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第9章 やって来たオリエンテーション編

王国騎士団長の悲哀 -1-

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「中止にしませんか?」

 今年度の1年生達には悪いが、不確定要素が多い上にその1つ1つの脅威度が強すぎて、俺は王国騎士団の団長として、学院長へとその提案をせずには居られなかった。

 昏森塚の地下迷宮は、王都から最も近い初級ダンジョンとして毎年、学院の1年生と3年生が期末試験の代わりにオリエンテーションとして潜る慣例があるダンジョンだった。

 ランドリウス公爵領とその北隣りにあるダーダルヘッジ子爵領の境に近い所で発見されたそのダンジョンは、ダンジョンの怖さを知らない子供達にそれを体験してもらう為。

 そして、将来の自領運営に欠かせない資源供給元の扱いと高貴なる者の義務ノブレス・オブ・リージュを遂行する最初の手段としてもらうのには、丁度いい難易度であり、また距離の場所だった。

 だが、今年は違う。

 無理・無茶・無謀が普通ライン且つ、平常運転でもある勇者パーティが教師1人を除いて全員ダンジョンアタックに参加。

 おまけに神出鬼没な逃亡犯の2人……ガンマランダルの第2王子と犯罪行為常習者の元伯爵令嬢という、最悪コンビが絶対に巻き起こすだろうトラブルを引っ提げ、何処からともなく現れることが確実視されているんだ。

 中止を提案したくもなる。

「ふむ……」

 学院長は、少し俺の提案に考えるそぶりを見せたものの、提案自体には決して頷かなかった。

「今年だけ中止というのは、少々難しいかのぅ。それ、去年の子達も来年の子達も普通に行けるのに自分達だけ行けぬとなったら、それが引け目となるやもしれぬし、イジメや差別の理由を我々大人や教師の側が作ってしまう訳にも中々、の?」

 学院長の言わんとしていることも分かる。

 貴賤を問わず「えぇ~? 知らないのぉ~?」と知ってる癖にかましてくる輩は絶対いるし、面と向かってそこまでせずとも陰に回ってヒソヒソポショポショする者だって必ず居る。

 それは今回のことに限らず何に関しても言えることだ。

「しかしですな。例の第2王子には、背後にベーターグランディアとデルタズマフェン、おまけに女神教会の反サーシャリスト枢機卿派がついていて、学院内でも裏勇者パーティなどと呼ばれ始めているのですぞ?」
「うら」

 俺が注釈じみた内容を口にすると学院長は、知ってか知らずか通常はつかない筈の冠詞を真っ平らな発音で復唱した。

 何故だろう。

 その真っ平らな復唱発音に笑っているような気配を感じて俺の眉根は真ん中へと寄ってしまったのだった。

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