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第9章 やって来たオリエンテーション編
王国騎士団長の悲哀 -2-
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「まぁ、ロルダン騎士団長殿の仰ることも分からんでもないのだよ。そこでだ。今回のオリエンテーションには、1週間前に行う事前説明にエンディミオン殿下と魔導王殿から特別講義が行われることとなっておる。引率に参加する騎士達もそれに参加してはどうかね?」
「特別講義?」
「うむ。儂もな、少々心配になって国王陛下と王妃様に此度のことは具申させて貰ったのだがの。魔王と相対する勇者パーティが、この程度のことで逃げ打つ無様など晒す訳にはいかない、同級生くらい守れんで世界が守れるものかと殿下達の方から却下されたと申されてのう」
心意気は立派だが、彼等は学院内でも基本、あの2人を避けていると聞く。
下手に関わりを持つと学年を問わず他の生徒達に被害が波及するからだというのが、専らの理由のようではあるけれど。
「特別講義とやらを境に彼等が攻勢に回ると?」
「さてさて、どうかのう? あれこれ根回しに奔走しとることだけは儂も知ってはおるがの。事が起こりそうな場所が場所だけに、ランドリウス公爵家も冒険者ギルドと傭兵ギルドに声をかけとるようだし、公爵閣下が御長男と共に陣頭指揮を執られるおつもりなのだとか? ヴェスタハスラム辺境伯家の御次男とアセンカザフ侯爵家の御令嬢も応援で現地入りする手筈などとの噂があったりもするしの?」
うん?
ランドリウス公爵が暗部としてではなく、公爵家として動かれるのか?
しかも聖女様と愛巫女様に誕生を予言されたと名高い御長男、クリストファー令息まで駆り出して?
聖騎士殿の弟、ライオネル令息と魔導王殿の妹であるナナカリーズ令嬢までそれに加わると?
「学院長」
「何だね、騎士団長?」
「いつの間にか、戦慄するレベルで状況が悪化しておりませんか⁈」
「ほっほっほっ。漸く理解してくれたかね⁈ 騎士団長⁈ 儂も最初に話しを聴いた時には、魔族の四天王でも攻めてくるのかね⁈ と聞いたものだったが、ルナルリア王女殿下に “いやぁねぇ! それは2年ぐらい先の話しよー!” と笑い飛ばされましてな! 2年先の話しでも来るのかよ四天王⁈ と思ったら、同盟国のアホな第2王子とか問題児令嬢程度の存在など、どうでもよくなりましたわい!」
「確かにどうでもよくなりますな! それは‼︎」
「でしょう⁈」
そこで頷き合った俺達は、ふぅー、と長い息をお互いに吐き出して、ローテーブルを挟んで向かい合った長椅子のこっちと向こうで背後へと背を預けた。
「……一応、あの子達の中での脅威度は、思っていたよりも低いようですね? あの2人の」
「脅威の種類が違うそうじゃ。魔王関連は、広範囲無差別爆撃、あの迷惑コンビは基本、ピンポイント絨毯爆撃だから狙われているピンポイントに周囲の者を巻き込ませないようにすれば、被害は自分達勇者パーティだけに絞れると。幸か不幸か表敬訪問という形をとられて、近々ガンマランダルの国王陛下夫妻が我が国へいらっしゃるそうだしの」
「ああ……その話しは聞きましたね。残念ながら日程的にオリエンテーション後となりそうですが」
「いや? 魔導王殿とルナルリア王女が、国王夫妻がガンマランダルの王都から出たと精霊達から報告があった時点で、転移とゲートを使って迎えに行く話しになっとるようだ」
水面下での状況変化が激し過ぎて、そろそろ本格的に頭と感覚が麻痺してきた気がする。
思わず俺の口から漏れ出たのは、先程よりも深い溜息だった。
「分かってはいるつもりでおりましたが、実に……何でもありですなぁ」
「我が国は、周辺諸国から様々な意味で大陸の最先端を走り出したとか言われとるようじゃが、その実、国内に暮らしとる我々は、ついていけてない感が否めないですからなぁ」
「頭の柔らかい若い者と陛下達、勇者パーティの親御さん達だけですよ? ついてゆけておる者など」
「あれについてゆけるとか、それだけでも大したものじゃよ。尊敬に値するわい」
「ですなぁ」
同意してくれた学院長も俺も再び口から溜息が漏れ出た。
まだまだ現役、老兵として現場から去る歳じゃないとここまで直走って来たが、そろそろ後進に道を譲ってもいいんじゃなかろうか。
そんな気がした午後だった。
「特別講義?」
「うむ。儂もな、少々心配になって国王陛下と王妃様に此度のことは具申させて貰ったのだがの。魔王と相対する勇者パーティが、この程度のことで逃げ打つ無様など晒す訳にはいかない、同級生くらい守れんで世界が守れるものかと殿下達の方から却下されたと申されてのう」
心意気は立派だが、彼等は学院内でも基本、あの2人を避けていると聞く。
下手に関わりを持つと学年を問わず他の生徒達に被害が波及するからだというのが、専らの理由のようではあるけれど。
「特別講義とやらを境に彼等が攻勢に回ると?」
「さてさて、どうかのう? あれこれ根回しに奔走しとることだけは儂も知ってはおるがの。事が起こりそうな場所が場所だけに、ランドリウス公爵家も冒険者ギルドと傭兵ギルドに声をかけとるようだし、公爵閣下が御長男と共に陣頭指揮を執られるおつもりなのだとか? ヴェスタハスラム辺境伯家の御次男とアセンカザフ侯爵家の御令嬢も応援で現地入りする手筈などとの噂があったりもするしの?」
うん?
ランドリウス公爵が暗部としてではなく、公爵家として動かれるのか?
しかも聖女様と愛巫女様に誕生を予言されたと名高い御長男、クリストファー令息まで駆り出して?
聖騎士殿の弟、ライオネル令息と魔導王殿の妹であるナナカリーズ令嬢までそれに加わると?
「学院長」
「何だね、騎士団長?」
「いつの間にか、戦慄するレベルで状況が悪化しておりませんか⁈」
「ほっほっほっ。漸く理解してくれたかね⁈ 騎士団長⁈ 儂も最初に話しを聴いた時には、魔族の四天王でも攻めてくるのかね⁈ と聞いたものだったが、ルナルリア王女殿下に “いやぁねぇ! それは2年ぐらい先の話しよー!” と笑い飛ばされましてな! 2年先の話しでも来るのかよ四天王⁈ と思ったら、同盟国のアホな第2王子とか問題児令嬢程度の存在など、どうでもよくなりましたわい!」
「確かにどうでもよくなりますな! それは‼︎」
「でしょう⁈」
そこで頷き合った俺達は、ふぅー、と長い息をお互いに吐き出して、ローテーブルを挟んで向かい合った長椅子のこっちと向こうで背後へと背を預けた。
「……一応、あの子達の中での脅威度は、思っていたよりも低いようですね? あの2人の」
「脅威の種類が違うそうじゃ。魔王関連は、広範囲無差別爆撃、あの迷惑コンビは基本、ピンポイント絨毯爆撃だから狙われているピンポイントに周囲の者を巻き込ませないようにすれば、被害は自分達勇者パーティだけに絞れると。幸か不幸か表敬訪問という形をとられて、近々ガンマランダルの国王陛下夫妻が我が国へいらっしゃるそうだしの」
「ああ……その話しは聞きましたね。残念ながら日程的にオリエンテーション後となりそうですが」
「いや? 魔導王殿とルナルリア王女が、国王夫妻がガンマランダルの王都から出たと精霊達から報告があった時点で、転移とゲートを使って迎えに行く話しになっとるようだ」
水面下での状況変化が激し過ぎて、そろそろ本格的に頭と感覚が麻痺してきた気がする。
思わず俺の口から漏れ出たのは、先程よりも深い溜息だった。
「分かってはいるつもりでおりましたが、実に……何でもありですなぁ」
「我が国は、周辺諸国から様々な意味で大陸の最先端を走り出したとか言われとるようじゃが、その実、国内に暮らしとる我々は、ついていけてない感が否めないですからなぁ」
「頭の柔らかい若い者と陛下達、勇者パーティの親御さん達だけですよ? ついてゆけておる者など」
「あれについてゆけるとか、それだけでも大したものじゃよ。尊敬に値するわい」
「ですなぁ」
同意してくれた学院長も俺も再び口から溜息が漏れ出た。
まだまだ現役、老兵として現場から去る歳じゃないとここまで直走って来たが、そろそろ後進に道を譲ってもいいんじゃなかろうか。
そんな気がした午後だった。
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