ハッピーエンドが程遠い。

立夏

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ハッピーエンドが予想外

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あんまり世界地理に詳しくなかったから細かい違いはわからないけど、一般で言う大陸の中で各国の領地が区分けされている、それはこの世界も同じようだ。
でも大陸の形も数もやっぱり現実とは異なり、この地図上には少なくとも10個以上は存在してる。隅っこに描かれた物を大陸とみなすか島国とみなすかでもまた変わってくるだろうけど。

いくら異世界といってもこんなにたくさんの大陸が存在できるほど地球って大きかったっけ?
と、一瞬沸いた疑問はすぐに解決した。
海だ。現実のおよそ4分の1くらいしかないかもってくらい、海の面積が非常に少ないんだ。

ここって魚料理あるのかな、なんて場違いなことを考えた時あるものが目に留まる。

「あっ、これ・・・」

布の真ん中より少し左寄りにある大陸、その中で歪な六辺によって形成された国。
読み取れない文字の一番最後に、2人が着ている服と同じ紋章がついていた。

反射的に指を差すと、天界イケメンが「よくわかったね」と微笑む。

「そう、ここが我が国セント・シーロイズだよ」
「結構大きいんですね・・・」

無意識に零してしまった言葉にハッと口を押える。結構だなんて、まるで大したことないと見誤ってた言い方にとられかねない。
案の定、片側から剣を抜かれそうなオーラが迫ってくるけど、天界イケメンの方はあっさりと頷いてくれた。

「今から500年ほど前、ここ一帯にはポトヌスという大きな国があった。セント・シーロイズと、隣のナルニス、下のオルティ国を全て含むほど巨大な国家だったんだ」

さらりと指で囲まれたのは、この大陸の半分以上を占める面積だった。少し重苦しさを感じる始まりに、自然と背筋を伸ばして聞く体制を取る。

「ポトヌス国王は非常に残虐な暴君で、毎日のように虐殺や意味を持たない処刑が行われていた。有能な若者はいつか反逆を行うとされ、裁判もなく磔にされることもあったというよ。大人も子供も虫けらのように簡単に殺される、市民はその程度の扱いだった」
「ひどい・・・」

世界が違っても、歴史は何となく似通うものなのか。非情な歴史に息を飲めば天界イケメンが再び指先を回す。
次の瞬間、地図がくるくると巻物のように細く丸まっていき、ポンッと消えた。

「やがてこれ以上ポトヌス政権の好きにはしておけないと立ち上がった者たちがいた。彼らは市民を集い国王一派と真っ向から対決し、3か月に及ぶ死闘の末、自由と平穏に生きる権利を勝ち取った。そしてポトヌスは滅び、新しい3つの国が建設されたんだ」
「革命ってことですか?」
「その通り。市民軍の指揮を執ったのがのちにセント・シーロイズの初代国王となるサリマス1世なんだけど、彼が戦いに勝てたのには理由がある。サリマス1世には5人の仲間がいた。魔法や剣の腕に長けた彼らは常にサリマス1世を助け、勝利へ導いた。そしてもう一人――

彼の傍には、奇跡をもたらすという異界の巫女がついていたのさ」

ここが話の最高潮とでも言いたげに、彼の語尾には自信が詰まって聞こえた。
その言葉を聞いて瞬きも出来ずにいる私にとって代わるように瞼を閉じ、凛とした声で続ける。

「彼女がいつどこから来たのかは未だに語られていない。サリマス1世が剣を取った時にはもう傍にいたとされているんだ。そして戦いを見届け、元の世界に戻った。ひとつの予言を残して」
「予言・・・?」

そこで勿体つけるみたいに一旦区切られ、私も身を乗り出して問いかける。

これは・・・この含み方は・・・来るか?来ちゃいますか?

「この国が危機にさらされる時、異界から再び巫女が現れ奇跡をもたらす・・・とね」

ハイ『異世界トリップしたら奇跡を呼ぶ巫女=つまりヒ・ロ・イ・ン☆となってた件』キタ―――――!!ター!!!!ター!!!!・・・

「ハッ、ビビって声も出ねえってか?」

あまりのドンピシャ展開に頭の中で咆哮し語尾にエコーをかけていると、ワイルドイケメンの吐き捨てる声が響いた。

「いえっ、バッチ来っ・・・あ」

落ち着け私!!ここでガッツポーズしたらすべてが水の泡だって!

普通の巫女は異世界トリップの熟知や乙女ゲーのテンプレなんて知りっこないんだから、もっと驚いたふりしなくちゃ。
本当は張り切って「がんばりまあああす!」と叫びたいとこだけど、下手な動きをしたら『ここに巫女はいなかった』と切り捨てられてしまう。


「ああああああああああのわわわわわわたわたし」
「うんうん、動揺するのも無理はないよ。でも決して悪いようにはしないから、落ち着いて聞いてほしい」

ぽんっと優しく肩を叩いてくれる天界イケメンの横で、ワイルドイケメンが不審者を見る目をしてる。あれはもう巫女と思い始めてない顔だ。やばい。

「あ、あの・・・もしかしてそれって、この星とも関係があるんですか・・・」

あくまで『恐る恐る』を装って、自分の胸を指さしてみる。すると天界イケメンが「察しが良いね」と軽く首を振った。
選ばれし者に与えられる印なんて、厨二系ファンタジーではテンプレ中のテンプレですからとは言えまい。


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