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第8章 そして始まる学院編
ダイヤモンドメンタル
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入学式の日、新入生は式だけで終了だったので、俺達はエンディミオン殿下の提案に賛同して一旦、私服に着替えてからシャルディアーレ領で改造馬車についての話し合いと試作を行った。
これまでと同じように充実した1日を過ごし、翌日。
俺達は、実質初登校となるエリート科1学年唯一の教室で信じられない物を見た。
「……………何で、居る?」
「ぃやあん! エルドレッド様ぁっ! おはようございまぁす♡」
昨日の遅刻伯爵令嬢が、地の底から湧き上がって来るようなエルドレッドのセリフをガン無視して、黄色い叫びを上げてこちらへ駆け寄って来た。
凄いな。
エルドレッドは、昨日、転移魔法でお前を肥溜めの底に沈めた男だぞ?
隣に居たリリエンヌ嬢が、珍しいくらいハッキリと不快そうな顔をして、駆け寄ってくる彼女を遮る位置に移動して、エルドレッドの前に立った。
「ここは貴女の教室じゃありません。勝手に入って来て、何をなさっておられるのですか?」
「はあ? ほんっと頭も記憶力も悪い女ね! 栄養全部胸に取られてるから馬鹿なんじゃないの⁈」
「ふざけんな、クソ女。リリエンヌはパーフェクトレディだ。お前こそゲーム脳が過ぎて現実見えなくなってんじゃねぇのか?」
「きゃあっ! エルドレッド様が話しかけてくれたぁ! 嬉しいぃっ!」
……声をかけてくれれば、罵詈雑言でもいいと言うのは、どうかと思うんだがな?
「エルドレッド様ぁっ! わたしぃ、家で意地悪されててぇ、学院の試験日も入学式の日も教えて貰えなかったんですよぉ? 酷いと思いません⁈」
なるほど。
どうやら彼女の家族は、必死に彼女の愚行を阻止すべくあれこれと努力はしていたらしい。
父様達が彼女の両親を入学式の時に講堂で探したが見当たらなかったと言っていたからな。
恐らく、今日辺り王家から伯爵家へ召喚状が送られることだろう。
「家で熟すべき最低限のマナーが身についていない御令嬢を学院に入学させては家の恥です。ご両親は貴女を入学させるおつもりがなかったのでは?」
フランの口にしたことは、貴族家として当然の判断と言える物だったが、彼女はそれすらも汲み取れなかったらしい。
「お黙り! 悪役令嬢のなりそこないが! わたしは、領地で聖女の修行がてら知識チートも使ってお金稼いで自分の商会だって持ってるのよ? いわば、もう手に職持ってんの。だから今更、勉強や礼儀作法なんかどうでもいいのよ!」
いや、ならお前は学院に何をしに来てるんだ?
「わたしは、愛しのエルドレッド様にお会いしてラブラブエンドを迎える為にここへ入ったんだから!」
そのエルドレッドは、転生者でお前の知るエルドレッドとは完全に別人だぞ?
少なくとも俺は “ゲーム” のエルドレッドと、このエルドレッドに「アセンカザフ伯爵令息だった」こと以外、あまり共通点を見出せない。
「……そのルート、多分、昨日の段階でBAD ENDになって終わってると思うんだけど、あの子の中ではリセットとかリトライとかが選択されちゃってる感じなのかな?」
「いえ、普通になかったことになってる気がします。たまにそういう人って居るんですよ。自分にとって都合の悪いことは記憶に改竄がかかるんです。下手したら突然消えた自分を師匠が必死に探してることになってる可能性もありますよ?」
「ええっ⁈ だってあの子、昨日、王国騎士団に騒乱罪と不敬罪で捕縛されてる筈なんだよ?」
俺の後ろで、エンディミオン殿下とマックスがコソコソっとそんな会話を交わしていた時。
「居たぞー‼︎」
教室の入口に固まって話していた俺達を認めた常駐騎士が、こちらを見ながらそう叫んで三、四人が一斉に駆けてくる。
「ん、もう! 誤解だって言ってるのに、しつこいわねぇっ‼︎」
それを見た遅刻伯爵令嬢は、廊下へと出て逃げる素振りをしながらアリューシャ嬢に手を伸ばし。
「きゃあっ⁈」
防御魔法に弾かれて叫び声を上げると、憎い相手を刺し殺しそうな形相でアリューシャ嬢を睨みつけてから走り出した。
「女主人公は、わたしよ! アンタなんかにエルドレッド様も聖女の座も渡さないわ!」
「エルはリリエンヌのだって言ってるでしょ⁈」
「聖女の力だって、アンタなんかにはあげないわよー☆ わたくしの魔導具を越えられるようになってからいらっしゃーい、だ!」
悔しそうに逃げていく彼女にアリューシャ嬢とルナがそう返して舌先を突き出していた。
「待てっ! 逃亡犯っ‼︎」
えっ。
常駐騎士の口にした内容に思わず俺達は、全員彼等の方を見て、目の前を通過していく彼等を目で追って。
途中でエンディミオン殿下が居たことに気づいた騎士達が、慌てて立ち止まり、こちらに向かって一礼してから再び追跡を始めた。
「なぁ、今、逃亡犯っつったよな?」
「言ったわね」
「あの方、騎士団の牢を脱走してまで教室に来て、エルドレッド様を待ち伏せしていらしたということでしょうか?」
怖っ。
俺は恋愛云々より、最早、執念をその所業に感じて未知の魔物を見るような目で、もう見えなくなった遅刻伯爵令嬢の走り去った先を見詰めてしまった。
これまでと同じように充実した1日を過ごし、翌日。
俺達は、実質初登校となるエリート科1学年唯一の教室で信じられない物を見た。
「……………何で、居る?」
「ぃやあん! エルドレッド様ぁっ! おはようございまぁす♡」
昨日の遅刻伯爵令嬢が、地の底から湧き上がって来るようなエルドレッドのセリフをガン無視して、黄色い叫びを上げてこちらへ駆け寄って来た。
凄いな。
エルドレッドは、昨日、転移魔法でお前を肥溜めの底に沈めた男だぞ?
隣に居たリリエンヌ嬢が、珍しいくらいハッキリと不快そうな顔をして、駆け寄ってくる彼女を遮る位置に移動して、エルドレッドの前に立った。
「ここは貴女の教室じゃありません。勝手に入って来て、何をなさっておられるのですか?」
「はあ? ほんっと頭も記憶力も悪い女ね! 栄養全部胸に取られてるから馬鹿なんじゃないの⁈」
「ふざけんな、クソ女。リリエンヌはパーフェクトレディだ。お前こそゲーム脳が過ぎて現実見えなくなってんじゃねぇのか?」
「きゃあっ! エルドレッド様が話しかけてくれたぁ! 嬉しいぃっ!」
……声をかけてくれれば、罵詈雑言でもいいと言うのは、どうかと思うんだがな?
「エルドレッド様ぁっ! わたしぃ、家で意地悪されててぇ、学院の試験日も入学式の日も教えて貰えなかったんですよぉ? 酷いと思いません⁈」
なるほど。
どうやら彼女の家族は、必死に彼女の愚行を阻止すべくあれこれと努力はしていたらしい。
父様達が彼女の両親を入学式の時に講堂で探したが見当たらなかったと言っていたからな。
恐らく、今日辺り王家から伯爵家へ召喚状が送られることだろう。
「家で熟すべき最低限のマナーが身についていない御令嬢を学院に入学させては家の恥です。ご両親は貴女を入学させるおつもりがなかったのでは?」
フランの口にしたことは、貴族家として当然の判断と言える物だったが、彼女はそれすらも汲み取れなかったらしい。
「お黙り! 悪役令嬢のなりそこないが! わたしは、領地で聖女の修行がてら知識チートも使ってお金稼いで自分の商会だって持ってるのよ? いわば、もう手に職持ってんの。だから今更、勉強や礼儀作法なんかどうでもいいのよ!」
いや、ならお前は学院に何をしに来てるんだ?
「わたしは、愛しのエルドレッド様にお会いしてラブラブエンドを迎える為にここへ入ったんだから!」
そのエルドレッドは、転生者でお前の知るエルドレッドとは完全に別人だぞ?
少なくとも俺は “ゲーム” のエルドレッドと、このエルドレッドに「アセンカザフ伯爵令息だった」こと以外、あまり共通点を見出せない。
「……そのルート、多分、昨日の段階でBAD ENDになって終わってると思うんだけど、あの子の中ではリセットとかリトライとかが選択されちゃってる感じなのかな?」
「いえ、普通になかったことになってる気がします。たまにそういう人って居るんですよ。自分にとって都合の悪いことは記憶に改竄がかかるんです。下手したら突然消えた自分を師匠が必死に探してることになってる可能性もありますよ?」
「ええっ⁈ だってあの子、昨日、王国騎士団に騒乱罪と不敬罪で捕縛されてる筈なんだよ?」
俺の後ろで、エンディミオン殿下とマックスがコソコソっとそんな会話を交わしていた時。
「居たぞー‼︎」
教室の入口に固まって話していた俺達を認めた常駐騎士が、こちらを見ながらそう叫んで三、四人が一斉に駆けてくる。
「ん、もう! 誤解だって言ってるのに、しつこいわねぇっ‼︎」
それを見た遅刻伯爵令嬢は、廊下へと出て逃げる素振りをしながらアリューシャ嬢に手を伸ばし。
「きゃあっ⁈」
防御魔法に弾かれて叫び声を上げると、憎い相手を刺し殺しそうな形相でアリューシャ嬢を睨みつけてから走り出した。
「女主人公は、わたしよ! アンタなんかにエルドレッド様も聖女の座も渡さないわ!」
「エルはリリエンヌのだって言ってるでしょ⁈」
「聖女の力だって、アンタなんかにはあげないわよー☆ わたくしの魔導具を越えられるようになってからいらっしゃーい、だ!」
悔しそうに逃げていく彼女にアリューシャ嬢とルナがそう返して舌先を突き出していた。
「待てっ! 逃亡犯っ‼︎」
えっ。
常駐騎士の口にした内容に思わず俺達は、全員彼等の方を見て、目の前を通過していく彼等を目で追って。
途中でエンディミオン殿下が居たことに気づいた騎士達が、慌てて立ち止まり、こちらに向かって一礼してから再び追跡を始めた。
「なぁ、今、逃亡犯っつったよな?」
「言ったわね」
「あの方、騎士団の牢を脱走してまで教室に来て、エルドレッド様を待ち伏せしていらしたということでしょうか?」
怖っ。
俺は恋愛云々より、最早、執念をその所業に感じて未知の魔物を見るような目で、もう見えなくなった遅刻伯爵令嬢の走り去った先を見詰めてしまった。
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