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第7章 第1王子領シャルディアーレ

領地布告 -3-

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「只今より、新しく当領地を国王陛下より任された新領主となられる御方より、着任のご挨拶を賜る。皆、静聴するように」

 領官の1人が拡声の魔導具を使って領館前広場へ前説を投げると集まっていた人々が、少しずつ静かになっていって、互いに周囲の者達へ声を掛け合いながら、静けさを形成して行った。

「お願いいたします」
「うむ」

 領官から別の拡声魔導具を受け取ったエンディミオン殿下が頷いて、1歩前に出た。

「旧リンティア領の者達よ。私は、王家唯一の嫡子であり、この度、国王陛下よりこの地を任された第1王子のエンディミオンだ。長らく不便を強いたこと、まずは王家を代表して詫びよう。すまなかった」

 そこまで言って、エンディミオン殿下は民に向かって正対し、しっかりと頭を下げた。

 広場に集まった者達から、どよめきとざわつきがそこかしこで巻き起こる。

 1…2…3…4…5…師匠から教わった通り、キッチリ5秒後に頭を上げて口元へ拡声の魔導具を持っていくと、殿下の言葉を聞き逃すまいと民達は、誰に促されることもなく自ら静寂を取り戻した。

「今日、この時より、この地は第1王子領シャルディアーレとして生まれ変わることとなる。まず最初にこの領が本当に変わるのだという証明を誰の目から見ても分かる形で示そう! エル!」
『はいよ』

 エンディミオン殿下の呼びかけに腕輪から返った返答が、拡声の魔導具を通じて広場に伝わる。

 その直後、大地を揺るがす激しい地響きと共に領の中心であるこの場所からも見える高さで巨大な壁が聳り立ち、物理的な壁が途切れた先の空までも結界で覆っているのが、幾つもの巨大な魔法陣が立ち上がっていることから想像される。

 無論、それはただ領境を区切っただけの壁ではない。

 領内へ差し込む陽の光りを遮らず、幅が十分に取られていて、壁の中に様々な施設を内包出来るようにと設計された……壁内だけで、幾つもの街が出来上がっているかのような作り。

 僕達の計画では、王都から移動して来る様々な組織や新設される学校は、基本、この壁内に所在を固定している場合のみ、その活動と権限を認めることにしている。

 領内の各町村落に設置される転移の魔法陣で、領内全ての行き来を比較的自由に出来るようにして地方格差をなくす。

 新しく設立する職業学校では、師匠と僕が中心となって研究と就学、そして実践を生まれや親の職業に縛られることなく、誰もが平等に受け、また領内に限り、自由にどのような職にも就けるように取り計らう。

 その学校では主にルナ様とリリエンヌ嬢を筆頭にして農業ギルドと畜産ギルド、魔法士ギルドと魔導具ギルド、そして製品ギルドと商業ギルドが中心となって領内の生産・商業の研究、発展を行う為の学科や、アルフレッドと騎士団の協力の元、領内自警団と領軍を形成、維持する為の学科も存在する。

 大人、子供を問わず学校に通う者には学業支援金の支給と食堂の無料使用券を配給する。

 人頭税は廃止し、代わりに所得に合わせた税金と10万以上の物にかける贅沢品税を導入する。

 また女神教会、薬師ギルドなどで病気や怪我の治療を受けた者、妊婦、生後1年以内の子供が居る家には一定額の税金控除を行い、領内で功績を上げた者には、その貢献度によって一定期間の貢献補助金を給付する。

 領の運営は、主に生産加工物の販売と確認された新しいダンジョンからの獲得品の販売で賄う。

 そこまでエンディミオン殿下が告げた時だった。

「新しいダンジョン⁈ ってことは、この領で魔物暴走スタンピードが発生するってことか⁈」
「それはない」

 たまたま近くでエンディミオン殿下の演説を聞いていた領民が発した言葉が拡声魔導具が拾い上げて広場に響かせたが、殿下はそれを即座に否定した。

「ダンジョンの入口は既に勇者パーティの1人、魔導王エルドレッドによって封鎖され、この領壁内にある魔法陣でしか出入りが出来ないように固定されている。その魔法陣は冒険者ギルド内で管理され、万一、魔物が溢れ出る事態に陥ったとしても魔法陣から地上へ出てくることはなく、入口前転移部屋内にて緊急措置が取られ、自動的に殲滅されるように設定されている」
「そんなことが可能なんですか⁈」
「可能だ。何故、それが可能なのか。どうすればそれが可能なのかは、魔法の理論を知らぬ者には説明しても理解が難しかろう。だが、学校の魔法科に入れば、それは説明され、誰もが理解出来るようになることだろう」

 使えるかどうかは別問題ですけどね。

 エンディミオン殿下の嘘は言ってないけど、師匠だから可能なその方法を一般人がちょこっと修行した程度で使えるようになるとは到底思えなくて、僕は思わず心の中で、そう突っ込みを入れていた。

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