上 下
7 / 11
ぼっち勇者 〜僕も仲間がほしい!!〜

7話

しおりを挟む
__会議室

「ねぇ、魔王様~?教えてくださいよー」

「………」

会議室では、ゼロにとって今世紀最大のピンチが訪れていた。

「私も鬼ではないんです。正直に言ってくれればそれでいいんです。
無防備でそこそこ顔がいい勇者を襲ったんですよね?どうなんです?」

「だから!襲ってなどいない!事故だと言っている!!」

ゼロは今すぐ逃げ出したいが、専用の拷問器具に座らされているのでそうもいかない。
逃げようと椅子から体を離すと、魔力という魔力が一瞬で吸収されてしまうのだ。

「…そうですか。ではなぜあの時、動けなくなった勇者を倒さずに部屋へと連れ込んだんですか?」

「っ!?」

初め、ゼロが勇者を連れていこうとした時に現れた男はネクだったのだ。

「敵同士なのに何故助けたのですか?メリットこちらに1つもありませんよねぇ」

「そ、それは………………あ、アイツが仲間がほしいと言っていたから!!」

「……仲間?」

その単語に、ネクも首を傾げる。敵同士の間柄でその単語が出てくるのは意外だったからだろう。

「……アイツは、……5年前から今までずっとぼっちだったらしい」

「なッッ…!」

「しかも影が薄すぎて、肩に触れないとみなは振り返ってくれないと」

「そ、それは………なんとも悲惨な…」

あんなに活発で年中駄々をこねてそうな勇者は、普段は誰からも気づかれない悲しい奴なのだ。それでも彼は前向きにここまで来たのだ。

「だから、人間じゃないけど…勇者の仲間になってやろうかと…」

「…魔王様…。…わかりました。ならいいです。その椅子ももう電源切っておりますので、どうぞ行ってください」

「あぁ、ありがとな」

そう言ってクールに手を振ったゼロは、会議室を出た。

(…………………あっぶねーーーッッ!!殺されるところだったッ!アイツ怒るとクソ怖いんだよなぁ…。勇者の昔話無駄にちゃんと聞いてた甲斐があったわ…)

どうやら魔王は魔王。勇者を盾にして身の安全を守ったということだ。考えがゲスい。

(はぁ、なんか体力がゲッソリ削り取られたな…。玉座の間に行って落ち着こ)

初めて勇者と出会った玉座の間に着くと、ゼロは高級な魔王専用の椅子に腰を下ろした。

「ん~~、落ち着く~~…」

「あ、よう魔王。さっきは散々だったな」

「……勇者?何故ここに」

「料理食べ終わったから、あのネクって奴に皿片付けてもらおうと探したら、なんかここに出た」

満腹になって全回復した勇者がゼロに近づく。

「あ、おい。その階段上るならまず一礼しろ。そういう決まりだ」

「え~、5段くらいしかないのに~?」

「当たり前だ…!」

ゼロが怒鳴ると、勇者はむっと顔を膨らませながらも小さく礼をして階段を上る。
前まで来ると勇者は足を止め、ゼロをじっと見下ろした。

「…?なんだ勇者。俺より高いところから俺を見るな。ムカつく」

「…わがままだな、この魔王」

「お前が言うな」

「……なぁ、魔王」

ブーメランなセリフを言った勇者は、急に真剣な趣でゼロを呼んだ。

「……なんだ?」

いきなりの表情変化にゼロもビクリと身体を震わせ、無意識に顔を上げ勇者に視線を合していた。

「……僕さ、もう無理なんだ…」

「……え?」

「もう、離れられないんだ…」

「ゆ、勇者……?」

突然クールなイケメンを発揮してきたので、ゼロもドキッとしてしまう。

「…大好きすぎて、どうにかなっちゃう。……あの部屋の居心地の良さに…」

「……へ?」

そういうこと?と、ゼロはぽかんと口を開けて呆然とする。するとまた、1つのドアから声が聞こえてきた。

「なるほど。もう両思いでしたか。それなら話は早いですね」

「こ、この声は……!!?」

「はい、魔王様の第1臣下のネクでーす。まさか魔王様がそちら側とは思いもしませんでしたよ」

「…え?そちら側って…。!?ち、違う!!そういう事じゃない!!最後のコイツの言葉聞いてたか!?」

「さぁ?生憎私は耳がよくないので。
勇者さんが大好きすぎてと言ったのは聞こえましたけど」

「あれも結構声ちっちゃかったぞ!!?」

この返事に、ネクはニコッと笑っておいた。そして2人に近づいていく。

「あのネクって奴。都合の悪いことは聞こえない体質だぞ……」

「そんな体質あるかッッ!!」

ゼロが勇者にツッコム。気がつけばネクは2人のすぐそばにいた。

「ひッ……どうしたんだ…?俺の忠実なる臣下よ……」

「はい。私は魔王様に忠実な臣下です。なので、魔王様が仰ったことには素直に従います」

「…そ、そうか…」

いつものネクだと、安堵したのも束の間。
なんとネクは2人に魔法をかけたのだ。

「は!!?おい何をする!ネク!」

「うわ~めっちゃきれ~」

「お前が1番驚け!!」

2人のすぐ下になんらかの魔法陣が描かれ、光が分散する。

「魔王様が、先程勇者さんのお仲間になりたいと仰っていたので、それを叶えて差し上げようかと」

「え、いやそれは違くて……はは」

笑って誤魔化そうとするが、それはもう遅く、2人の前に1枚の紙が出現した。

「?………これは?」

「契約書です。今後、魔王様と勇者さんはお仲間同士仲良く過ごしていくということを書かせて頂きました」

「はぁ!!?いや俺はコイツと仲良くなんか…!」

「?仲間という文字に仲良しの仲入ってますよね?そういうことを見越して言ったとばかり思っていたのですが…」

ただの言い逃れをこんなにも真剣に受け止めている臣下を見ると、流石のゼロにも罪悪感が湧いた。
しかも、彼は今、自分の思考を読み取って行動をしている。
もしそれが違うとわかったら、「え、魔王様ってその程度の者だったのですね。失望しました」となってしまうかもしれない。それはまずかった。

「ま、まぁ、それも考えていた気がするししなくもないがな…」

「ならよかったです~。じゃ、魔王様のお言葉をいただけたので、契約成立ですね」

「え、いやいいとは一言も…」

言った時にはもう、2人の左手の薬指には銀色に輝く指輪がはめられていた。

「……マジか」

「はい!契約完了です。おめでとうございます、お2人共」

「なんか綺麗な指輪だなー。ちなみになんで左の薬指なんだ?僕の街では、薬指に指輪をつけるのは__」

「わあぁぁあ!!!」

勇者が言いかけると、ゼロは顔を紅潮させてその言葉を遮った。

「契約書がそこが1番いいと判断したのでしょう。よかったですね」

「その契約って、どんな効果があるんだ?」

「はい。まず、契約違反は絶対にしてはいけません。これが最低事項です」

ネクがニコニコでそう告げると、逆に汗ダラダラのゼロが、震えた声で尋ねる。

「…えっと、契約内容って、どんなだっけ…」

「今後、魔王様と勇者さんはお仲間同士仲良く過ごしていく。ですね!」

「「…はあぁぁぁあ!!?」」

2人は同時に声を荒らげ目を丸くした。

「はは、開始早々息ぴったりですね~。よかったですよ契約して」

「ふざけるな!すぐにその契約を廃止しろ!」

「契約すると、1年はそのまま実行しなければいけません。そういう決まりです」

「……」

すると今度は、ようやく異常事態だと察した勇者がネクに訊いた。

「…えっと、じゃあ僕は、魔王を倒すことが…」

「できないですね」

「街に戻ることも?」

「できないですね。契約違反ですので」

「わお、鬼畜」

契約のせいで本来の目的すら封じられてしまった。一瞬の沈黙が流れたあと、2人は大声で叫んだ。

「ふざけるな!!1年もこの馬鹿と一緒?有り得ないんだが!?」

「僕も!あの部屋はほしいけど魔王まではほしくないっ!返品!」

「誇り高き魔王をもの扱いしないでくれますーー?」

「そっちこそ!!誇り高き勇者を馬鹿呼ばわりしないで頂きたい」

「ふふ、仲がいいこと」

「「よくない!!」」

こうして、勇者と魔王は契約に縛られながら1年間という長い期間を一緒に過ごすこととなった。

「仲間は仲間でも魔族の仲間はいらーーんッッ!!!」



_____✻✻_____



__そのころアルスでは

「…あの勇者……死んだの。ご愁傷さまじゃ」

1人の魔法使いが、街を出ていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

《第一幕》テンプレ転移した世界で全裸から目指す騎士ライフ

ぽむぽむ
BL
交通事故死により中世ヨーロッパベースの世界に転移してしまった主人公。 セオリー通りの神のスキル授与がない? 性別が現世では女性だったのに男性に?  しかも転移先の時代は空前の騎士ブーム。 ジャンと名を貰い転移先の体の持ち前の運動神経を役立て、晴れて騎士になれたけど、旅先で知り合った男、リシャールとの出会いが人生を思わぬ方向へと動かしてゆく。 最終的に成り行きで目指すは騎士達の目標、聖地!!

俺のまったり生活はどこへ?

グランラババー
BL
   異世界に転生したリューイは、前世での死因を鑑みて、今世は若いうちだけ頑張って仕事をして、不労所得獲得を目指し、20代後半からはのんびり、まったり生活することにする。  しかし、次代の王となる第一王子に気に入られたり、伝説のドラゴンを倒したりと、今世も仕事からは逃れられそうにない。    さて、リューイは無事に不労所得獲得と、のんびり、まったり生活を実現できるのか? 「俺と第一王子との婚約なんて聞いてない!!」   BLではありますが、軽い恋愛要素があるぐらいで、R18には至りません。  以前は別の名前で投稿してたのですが、小説の内容がどうしても題名に沿わなくなってしまったため、題名を変更しました。    題名変更に伴い、小説の内容を少しずつ変更していきます。  小説の修正が終わりましたら、新章を投稿していきたいと思っています。

攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。

BL
───…ログインしました。 無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。 そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど… ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・ 『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』 「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」 本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!! 『……また、お一人なんですか?』 なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!? 『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』 なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ! 「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」 ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ… 「僕、モブなんだけど」 ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!! ───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。

異世界に転移したショタは森でスローライフ中

ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。 ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。 仲良しの二人のほのぼのストーリーです。

魔法菓子職人ティハのアイシングクッキー屋さん

古森きり
BL
魔力は豊富。しかし、魔力を取り出す魔門眼《アイゲート》が機能していないと診断されたティハ・ウォル。 落ちこぼれの役立たずとして実家から追い出されてしまう。 辺境に移住したティハは、護衛をしてくれた冒険者ホリーにお礼として渡したクッキーに強化付加効果があると指摘される。 ホリーの提案と伝手で、辺境の都市ナフィラで魔法菓子を販売するアイシングクッキー屋をやることにした。 カクヨムに読み直しナッシング書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLove、魔法Iらんどにも掲載します。

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

真実の愛とは何ぞや?

白雪の雫
BL
ガブリエラ王国のエルグラード公爵家は天使の血を引いていると言われているからなのか、産まれてくる子供は男女問わず身体能力が優れているだけではなく魔力が高く美形が多い。 そこに目を付けた王家が第一王女にして次期女王であるローザリアの補佐役&婿として次男のエカルラートを選ぶ。 だが、自分よりも美形で全てにおいて完璧なエカルラートにコンプレックスを抱いていたローザリアは自分の生誕祭の日に婚約破棄を言い渡してしまう。 この婚約は政略的なものと割り切っていたが、我が儘で癇癪持ちの王女の子守りなどしたくなかったエカルラートは、ローザリアから言い渡された婚約破棄は渡りに船だったので素直に受け入れる。 晴れて自由の身になったエカルラートに、辺境伯の跡取りにして幼馴染みのカルディナーレが提案してきた。 「ローザリアと男爵子息に傷つけられた心を癒す名目でいいから、リヒトシュタインに遊びに来てくれ」 「お前が迷惑でないと思うのであれば・・・。こちらこそよろしく頼む」 王女から婚約破棄を言い渡された事で、これからどうすればいいか悩んでいたエカルラートはカルディナーレの話を引き受ける。 少しだけですが、性的表現が出てきます。 過激なものではないので、R-15にしています。

処理中です...