────────────
すぅ………
相手は既にウェポンを展開している。小さな天使の翼のようなウェポンに、銃型のウェポン
フォーシス量からしてこの二つがヘキサウェポンだろう。能力は羽の方は空中浮遊だろうが、銃の方は分からない
そして、目を引くのが俺と同じく身体に幾つか装備したデバイス。ウィンテスト学園在籍時の戦闘記録を見た時はなかったものだ
「……ん、これ?便利そうだから見て覚えた」
「うっそだろ……」
俺はただでさえ面倒な相手をより厄介にしてしまったようだ。戦闘中に武器の切り替えをする生徒が少ないのは武器を切り替えるタイミングに生じる隙を潰す技術を身に付けていないことと、複数の選択肢を与えられるが故に思考が囚われてしまうという二点にある。よって、基本的に武器を切り替えながら戦うというスタイルを真似するとかえって痛い目に合うのだが、この麒麟児はそうはならないだろう。理不尽にも思えるが、それが天才なのだ
《試合開始》
飛翔せるのは不味い
どんな戦いでも、基本的に上を取った奴は強い。人間は真上からの攻撃を防ぐことを苦手としており、遠距離攻撃を空中という安全領域からし続けられるとジリジリと削られるのは避けたい
基本的に銃型ウェポンの弾速は普通の銃より遅く、頑張れば見てから避けられる程度とされている。これだけ聞けば頑張れば避け続けられそうと考える者もいるかもしれないが、フォーシスの限界が来るより先に体力の限界が訪れてしまう
そうなれば後は弱った獲物は狩られる時を待つしかない
故に選択するのは盾と投網
投網等が武器になるのか。と、疑問に思う者も居るだろう。しかし、古の剣闘士の中に網闘士と呼ばれる投網と三又槍を手にして戦う者がいたとされている
この状況での投網の選択は自分でもかなり良いと思っている。新たなウェポンを起動するには少々時間が足りず、このまま飛ぶことは許されず、かと言って対応が遅れればこの初手でかなり優位を取れる
さて、反応は───────
ガギィン
硬質な音が盾から響く。予め盾を構えておいて良かった。彼女の手にはクリアブルーの刀身が煌めいており、光の斬撃をこちらに飛ばしてきたことを刹那の攻防の後に頭で理解する。ほぼ無意識に、長年培った本能で防御していた
さて、アレは可変型ヘキサウェポン。しかも特殊能力が遠距離攻撃とは……
遠距離攻撃が可能ということは攻め続けられるということ。一般的に相互攻撃可能距離での削り合いは双方体力を消費するが、遠距離攻撃では自らの体力ロスは最小限に、相手に動きを強いる。または行動の中断を強いる強力な手だ
これで投網は切り裂かれてしまい状況は向こうに傾いた。天空に飛翔する月天女、逆光を受けた女神は頬を微かに赤く染めて喜悦を漏らす
「いくよ」
名称不明の可変型ヘキサウェポンが消え、その手に現れたのは巨大なレーザー砲のウェポン
………おいおい嘘だろ。アレはどう見ても人一人に対して過剰火力だって否が応でも理解できる。下手したら身長よりもデカいウェポンにフォーシスの光が収束しこちらに向けられる
あぁ、ダメだ。俺より才能があり、俺より優れていて、俺への対策を完全に講じてきている
ここにある全てが俺に敗北を突き付けて嘲笑ってくる。相手は己の持ちうる全てを俺にぶつけてきた、負けても仕方がないんだと猫なで声で囁いてくる
だから─────
「クッ……ハハッ……クッハッハッハッハッハ!いいぞ!この俺を喰らい尽くしてみせるがいいッ!」
こんなにも血湧き肉躍るッ!
口角が歪んだ三日月の如く吊り上がり、傷痕が残る獣の異貌は天を仰ぐ。それは不遜にも女神を喰らい尽くさんとする穢れた獣畜生であり、天に向かって唾を吐く愚昧である
盾とトマホークを構えたその姿は未開の地の蛮族といった感想すら抱かせる。しかし、その認識は一概に間違っているとは言えない。何故ならば、この男の本質はどんなに取り繕っても戦場にあり、男の製造経緯を深く理解すればするほどに流して来た血を思い知らされる
かつて□□と呼ばれた男は月天を笑いながら睨めつける
「フォーシスアーツ、【暗月の女神】」
怜悧な声で女神の名が紡がれると同時に「ズドン」と大気が震撼した。それは速度、威力、範囲とどれをとっても一級品の対魔獣用ウェポンであり、人に使うには少々過剰極まりない代物だ
会場の誰もが、男の敗北を確信した。回避を許すほど『戦匠』の狙いは甘くなく、加えて巨大なレーザーなのだ。雑に打っても当たり、並の防御では容易く溶断されてしまう
……いや、訂正しよう。会場の一人を除いて敗北を確信していた
「あの程度で倒されるほど、私のパートナー候補は軟弱ではありません」
『剣姫』ヴィントホーゼ・エリザベス
この中で誰よりも『疵獣』と刃を交えてきた女傑は蕩けたような笑みで戦場に目をやる。彼女の中では既に戦闘準備は完了している
この後、哀れな生徒が戦の余韻に浸った彼女の剣のサビになるのだがそれはまた別のお話
「【閃光】」
空から響く獣の声
『戦匠』が目をやればお返しと言わんばかりに投擲用斧を振りかざしてこちらに投げてくる男の姿がある。いくら高性能な移動型ヘキサウェポンとはいえ、反動で身体が下がるほどの巨砲を撃った後では若干の硬直時間がある
それを見事に討ち取り、肩からその背後にある翼にかけて斧は抉りとって行った
身体の方に与えたダメージは少ないが、翼型ウェポンでの飛行に支障が出るほどのダメージはデバイスに与えた
さて、何が起こったか説明しよう
と言っても原理は簡単だ。敵手の戦技に対して此方も戦技を使ったまでの話
その内容は単純で「強度を犠牲に、高速でウェポンを伸ばす」といったもの。結果だけを見れば盾を巨大化し、上に弾き飛ばされた所で斧を投げたというシンプルなものだ。1.5倍の消費量といえど、一瞬のみの展開ならばさして消費は変わらない
盾の下部はレーザー砲により消失しており、男と月天女は共に地に落ちる。最も、無理な体勢で空中に打ち上げられた男の方はレーザー砲で盾を消されなくても数秒後には地に落ちていたのだが
「っ……」
飛行型のウェポンを引っ張ってきたのだ、撃墜されることは想定済みだろう。だが、高所からの落下というのは慣れていなければある程度の恐怖が伴う。運が良ければ変な体勢で落下してくれるが敵手にそんな可愛げを期待するのは浅はかだ。しかし、現実問題として経験や体勢の差で復帰時間が変わってくる
仰け反った姿勢で落下するアルマはあのまま落ちれば確実に俺の方が復帰が速い──いや、この場面ならば落下をまたずに投槍で削るのもアリか。飛行不可能になったのなら後は落下するのみだ、武器で弾くことでしか対応出来ないのに仰け反った姿勢なので足元の防御が疎かになっている
投槍を顕現させて放つ
さて、何か隠し玉でもあれば暴きたいものだが……
放たれた槍を彼女は空を蹴って回避する。翼型ヘキサウェポンの能力か?飛行能力は削ったはずだが、特殊能力は生きてたって訳か……見たところ、障壁生成能力だな。要所で使ってこなかった所を見るに飛行中は使用出来ないという制限があるのか、特定部位にしか出現させることができないという制約付きだろうな
────────────────────
神の失墜はならず、未だ獣は地に這いつくばる
空で体勢を建て直し異貌の獣を優雅に見下ろす月女神。傍目には有利不利は変わらず、女神の勝利は時間の問題だと観客の大部分が思っていた
「大砲を上手く封じましたね」
「もう一度狙おうとしてもまた攻撃を加えられるリスクがある。空に上がった所を狙うにしても、あの反動ではまともに狙うのは難しいでしょうね」
「しかし、『月虹蝶』が修復されるのは時間の問題です。『月天女』の能力も存在するため、空中から一方的に攻撃出来る有利な状況は変わりません」
「さて、どう攻略するのかな?」
未だ不利な状況にあるとは思っているが、彼女達は若干程度だろうと戦局を見守っていた
────────────────────
チッ、堕とせなかったか
レーザー砲に対しての牽制は出来たが、他の銃類への牽制にはなっていない
敵手が確実に勝つ方法としては上空から銃撃し続けることだ。俺の20倍はあろうかというフォーシス量は雑に飛行して、攻撃しながらでも俺より持つ。先程の砲撃で幾らかは削れたようだが、大局を見れば誤差の範囲だろう
さて、次はどんな武器を───────
いやぁ、だから過剰火力だって言ってるだろボケ。なんで巨大チェーンソーなんて開発してるんだよッ!!
いや、確かに俺も三枚刃の巨大チェーンソーで挽肉を量産したことはあるが、それを自分に向けられるとは夢にも思わなんだ
「ふふっ」
ここで近接に切り替えてくるとは少々驚いた。遠距離攻撃に徹すれば俺の敗北は濃厚だっただろう。それを捨ててまで万が一という自体が起こる近接戦闘を仕掛けるということは何か裏があるはずだ
しかし、そこを差し置いてまず厄介なのが敵の武器だ。俺の盾でチェーンソーを受けることはまず不可能。エリザベスの『剣聖』のように盾を「削る」ことに特化しているので弾くか逸らすか避けるの三択に行動が限定される。ここでの選択をミスれば即敗北。反撃は二の次で、敵の思考を読み切り生き残ることだけを今は考えるんだ
上から迫る月光の狩人。対空用の技をここで切るのは愚策、アレは硬直が発生するから敵の技量次第では防御が間に合わずに挽肉にされる
ならば残るは三択
弾く
逸らす
避ける
弾きは敵の加速次第で逆に腕が取られる可能性がある。それに場所が悪い。正面からの攻撃ならいざ知らず直上の攻撃を弾けるほど俺は自分の技量を信じちゃいない
逸らすのは確かに有効かもしれない。成功すれば弾いた時ほどではないが隙が生まれ、そこから勝機を見いだせるかもしれない。しかし、失敗した場合はそのまま挽肉コースだ
回避するのが一番妥当か?しかし、敵に時間を与えてしまいその隙に地上に降りてきた目的を果たすかもしれない
……いや、ここは敵手がどう対策したかと考えるべきか。相手は予習バッチリの天才少女、盾受けを潰す為にチェーンソーを用意したのならば、当然上記の状況にも対策はしているはずだ。敢えて隙を生み出せる状況をチラつかせて俺を誘っているのか……?
ならば回避で様子を見るべきだ。未知に対しての博打は戦場では死に直結する
後方に跳躍して回避
刹那、先程までいた場所が回転鋸により蹂躙される。そして奴は振り抜いた姿勢で口の端を微かに上げて──────────
ヤバい
仮面の男にそう思わせるだけの魔力がその笑顔には込められていた。蠱惑的で、魂すら誘引しそうなほどの月女神の微笑みは言葉よりも確実に『死』を幻視させる
己の防衛本能に従い、仮面の男は盾を構えてなるべく射線上にある自分の表面積を少なくするように身体を動かす
「オプション『破壊戦技』」
チェーンソーの小さな回転刃。その全てが解放されて男へと殺到する。彼女が『剣姫』との戦闘記録を見返した際に考えついたものであり、男の選択が全て正しかったことを証明する攻撃でもあった
弾いても逸らしても刃の散弾は男を襲い、今盾を構えなければその身体の大部分にチェーンソーの刃が刺さっていた
しかし、仮面の男が一息吐くにはまだ早い。『戦匠』は槍状態の『月天女』を、そして更に左手にヒーターシールドを展開して加速して接近する
っぶねぇ……こんなもんまでパクってやがったか。能動的な武器破壊による残骸の散弾。言葉にしてみればやってることのデタラメさがよく分かるだろう
さて、敵のヘキサウェポンは銃、剣、槍に変形するという情報を念頭に置いてこの間合いは対処すべきか。光による攻撃があるのでどう足掻いてもリーチは相手に負ける。ならば懐に潜らなければならないが、オプション付きということが判明した為にあの盾にも注意を割かなければならない
順当に考えれば高い防御性能を発揮するオプションか懐の敵を吹き飛ばしたりするオプションか?
見えない仕掛けと対峙するより順当にヘキサウェポンと対峙するべきか。中距離ならば盾を一度作り直して耐久値を回復して右手にハルバードを持つ。光による二段攻撃があり、更にフォーシス量の差が顕著な為にあまり盾受けは出来ない。なので基本はハルバードで牽制しつつジワジワと削るか……?
しかし、長柄に変えた途端に剣に変えられて詰められたら厄介だ……いや、ここはハルバードで行くか。詰めて来た場合ハルバードをすぐに捨てて別の武器を手に取ろう
間合いの外から放たれたレーザーの様な光による攻撃を盾でまず防ぐ。想定より盾の消耗が激しいが、数回は防げるだろう
まだハルバードを顕現させない。懐に潜ると見せかけて中距離戦に持ち込み、忍耐戦に持ち込む。持久戦ではなく、忍耐戦と形容したのはある種の膠着状態に陥る可能性が高いからだ。そこでどれだけ大きく動くのを我慢出来るか、そこがポイントとなる
奴の槍の間合いに入った。攻撃は……来たッ!
風を裂くような鋭い一撃が放たれるが、上手くガード出来た。攻撃を放ち、腕が伸びきった瞬間を見計らって踏み込むと見せかけてハルバードを顕現しながら足首へと突きを放つ
チィ、読まれていたか。相手の防御の方が少し速い────────
爆裂音と共に右手に走る衝撃
奇跡的にハルバードは離さなかったが体勢が崩れた。そこを狙い澄ました鋭い一撃が此方を襲うが転がるように回避して一度距離を離して持ち直す
危なかった……まさか盾の表面が爆発するとは
アレもオプションか……中々に厄介だ。遠、中距離では相手に有利なのは変わらずに近距離でも相手の方が有利。本格的に面倒な状況になったな
ここはある程度の損傷を覚悟で詰めるべきか?先程までは耐久戦をする腹積もりでいたが、これではあまりにもこちらに不利。相手がまたいつ翔ぶかも分からないのに加え、ロクに攻撃を許して貰えずここからの戦闘は防戦一方と予想される。中距離での削り合いに持ち込めないのなら、近接に持ち込むべきだが…………いや、ここは待ちに徹しよう。あれば俺への対策でもあるが、同時に罠の可能性も大いにある。俺の取れる選択肢を限定していくことにより、自分の狙い通りの戦況に持っていく。そういう戦運びが上手いやつはたまにいる
迫る槍を盾とハルバードで巧みに防ぎ、逸らし、弾きながら逆転の瞬間を待ち望む。わざと隙を作って釣るのも悪くはないが、リスクが大きいしそう簡単に相手が引っかかってくれるとは思えない
だから今は耐える。ひたすらに耐える
暴力的なまでの連撃を捌き続け、はや数分。遂に戦況が大きく動く
相手が翔んだ
はたしてこの選択が正解だったかは分からない。極力隙を見せない消極的な立ち回りを心がけたが故に敗北した事例なんて掃いて捨てるほどある。しかし、この瞬間においてこの選択は正解だったと俺は信じている。否、信じなければならない
天に浮かぶ女神の手にあるのは銃に変形したヘキサウェポン。普段ならば盾でガードするのだが、今回は足で避ける
まずは敵を落とす。今回選択したのは鞭と槍、追い込み猟といこうか
まずは鞭を顕現させ、敵の弾幕を掻い潜る。幾つかかすり、フォーシスを奪い取っていくが今は仕方がない
範囲内に敵を捉えた刹那、鞭を天に振るう。敵が尋常の相手ならばここで鞭の連撃を仕掛ければある程度削れる。鞭の先端部分は微かな時間なれど最高速度が音速に届く程なのだから、通常回避は困難を極める。だがしかし、相手は尋常ならざる『戦匠』。天才の二文字を冠するに相応しい彼女は鞭を見た瞬間にある程度の対策を立て終わっていた
極論、鞭は手元を見ていればある程度の軌道の予測が可能なのだ。しかし、それを実践可能なほどの瞬間的な演算能力は基本的に人は持ち合わせていない。だから理不尽の権化たる天才は煌々と輝くのだ
「【閃光】」
「う……そ……」
しかし……いや。故に、女神は続く槍の一撃を防ぐことが適わなかった。それは追い込み猟。仮面の男は世の中にはそのような理不尽の権化が存在していると知っていた。それ故にそこを逆手に取った
フォーシスアーツ【閃光】。それは強度を犠牲に高速でウェポンを伸ばす技。ここまでくれば何が起きたかは容易に理解出来るだろう
回避されることを前提に鞭を振るい、最適な位置で槍を叩き込める瞬間を狙っていたのだ。この瞬間において回避可能という事実はアドバンテージに見えて実際のところはそうでもない。回避出来ると思ってるからこそ回避という手段に踏み切る、これさえ分かれば回避先で一撃加えることなど造作もない
胸部を貫かれ、多大なフォーシスを零した月女神はそれでも地に失墜することは無かった。しかし、致命的な一撃となったそれは彼女の保有するフォーシスの大部分を消し飛ばし、粘り勝ちという勝ち筋を潰すには十分な役割を果たした。仮面の男と月女神の現在のフォーシス量はやや月女神が上程度
─────────────────
「……すごい」
少女は心の底からそう感じた
彼の戦法は基本的に初見殺し。過去のデータを見返し、粗方の動きを頭に入れることで彼の強みの大部分を削ぎ落とした
更に言えば、彼のウェポンはテトラウェポンであり少女の攻撃を受け止めることはかなり難しい。それなのにここまで耐え凌ぎ、幾度もの誘い出しにも乗らない粘り強さは尊敬すらする
少女は楽に勝てるとは思っていなかった。しかし、ここまで苦戦するとも思っていなかった。究極的に言えば彼は特別さを持たない凡人であり、少女は運命に選ばれたと言っても過言ではないほどの天賦の才を持って生まれた
開発者と戦闘者という二つの側面を持つ彼女は「最強を生み出したい」という幼稚とすら言われそうなほどの願望を抱いていた。しかし、ウェポンは基本的にヘキサウェポンが最強でありトライウェポンは入手困難、必然的に彼女が手を伸ばすウェポンはテトラウェポンとなった。しかし、ヘキサウェポン使いでもある自分がテトラウェポンを使ったところでそこに驚きこそあるかもしれないがそれを真に強いと思わせる説得力など生まれない。仮にヘキサウェポンを捨てたところで相手や観客は手を抜いているとしか捉えない。他者に使わせようとも、少女が満足するレベルの生徒はヘキサウェポンを所持しており少女と同じ状態に陥る
彼女は強すぎたのだ。己の願望を果たし、証明するために必要な人材は己ではダメであり、常に要求値を満たす人材を求めていた。だからこそ、仮面の男は彼女の理想に当てはまる人材だった
打算の為だけに決闘を持ち掛けた
打算の為だけに戦った
しかしこの瞬間、彼女の心境は変化しつつあった
目の前の男を倒したい
極めて純粋な渇望が少女の胸を埋め尽くす。この死闘が何よりも楽しい、命を削るような感覚が心を震わせる。戦場に身を置くこの瞬間に何にも代えがたい悦びを感じる
仮面の男の計算外……いや、男が失念していた少女の「戦闘狂」という側面が今、十全に発揮されようとしていた
─────────────────
さぁ、ラストスパートといこうか
女神の頬は上気し、朱色に染まっている。見上げる構図となったことにより、殊更にその微笑みが神秘的に見える。しかし、その笑みに仄暗い悦びが混じっているのを確かに見届けた。厄介なモノを目覚めさせたのかもしれないが……それもまたよし、その全てを打ち砕くまでだ
敵手はヘキサウェポンを剣に、そしてもう片方の手には斬るというより、叩き斬ることを目的としたナタのようなウェポンを顕現させてきた
それに対して此方は右手に斧、左手にメイス。ヘキサウェポン相手に撃ち合いするのならば重量級の得物が望ましい
「【玉兎湖月】」
そして、当然ここでフォーシスアーツを使ってくるか。発動したのは羽型ヘキサウェポン、内容はブーストか?
刹那、壮絶な笑みを浮かべて月女神は撃ち出された。ブーストなんて生易しいモノじゃない、過剰加速で撃ち出されたアルマの鉈の一撃は重く腕が痺れた
しかし、一撃で終わるわけがない。次に振り抜かれた剣をメイスでガードするが、暴力的な光が迸りメイスが粉砕される。至近距離で受けるとこれ程の威力になるのか
ダダンッ!
と、破裂音と打撃音が混ざったような音を残してアルマは高速で俺の背後に回る。エリザベスの【狂嵐怒濤】程ではないが、目覚しい加速だ。背後に仕込んでおいた盾型ウェポンを起動し、背中に走る衝撃を防ぐと共に振り返りながら斧で薙ぎ払う
しかし、またもや高速で加速して俺の背後に回る。ダメだ、尋常の手段では捉えられない……が、対エリザベス戦の応用でまだ何とかなる
背中の盾が割られ、その衝撃で此方のフォーシスが削られるも逆手で顕現させた槍型ウェポンがしっかりと背後のアルマに突き刺さった感触があった
「ふふっ……」
「まだまだ行くぞッ!」
突き刺さった槍が叩き折られる感触があった。それと同時に斧を手放しハルバードを顕現させて振り向きながら薙ぎ払う。ここでまた背後に回ってくれるのならばあと一撃叩き込めるが……
流石にそこまで甘くないか。後方に跳躍して回避された。敵のフォーシスアーツの内容は恐らく元々の能力である板の生成の効果に、板が物体を反射させる効果を持たせたものだろう。それにより自分を弾き飛ばしての高速戦闘を実現している
これが意味する所は…………早速お出ましかッ!
既に鉈は消え去り、その手には曲剣が握られている。ただでさえ防ぎにくいのに、ショーテルなんざ持ち出されたら厳しいぞ
そんな事を思う暇もなく、ヤツは上空に撃ち出される。そしてそのまま地面に向かって跳弾、水平方向に跳弾、斜め上空に跳弾………俺を囲むように超高速立体機動が展開される。地に足をつけなければならない俺を容赦無く狩猟の女神は狩り取ろうとしてくる
動体視力強化のオプションを起動してようやく安定して目で追えるほどだ。ハルバードを捨て、メイスと剣、そして体の各所に仕込んだウェポンでそれぞれの攻撃を対処するもかなり苦しい。生き残ることを前提とし、最優先目標を設定するならショーテルの破壊だろう。完全に此方を削ることを目的としたそれはそもそもの製造経緯からして防御を許さない設計だ。恐らくオプションもあるのだろうが、それは恐らく『破壊戦技』。破壊されることを前提として、破壊されてもダメージを与えられる面倒な仕様だ
迫るショーテルを運良くメイスで破壊出来た。そしてその瞬間──────
「『破壊戦技』」
場所が良かったため、致命傷にはならなかったがそれでも削られた事実は変わりない。笑ってしまうような死地の中だが、まだ俺は生きている
まだ、まだ伏せ札はある。最高の瞬間にコイツを叩き込んで勝利を掴む
その瞬間を虎視眈々と狙い、俺は耐え続ける。互いに武器を壊し合いながら、フォーシス量を削り合う。相手はフォーシス切れが近いのか最初のような連続加速はしてこないが、それでも容易に攻撃を当てられる速度ではない。
しかし、俺も余裕なんてない。高速戦闘はエリザベスで慣れてはいるものの、この速度の三次元戦闘は経験が浅い。それ故に傷はこちらの方が多くアドバンテージなどほぼ無い
だが、ついにその瞬間が来た。正面上空から俺に向かって己を射出する体勢。ほぼパーフェクトな位置取りだ
手には槍と剣。この一撃で全てを決める
弾丸のような速度で迫る『戦匠』。しかし、それこそが致命傷となる
「【閃光】」
槍を構え発する四文字。敵手ならばここまでの戦況を分析し……いや、分析しなくても何が来るかなど容易に想像がつくレベルだ。槍をよく見て対応すれば大丈夫。槍と剣を両手の武器で凌いで、今回傷が与えられなくても次がある。そんな油断が貴様の命取りとなるッ!
文字通り、炸裂する閃光が敵の目を潰す。通常、人間は強い光を浴びると萎縮してしまう。高速戦闘においてその一瞬の硬直は命取りであり、軌道修正はもはや不可能。盲目の状態でこの剣を防ぐことなど叶わない
俺の、勝ちだ
ガギィン!
まずは笑い声が出た
目の前のどうしようもない理不尽に呆れるほど心の底から歓喜した
やりやがった
勘だけで攻撃を防ぎやがった
そうか、そうか!
俺はここまで凄い奴と戦っているのかッ!
この身を包む歓びと興奮。溢れる畏敬の念
その全てが心地好く、この感情を零さずにはいられない
「クックック……ハッハッハッハッハッハッハッ!!!!最高だッ!!!!素晴らしいッ!!」
全ての手札は消え去った。傍から見ればもはや敗北必至
だが、この程度で諦められるほど俺は行儀が良くない。こんな素晴らしい相手との死闘を簡単にやめられるわけがない
「さぁッ!!!!終幕と行こうかァ!!!!」
後は全てを出し尽くすのみ。真の終焉へと足を踏み出そう
まず槍を捨てての左ジャブ。まだ目が眩んでいるはずなのにスウェーで回避しつつ、バク転しながら距離を取られる
まだだ。片手投擲斧を瞬時に顕現させたて投げ放つも剣で迎撃される。ハルバードを片手に詰め寄り、突きを放つ。しかしながらも、槍に変形させたヘキサウェポンで弾かれる
……コイツ、もう目が回復してやがる。予定より速いぞ。だがいい、もはや退路は無い
飛んでくる光の刃をメイスで叩き潰し、それと同時に飛んでくる銃弾を盾をメイスを放りなげて盾とする。その隙に踏み込んで加速し、ポールウェポンで腹をどつこうとするも払われて終わる
放たれたファルシオンの一撃をガントレットで殴り飛ばし、至近距離で放たれる銃撃を手元を見て弾道を事前に予測してサイドステップで回避。そのまま三日月刀で切り付けるもファルシオンから持ち替えられたククリ刀で受け止められる
刻限が迫りつつある両者は、それ故に一際眩い光を放ちながら己の全てを放出していく。心の底からこの剣舞を楽しみ、その証左としてお互いの顔には隠すことの出来ない闘争への歓喜が張り付いて離れない。面白くて堪らないといった様子で高らかに笑いをする仮面の男、あらゆる男を虜にするような身震いするほど美しい微笑みを浮かべる少女。永遠に均衡するかと思われたそれは卓越した技術を持つ歴戦の戦士が今この瞬間にも成長する天才少女を凌駕しつつあった。一閃毎に思い出したように洗練されていく連撃は少女の成長速度を上回っていた
そう、だからこそ少女は次の一撃でもって勝負を決することにした。『月虹蝶』を伴い、月女神は淡い燐光を散らして天に昇る。その手には『月天女』、最後の一撃は必殺技こそが相応しいと
対する男は熱狂に呑まれた嵐のような歓喜の中心部にある透徹した狩人の如き理性でこの状況を分析する
どのようなフォーシスアーツであれ、回避は難しいだろう。ヘキサウェポン使いの相手よりフォーシス量は若干多いがそれでどうとでもなる問題でもない
敗北
その二文字が全てを満たしている。気合いでどうにか出来る範疇では無い
現状の持ち札ではどう足掻いても突破不可能
なれど我が身は人の子。絶えず思考を続けることでこそ活路を見出す存在である。故に、脳が焼ききれるほどに多少無茶でも突破方法を産み出さんとする。尋常の方法では不可能、全てを覆すような一撃をッ!
男の脳には回避や防御などという思考は半ば消えつつあった。確かに回避不能の可能性が高く、ヘキサウェポンという大出力から繰り出される一撃は防御も不可能に近い。しかし、この玉響のひと時を男は貪るほどに愛している。故にこそ、真正面から撃ち破りたい。そう思うのは半ば必然でもあった
そして、男に天啓が降る。いや、女神相手にこの表現は不適切。男は流星の如き閃きを会得した
それは馬鹿げた理論だが、今この瞬間にこそ相応しい一撃を放つことが出来る
「フォーシスアーツ、【絶世の月虹】ッ!!」
「コネクトアーツ、【三ツ星の一矢】ッ!!」
奇しくも互いの手にあるのは同じ武器であった
荘厳なる月虹の大弓
竜すら射落とす剛弓
どちらも最終局面に相応しい威容を放つ業物である
天に矢を番える不遜なる男を誅さんと
必ず中る月光が轟音と共に地に放たれた。カリュドーンの猪もかくやという天罰にも似たその一矢は音速を越えた証明を撒き散らしながら男に迫る。それは音速突破の猟犬、月女神の放つ神の一矢は条理を無視して回避しようとも追尾する。故に尋常の手段では一秒と防ぐことすら許されず、回避も不可能
対する男は空を統べる月女神を射落とさんと、常人では引くことすら能わぬ弓をフォーシスによる身体強化で無理やりにも引いて矢を射る。その業物の正体は二張りの弓形ウェポンを連結させた剛弓。そして番えられた矢は槍型ウェポン。その全てがフォーシスアーツ発動状態であり、文字通り己のフォーシスを残りカスまで搾り取って放つ渾身の一矢。極限まで研ぎ澄まされた男の精神は獣の面の動体視力強化にも助けられ、女神を穿たんとする
一瞬の空白ののち、天地両方から放たれた閃光は空中で激突する。神罰の月光と眩き閃光、そのどちらが勝利しても可笑しくはない。本来ならばヘキサウェポンのフォーシスアーツこそが優位に立っており、比べるまでもないのだが今回の相手は三重フォーシスアーツ。ここまでしてようやく並び立てるやもと思わせるヘキサウェポンに呆れるべきなのか、この死地でその技を編み出した男を褒めるべきか
その勝負の結果は─────────────
《試合終了》
無機質な機械音声がその決着を報せる
天より注ぐ月光を双つに裂いて進む獣の咆哮にも似た狩人の一矢。その一撃は回避すら許さず、女神の心臓を穿った。男の勝因となったのは【絶世の月虹】が必中に重視を置いた技であったこと。そしてなにより空中で当てることが出来たことだ。長年の経験と勘、そして動体視力強化の補助があったとはいえ放たれる矢の軌道を完全に読み切ることは不可能に近く、実際賭けであった。それでも最後まで勝利への道筋を諦めず、己にできる全てを費やしたことにより一か八かの状況まで持ち込めたことは賞賛に値する
「「「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」」」」」」
固唾を飲んで見守っていた観衆が堰を切ったように沸き立つ。鳴り止まぬ拍手と労いの言葉は心身共に消耗しきった二人に心地よく降り注ぎ、死闘の余韻に浸らせる
「いい戦いだった」
「ん。次は負けない」
互いを認め、称えるように握手をして訓練室から去ろうとすると………
「次は私と戦いましょう!!!!!今すぐ!!!!」
「エリーステイ」
おう、金髪バーサーカーめ。常識的に考えて無理に決まってんだろ。そして第五位、実はあんまり止める気無いな?さっき一瞬こっち見てニヤッとしたぞ
「無理」
「問答無用ですわ!!!」
「賭けの内容にアイツとの戦いを引き受けるってあったよな?」
縋るようにアルマの方を見るも、心底面倒くさそうにエリザベスを見て去っていった。おい、せめて一言くらい言えよ……
いや、俺も無言で去ればいいのでは?クソほど疲れたし、もうやる気が起きない。ため息を吐きながら出口に向かうといきなり肩をガシッと掴まれ、引き摺られるように訓練室に戻される
「やめろぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」
その後、初手から【剣聖】とテトラウェポンの二刀流かつ【狂嵐怒濤】を起動した金髪バーサーカーの攻撃をモロに食らって一撃でフォーシス切れになり気絶した
あとから聞いた話によると、満足いかなかった金髪バーサーカーは次々と無辜の学生を手にかけていったという………
その情報は瞬く間に学園内を駆け巡った。なにせ対戦相手はヘキサウェポンを持たず、知略と駆け引きと時の運。己の全てを出し切ることで格上殺しを成し遂げたのだから
それはなにも無名の学生ばかりに広まった訳ではない。当然あの試合を見ていた人物は多く、記録されていたこともあり男が想像していたよりかなりの人数がその顛末を知る事となっていた
「はぁ…………そりゃあ確かに頑張って勝ったが、あの後の試合で結構ボロボロに負けたじゃん。なぁ、委員長」
「エリーの高速戦闘についていけているというだけで一目置かれますよ。現に私だって貴方には高い評価を与えています。奇抜なウェポンの使い方に目が行きがちですが、アレは基礎が忠実に出来ているからこそ出来ること。研鑽を重ね、自己を高める姿勢はとても好ましいものです」
日直として共にダンボールを運ぶ男女。先生に良いように使われてはいたが、学生としては珍しくない光景だろう
しかし、並んで話す両者は珍しい人物だ
片や今話題の『疵獣』
片や学園5位の『聖騎士』
強者というのはただ居るだけで覇気を振り撒く
見た目に似合わずフランクで人当たりのいい(と、されている)仮面の男ならいざ知らず、『聖騎士』ノラ・アーキテクトはその美貌と厳格な性格が相俟って神聖で近寄り難い雰囲気を醸し出している
「んなもんかねぇ……」
「到着しました」
学長室の前で二人は止まる
4回ノックし、荷物を運び入れる為に学長室のドアを開けて中に入る
「おっと、先客が居たようだ」
中には一年と思わしき人物が二人。両者ともに女の子のようだ
片方は亜麻色の髪の元気そうな子で、もう片方が銀髪の大人しそうな子
いや、桃髪合法ロリはほぼ寝ていて、ほぼ二人で話しているみたいだがな。仕事しろ学園長
「あ、先輩!」
「スローネさん。お疲れ様です。資料はここに置いておきます」
ノラは脇の方にダンボールを置いたので俺もそれに倣う。ようやく開放されるぜ……
それにしても、亜麻色の髪の子はスローネと言うのか。何処かで聞いた気もするが……
「ん~、君、よろしく~」
あ、起きた。そして開口一番解読不可能な言葉を此方に投げてくる。言葉のキャッチボールをしろ学園長
「えぇ!?本当に大丈夫なんですか?それに本人の意思も……」
ん?このスローネって子何に対して言葉を紡いでいるんだ?正常な脳みそをしているのなら学園長の言葉かもしれないが、あの断片的情報から何を読みとれると言うんだ
「学園長はなんて仰ったのですか?」
「『そこの君、この子の世話をよろしくね。これ、学園長命令』だそうです」
え、マジで学園長の言葉を解読してるの?凄くないかコイツ
いやぁ、俺にはその内容がサッパリだったぜ。そして今クソみたいな面倒事の気配がするワードが出現してるけどまぁ、うん。知らね。状況的に見てそこの銀髪の子の世話係だろうし
頑張れ委員長
「だ、そうですよ。頑張ってくださいね」
「嘘だろ」
やっぱ俺かぁ……
「ところで、先輩。この人って……」
「丁度いい機会ですし説明しておきましょう。先日転入してきた、武術科二年所属のシャアさんです。苗字不明、経歴不明の不審者です」
「おぉー!『剣姫』ヴィントホーゼを倒した赤い彗星ですね!」
「おい、説明の仕方がもう少しあるだろ」
というか今、色々な方面で危ない匂いがしたぞ。別に俺は三倍早い訳でもないし、年下女の子にバブみを感じたりしないからな!
「対してこちらは武術科一年所属、生徒会長のスローネ・フェネクスさんです」
ん?一年で生徒会長……?それまた随分な肩書きで……まぁ、この学園のことだから「最強の人物が生徒会長」みたいになるのか?
となると、目の前のコイツがこの学園最強ということに……
「生徒会長への推薦理由は学園長と意思疎通が可能という理由です。彼女もヘキサウェポン持ちであり、実力も申し分ありません」
「えへへ……」
ウッソだろ。そんなアホらしい理由で生徒会長になるなんて……いやでも、俺の時も欲しかったな。通訳が居ればもう少し色々と詰めて話せたはずなんだが……いや、こんなこと考えてる時点で俺も大概毒されているな……
もう少しマトモな学園に転入したかったぜ…………というか、色々ありすぎて忘れてたが俺そこの銀髪ロリの介護をしろと命じられなかったか?
「えーっと、世話ってなにするんだ?」
「恐らく、相部屋になって生活の補助をするのでは?貴方は現在、一人部屋ですし」
「ん、よろしく」
おぉ、嘘だろ。快適な一人生活がついに壊される時が来てしまったのか……いやだが、流石に男女が一つ屋根の下というのは問題ではないか?お子様ランチがまだ食べれそうなスレンダー(笑)な奴だが、生物学上は一応女だ。そして、料理とガーデニングが趣味の俺も一応生物学上は男だ!
そう、此処を攻めていけば勝機が拓けるッ!!!
「男女相部屋というのは風紀面で問題があるのでは?」
「きみ~、枯れてるんでしょ~?」
場が凍り付いた
まさか的確なカウンターを決めてくるとは……いやホントどうしよ。大勢の人の前で公言しちゃったよ……
「いやでも、万が一とか……」
「……ふっ」
あ、コイツ鼻で笑いやがった。なんかムカつく
その後もなんとか粘ったが、のらりくらりと躱されてなし崩し的に介護が決定した
なんで異世界に来てまで介護をしなければならないのか。運命とはまこと理不尽である
「俺の安寧がぁ……」
「まぁまぁ、役得というものですよ」
慰めにもなってない言葉をかけられながら、一旦俺とノラは学長室から退室する。後で部屋の整理をしておかねば…………デバイスの整備で散らかしたまんまだから、今結構汚いんだよな
「「あ」」
ん?扉の前で一年生が二人聞き耳を立てているな……って、ここで遭遇するか第一監視対象と第二監視対象
予想外の邂逅だが……まぁ、それは置いといて部屋に入る機会を伺ってたのか?となると、まだあの二人(学園長は基本寝てるので除外)の話はもう少しかかるかもと伝えてやるべきか
「あの、先日訓練室でヴィントホーゼさんと戦ってた人ですか?」
髪を後ろに束ねた黒髪の男。フリード・レクトがこちらに尋ねてくる
というか、見られてたのか。いや、見られてるよな……うわぁ……面倒臭いぞぉ……
「あ、あぁ。そういうお前さんはフリード・レクトか。そちらの戦いも少し見させてもらった」
「私も記録映像でしたが、拝見させて頂きました。両者ともによい戦いでした」
その隣に居る白髪の少女。『氷華の魔女』フロスティア・ライとの退学を賭けた決闘を少し前にしていたのを確認している。ノラは少し気を使っているが、試合内容を簡潔に説明するなら「瞬殺」だ。試合開始と共に速攻で距離を詰めて一閃。そこで試合終了
そういえば、フリード・レクトの姉の方が武術科の先生でアホみたいに強かったのを覚えている。やはり家系というものだろうか。それとも、良き師に恵まれたのか
姉の方といえば、あの一戦の後に目をつけられて授業の模擬戦でボコボコにされるまで扱かれた
『剣姫』許すまじ
「えぇ!?ホントですか?なんか恥ずかしいなぁ……」
「ハッハッハ、お互い様だな」
ファーストコンタクトは良好と言ったところか。いずれ(下手したら今でも)俺を瞬殺出来るほどの実力者とは敵対したくは無いからな……
人脈は力ともいうし、コミュニケーションを取って仲良くするのは良い事だ。俺を見習え学園長
「あのー、たまたま通り掛かった時にちょっと聞いてしまったんですが……貴方も?」
あぁ、通り掛かっただけなのか。して、「貴方も」という言葉の真意は……
そういえば、決闘の理由が「フロスティアがフリードとの相部屋を嫌がったから学園長に直談判したら、学園長が決闘して決めろと言った」というのが発端だったか。成績の芳しくないフリードは退学のリスクまで背負わされた一世一代の大勝負といったところだ
これを踏まえて考えると「貴方も勝手に女の子と相部屋にされたのですか?」というものだろうな
「あぁ、全く困ったものだ」
そう答え、苦笑いしてどちらからでもなく握手をする。こいつも苦労してんなぁ……
「それじゃあ、機会があったらまた会おう」
「はい!」
─────────────────
ということで予期せぬ邂逅が終わり、ノラとも別れた。さっさと自室に戻り、片付けを済ませておくか。それと同時にあの銀髪ロリの情報を集め……ん?そういや、名前聞いてなかったな
どうせ変なやつであるのは間違いない。学生のうちで要介護ってどんな人生送ってるんだよ
散らばったウェポンとその整備道具を隅の方に寄せ、スペースを確保する作業に従事していると扉が開く音がした。視線を向けると、銀髪ロリと生徒会長がチラリと見えた。生徒会長の方は少し話した後に去ったようで、後には銀髪ロリが取り残されていた
「おーっす。散らかってるのは勘弁してくれ」
「ん、大丈夫。私も片付けられない」
お、おう。そんな堂々と宣言する事でもないと思うが……
俺の時より少し大きなトランクケースを手に、銀髪ロリが部屋に踏み入る。足取りを見れば分かるが、多分コイツも強い。それもヴィントホーゼと同じくらいには
嘘だろ。なんで俺はこうもハズレくじを引かされるんだ。いや、アイツに比べたら襲いかかってきたりしないだけマシだが
「…………なにこの数。しかも、予備じゃなくてほぼ違うウェポン」
「少々変則的な戦いをするもんでな。端的に言えば使い潰す戦法だ」
かなりウェポンに詳しいみたいだな。俺には何処が違うのか皆目見当もつかないのだが、ウェポン開発の技術者はある程度の違いが分かるという話だ
「……私にみせて。調整する」
「ん?一応一通りの整備は俺でも出来るぞ」
あんな馬鹿みたいな戦法をするから、普通のメンテだけでは足りないので開発科に足を運んで簡易メンテの仕方を教えて貰った
向こうにも何かと面倒くさそうな奴はいたが、それは今は置いておく
「私、元開発科。今回武術科に転入した」
「マジか」
うん?強さを読み違えたか?武術科ならいざ知らず、開発科では大した戦闘訓練も無いはずだから強くなれる環境は整っていないはず
銀髪ロリはというと俺の考えなどいざ知らず、散らばったウェポンを一つ一つ手に取り検分していた
「……砕かれてる?あなたのフォーシス量なら、そうそう砕かれないはず」
「バーサーカーに攻撃型のヘキサウェポンでぶっ叩かれた」
ちなみに、あれからかなりの回数戦ってるが十回に一回くらいしか勝てない。いや、十回に一回は勝てることを喜ぶべきなのだろう。というか、回数を重ねる度に小技を覚えてきているので前より厄介になってきている
ちなみに勝ち筋として多いのは、小技を無理に使用しようとしたその隙を突いて……というパターンだな
「ヘキサウェポン、持ってるの?」
「生憎と今のところ適合した奴は見つかってない」
実は嘘だ。申請とかが面倒なので全くやってない。やたらと金髪バーサーカーが薦めてくるのだが、アイツは俺以外の対戦相手を探すべきだ。というか探して欲しい
それにヘキサウェポン持ちとなったらそれこそ挑んでくる人が増えそうで怖い。中途半端な強さというものは己の身を滅ぼすものだ
「……はい」
整備が終わったらしいウェポンを渡してくる。感覚を確かめるために展開してみたが、かなり驚いた。展開に必要なフォーシス量が減っており、それでいて硬度は保たれている
元開発科の肩書きは伊達ではないようだ
「これは凄いな……形状の調整とかも出来たり?」
「もちろん」
おぉ!!!
これは良いぞ。画一化されたウェポンというものは確かに利便性が高かったが、もう少し俺好みにカスタマイズしたかったところだ
世話をする代わりに色々調節してもらうとしよう。そうじゃなきゃ俺にメリットなんて微塵も無いし、これくらいは得してもいいだろ
「……そのヘキサウェポン使いに、勝った?」
「ボロ負けが続いてるが、たまに勝つ」
「映像、みせて」
「ヴィントホーぜ・エリザベスで調べたら出てくるぞ。あいつ、最近俺としか戦ってないし」
「ん」
銀髪ロリは生徒手帳(というよりかは身分証明可能な電子端末)を操作し、過去の記録を探っていく。すぐに見つかったのか、大量の試合記録を順繰りに見始めた
目線は生徒手帳の方に向けているが、整備の手は止まらない。ウェポン開発のことは分からないが、かなりの腕なのは確かだろう
邪魔しては悪いので、風呂の掃除に夕飯の買い出しと準備をすませるべく行動開始。学食で食うのも悪くないが、初日から学食ってのも味気ないだろうということで腕によりをかけて料理を振る舞うことにした
──────────────────
風呂掃除の後に買い出しに行き、戻ってきてもまだあいつは試合記録を見ていた。整備は粗方終わったらしく、自分のトランクケースの中から俺の知らない整備機器を取り出してカチャカチャと弄ってる
まぁいいか。悪いようにはならんだろうし
「アレルギーとか好き嫌いあるか?」
「ない」
「了解」
それなら今回のメニューは当初の予定通りで大丈夫。カレーやハンバーグといったみんな大好きシリーズの一つ、「からあげ」が今日のメニューだ!
俺はジューシーなからあげが好きなので鶏もも肉をチョイス。スジや脂肪部分を取り下味の揉み込みを開始する。油分の少ない調味料から仕込んでいくのがポイントで、最初に油分が多い調味料を加えると食材に油膜ができてしまい、ほかの調味料が浸透しづらくなってしまうとのことだ
塩、胡椒を最初に。次におろしニンニクとおろし生姜、その後に酒・醤油を揉み込み五分置く。そのどれもをしっかり浸透させることを忘れてはいけない。最後にごま油を軽くまぶして油膜により調味料を閉じ込める
次に衣だ。まず小麦粉を鶏肉に揉み込むように加え、次に加える片栗粉は表面にまぶすにしておく。こうすることでサクッとした食感になる
さて、揚げていこうか
ここは重要なので詳しくいきたい……え?要らない?OK、それなら飛ばそう
ということでメインのからあげを作り終わり、汁物に味噌汁。サラダを添えて完成
おっと、ちゃんと白米も忘れてないぞ?
「飯出来たぞ~!」
「わかった」
銀髪ロリは作業を一旦区切り食卓に着く。料理はお気に召したようで、目をキラキラさせている
「「いただきます」」
そういえば、驚いたことに「いただきます」という文化はこの世界に存在するようだ。言わないより言うほうが好きなので嬉しいことだ
「そうそう。お前の名前聞いてなかったな。俺の名前は聞いたと思うがシャアだ」
まぁ、偽名なんだが
「ルナ。アルマ・ルナ」
「おう、よろしくな」
「ん」
こうして、飯の時間は過ぎていった
話の中で分かったが、コイツ二年らしい。一年の生徒会長より背が低いぞ……
───────────────────
さて、寝る前に同居人の情報でも漁るとするか
<30分後>
いやぁ……なんかそんな気はしたけどさぁ……
目の前に表示されたプロフィールをもう一度確認して溜め息を吐く。ウィンテスト学園在籍時の情報なのだが、かなりの大物ということが分かった
要約するとこんな感じか
アルマ・ルナ
二つ名は『戦匠』
現在は返還しているが、当時はヘキサウェポン使いでもあった
開発科所属なのは事実であり、そちらの成績が芳しくなかったから実績重視のウィンテスト学園から退学を言い渡された
その戦闘記録は苛烈そのもの。普段の無気力さはどこへやら、圧倒的なまでの力で相手を倒している。金髪バーサーカとはまた違ったタイプの戦闘狂の気配がするぞ
そして、開発者としての才能が無いわけではない。むしろ、戦闘者としての才能よりもこちらの才能の方がある程だ。ただ、彼女が作るウェポンは汎用性が低く癖が強いとの評価が大部分を占めている。しかしながら、高い技術力を持ち合わせていた彼女は既存の仕事ならば高い精度で終わらせるために企業案件も幾つか請け負っていたようだ
戦闘者としも、開発者としても一流といえるコイツは本物の天才って奴なんだろうな。だが、せめて少しは家事を手伝って欲しい。流石に風呂は一人で入れるようだが、生活能力が皆無という極端なやつだ。いや、むしろ天は二物を与えないという言葉通り才能しか与えられなかったのかもしれない
まぁ、なんにせよそろそろ寝るとしよう。厄介事が無ければいいのだが……
──────────────────
アルマがこの部屋に来て今日で一週間だ。家事の全てを俺に任せ、悠々自適に寛いでいるアイツを見ていると偶にイラッとする。しかし、ウェポンの調節を偶にしてもらえるのでそこでトントンとしている
「決闘」
「開口一番それ?」
物凄く既視感を感じるのは気の所為だろうか。朝食を食べ終え、洗い物をしているとトコトコと歩いてきたアルマからそう告げられた
「私が勝ったら、神樹戦のどれかに出て」
「嫌だぞ。面倒な」
内容まで似てるぞ。コイツ、金髪バーサーカーの親戚か?
「あなたが勝ったら、私を好きにしていい」
「それなら一人で家事をして貰おうかな」
「それは不可能」
「じゃあダメだ」
「……むぅ」
可愛くむくれてもダメだぞ。というか、戦闘記録を見たのならあのやりとりも見てるだろ。何故自分なら食いつかれると思ったのか
「あなたの武器の整備およびオプションの付与。ならびに武器開発を無償でする」
「むっ」
それは魅力的な提案だということは分かる
学生のうちから企業に声をかけられるような天才の技術を無償で借りれるのだ。一人で整備するのも、オプションを付与したり新しく買うにも少なくない金がかかる
だが……
「俺はそこまでして強くなりたい訳では──
「それに加えて、『剣姫』との試合をたまに引き受ける」
「乗った」
あ、反射的に言ってしまった
コイツ、俺の弱みを的確に……
まぁ、当時のヘキサウェポンは学園に返還したと聞いたし大丈夫だろう。ここ最近、こいつがヘキサウェポンの適性検査受けた気配とか無いし
それでも油断ならないから、しっかりと頑張らないとな。神樹戦出場とかいう俺からしたら公開処刑みたいな状況は避けたい
──────────────────
そんなこんなであれよあれよと流されて訓練室まで連行され始める。朝っぱらから元気だなおい
すると前方に『聖騎士』と『剣姫』二名を発見。恐らく自主トレ後だろうか、タオルを首にかけている
「あら、おはようございます。校内デートですか?」
「デ、デート!?君、見た目が犯罪者正規軍なんだからそういうのはもう少し目立たない所で……」
「おはよ。決闘を挑まれて、受けてしまった」
犯罪者予備軍ではなく、犯罪者正規軍ってなんだよ。転校してから随分日もたったし、いい加減みんな慣れただろ
「私が勝ったら神樹戦に出てってお願いした」
「え、本当?【焔竜戦】か【明鶏戦】に出るなら一緒に出ようよ。【焔竜戦】は二人一組、【明鶏戦】は三人一組ですので肩を並べて戦えますの!」
「それはまた災難なことで…………それにしても私を飛ばして4位ですか。私は眼中に無いと言外に言われているようで泣いてしまいそうです」
「え、4位?」
おいおいおい。そんなの聞いてないぞ。第一、コイツ転校してきたばかりじゃないか。俺の知る限りそんな情報は……
「彼女の転入試験は私が担当しました。学園長曰く「10位以内に入れたら転入を認める」との事でしたので、手合わせした結果敗北しました」
「そういうの早く言えよッ!!!」
「ちょっとした茶目っ気です」
無表情でテヘペロを決めるノラにイラッと来たがそれどころでは無い
嘘だろおい。トップ10全員は基本的にヘキサウェポンを持っている。つまりコイツも持ってるって訳だ。というか、持たずに倒してても俺の敗北は確定事項みたいなもんだぞ……
持ってないからいいだろなんて軽い気持ちだったのに、今じゃ敗色濃厚の地獄送り待ちだ
「や、やっぱ無しとかダメ?」
「泣きながらあることないこと吹聴して回る」
「脅し文句が怖すぎる」
「ふふっ、これで君の神樹戦出場はほぼ確定したみたいなもの。私と組みましょうよ!」
「エリーステイ」
泣きたい……猛烈に泣きたい……
いや、ここはもう腹を括って勝ちに行くしかない。しかし、アイツは最近俺の戦闘記録を見て予習バッチリどころかどんなウェポンがあるかすら全て把握している
不利なんてレベルじゃない。あの日金髪バーサーカーに勝利できたのは「手の内を知られていない」というアドバンテージがあったからだ。本当に困ったな……
「さぁ、はじめよ?」
口の端を少し上げて銀髪の女は笑う。整った顔立ちに普段は浮かべない笑みを浮かばせるだけで女神然とした、浮世離れした魅力が溢れ出る
その眼を見て男は理解した。「コイツは本気でこの試合を取りに来ている」と
そこにあるのは獲物を狙う、狩人の眼だった
────────────────────
噂の転入生『疵獣』が『戦匠』と戦う
珍しい対戦カード、しかも二つ名持ち同士の決闘に生徒達は飛び付き、我先にと訓練室に入室していく。仮面の男は知る由もなかったが、学園ランキングの更新という自体は様々な生徒に関心を抱かせており未だ『戦匠』の戦いを見たことが無い生徒はどんなものかと期待に満ちていた
そして、決闘の内容は何かと心待ちにしている生徒達に銀髪の少女は爆弾を投げる
「私が勝ったら、あなたの人生を貰う。あなたが勝ったら私をあげる」
「おい、言い方ァ!」
ざわめく場内。なにしろその言葉の意味を普通に捉えれば「勝っても負けても付き合ってください」なのだから当然だろう。最も、彼女の方はそれも計算尽くで発言したのだが
「お前が勝ったら神樹戦出場に向けて努力する。俺が勝ったらお前は専属のウェポン技師になって、なおかつたまにヴィントホーゼの相手をする。誤解を産む発言はやめよう」
試合開始前からぐったりする男を他所に、機器の準備は完了したようだ。あとは開始のアナウンスを待つのみ
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すぅ………
相手は既にウェポンを展開している。小さな天使の翼のようなウェポンに、銃型のウェポン
フォーシス量からしてこの二つがヘキサウェポンだろう。能力は羽の方は空中浮遊だろうが、銃の方は分からない
そして、目を引くのが俺と同じく身体に幾つか装備したデバイス。ウィンテスト学園在籍時の戦闘記録を見た時はなかったものだ
「……ん、これ?便利そうだから見て覚えた」
「うっそだろ……」
俺はただでさえ面倒な相手をより厄介にしてしまったようだ。戦闘中に武器の切り替えをする生徒が少ないのは武器を切り替えるタイミングに生じる隙を潰す技術を身に付けていないことと、複数の選択肢を与えられるが故に思考が囚われてしまうという二点にある。よって、基本的に武器を切り替えながら戦うというスタイルを真似するとかえって痛い目に合うのだが、この麒麟児はそうはならないだろう。理不尽にも思えるが、それが天才なのだ
《試合開始》
飛翔せるのは不味い
どんな戦いでも、基本的に上を取った奴は強い。人間は真上からの攻撃を防ぐことを苦手としており、遠距離攻撃を空中という安全領域からし続けられるとジリジリと削られるのは避けたい
基本的に銃型ウェポンの弾速は普通の銃より遅く、頑張れば見てから避けられる程度とされている。これだけ聞けば頑張れば避け続けられそうと考える者もいるかもしれないが、フォーシスの限界が来るより先に体力の限界が訪れてしまう
そうなれば後は弱った獲物は狩られる時を待つしかない
故に選択するのは盾と投網
投網等が武器になるのか。と、疑問に思う者も居るだろう。しかし、古の剣闘士の中に網闘士と呼ばれる投網と三又槍を手にして戦う者がいたとされている
この状況での投網の選択は自分でもかなり良いと思っている。新たなウェポンを起動するには少々時間が足りず、このまま飛ぶことは許されず、かと言って対応が遅れればこの初手でかなり優位を取れる
さて、反応は───────
ガギィン
硬質な音が盾から響く。予め盾を構えておいて良かった。彼女の手にはクリアブルーの刀身が煌めいており、光の斬撃をこちらに飛ばしてきたことを刹那の攻防の後に頭で理解する。ほぼ無意識に、長年培った本能で防御していた
さて、アレは可変型ヘキサウェポン。しかも特殊能力が遠距離攻撃とは……
遠距離攻撃が可能ということは攻め続けられるということ。一般的に相互攻撃可能距離での削り合いは双方体力を消費するが、遠距離攻撃では自らの体力ロスは最小限に、相手に動きを強いる。または行動の中断を強いる強力な手だ
これで投網は切り裂かれてしまい状況は向こうに傾いた。天空に飛翔する月天女、逆光を受けた女神は頬を微かに赤く染めて喜悦を漏らす
「いくよ」
名称不明の可変型ヘキサウェポンが消え、その手に現れたのは巨大なレーザー砲のウェポン
………おいおい嘘だろ。アレはどう見ても人一人に対して過剰火力だって否が応でも理解できる。下手したら身長よりもデカいウェポンにフォーシスの光が収束しこちらに向けられる
あぁ、ダメだ。俺より才能があり、俺より優れていて、俺への対策を完全に講じてきている
ここにある全てが俺に敗北を突き付けて嘲笑ってくる。相手は己の持ちうる全てを俺にぶつけてきた、負けても仕方がないんだと猫なで声で囁いてくる
だから─────
「クッ……ハハッ……クッハッハッハッハッハ!いいぞ!この俺を喰らい尽くしてみせるがいいッ!」
こんなにも血湧き肉躍るッ!
口角が歪んだ三日月の如く吊り上がり、傷痕が残る獣の異貌は天を仰ぐ。それは不遜にも女神を喰らい尽くさんとする穢れた獣畜生であり、天に向かって唾を吐く愚昧である
盾とトマホークを構えたその姿は未開の地の蛮族といった感想すら抱かせる。しかし、その認識は一概に間違っているとは言えない。何故ならば、この男の本質はどんなに取り繕っても戦場にあり、男の製造経緯を深く理解すればするほどに流して来た血を思い知らされる
かつて□□と呼ばれた男は月天を笑いながら睨めつける
「フォーシスアーツ、【暗月の女神】」
怜悧な声で女神の名が紡がれると同時に「ズドン」と大気が震撼した。それは速度、威力、範囲とどれをとっても一級品の対魔獣用ウェポンであり、人に使うには少々過剰極まりない代物だ
会場の誰もが、男の敗北を確信した。回避を許すほど『戦匠』の狙いは甘くなく、加えて巨大なレーザーなのだ。雑に打っても当たり、並の防御では容易く溶断されてしまう
……いや、訂正しよう。会場の一人を除いて敗北を確信していた
「あの程度で倒されるほど、私のパートナー候補は軟弱ではありません」
『剣姫』ヴィントホーゼ・エリザベス
この中で誰よりも『疵獣』と刃を交えてきた女傑は蕩けたような笑みで戦場に目をやる。彼女の中では既に戦闘準備は完了している
この後、哀れな生徒が戦の余韻に浸った彼女の剣のサビになるのだがそれはまた別のお話
「【閃光】」
空から響く獣の声
『戦匠』が目をやればお返しと言わんばかりに投擲用斧を振りかざしてこちらに投げてくる男の姿がある。いくら高性能な移動型ヘキサウェポンとはいえ、反動で身体が下がるほどの巨砲を撃った後では若干の硬直時間がある
それを見事に討ち取り、肩からその背後にある翼にかけて斧は抉りとって行った
身体の方に与えたダメージは少ないが、翼型ウェポンでの飛行に支障が出るほどのダメージはデバイスに与えた
さて、何が起こったか説明しよう
と言っても原理は簡単だ。敵手の戦技に対して此方も戦技を使ったまでの話
その内容は単純で「強度を犠牲に、高速でウェポンを伸ばす」といったもの。結果だけを見れば盾を巨大化し、上に弾き飛ばされた所で斧を投げたというシンプルなものだ。1.5倍の消費量といえど、一瞬のみの展開ならばさして消費は変わらない
盾の下部はレーザー砲により消失しており、男と月天女は共に地に落ちる。最も、無理な体勢で空中に打ち上げられた男の方はレーザー砲で盾を消されなくても数秒後には地に落ちていたのだが
「っ……」
飛行型のウェポンを引っ張ってきたのだ、撃墜されることは想定済みだろう。だが、高所からの落下というのは慣れていなければある程度の恐怖が伴う。運が良ければ変な体勢で落下してくれるが敵手にそんな可愛げを期待するのは浅はかだ。しかし、現実問題として経験や体勢の差で復帰時間が変わってくる
仰け反った姿勢で落下するアルマはあのまま落ちれば確実に俺の方が復帰が速い──いや、この場面ならば落下をまたずに投槍で削るのもアリか。飛行不可能になったのなら後は落下するのみだ、武器で弾くことでしか対応出来ないのに仰け反った姿勢なので足元の防御が疎かになっている
投槍を顕現させて放つ
さて、何か隠し玉でもあれば暴きたいものだが……
放たれた槍を彼女は空を蹴って回避する。翼型ヘキサウェポンの能力か?飛行能力は削ったはずだが、特殊能力は生きてたって訳か……見たところ、障壁生成能力だな。要所で使ってこなかった所を見るに飛行中は使用出来ないという制限があるのか、特定部位にしか出現させることができないという制約付きだろうな
────────────────────
神の失墜はならず、未だ獣は地に這いつくばる
空で体勢を建て直し異貌の獣を優雅に見下ろす月女神。傍目には有利不利は変わらず、女神の勝利は時間の問題だと観客の大部分が思っていた
「大砲を上手く封じましたね」
「もう一度狙おうとしてもまた攻撃を加えられるリスクがある。空に上がった所を狙うにしても、あの反動ではまともに狙うのは難しいでしょうね」
「しかし、『月虹蝶』が修復されるのは時間の問題です。『月天女』の能力も存在するため、空中から一方的に攻撃出来る有利な状況は変わりません」
「さて、どう攻略するのかな?」
未だ不利な状況にあるとは思っているが、彼女達は若干程度だろうと戦局を見守っていた
────────────────────
チッ、堕とせなかったか
レーザー砲に対しての牽制は出来たが、他の銃類への牽制にはなっていない
敵手が確実に勝つ方法としては上空から銃撃し続けることだ。俺の20倍はあろうかというフォーシス量は雑に飛行して、攻撃しながらでも俺より持つ。先程の砲撃で幾らかは削れたようだが、大局を見れば誤差の範囲だろう
さて、次はどんな武器を───────
いやぁ、だから過剰火力だって言ってるだろボケ。なんで巨大チェーンソーなんて開発してるんだよッ!!
いや、確かに俺も三枚刃の巨大チェーンソーで挽肉を量産したことはあるが、それを自分に向けられるとは夢にも思わなんだ
「ふふっ」
ここで近接に切り替えてくるとは少々驚いた。遠距離攻撃に徹すれば俺の敗北は濃厚だっただろう。それを捨ててまで万が一という自体が起こる近接戦闘を仕掛けるということは何か裏があるはずだ
しかし、そこを差し置いてまず厄介なのが敵の武器だ。俺の盾でチェーンソーを受けることはまず不可能。エリザベスの『剣聖』のように盾を「削る」ことに特化しているので弾くか逸らすか避けるの三択に行動が限定される。ここでの選択をミスれば即敗北。反撃は二の次で、敵の思考を読み切り生き残ることだけを今は考えるんだ
上から迫る月光の狩人。対空用の技をここで切るのは愚策、アレは硬直が発生するから敵の技量次第では防御が間に合わずに挽肉にされる
ならば残るは三択
弾く
逸らす
避ける
弾きは敵の加速次第で逆に腕が取られる可能性がある。それに場所が悪い。正面からの攻撃ならいざ知らず直上の攻撃を弾けるほど俺は自分の技量を信じちゃいない
逸らすのは確かに有効かもしれない。成功すれば弾いた時ほどではないが隙が生まれ、そこから勝機を見いだせるかもしれない。しかし、失敗した場合はそのまま挽肉コースだ
回避するのが一番妥当か?しかし、敵に時間を与えてしまいその隙に地上に降りてきた目的を果たすかもしれない
……いや、ここは敵手がどう対策したかと考えるべきか。相手は予習バッチリの天才少女、盾受けを潰す為にチェーンソーを用意したのならば、当然上記の状況にも対策はしているはずだ。敢えて隙を生み出せる状況をチラつかせて俺を誘っているのか……?
ならば回避で様子を見るべきだ。未知に対しての博打は戦場では死に直結する
後方に跳躍して回避
刹那、先程までいた場所が回転鋸により蹂躙される。そして奴は振り抜いた姿勢で口の端を微かに上げて──────────
ヤバい
仮面の男にそう思わせるだけの魔力がその笑顔には込められていた。蠱惑的で、魂すら誘引しそうなほどの月女神の微笑みは言葉よりも確実に『死』を幻視させる
己の防衛本能に従い、仮面の男は盾を構えてなるべく射線上にある自分の表面積を少なくするように身体を動かす
「オプション『破壊戦技』」
チェーンソーの小さな回転刃。その全てが解放されて男へと殺到する。彼女が『剣姫』との戦闘記録を見返した際に考えついたものであり、男の選択が全て正しかったことを証明する攻撃でもあった
弾いても逸らしても刃の散弾は男を襲い、今盾を構えなければその身体の大部分にチェーンソーの刃が刺さっていた
しかし、仮面の男が一息吐くにはまだ早い。『戦匠』は槍状態の『月天女』を、そして更に左手にヒーターシールドを展開して加速して接近する
っぶねぇ……こんなもんまでパクってやがったか。能動的な武器破壊による残骸の散弾。言葉にしてみればやってることのデタラメさがよく分かるだろう
さて、敵のヘキサウェポンは銃、剣、槍に変形するという情報を念頭に置いてこの間合いは対処すべきか。光による攻撃があるのでどう足掻いてもリーチは相手に負ける。ならば懐に潜らなければならないが、オプション付きということが判明した為にあの盾にも注意を割かなければならない
順当に考えれば高い防御性能を発揮するオプションか懐の敵を吹き飛ばしたりするオプションか?
見えない仕掛けと対峙するより順当にヘキサウェポンと対峙するべきか。中距離ならば盾を一度作り直して耐久値を回復して右手にハルバードを持つ。光による二段攻撃があり、更にフォーシス量の差が顕著な為にあまり盾受けは出来ない。なので基本はハルバードで牽制しつつジワジワと削るか……?
しかし、長柄に変えた途端に剣に変えられて詰められたら厄介だ……いや、ここはハルバードで行くか。詰めて来た場合ハルバードをすぐに捨てて別の武器を手に取ろう
間合いの外から放たれたレーザーの様な光による攻撃を盾でまず防ぐ。想定より盾の消耗が激しいが、数回は防げるだろう
まだハルバードを顕現させない。懐に潜ると見せかけて中距離戦に持ち込み、忍耐戦に持ち込む。持久戦ではなく、忍耐戦と形容したのはある種の膠着状態に陥る可能性が高いからだ。そこでどれだけ大きく動くのを我慢出来るか、そこがポイントとなる
奴の槍の間合いに入った。攻撃は……来たッ!
風を裂くような鋭い一撃が放たれるが、上手くガード出来た。攻撃を放ち、腕が伸びきった瞬間を見計らって踏み込むと見せかけてハルバードを顕現しながら足首へと突きを放つ
チィ、読まれていたか。相手の防御の方が少し速い────────
爆裂音と共に右手に走る衝撃
奇跡的にハルバードは離さなかったが体勢が崩れた。そこを狙い澄ました鋭い一撃が此方を襲うが転がるように回避して一度距離を離して持ち直す
危なかった……まさか盾の表面が爆発するとは
アレもオプションか……中々に厄介だ。遠、中距離では相手に有利なのは変わらずに近距離でも相手の方が有利。本格的に面倒な状況になったな
ここはある程度の損傷を覚悟で詰めるべきか?先程までは耐久戦をする腹積もりでいたが、これではあまりにもこちらに不利。相手がまたいつ翔ぶかも分からないのに加え、ロクに攻撃を許して貰えずここからの戦闘は防戦一方と予想される。中距離での削り合いに持ち込めないのなら、近接に持ち込むべきだが…………いや、ここは待ちに徹しよう。あれば俺への対策でもあるが、同時に罠の可能性も大いにある。俺の取れる選択肢を限定していくことにより、自分の狙い通りの戦況に持っていく。そういう戦運びが上手いやつはたまにいる
迫る槍を盾とハルバードで巧みに防ぎ、逸らし、弾きながら逆転の瞬間を待ち望む。わざと隙を作って釣るのも悪くはないが、リスクが大きいしそう簡単に相手が引っかかってくれるとは思えない
だから今は耐える。ひたすらに耐える
暴力的なまでの連撃を捌き続け、はや数分。遂に戦況が大きく動く
相手が翔んだ
はたしてこの選択が正解だったかは分からない。極力隙を見せない消極的な立ち回りを心がけたが故に敗北した事例なんて掃いて捨てるほどある。しかし、この瞬間においてこの選択は正解だったと俺は信じている。否、信じなければならない
天に浮かぶ女神の手にあるのは銃に変形したヘキサウェポン。普段ならば盾でガードするのだが、今回は足で避ける
まずは敵を落とす。今回選択したのは鞭と槍、追い込み猟といこうか
まずは鞭を顕現させ、敵の弾幕を掻い潜る。幾つかかすり、フォーシスを奪い取っていくが今は仕方がない
範囲内に敵を捉えた刹那、鞭を天に振るう。敵が尋常の相手ならばここで鞭の連撃を仕掛ければある程度削れる。鞭の先端部分は微かな時間なれど最高速度が音速に届く程なのだから、通常回避は困難を極める。だがしかし、相手は尋常ならざる『戦匠』。天才の二文字を冠するに相応しい彼女は鞭を見た瞬間にある程度の対策を立て終わっていた
極論、鞭は手元を見ていればある程度の軌道の予測が可能なのだ。しかし、それを実践可能なほどの瞬間的な演算能力は基本的に人は持ち合わせていない。だから理不尽の権化たる天才は煌々と輝くのだ
「【閃光】」
「う……そ……」
しかし……いや。故に、女神は続く槍の一撃を防ぐことが適わなかった。それは追い込み猟。仮面の男は世の中にはそのような理不尽の権化が存在していると知っていた。それ故にそこを逆手に取った
フォーシスアーツ【閃光】。それは強度を犠牲に高速でウェポンを伸ばす技。ここまでくれば何が起きたかは容易に理解出来るだろう
回避されることを前提に鞭を振るい、最適な位置で槍を叩き込める瞬間を狙っていたのだ。この瞬間において回避可能という事実はアドバンテージに見えて実際のところはそうでもない。回避出来ると思ってるからこそ回避という手段に踏み切る、これさえ分かれば回避先で一撃加えることなど造作もない
胸部を貫かれ、多大なフォーシスを零した月女神はそれでも地に失墜することは無かった。しかし、致命的な一撃となったそれは彼女の保有するフォーシスの大部分を消し飛ばし、粘り勝ちという勝ち筋を潰すには十分な役割を果たした。仮面の男と月女神の現在のフォーシス量はやや月女神が上程度
─────────────────
「……すごい」
少女は心の底からそう感じた
彼の戦法は基本的に初見殺し。過去のデータを見返し、粗方の動きを頭に入れることで彼の強みの大部分を削ぎ落とした
更に言えば、彼のウェポンはテトラウェポンであり少女の攻撃を受け止めることはかなり難しい。それなのにここまで耐え凌ぎ、幾度もの誘い出しにも乗らない粘り強さは尊敬すらする
少女は楽に勝てるとは思っていなかった。しかし、ここまで苦戦するとも思っていなかった。究極的に言えば彼は特別さを持たない凡人であり、少女は運命に選ばれたと言っても過言ではないほどの天賦の才を持って生まれた
開発者と戦闘者という二つの側面を持つ彼女は「最強を生み出したい」という幼稚とすら言われそうなほどの願望を抱いていた。しかし、ウェポンは基本的にヘキサウェポンが最強でありトライウェポンは入手困難、必然的に彼女が手を伸ばすウェポンはテトラウェポンとなった。しかし、ヘキサウェポン使いでもある自分がテトラウェポンを使ったところでそこに驚きこそあるかもしれないがそれを真に強いと思わせる説得力など生まれない。仮にヘキサウェポンを捨てたところで相手や観客は手を抜いているとしか捉えない。他者に使わせようとも、少女が満足するレベルの生徒はヘキサウェポンを所持しており少女と同じ状態に陥る
彼女は強すぎたのだ。己の願望を果たし、証明するために必要な人材は己ではダメであり、常に要求値を満たす人材を求めていた。だからこそ、仮面の男は彼女の理想に当てはまる人材だった
打算の為だけに決闘を持ち掛けた
打算の為だけに戦った
しかしこの瞬間、彼女の心境は変化しつつあった
目の前の男を倒したい
極めて純粋な渇望が少女の胸を埋め尽くす。この死闘が何よりも楽しい、命を削るような感覚が心を震わせる。戦場に身を置くこの瞬間に何にも代えがたい悦びを感じる
仮面の男の計算外……いや、男が失念していた少女の「戦闘狂」という側面が今、十全に発揮されようとしていた
─────────────────
さぁ、ラストスパートといこうか
女神の頬は上気し、朱色に染まっている。見上げる構図となったことにより、殊更にその微笑みが神秘的に見える。しかし、その笑みに仄暗い悦びが混じっているのを確かに見届けた。厄介なモノを目覚めさせたのかもしれないが……それもまたよし、その全てを打ち砕くまでだ
敵手はヘキサウェポンを剣に、そしてもう片方の手には斬るというより、叩き斬ることを目的としたナタのようなウェポンを顕現させてきた
それに対して此方は右手に斧、左手にメイス。ヘキサウェポン相手に撃ち合いするのならば重量級の得物が望ましい
「【玉兎湖月】」
そして、当然ここでフォーシスアーツを使ってくるか。発動したのは羽型ヘキサウェポン、内容はブーストか?
刹那、壮絶な笑みを浮かべて月女神は撃ち出された。ブーストなんて生易しいモノじゃない、過剰加速で撃ち出されたアルマの鉈の一撃は重く腕が痺れた
しかし、一撃で終わるわけがない。次に振り抜かれた剣をメイスでガードするが、暴力的な光が迸りメイスが粉砕される。至近距離で受けるとこれ程の威力になるのか
ダダンッ!
と、破裂音と打撃音が混ざったような音を残してアルマは高速で俺の背後に回る。エリザベスの【狂嵐怒濤】程ではないが、目覚しい加速だ。背後に仕込んでおいた盾型ウェポンを起動し、背中に走る衝撃を防ぐと共に振り返りながら斧で薙ぎ払う
しかし、またもや高速で加速して俺の背後に回る。ダメだ、尋常の手段では捉えられない……が、対エリザベス戦の応用でまだ何とかなる
背中の盾が割られ、その衝撃で此方のフォーシスが削られるも逆手で顕現させた槍型ウェポンがしっかりと背後のアルマに突き刺さった感触があった
「ふふっ……」
「まだまだ行くぞッ!」
突き刺さった槍が叩き折られる感触があった。それと同時に斧を手放しハルバードを顕現させて振り向きながら薙ぎ払う。ここでまた背後に回ってくれるのならばあと一撃叩き込めるが……
流石にそこまで甘くないか。後方に跳躍して回避された。敵のフォーシスアーツの内容は恐らく元々の能力である板の生成の効果に、板が物体を反射させる効果を持たせたものだろう。それにより自分を弾き飛ばしての高速戦闘を実現している
これが意味する所は…………早速お出ましかッ!
既に鉈は消え去り、その手には曲剣が握られている。ただでさえ防ぎにくいのに、ショーテルなんざ持ち出されたら厳しいぞ
そんな事を思う暇もなく、ヤツは上空に撃ち出される。そしてそのまま地面に向かって跳弾、水平方向に跳弾、斜め上空に跳弾………俺を囲むように超高速立体機動が展開される。地に足をつけなければならない俺を容赦無く狩猟の女神は狩り取ろうとしてくる
動体視力強化のオプションを起動してようやく安定して目で追えるほどだ。ハルバードを捨て、メイスと剣、そして体の各所に仕込んだウェポンでそれぞれの攻撃を対処するもかなり苦しい。生き残ることを前提とし、最優先目標を設定するならショーテルの破壊だろう。完全に此方を削ることを目的としたそれはそもそもの製造経緯からして防御を許さない設計だ。恐らくオプションもあるのだろうが、それは恐らく『破壊戦技』。破壊されることを前提として、破壊されてもダメージを与えられる面倒な仕様だ
迫るショーテルを運良くメイスで破壊出来た。そしてその瞬間──────
「『破壊戦技』」
場所が良かったため、致命傷にはならなかったがそれでも削られた事実は変わりない。笑ってしまうような死地の中だが、まだ俺は生きている
まだ、まだ伏せ札はある。最高の瞬間にコイツを叩き込んで勝利を掴む
その瞬間を虎視眈々と狙い、俺は耐え続ける。互いに武器を壊し合いながら、フォーシス量を削り合う。相手はフォーシス切れが近いのか最初のような連続加速はしてこないが、それでも容易に攻撃を当てられる速度ではない。
しかし、俺も余裕なんてない。高速戦闘はエリザベスで慣れてはいるものの、この速度の三次元戦闘は経験が浅い。それ故に傷はこちらの方が多くアドバンテージなどほぼ無い
だが、ついにその瞬間が来た。正面上空から俺に向かって己を射出する体勢。ほぼパーフェクトな位置取りだ
手には槍と剣。この一撃で全てを決める
弾丸のような速度で迫る『戦匠』。しかし、それこそが致命傷となる
「【閃光】」
槍を構え発する四文字。敵手ならばここまでの戦況を分析し……いや、分析しなくても何が来るかなど容易に想像がつくレベルだ。槍をよく見て対応すれば大丈夫。槍と剣を両手の武器で凌いで、今回傷が与えられなくても次がある。そんな油断が貴様の命取りとなるッ!
文字通り、炸裂する閃光が敵の目を潰す。通常、人間は強い光を浴びると萎縮してしまう。高速戦闘においてその一瞬の硬直は命取りであり、軌道修正はもはや不可能。盲目の状態でこの剣を防ぐことなど叶わない
俺の、勝ちだ
ガギィン!
まずは笑い声が出た
目の前のどうしようもない理不尽に呆れるほど心の底から歓喜した
やりやがった
勘だけで攻撃を防ぎやがった
そうか、そうか!
俺はここまで凄い奴と戦っているのかッ!
この身を包む歓びと興奮。溢れる畏敬の念
その全てが心地好く、この感情を零さずにはいられない
「クックック……ハッハッハッハッハッハッハッ!!!!最高だッ!!!!素晴らしいッ!!」
全ての手札は消え去った。傍から見ればもはや敗北必至
だが、この程度で諦められるほど俺は行儀が良くない。こんな素晴らしい相手との死闘を簡単にやめられるわけがない
「さぁッ!!!!終幕と行こうかァ!!!!」
後は全てを出し尽くすのみ。真の終焉へと足を踏み出そう
まず槍を捨てての左ジャブ。まだ目が眩んでいるはずなのにスウェーで回避しつつ、バク転しながら距離を取られる
まだだ。片手投擲斧を瞬時に顕現させたて投げ放つも剣で迎撃される。ハルバードを片手に詰め寄り、突きを放つ。しかしながらも、槍に変形させたヘキサウェポンで弾かれる
……コイツ、もう目が回復してやがる。予定より速いぞ。だがいい、もはや退路は無い
飛んでくる光の刃をメイスで叩き潰し、それと同時に飛んでくる銃弾を盾をメイスを放りなげて盾とする。その隙に踏み込んで加速し、ポールウェポンで腹をどつこうとするも払われて終わる
放たれたファルシオンの一撃をガントレットで殴り飛ばし、至近距離で放たれる銃撃を手元を見て弾道を事前に予測してサイドステップで回避。そのまま三日月刀で切り付けるもファルシオンから持ち替えられたククリ刀で受け止められる
刻限が迫りつつある両者は、それ故に一際眩い光を放ちながら己の全てを放出していく。心の底からこの剣舞を楽しみ、その証左としてお互いの顔には隠すことの出来ない闘争への歓喜が張り付いて離れない。面白くて堪らないといった様子で高らかに笑いをする仮面の男、あらゆる男を虜にするような身震いするほど美しい微笑みを浮かべる少女。永遠に均衡するかと思われたそれは卓越した技術を持つ歴戦の戦士が今この瞬間にも成長する天才少女を凌駕しつつあった。一閃毎に思い出したように洗練されていく連撃は少女の成長速度を上回っていた
そう、だからこそ少女は次の一撃でもって勝負を決することにした。『月虹蝶』を伴い、月女神は淡い燐光を散らして天に昇る。その手には『月天女』、最後の一撃は必殺技こそが相応しいと
対する男は熱狂に呑まれた嵐のような歓喜の中心部にある透徹した狩人の如き理性でこの状況を分析する
どのようなフォーシスアーツであれ、回避は難しいだろう。ヘキサウェポン使いの相手よりフォーシス量は若干多いがそれでどうとでもなる問題でもない
敗北
その二文字が全てを満たしている。気合いでどうにか出来る範疇では無い
現状の持ち札ではどう足掻いても突破不可能
なれど我が身は人の子。絶えず思考を続けることでこそ活路を見出す存在である。故に、脳が焼ききれるほどに多少無茶でも突破方法を産み出さんとする。尋常の方法では不可能、全てを覆すような一撃をッ!
男の脳には回避や防御などという思考は半ば消えつつあった。確かに回避不能の可能性が高く、ヘキサウェポンという大出力から繰り出される一撃は防御も不可能に近い。しかし、この玉響のひと時を男は貪るほどに愛している。故にこそ、真正面から撃ち破りたい。そう思うのは半ば必然でもあった
そして、男に天啓が降る。いや、女神相手にこの表現は不適切。男は流星の如き閃きを会得した
それは馬鹿げた理論だが、今この瞬間にこそ相応しい一撃を放つことが出来る
「フォーシスアーツ、【絶世の月虹】ッ!!」
「コネクトアーツ、【三ツ星の一矢】ッ!!」
奇しくも互いの手にあるのは同じ武器であった
荘厳なる月虹の大弓
竜すら射落とす剛弓
どちらも最終局面に相応しい威容を放つ業物である
天に矢を番える不遜なる男を誅さんと
必ず中る月光が轟音と共に地に放たれた。カリュドーンの猪もかくやという天罰にも似たその一矢は音速を越えた証明を撒き散らしながら男に迫る。それは音速突破の猟犬、月女神の放つ神の一矢は条理を無視して回避しようとも追尾する。故に尋常の手段では一秒と防ぐことすら許されず、回避も不可能
対する男は空を統べる月女神を射落とさんと、常人では引くことすら能わぬ弓をフォーシスによる身体強化で無理やりにも引いて矢を射る。その業物の正体は二張りの弓形ウェポンを連結させた剛弓。そして番えられた矢は槍型ウェポン。その全てがフォーシスアーツ発動状態であり、文字通り己のフォーシスを残りカスまで搾り取って放つ渾身の一矢。極限まで研ぎ澄まされた男の精神は獣の面の動体視力強化にも助けられ、女神を穿たんとする
一瞬の空白ののち、天地両方から放たれた閃光は空中で激突する。神罰の月光と眩き閃光、そのどちらが勝利しても可笑しくはない。本来ならばヘキサウェポンのフォーシスアーツこそが優位に立っており、比べるまでもないのだが今回の相手は三重フォーシスアーツ。ここまでしてようやく並び立てるやもと思わせるヘキサウェポンに呆れるべきなのか、この死地でその技を編み出した男を褒めるべきか
その勝負の結果は─────────────
《試合終了》
無機質な機械音声がその決着を報せる
天より注ぐ月光を双つに裂いて進む獣の咆哮にも似た狩人の一矢。その一撃は回避すら許さず、女神の心臓を穿った。男の勝因となったのは【絶世の月虹】が必中に重視を置いた技であったこと。そしてなにより空中で当てることが出来たことだ。長年の経験と勘、そして動体視力強化の補助があったとはいえ放たれる矢の軌道を完全に読み切ることは不可能に近く、実際賭けであった。それでも最後まで勝利への道筋を諦めず、己にできる全てを費やしたことにより一か八かの状況まで持ち込めたことは賞賛に値する
「「「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」」」」」」
固唾を飲んで見守っていた観衆が堰を切ったように沸き立つ。鳴り止まぬ拍手と労いの言葉は心身共に消耗しきった二人に心地よく降り注ぎ、死闘の余韻に浸らせる
「いい戦いだった」
「ん。次は負けない」
互いを認め、称えるように握手をして訓練室から去ろうとすると………
「次は私と戦いましょう!!!!!今すぐ!!!!」
「エリーステイ」
おう、金髪バーサーカーめ。常識的に考えて無理に決まってんだろ。そして第五位、実はあんまり止める気無いな?さっき一瞬こっち見てニヤッとしたぞ
「無理」
「問答無用ですわ!!!」
「賭けの内容にアイツとの戦いを引き受けるってあったよな?」
縋るようにアルマの方を見るも、心底面倒くさそうにエリザベスを見て去っていった。おい、せめて一言くらい言えよ……
いや、俺も無言で去ればいいのでは?クソほど疲れたし、もうやる気が起きない。ため息を吐きながら出口に向かうといきなり肩をガシッと掴まれ、引き摺られるように訓練室に戻される
「やめろぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」
その後、初手から【剣聖】とテトラウェポンの二刀流かつ【狂嵐怒濤】を起動した金髪バーサーカーの攻撃をモロに食らって一撃でフォーシス切れになり気絶した
あとから聞いた話によると、満足いかなかった金髪バーサーカーは次々と無辜の学生を手にかけていったという………
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