ハッピーエンドが程遠い。

ハッピーエンドが予想外

３

歴史の中で美男子として語り継がれる人がたまにいるけれど、間違いなくこの人も仲間入りだと思う。

来てる服は確かにダボついてるけど、そこから伸びる手足はスラッと長いし、白いし、顔はもちろん小さいし。絶対９頭身。
ローブを被っているのに絶対癖なんかつかなそうな、肩まであるサラサラの金髪。・・・本当に髪だよね？シルク糸じゃないよね？
吸い込まれるほど鮮やかなスカイブルーの瞳は優しく細められていて、なんだか慈悲すらうかがえる。そこに映るポカンと口を開けた私は見なかったことにしよう。

と、ここまでは女性的な感じだけど、高く通った鼻筋と余裕をたたえたように笑む薄い唇からは、男性の色気を感じる。
あまりにも美麗な顔立ちで、逆に絵画にしやすいかもしれない。だって最高の腕を持つ画家が、己の理想と感じる顔を描けば、勝手にこの人になってしまう。
そして何より、全身から湧き出る高貴なオーラが凄い。
清楚な白い服に十字架を下げてるというせいもあるんだろうけど、もはや神秘性さえ感じる。天界から遣わされた神の使者と言われても誰も疑わなそう。

私、この人の前で頭も垂れずにこんなアホ面してて良いのかな？不敬罪かつ死罪じゃないだろうか。
なんて自分の存在におこがましさを感じてしまうほど異質なイケメンが、じいっと私を見つめている。

「うん・・・」

なんの納得だろう。こくんと頷く仕草さえ様になって、今ので周囲に薔薇が飛んだんじゃないかな。
この唇から『決めた。君が僕の花嫁だ』とか聞けたら最高だけど、さすがにご都合主義過ぎか・・・
ドラゴンが来ないのならもう一つの王道系に、と設定を脳内シフトしたところで、聞こえてきたのは

「この子をとっ捕まえて押し倒していきなり突っ込んで"ああんすっごいこんなの初めてぇっ"って言わせたんだね」

似つかわしくない、というか高貴とは程遠いお下品なお言葉だった。

「お前なんてこと言うんだよ！！！」
「君が意気込んで出てったんじゃん。俺は飢えた、溜まりに溜まって切り株の穴にも欲情しちまう、こうなったらサキュバスとっ捕まえてイカセまくってやるってさ」
「話盛ってんじゃねえ！サキュバス討伐して、やられる前にやってやるっつっただけだろうが！」

漫画だったらアホ毛を立たせ一筆書きみたいな顔で固まってると思う。
それくらい衝撃を受けている私の前で、真っ赤になって地団太を踏むワイルド系ハリウッドスターと、輪をかけて卑猥な単語連発の天界系イケメン。

「それで結局、サキュバスじゃなくてフツーの子襲っちゃったとは。ごめんね、怖かったでしょ」
「えっ、ええと・・・」
「俺を呼んだのは慰謝料交渉の立ち合いかな」

どんなにギャップがあろうと、凄い勘違いをされようともイケメンはイケメン、こんなふうに眉を下げて労わられたらコロッと泣きつきたくなる。
慰謝料はいらないから、貴方の住処へ連れ去って頂きその胸で優しく激しく慰められたい。実際は怖いどころかビバ１８禁て感じだったのは秘密で・・・

と、私の卑怯な思惑がバレたのか、ワイルドイケメンが背後に駆け寄り、ガシッと肩を掴んでくる。
前から後ろから挟まれてるこの体制に、神様は何度私に良い思いをさせて下さるのかとひれ伏したくなった瞬間、耳元で低い声が響き渡った。

「フツーじゃねえから、お前を呼んだんだよ」

その言葉の示す意味を考えるより早く、ワンピースの襟元を思い切り引き下げられる。
胸の谷間はおろか下手したら先までモロ出し寸前の暴挙に悲鳴を上げることは出来なかった。
私たちを取り巻く空気が、一気にピリッとしたものに変わったせいで。

露わにされた肌が、緊張感で粟立つのがわかる。
こんなにも人の胸を凝視してくるなら、せめてウットリと見とれた表情をして欲しかった。
といっても、口を結び笑みを失くした天界イケメンの視線の先は、決して立派と言えない膨らみの上に刻まれたあの痣だ。
赤紫色で刻まれた六芒星は、２人のイケメンに意識されたせいかさっきよりも濃く見えた。

「お嬢さん」
「は、はいっ」
「ぶしつけな質問でごめんね。君はこの国の人間とは少し風貌が違うようだけど、どこから来たんだい？」

元々余裕を持っている人なのか、天界イケメンが再び穏やかな笑顔に戻るのは早かった。
けれど、その瞳をなくして細まる目元が逆に有無を言わさない力を孕んでいる気がして、思わず息を飲む。
神の使いの前で嘘偽りは言えまい。でも言ったところで伝わらないこともわかっている。
ならあえて、こっちから探りを入れてみよう。

「地球なんですけど・・・」
「・・・・・・・うん。もう少し、スケール小さめで教えてほしいな」

い、今のはふざけたわけじゃないんです。理由があるので、怒りのオーラを消してください、背後のワイルドイケメン様。