445 / 458
第9章 やって来たオリエンテーション編
特別講義 -2-
しおりを挟む
「アセンカザフ侯爵令息」
壇上に向かって彼の人を呼びながら手を挙げ、席を立ったのは、せせこましい……失礼。
セッコマッシーニ子爵令息。
陰でガンマランダルの色ボケ第2王子を裏勇者などと呼んでいる非常識者の1人であると、わたくしは認識しております。
「うん? 何だ?」
「あの……勇者パーティの皆様方は、既にこの腕輪をしておられるのですか?」
「わたくし達はそもそも使わないわよ? これは皆を守る為の物で、わたくし達が使うべき物ではないから」
「⁈」
ルナルリア王女のされたご返答にアテが外れたのでしょう。
セッコマッシーニ子爵令息は、驚きとバツ悪げな感情が混ざったような顔をされておられました。
どうせ “もう既にしてる” とでも返されたら “自分達の安全を先に確保したのか” とでも糾弾するおつもりだったのでしょう。
「そんなっ⁈」
「危険ですわっ‼︎ 特にエンディミオン殿下は完全にあの2人から狙われておられるのが丸分かりですのに‼︎」
状況をより把握しておられる御令嬢達を先頭に危ぶむ声が発せられます。
正直、わたくしもこの意見には賛成派の立場を執りとうございますが、アセンカザフ侯爵令息のことです。
きっとまだ何か隠し球があるのではないか、という気が何となくですがしておりますの。
「僕の心配してくれるのは嬉しいけど、もう大丈夫だよ」
エンディミオン殿下が壇上へと戻られて、わたくし達へとニッコリと微笑まれ、そう仰られました。
「連中を泳がせとくのもここまでだ。背後関係は全て把握、いつでも拘束出来る状態にしてあるし、個人の能力データも全て取り終えた。魔導王と賢者と錬金武具士が揃ってて、これ以上、あいつらの好きにはさせん……そう、伝えといてくれや?」
後を引き受けたアセンカザフ侯爵令息は、最後にそう締め括ってセッコマッシーニ子爵令息とその周囲に居る方々へ、獰猛な色を宿した笑みを向けられます。
彼は背後関係は全て把握、いつでも拘束出来る状態であるとハッキリ仰いました。
あの笑みを見るに、それはきっと彼らにも当て嵌まるのでしょう。
他の者が口にしたのならば、ただの脅しに過ぎないと思われる言葉でしょうが、それが全属性の精霊王と契約されておられるアセンカザフ侯爵令息ならば話しは別です。
「デルタズマフェン? ベーターグランディア? ふん。笑わせんじゃないわよ。いつまで地図上に残ってる保証があると思ってんの?」
腕輪を配り終えたのでしょう。
アリューシャ様が壇上へ戻られ、腕組みしながら彼らに睥睨するような視線を向けて仰られます。
「最終的に逃げ込む先は、イプシロンニェーターしかなくなることでしょう。けれど、そうなったらそうなったで、わたくし達も遠慮なく敵認定出来ますので、最終的には魔王戦時に彼の存在ごと全力で潰させていただくこととなるでしょう」
絶対零度の微笑み、というのはこういうものを指すのでしょうか。
わたくし達の世代を代表する淑女と名高いフランソワーヌ様が、浮かべられた優美で気品に溢れてはいますけれど、二の句を告げさせぬ冷たさと迫力に満ちた面持ちで言い切られたのは、最早、最終通告に近い警告のお言葉でした。
「手始めに女神教会の反サーシャリスト枢機卿派閥とかいう、無駄な派閥を潰して見せてあげるから、それを見て今後の身の振り方を決めるといいよ」
「言っておくが、これが最後のチャンスだ。オリエンテーション終了後の命乞いは一切聞かんからそう思え」
クウェンティ侯爵令息とヴェスタハスラム辺境伯令息が、わたくしですら薄らと「そうだろうな」と思っていたことをハッキリ口にされました。
セッコマッシーニ子爵令息達は、もう既に青を通り越して真っ白になってしまったお顔で、ガタガタと震え始めておられます。
「エンディミオン殿下、聖女様! わたくし、カイシンター男爵家のイシリアと申します! 発言を……いえ、告白と懺悔することをお許しくださいませ!」
彼らの中から状況に耐えかねたらしい御令嬢がお一方、壇上へと駆け寄ってその場に両膝をつくと正しく神への懺悔をするが如しな跪拝の姿勢を取って泣きながら申し出られました。
「イシリア嬢。告白と懺悔って……君の身に何があったんだい?」
壇上から、ポン、と飛び降りて彼女の前に片膝をついたエンディミオン殿下が、どうやって出されておられるのか分からないキラキラを纏いながら優しく穏やかな笑顔で彼女に問いかけられます。
彼女の姿勢とエンディミオン殿下のご様子に、他の裏派閥の方々がソワソワしているのが視界に入ります。
あ……分かりましたわ!
この一連の流れ、派閥の切り崩し工作でしたのね⁈
壇上に向かって彼の人を呼びながら手を挙げ、席を立ったのは、せせこましい……失礼。
セッコマッシーニ子爵令息。
陰でガンマランダルの色ボケ第2王子を裏勇者などと呼んでいる非常識者の1人であると、わたくしは認識しております。
「うん? 何だ?」
「あの……勇者パーティの皆様方は、既にこの腕輪をしておられるのですか?」
「わたくし達はそもそも使わないわよ? これは皆を守る為の物で、わたくし達が使うべき物ではないから」
「⁈」
ルナルリア王女のされたご返答にアテが外れたのでしょう。
セッコマッシーニ子爵令息は、驚きとバツ悪げな感情が混ざったような顔をされておられました。
どうせ “もう既にしてる” とでも返されたら “自分達の安全を先に確保したのか” とでも糾弾するおつもりだったのでしょう。
「そんなっ⁈」
「危険ですわっ‼︎ 特にエンディミオン殿下は完全にあの2人から狙われておられるのが丸分かりですのに‼︎」
状況をより把握しておられる御令嬢達を先頭に危ぶむ声が発せられます。
正直、わたくしもこの意見には賛成派の立場を執りとうございますが、アセンカザフ侯爵令息のことです。
きっとまだ何か隠し球があるのではないか、という気が何となくですがしておりますの。
「僕の心配してくれるのは嬉しいけど、もう大丈夫だよ」
エンディミオン殿下が壇上へと戻られて、わたくし達へとニッコリと微笑まれ、そう仰られました。
「連中を泳がせとくのもここまでだ。背後関係は全て把握、いつでも拘束出来る状態にしてあるし、個人の能力データも全て取り終えた。魔導王と賢者と錬金武具士が揃ってて、これ以上、あいつらの好きにはさせん……そう、伝えといてくれや?」
後を引き受けたアセンカザフ侯爵令息は、最後にそう締め括ってセッコマッシーニ子爵令息とその周囲に居る方々へ、獰猛な色を宿した笑みを向けられます。
彼は背後関係は全て把握、いつでも拘束出来る状態であるとハッキリ仰いました。
あの笑みを見るに、それはきっと彼らにも当て嵌まるのでしょう。
他の者が口にしたのならば、ただの脅しに過ぎないと思われる言葉でしょうが、それが全属性の精霊王と契約されておられるアセンカザフ侯爵令息ならば話しは別です。
「デルタズマフェン? ベーターグランディア? ふん。笑わせんじゃないわよ。いつまで地図上に残ってる保証があると思ってんの?」
腕輪を配り終えたのでしょう。
アリューシャ様が壇上へ戻られ、腕組みしながら彼らに睥睨するような視線を向けて仰られます。
「最終的に逃げ込む先は、イプシロンニェーターしかなくなることでしょう。けれど、そうなったらそうなったで、わたくし達も遠慮なく敵認定出来ますので、最終的には魔王戦時に彼の存在ごと全力で潰させていただくこととなるでしょう」
絶対零度の微笑み、というのはこういうものを指すのでしょうか。
わたくし達の世代を代表する淑女と名高いフランソワーヌ様が、浮かべられた優美で気品に溢れてはいますけれど、二の句を告げさせぬ冷たさと迫力に満ちた面持ちで言い切られたのは、最早、最終通告に近い警告のお言葉でした。
「手始めに女神教会の反サーシャリスト枢機卿派閥とかいう、無駄な派閥を潰して見せてあげるから、それを見て今後の身の振り方を決めるといいよ」
「言っておくが、これが最後のチャンスだ。オリエンテーション終了後の命乞いは一切聞かんからそう思え」
クウェンティ侯爵令息とヴェスタハスラム辺境伯令息が、わたくしですら薄らと「そうだろうな」と思っていたことをハッキリ口にされました。
セッコマッシーニ子爵令息達は、もう既に青を通り越して真っ白になってしまったお顔で、ガタガタと震え始めておられます。
「エンディミオン殿下、聖女様! わたくし、カイシンター男爵家のイシリアと申します! 発言を……いえ、告白と懺悔することをお許しくださいませ!」
彼らの中から状況に耐えかねたらしい御令嬢がお一方、壇上へと駆け寄ってその場に両膝をつくと正しく神への懺悔をするが如しな跪拝の姿勢を取って泣きながら申し出られました。
「イシリア嬢。告白と懺悔って……君の身に何があったんだい?」
壇上から、ポン、と飛び降りて彼女の前に片膝をついたエンディミオン殿下が、どうやって出されておられるのか分からないキラキラを纏いながら優しく穏やかな笑顔で彼女に問いかけられます。
彼女の姿勢とエンディミオン殿下のご様子に、他の裏派閥の方々がソワソワしているのが視界に入ります。
あ……分かりましたわ!
この一連の流れ、派閥の切り崩し工作でしたのね⁈
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?
真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる