ぼっち勇者 〜僕も仲間がほしい!!〜

ゆるだら公

文字の大きさ
上 下
3 / 11
ぼっち勇者 〜僕も仲間がほしい!!〜

3話

しおりを挟む
_____✻✻_____



「………てな感じ」

「………」

長々と勇者の話を聞かされた魔王。何となく事情はわかった気がする。

「…他の奴はどうだったんだ?」

「……それは…」



_____✻✻_____



「ねぇお姉さん。僕と一緒に魔王討伐に行かない?」

「………」

「?ねぇ…」

ギルドの隅にいた女性の肩に手を置く。

「!?………わっ!いたんですか…!すいません気がつかなくて」

「あ、いえ」

(…この街の人はみんなこうなのか。肩に触れないと気づかないのか?)

「あの、あなたヒーラーですよね?討伐に興味ってありますか?」

気持ちを切り替えて、僕は美人のヒーラーをパーティに誘う。しかし__

「お断りです」

「…え?」

案の定断られてしまった。

「今どき討伐とか有り得ませんから。しかも私、明日には遠くの街に引っ越すことになってるから。他を当たってください」

「………えーー………」



「なぁそこのイケメンくん!」

「……」

「ねぇねぇ」

ポンっと、少し筋肉質の男の肩に触れる。

「あ?」

「君ソードマスターだよね!僕と一緒に討伐しない?」

「無理」

「……」

全て同じ返答だった。やはりみな先程の魔法使いと同じで、もう冒険者ではないのだ。

「てか誰?お前。影薄すぎて幽霊だと思ったわ。もっと視界に入れよ」

「………え?」



_____✻✻_____




「…………このザマでした」

「…お前が肩に触れなきゃ誰も気づいてくれなかったのって、影の薄さなんだな」

「うるさい!!」

影薄の話だけ鼻で笑っていたゼロに、勇者は頭に血が上る。

「街の冒険者みんなに声かけたよ。でもダメだった。しかも1人ずつ肩に触れないといけないし……」

「ははっ、ちょーウケるー」

「やめんか!!あれ言われた時結構傷ついたんだからな!
でもお陰でモンスターにもあまり気づかれなかったよ!!」

「ラッキーじゃん」

「人には認知されたいよ!!!」

心の叫びという叫びを出し終えた勇者は、もうヘトヘトに疲れ切っていた。

「…はぁ、だから早くお前を倒して、あの魔法使いさんに報告しなきゃいけないんだ」

ガタガタの細い足で立ち上がり、持っていた剣を構える。

「かかってこい勇者よ」

やっとそれらしいことができると、ゼロは意気込んでいた。しかし、そうはいられなくなった。

「一瞬でぶっ倒して、やる……よ………」

バタッと、剣をぶさぼうに落として、勇者はその場に倒れてしまった。どうやら限界だったらしい。

拍子抜けしたゼロは、手に魔力を貯めるのをやめて、ゆっくりと勇者に近づいた。

「……」

勇者の前でしゃがみこみ、ほっぺを抓ってみる。

「……ん゛~~………ぐー、ぐー……」

寝てしまったようだ。

「……はぁ、なんだよこの勇者。せっかく魔王らしく戦いたかったのに、台無しだ」

こうなってしまえば、勇者など1秒で片付けられる。邪魔者はここにはいらないと、ゼロは勇者を始末しようとした。

「……」

そこで突然、先程の勇者の姿が頭によぎった。

(……ずっと1人でここまで…)

配下がたくさんいるゼロには考えられないことなのだが、彼は数分じっとしていると、勇者を抱えて玉座の間から出ようとした。
その時__

「宜しいのですか?魔王様。そのような勇者を中に引き込んで」

いくつもあるドアの内の1つが開き、暗闇から謎の男の声が聞こえた。おそらくゼロの配下だろう。

「構わん。あまりコイツに干渉するな。面倒だからな」

「…承知致しました」

その声は暗闇の中へと消えていき、やがて聞こえなくなった。

「……少しだけだぞ、勇者」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

使命を全うするために俺は死にます。

あぎ
BL
とあることで目覚めた主人公、「マリア」は悪役というスペックの人間だったことを思い出せ。そして悲しい過去を持っていた。 とあることで家族が殺され、とあることで婚約破棄をされ、その婚約破棄を言い出した男に殺された。 だが、この男が大好きだったこともしかり、その横にいた女も好きだった なら、昔からの使命である、彼らを幸せにするという使命を全うする。 それが、みなに忘れられても_

過食症の僕なんかが異世界に行ったって……

おがとま
BL
過食症の受け「春」は自身の醜さに苦しんでいた。そこに強い光が差し込み異世界に…?! ではなく、神様の私欲の巻き添えをくらい、雑に異世界に飛ばされてしまった。まあそこでなんやかんやあって攻め「ギル」に出会う。ギルは街1番の鍛冶屋、真面目で筋肉ムキムキ。 凸凹な2人がお互いを意識し、尊敬し、愛し合う物語。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

皇帝の立役者

白鳩 唯斗
BL
 実の弟に毒を盛られた。 「全てあなた達が悪いんですよ」  ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。  その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。  目を開けると、数年前に回帰していた。

処理中です...