ハッピーエンドが程遠い。

立夏

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ハッピーエンドが予想外

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「巫女が奇跡を起こすには6人の従者が必要とされていて、それがサリマス1世を含めた仲間たちだった。巫女と彼等には主従の契りを結んだ証としてある紋章が浮かび上がる。今まさに君と――この剣士クインを繋ぐ星のように」

その時、見計らってたみたいに風が吹いた。
この世界のご都合主義は演出担当までしてくれるのか、とにかくわかりやすくワイルドイケメンの髪をさらいなびかせる。

覗いた彼の首筋に浮かんでいたのは、紛れもなく私の胸にあるものと同じ、六角形の星だった。

ちなみに色も同じ赤紫で、位置的にもこっちのが余計にキスマークみたい。
ていうか、この人クインっていう名前なのか・・・あんまりしっくりこないなあ。ワイルドイケメンなのに、クイーンを連想しちゃうせいかな。

「なんだよ」

流れ的にクインさんが仲間、もっと踏み込んで良いなら攻略対象であることは薄々想像がついていた。
それ故に、首筋よりも名前のアンバランスさに着目していると、また苛立った声が飛ぶ。

「不服そうな顔しやがって、俺が従者じゃ物足りねえのか?」
「ええっ、滅相もない!むしろ私には十分すぎるほどだと」
「じゃなんでそんな薄い反応なんだよ!」

ですから乙女ゲームではド定番な人選でして・・・

「フンッ」

す、拗ねた!

私の態度に勘違いしたクインさんが、とうとう鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
『♯第一印象最悪』というタグほど恋愛に発展しやすいはずなのに、彼とはこのままバッドエンドに進みそう。
それくらい、出会ってからずっと怒らせてばかりでいい加減気まずくなってくる。

「大人げないなあ」
「うるせえ。異界の女ってのは皆ああなのか?サキュバスのがマシってもんだな」

ああ、魔物以下にされてる。異世界の皆さんごめんなさい、私のせいで不名誉な印象ついちゃいました。

「チッ」

仮にも従者に舌打ちされる巫女って・・・
ずーんと沈む体制を取ると、私たちのやり取りを見ていた天界イケメンが呆れた顔で肩をすくめる。
それから気を取り直すように「よし」と呟き、私の両腕をそっと取った。
こちらはまたつくづくと紳士的で、私も沈んだり浮いたり、心臓と感情が忙しい。

「詳しい話は場所を変えてからにしよう。まずネロ様に、君のことをお伝えしないと」
「ネロさま?」
「大聖堂にいらっしゃる司教様だよ。この国で一番の魔導士でもあるから、巫女についてはネロ様に聞くのが一番なんだ」

そう言って微笑む彼の瞳は優しくどこか無邪気で、きっとその人のことをとても信頼してるんだと思わせた。
天界イケメンの言葉を聞いて何故かこっちまで安心し、よろしくお願いしますと頭を下げる。
すると彼が頷きながら私を引き寄せたので、あっという間にその胸に飛び込んでしまう。

目の前に金色に艶めくシルク糸がなびき、お香に似た高貴な匂いが鼻をくすぐる。

「一緒に飛ぼう。さあ、目を閉じて」

耳を吹き抜ける心地よい囁きはまさに神様の息吹だ。
この吐息交じりイケボイスで「力を抜いてごらん」なんていう魔性のセリフ、違う意味で飛ばされる時に言ってくれたら――例・ベッドの中とか


「あれ、難しいかい?」

数十秒後、目を丸くした天界イケメンが私を覗き込んでいた。

テレポーテーションってどうやって飛んでいくのかわからないけど、今の私たちは足の一つも浮いていない。
もちろん指先も消えておらず、景色もさっきとまるっきり同じ。・・・ジットリと睨み付けてくるクインさんも含めて。

「ソイツ、かたくなに飛ばねえんだよ」

つまりクインさんの時と同じく目の前の至福に意識が向いてしまい、またしても目的の場所へと飛ぶことは出来なかったらしい。
『ソイツ』の時点で既に顎にて示され、思わず天界イケメンの袖口を掴む。

「ご、ごめんなさい。集中力がないというか別のことに集中してしまうというか」

開き直るつもりはもちろんないけど、こればかりは仕方ない。
24年間彼氏ナシ・つい20分ほど前に処女を脱したばかりの地味女には、イケメンに対する免疫力と妄想に対する抵抗力がないのだ。
暴走するのは条件反射というもので、どうか許してほしい。

こうなったら歩いて連れて行ってもらう方がよっぽど早いんじゃないだろうか。私の煩悩はそうそう無くなるもんじゃないぞ。

『ピピッ』

いつまでも飛ばない私たちに痺れを切らして囀る小鳥をいたたまれない気持ちで見上げたその時、ふっと視界に輝く物が飛び込んだ。

「ん・・・?」

あれ、天界イケメンの顔がすぐ傍にある。

「んっ、んん」

それを認識したのもほんの一瞬だった。
直後、彼の柔らかい舌が唇の合わせ目をするりとなぞり、ゾクッと身体が震える。
反射的に口を開けると、中へ滑り込みすぐに私の舌を捕まえ、絡みついてくる。

「んぅ、ん・・・っ」

彼が角度を変える度にゾクゾクと刺激を呼び起こされ、膝の力が抜けて立ってられない。
時々戯れにほっぺの内側をつつき、なぞってはまた絡んでくる巧妙な動きに呼吸もままならず、鼻に抜けた声だけが漏れる。
けれどその息苦しさが頭をぼうっとさせ、逆に心地良ささえ感じてくるから不思議だ。

こ、これが俗にいう「キスだけで云々」では・・・

「ん・・・ふぁ・・・」

ああ、もう何も考えられない。
人生において2回目かつ2人目のキスは、それぐらいの衝撃と快感を私にもたらせた。

そして――

「はい、着いた。もう目を開けても良いよ」

2回目のテレポテーション~今度は意識があるver~も経験させてくれたのだった。


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