凡人高校生

ゆるだら公

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凡人高校生

15話

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__生徒会室

蓮見は、サッサと昼食を食べたあと、用事があり生徒会室に顔を出した。

「はーすーみーくぅぅんっ」

「……」

昼休みの生徒会室は静かで、蓮見は落ち着いて資料の整理や、今後の行事の予定を立てれると思っていた。この男がいなければ。

「はっすっみっくんっ!」

「………」

その男は、口調を変えながら蓮見を呼んでいる。いや、正確には名前を言っている。
見ればわかるが、蓮見はこの男が苦手だ。燈籠よりではないが、学校の中では苦手人物ナンバー1だろう。

蓮見がシカトしているにも関わらず、男は気にせず彼の名前を言い続けている。

「は~す~み~、は~…ックショイッッ!!」

「!?」

突然大きなくしゃみが教室中に響いたので、蓮見も思わずびくりと反応してしまった。

「……少し静かにしてほしいんだけど」

我慢できずに話しかけてしまった。本当は蓮見はできるだけ喋らずに昼休みを終わりたかったが、嫌なことこそ時間が長く感じるということで、話すしか選択肢がなくなった。

「あ、意外と早かったな。あと10回は名前言っても無視すると思ってたのに」

「……」

残念ながら、これが彼の素だ。無意識のうちに他人に微妙に嫌なことを言っているのだ。
蓮見は、そんな彼の素の姿にムカついている。
しかも、これだけではない。何気にこちらの方が、彼を嫌う原因になっているだろう。

(…なんでコイツは、素でこんなことが言えるんだ…?)

そう。蓮見が嫌っている最も重要な理由は、この男には裏表が存在しないということだ。
学校と家とで、大分性格を変えている蓮見にとって、彼は憧れであり、嫉妬の対象でもあった。

(…裏表が無いからこそ、コイツは生徒会長になれたんだろうが)

何と、今まで小学生のようなことをしていた男が、この学校をよりよくする生徒会のリーダーなのだ。
なぜなれたのか、初めの頃は蓮見もわからなかった。でも、3年間一緒に生徒会をやってきたので、彼についてわかったことは、数える程にはあった。

仕方がないので、蓮見は彼と会話することにした。

「…その意味のない遊びをするなら、ついでに資料集めもしてほしいんだけど。生徒会長の烏井からすいさん」

「ヤダなぁ。これは何も意味がないことじゃないんだぞ?」

「じゃあなんで、俺の名前を連呼する必要があるの」

隙があれば「蓮見蓮見」と呟いている烏井は破顔になり、体を前後に揺らして椅子を動かしていた。

「ん~それはな~。……マジックをするためだ」

「……マジック?」

自分の名前を連呼することのどこがマジックなのか、蓮見は疑問を抱いた。
すると烏井は勢いよく椅子から立ち上がり、蓮見をチラ見した。

「見てろよ、烏井ちゃんのスーパーマジック!」

烏井はすーーっと息を吸い、活気のある声で叫んだ。

「早く生徒会室に行こうぜは~す~み~っ!!!」

「……は?」

言い切ったという顔をしている烏井に、蓮見はさらに頭を悩ませた。
すると一時の沈黙のあと、物凄い地響きがこちらに向かってきた。

「え、なに、なに…?」

何かが近づいてくる。焦りながらも耳を澄まして正体を突き止めようとした。

「……足音……?」

蓮見が気づいた瞬間、生徒会室のドアが勢いよく開き、大勢の人が入ってきた。
それも、大量の女子たちが。

「蓮見くん見つけた!!」
「蓮見先輩!放課後勉強教えてください!もちろん2人きりで♡」
「昼休みまで仕事してるとか、マジカッコよすぎ!好き!!」

「え、え、え…っ……!?」

一瞬で生徒会室が女子で埋め尽くされてしまった。女子たちはみな蓮見にしか目がいっていなく、蓮見は女子たちに押しつぶされそうだった。
そして珍しく、蓮見は混乱していた。
蓮見は、女子から年中無休話しかけられても普通じゃない絶大な人気を得ていた。本人もそのことは理解していたが、こんな大衆が一斉におしよせるほどに、女子が自分を好いているとは考えていなかった。

「っ烏井…!」

助けを求めようと烏井の方を見ると、彼はニヤニヤしながら椅子に座って蓮見をただ眺めていた。

「蓮見は、休み時間は読書か予習復習で話しかけにくい奴だ。だから女の子たちは長い時間休める昼休みを利用して、蓮見に話しかけようと試みる。
けれど、蓮見は無意識だろうが、お前は逃げるのが上手い。尾行しても気づいたら消えているとの情報が入ってくるほどにだ。
だから俺は、女の子たちに1回チャンスを与え、ついでにこれをマジックにしようと考えた。

…どうだ?俺のスーパーマジック☆」

やってやったと、烏井はウインクを返した。当然ながら助けようとはしなかった。

「っ……」

(っざけんなッッ!!こっちは女どもの重圧で押しつぶされそうなんだよ!!)

「えーと、ごめんね。話はまた今度1人ずつ聞いてあげるから。今回は見逃してくれないかな…?」

心では烏井を罵倒するが、顔には出さずに優しく女子たちに話しかけた。さすが長年続けてきただけある名演技だ。

やっと話せる機会が出来た女子たちだが、蓮見の頼みに誰も断れるはずもなく、寧ろ喜んで『はい!』と大きな返事をし、みな今度は一斉に教室を出ていった。

「………」

「あれ、もう追い出しちゃったのか?」

「もう少し見ていたかった」と小さく呟いた烏井だが、とても満足そうにして微笑んだ。

「可愛い女の子たちが悲しそうにしてるのを、見て見ぬふり出来るか?出来ないよな」

どうやら、女子たちに少しでも蓮見と話す時間をくれてやりたいと、彼なりの良心でやったことらしい。結果的に今度話が出来ると、女子たちは喜んでいた。

「確かにそうだね。次はたくさん話すようにするよ」

(…あ゛~~コイツマジでヤベェ。嫌われる行動してる自覚あるのか?俺も好きで女と話してるわけじゃねぇんだよ。ダメな無自覚の方に突っ走っちゃった系じゃねぇか。……コイツに俺の仕事全部押し付けよ)

蓮見もそろそろ限界のようで、頭に血が上り始めていた。このままでは彼の表情がこんがらがってしまう。一刻も早く、烏井と距離を取らなければいけない。

すると幸運なことに、烏井が椅子から立ち上がり、自ら生徒会室を出ていこうとドアに手をかけた。

「…ありがとうな蓮見。何も伝えなかったのに。俺的には、ちゃんとお前と話つけてからやろうと思ってたんだけど。
1部の女子が困ってるお前の顔が見たいってイライラしてたから。…マジでありがとう。今度飯奢るな!」

「あ、…うん」

(…アイツも、思っていることはありそうだ)

烏井は烏井なりに、色々考えてはくれていたみたいだ。
そして1部の女子というのは多分、蓮見ガチ恋勢だろう。蓮見大好き界隈では、少し害悪で有名らしい。
烏井が先程話していた中に、尾行していた女と出てきたが、その人もどうやらその害悪の1人らしい。彼女らは5人くらいの集団らしく、純粋に蓮見のことを好きな人や応援している女子には容赦ないようだ。

「流石に、害悪集団には負けるよね。誇り高き生徒会長さんも」

蓮見は残念と、他人事のように扱い、自分も教室を出た。これからあの害悪集団が何をするかも知らずに。
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