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第9章 やって来たオリエンテーション編
特別講義 -3-
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「わ、わたくしの父が……領の財政が貧窮していたのを理由にレミルア様の商会で莫大な借金を……!」
「え」
「それを1月後にいらした商会の方が即日の全額返済を要求してこられて……今すぐ完済出来ないのならば、利息代わりとして御令嬢達に協力するか身売りして利息分だけでもお金を作れと迫られて……娼婦に身を落とす覚悟のなかったわたくしは、協力をお約束してしまったのです! すみません、お許しください!」
カイシンター男爵領の領政で借財?
そんなお話し、社交界の噂でも聞いたことがございません。
何より、領の財政に使うような高額の金銭貸与が翌月の全額完済だなんて詐欺の臭いしかいたしませんわ。
わたくしと同じことを考えられたのでしょう。
疑問の声を1音発しただけで厳しい表情となられたエンディミオン殿下が、カイシンター男爵令嬢の肩を優しくポンポン、と2度叩かれてから立ち上がられました。
その傍には代わりに聖女様が壇上から降りられて寄り添い、彼女の背を慰めるように撫でておられます。
「他にも彼女のように強制や脅迫されて言うことを聞いている人は居ないかい?」
「…………」
優しい声でエンディミオン殿下が問われますが、カイシンター男爵令嬢のようにご自分の醜聞を表沙汰に出来る度胸が持てないのでしょう。
裏派閥の皆様は、俯いたり顔を逸らしたりして沈黙してしまいました。
「僕達はね。派閥がどうのこうのとか、家同士の関係がどうこうとかいう面倒臭い話しじゃなくてね? キミ達が困っているなら可能な限り助けたいと思ってるんだ。確かに僕を始めとしてここにいる王侯貴族の子女達は、家名や家門とは無関係では居られないよ? でもだからと言って、まだ正式に家督を継いだ訳でもない僕達が、それを盾にとって無理矢理言うことを聞かせられる材料にそれを使われるのは、おかしいと思うんだ」
「そうですわ! お金や家族、ご自分の身柄を質に取られて無理難題を押し付けられるなんて、詐欺の定番じゃございませんの! 何かおかしいって思ったりしませんでした? 他にも心当たりのある方はいらっしゃいませんこと⁈」
エンディミオン殿下の言葉に追随するようにルナルリア王女もそう問いかけられました。
「あります! 僕は、絶対ハメられたんだって思ってますけど、絶対にしてないっていう証拠はないんだから立証出来ないなら責任を取れ、それを拒否するなら官憲に突き出さない代わりに自分達に協力しろって言われて!」
彼は確か、イノセンタル子爵令息でしたかしら?
発言を聞く限り、何かしらの出来事に対して消極的事実の証明を迫られたようですが、そもそもが論理的な部分以外での立証自体が困難とされている「してないことの証明」でございますので、既に立場的には彼が不利。
特に官憲に突き出す、という脅しの内容から罪に問われるような行為の加害者であることを否定することの出来る材料というのは、非常に少ないものですわ。
「何があったのか聞いてもいいかい?」
「………」
エンディミオン殿下の質問に、僅か逡巡する様子を見せたイノセンタル子爵令息でしたが、エンディミオン殿下にだけ聞こえる密やかな声で事情を説明されておられるようで、口元が動いているのだけがわたくしの居る場所からも見て取れます。
「ああ、なるほど。現場不在証明を最初から潰す手段に出られたのか。確かに普通の人には覆すの厳しいね。でも大丈夫。僕達なら君が本当にそれをしていないなら、ちゃんと証明してあげられるよ?」
「……そんなことが可能なのですか?」
「うん。それがあった正確な日付、覚えてるかい?」
「はい」
「なら一層簡単だ。マックス、エル、ルナ。協力して」
「はい」
「はいよ」
「任しといて!」
エンディミオン殿下の呼びかけに御三方共、即座の是意を返されて、すぐに動き始められたのでした。
「え」
「それを1月後にいらした商会の方が即日の全額返済を要求してこられて……今すぐ完済出来ないのならば、利息代わりとして御令嬢達に協力するか身売りして利息分だけでもお金を作れと迫られて……娼婦に身を落とす覚悟のなかったわたくしは、協力をお約束してしまったのです! すみません、お許しください!」
カイシンター男爵領の領政で借財?
そんなお話し、社交界の噂でも聞いたことがございません。
何より、領の財政に使うような高額の金銭貸与が翌月の全額完済だなんて詐欺の臭いしかいたしませんわ。
わたくしと同じことを考えられたのでしょう。
疑問の声を1音発しただけで厳しい表情となられたエンディミオン殿下が、カイシンター男爵令嬢の肩を優しくポンポン、と2度叩かれてから立ち上がられました。
その傍には代わりに聖女様が壇上から降りられて寄り添い、彼女の背を慰めるように撫でておられます。
「他にも彼女のように強制や脅迫されて言うことを聞いている人は居ないかい?」
「…………」
優しい声でエンディミオン殿下が問われますが、カイシンター男爵令嬢のようにご自分の醜聞を表沙汰に出来る度胸が持てないのでしょう。
裏派閥の皆様は、俯いたり顔を逸らしたりして沈黙してしまいました。
「僕達はね。派閥がどうのこうのとか、家同士の関係がどうこうとかいう面倒臭い話しじゃなくてね? キミ達が困っているなら可能な限り助けたいと思ってるんだ。確かに僕を始めとしてここにいる王侯貴族の子女達は、家名や家門とは無関係では居られないよ? でもだからと言って、まだ正式に家督を継いだ訳でもない僕達が、それを盾にとって無理矢理言うことを聞かせられる材料にそれを使われるのは、おかしいと思うんだ」
「そうですわ! お金や家族、ご自分の身柄を質に取られて無理難題を押し付けられるなんて、詐欺の定番じゃございませんの! 何かおかしいって思ったりしませんでした? 他にも心当たりのある方はいらっしゃいませんこと⁈」
エンディミオン殿下の言葉に追随するようにルナルリア王女もそう問いかけられました。
「あります! 僕は、絶対ハメられたんだって思ってますけど、絶対にしてないっていう証拠はないんだから立証出来ないなら責任を取れ、それを拒否するなら官憲に突き出さない代わりに自分達に協力しろって言われて!」
彼は確か、イノセンタル子爵令息でしたかしら?
発言を聞く限り、何かしらの出来事に対して消極的事実の証明を迫られたようですが、そもそもが論理的な部分以外での立証自体が困難とされている「してないことの証明」でございますので、既に立場的には彼が不利。
特に官憲に突き出す、という脅しの内容から罪に問われるような行為の加害者であることを否定することの出来る材料というのは、非常に少ないものですわ。
「何があったのか聞いてもいいかい?」
「………」
エンディミオン殿下の質問に、僅か逡巡する様子を見せたイノセンタル子爵令息でしたが、エンディミオン殿下にだけ聞こえる密やかな声で事情を説明されておられるようで、口元が動いているのだけがわたくしの居る場所からも見て取れます。
「ああ、なるほど。現場不在証明を最初から潰す手段に出られたのか。確かに普通の人には覆すの厳しいね。でも大丈夫。僕達なら君が本当にそれをしていないなら、ちゃんと証明してあげられるよ?」
「……そんなことが可能なのですか?」
「うん。それがあった正確な日付、覚えてるかい?」
「はい」
「なら一層簡単だ。マックス、エル、ルナ。協力して」
「はい」
「はいよ」
「任しといて!」
エンディミオン殿下の呼びかけに御三方共、即座の是意を返されて、すぐに動き始められたのでした。
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