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ハッピーエンドが始まった
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しおりを挟むなに、これ。どういうこと?
無意識に自分の体に目をやると、腕を包む白いシンプルなワンピースと、飾りもない白のパンプスが映った。
落ちる瞬間、私は確かスーツを着ていたはずだ。
病院へ運ばれ処置用に着替えさせられたとしても、こんな着衣はあり得ない。
こんなヒラヒラした発表会に出るみたいなワンピじゃ治療できるわけないし。
見下ろした先にあるゴツゴツした木の幹を意識し、瞬きを何度も繰り返す。
そっと太い枝に触れれば着いた土ぼこりがほろほろ剥がれ、独特の匂いがする。
夢にしては、感触がリアルすぎた。
「もしかして・・・土葬?」
うち仏教じゃなかったっけ。
あまりの展開に冷静なままパニックになり、地面を見つめる。
でっこぼっこのがっちがちな土しかないし、石も無造作に転がってる。
シャベルを刺すのは大変そうだ、ここに掘って埋められるとは考えにくい。
そんな時、空からギャーギャーと鳥の鳴き声が聞こえた。
ちょっとちょっと、鳥葬なんて言う展開だけはやめて!
せめて病院に運ばれ、一命はとりとめていたことにして。
私が事故のショックで夢遊病みたいに病院を抜け出し、どこかで服を調達したあとここにたどり着いて力尽きてしまった。
大分無理があるけど、それでいいよね。うん、そうしよう。
さあ、そうと決まったら助けを呼ばなくちゃ。
着の身着のままで遠くまで行けっこないし、どうせ近くの公園の森とかだって。
少し歩けば街頭も民家もあるはず、それで家に電話して迎えに来てもらうんだ。
あ、でも私を探し回ってるだろうから、家にはいないか。
スマホがなきゃ番号もわかんない・・・手っ取り早く警察に電話しよう。
それで家族や麗奈ちゃんに大目玉食らっても良い。
だって私はまだ生きている。神は私を見捨ててなかったんだ。
地味だって、パシリだって、やなこと全部押し付けられたって―――
生きていれば必ず、幸せな未来が待って
「そこまで覚醒してんなら、いい加減俺にも気づいてくれ」
合間を縫って響いた声に動きを止める。
ゆっくりと顔を上げると、目の前にある幹に寄りかかる一人の男の人がいた。
不審者丸出しな私に驚くことなく、腕を組みジーッと見つめてくる。
あ、私を探していた医者かもしれない。
落ち着いた態度からそう思い、反射的に『先生・・・?』と呟くと、彼はピッと片眉を上げた。
「お前みたいな弟子持った覚えはねえなあ」
デシ・・・?
患者のことを今の医学用語ではそう言うのだろうか?
なんにしろ、人に会えたという安心感で背中の汗は引いていくものの、彼に感じる違和感で心臓は落ち着かないままだった。
医者って言えば、清潔な白衣に身を包んでいるイメージ。
なのにこの人は随分と派手な恰好をしている。
その出で立ちは、医者から・・・というだけでなく、現代社会からも思い切りかけ離れていた。
だって、確かに何か羽織っているけど、白衣じゃない。あれはどう見てもマント。
それも、闘牛士が持つみたいに真っ赤な布を、肩から膝にかけて垂れ下げている。
えーと、失礼を承知で上から順に見て行こう。
ウルフカットっぽいこげ茶色の髪はちょっと癖があるのか毛先が外側に跳ねてる。
タイプ分けすると大分彫が深い顔で、どう見ても日本人じゃない。
でも眉もキリッとしてて瞳は鋭くて、鼻も高い。
この状況のせいか唇はムスッと閉じられているけど・・・総称するとまさに見事なイケメンだ。ハリウッドスターみたい。
なのにこの首から下、どうみてもおかしい。グレーに近い服の胸には、大きな逆三角形のロゴ。
といってもブランド名のプリントではなく、三角形の中には花のようなイラストが描かれている。
パンツはまあシンプルな黒一色だけど、妙に光沢してるし、何よりその膝にくっ付いてるもの・・・鋼鉄?肘にも同じのがついてる。
見覚えのない服・・・とは言い切れない。むしろピッタリ当てはまるものがあった。
この格好、私が二か月前にダダはまりしてた中世ヨーロッパが舞台の乙女ゲーのキャラにそっくりだ。
まさか、夢遊病の度が過ぎて海外渡航しちゃった?でも私パスポート持ってないし、まさか密入国・・・やばい、親に怒られるレベルじゃない。
あれ、それにしちゃペラペラと日本語通じてる。じゃあやっぱりここは日本で合ってる?それともこの人が日本語上手いだけ?
もしやコスプレの夜会に紛れ込んでしまったんだろうか。海外の方も最近増えてるもんなあ。
よし、観察はここまでにして状況を探り始めよう。
応援ありがとうございます!
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