凡人高校生

ゆるだら公

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凡人高校生

22話

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__体育館

「コーチ。満先輩が居ないんですけど、どうしたんですか?」

綺麗に整列していたバスケ部は、満が居ないことに気づき疑問を抱いていた。何せ今まで1度も部活を休んでいないのだから。

「ん?聞いてないぞ。おい、誰か知ってる奴いるか」

「あ、はいコーチ」

小さく手を挙げ返事をしたのは、バスケ部のエース蓮見だった。

「満くんなら、大事な人が大変なんだって大声出しながら走っていきましたよ」

蓮見が発言すると、その場に居た部員たちがヒソヒソと小声で話し始めた。

「満先輩の大事な人?…誰、彼女?」

「それで部活休むのか…」

聞こえてくるのは、満の大事な人予想だったり、彼に対しての悪口だったり色々だ。そんな部員たちを見てコーチもため息をついた。

「いいかお前ら。満のことは毎日来てたから特別に許してやる。たった1日休むくらい誰にでもあるしな。じゃ、準備運動はじめるぞ」

部員たちの話し合いを静めさせ、コーチが指示を出すと共に、みな部活動に取り組み始めた。

(……うるさコイツら)

蓮見は内心で満のことを話している部員を罵り、嫌悪した。



_____✻✻_____



__空き教室

「ねぇ聞きました?朝霧先輩」

「話しかけんな1年」

「凛音先生から聞いたんですけど~」

朝霧に話しかけると同じ答えしか返ってこないので、彼言葉を無視し姫野は口を開いた。

「大先輩、風邪ひいたらしいですよ」

「は?」

大の話だとは思わず、朝霧は目を丸くした。空き教室に居ないのは、てっきりただ遅れているだけと思っていたが、そうではなかったらしい。

「大丈夫でしょうか、大先輩。体弱すぎて途中でポックリいっちゃわないでしょうか」

「過言しすぎだ。ま、確かに体弱そうだな。でもアイツのことだから、どうせ夜中ずっとゲームしてたんだろ」

大のことを的確に当ててくる朝霧は、物凄く勘がいいらしい。

「心配です…。部活終わったら一緒にお見舞い行きましょ!」

「いつから俺様が行くと言った…」

乗り気ではない朝霧も、何だかんだ全否定はしなかった。やはり知り合いのことはそれなりに心配するのだろう。
創造部は、部長の大のことを頭の片隅に置きながら、作業を進めた。



_____✻✻_____



__3年2組

「……なぁ凛音…」

「…なんだ?いつにも増して元気がないように見えるが」

今日も変わらず羽橋の補習に付き合っている凛音。面倒くさくて敬語もやめた。というか羽橋に敬語やめろと言われたらしい。

「よくわかったな…」

「まぁ、そりゃあペンすら持たないでぐだっとしてたらなぁ。早く問題解けよ」

渋々ペンを握った羽橋だが、話さないと文字も書けないらしく、仕方がないので凛音は会話を許した。

「…大がさ、早退したんだよ……」

「…あー。羽橋の初恋ね」

「はぁ!?は、初恋じゃねぇし!!!まず恋じゃねぇし!」

初恋という単語にしか耳が行かず、羽橋はその言葉を慌てて全否定した。凛音は逆に落ち着いた様子で羽橋を眺めた。

「へぇ、…そっか。それで、その大さんがどうかしたのか?」

「…お前教師なのになんも知らねぇのな」

「まぁ俺は、自分の担当のクラスと国語関連で行くクラスの子しか覚えないからなぁ。大さんはそれのどれでもない。だから忘れる」

「…お前最低だな」

「仕事熱心と言ってほしいな」

必要最低限、しかも国語関連の子だけ覚えるという、なんともわかりやすいほどの国語好きだった。

「ちなみに好きな四字熟語は風林火山ふうりんかざん。意味は戦いにおける4つの心構え。風のように素早く林のように静かに、火のような激しい勢いと山のようなどっしりと構えて動かない意。かっこい~!」

「…そんな漢字に興奮する奴初めて見た…」

「変な言い方をするな」

若干引き気味の羽橋の頭をペシっと軽く叩いた。羽橋は「いて」と無意識に声が出た。

「えっと、それで……何の話だっけ」

「大の話だ。…はぁ。アイツ風邪ひいたんだってよ…」

「あら可哀想。…だから落ち込んでるんだ」

羽橋のことをちゃんと見抜いているようで、しかも察しがいい。さすが教師といったところだろう。羽橋はコクリと小さく頷き返した。

「やる気でねぇよー…。大の元気な顔が見てぇ」

「家にでも行ってあげたらどうだ?」

1度顔を合わせた方が心も落ち着くだろうと、凛音は提案したが、それは一瞬にしてボツになってしまった。

「いや、俺アイツの家知らねぇ。わかったとしても行かねぇ」

「…え?」

あんなに大を想っているのに、羽橋には彼との距離的問題があった。
心の距離は弁当の件で少し縮まったと思えるが、大にとってはただ一緒に弁当を食べただけということになっているかもしれない。
そう思うと、いつも自然に話していかないとダメだ。家を知らないのもそれが原因だとわかる。普段話さないと、そりゃ家だってわからない。
大自身も、羽橋のことをあまり覚えていない様子だった。

「…だってさ、緊張するんだよ、俺」

「…ま、今日は行けなくてもさ。風邪治って元気になった大さんと喋ればいいじゃん」

無理やり家に突撃させようとはせず、羽橋のペースで友達になれるように、教師の凛音は応援した。
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