375 / 458
第6章 プレ・デビュタント開催
勇者パーティ結成式 -8-
しおりを挟む
やがてわたくし達、勇者パーティの面々は落ち着いて行き、残るはエンディ兄様と影響を受けている一般の方々だけとなりました。
[ではまず、聖女と愛巫女の称号を覚醒させます]
サーシャエール様がそう宣言して、アルフレッド様が覚醒した時と同じようにそれが分かったわたくしは、自分の両手に視線を落とすことで裡側に発生した力を探っていました。
「フラン、行けそうかい?」
「はい。大丈夫ですわ。お姉様?」
「問題ないわ。フラン、こっちに来て。エンディを何とかしなきゃ、皆も解放されないわ」
「はい」
早速、力を使うおつもりなのでしょう。
お姉様がそう仰って、わたくしを手招きました。
いつの間にか座り込んでいたらしいわたくしは、ほんの僅かだけ、それをはしたなかったな、と反省してから右手を差し出してくださったアルフレッド様にエスコートされる形でお姉様とエンディ兄様の所へ移動しました。
わたくし達は、ガタガタ震えてボロ泣きしているエンディ兄様を傍近くで見詰めます。
「アでぃ……ぶりゃン……っく、ふっ……ごべんね……ぼぐっ」
「エンディ兄様、謝らないでくださいませ。むしろ、本来の世界線であれば、こんな重いものを御一人で抱えて覚醒を乗り切っておられたのか、と驚いてしまいましたわ」
「そうよ。貴方が悪い訳でも、弱い訳でもないの。ただ、1人で乗り越えなきゃいけなかった世界の貴方と違って、エンディには、わたし達が居るの。それをもっと分かって欲しくて、皆で貴方の苦しみを分け合うことにしたのよ」
一般の方々には、とんだとばっちりかもしれませんが、王族とはいえ、身も心も5歳でしかないエンディ兄様が、これから先も抱え続けなければならない苦しみを多少なりとも知っていれば、王族なんだから、勇者なんだからと無茶苦茶で過度な期待を背負わされることも軽減出来ることでしょう。
残念ながら、全て無くなる訳ではないのだと、わたくし達も理解はしていますけれど。
「マックス、ルナ。合体技いけるか?」
「まっかしといて! わたくしとマックス様の親愛度100%バッチリよ!」
「よし。じゃ、マックスとルナ、リリエンヌと俺で外周作って、それぞれの合体技。アルフレッドは、フランと一緒にエンディとアリィをサポートする形で支援発動するぞ」
「はいっ」
エルドレッド様の提案に、わたくし達は即座に賛意を示してお姉様とエンディ兄様を皆で囲みます。
「ルナ様!」
「マックス様っ!」
「せーの! 応援するよ☆」
ルナ様たってのお願いで、ラブラブアタック方式で発動された支援系の合体技が、わたくし達を包み込みます。
水中から、やっと空気のある地上へ出れたみたいな風情でエンディ兄様が、浅い呼吸を繰り返して見るからに焦点の合っていない目でマックス様とルナ様の方を見ました。
「ありがとう。マックス、ルナ様……少し、楽になったよ」
「INTと魔力量が底上げされたことで、抵抗値にプラス修正が入ったんだろう。リリエンヌ。次は俺達の番だよ?」
「はいっ!」
エルドレッド様からの呼びかけに答えたリリエンヌ様は、彼の正面に立って両手の指先だけを少しだけ重ねる形で横に交差させ、両肘を身体の横に広げて円を作ります。
「エルドレッド様、いけます!」
準備が整ったらしいリリエンヌのお声にエルドレッド様が頷いて右手を掲げ、人差し指の先に光を灯します。
その指先がリリエンヌ様の作った腕の円形を指し示すと中心部に、抹茶色やモスグリーンに近い色合いに輝度が入ったような色彩の光が粒となって降り積ります。
まるで砂時計のガラス部分を連想させるオリフィス形状を丁度、リリエンヌ様の腕位置に形成して、容積の半分程までそれが溜まった所で、エルドレッド様が、光粒を止めました。
「合わせて」
「はい」
リリエンヌ様の両手に外側から手を添えたエルドレッド様が、ゆっくりと指の重なりを解いて、お2人が向かい合わせに手を繋ぐような姿勢になりました。
すうっ、と音をワザと立てる形でエルドレッド様が息を吸い込んで、2分休符程度の間を置いて。
「砂流音の癒し」
タイミングぴったりで唱和したリリエンヌ様とエルドレッド様の声を合図にお2人の腕の中で、ゆっくりと上下を逆にする砂時計と同じ動きを連想させる回転でそれが動きました。
サラサラと下へ流れている光の粒は、形状の下部分に溜まることなく、風に攫われるようにして、お姉様とエンディ兄様に降り注ぎます。
蛇牙の精霊による癒しと優薬師の齎す物理的な癒しが融合したそれは、肉体的にも精神的にも課されていた疲労を取り去り、削り取られていた目に見えない何かを修復していきました。
合体技の効果は、肉体損傷治癒、ステータス異常解消、そしてストレスやトラウマの軽減なのだそうで。
エンディ兄様が、大きく息をついて、やっとお顔の色を取り戻されました。
「お。効いたな、コレ」
「エル。アリィと僕で実験しないでよ」
「そういう意味じゃねぇよ。覚醒時の負担軽減って、何すりゃ楽になんのか、人によって違うからよ」
「そうなの?」
「そ。たまたま、お前さんはコレが効いただけ」
「やっぱり実験じゃないか!」
「あははっ、気にしない気にしない。それよか、今のウチにとっとと覚醒終わらせちまえ」
「うー……」
「取り敢えず、エンディが楽になったことだけは、お礼を言っとくわ。ありがとう、リリエンヌ、エル」
「……ありがとう」
「はい。楽になっている間に進めてくださいませね」
大分元気になられたエンディ兄様は、笑顔と共にそう仰られたリリエンヌ様のお言葉に、力強く頷いておられました。
[ではまず、聖女と愛巫女の称号を覚醒させます]
サーシャエール様がそう宣言して、アルフレッド様が覚醒した時と同じようにそれが分かったわたくしは、自分の両手に視線を落とすことで裡側に発生した力を探っていました。
「フラン、行けそうかい?」
「はい。大丈夫ですわ。お姉様?」
「問題ないわ。フラン、こっちに来て。エンディを何とかしなきゃ、皆も解放されないわ」
「はい」
早速、力を使うおつもりなのでしょう。
お姉様がそう仰って、わたくしを手招きました。
いつの間にか座り込んでいたらしいわたくしは、ほんの僅かだけ、それをはしたなかったな、と反省してから右手を差し出してくださったアルフレッド様にエスコートされる形でお姉様とエンディ兄様の所へ移動しました。
わたくし達は、ガタガタ震えてボロ泣きしているエンディ兄様を傍近くで見詰めます。
「アでぃ……ぶりゃン……っく、ふっ……ごべんね……ぼぐっ」
「エンディ兄様、謝らないでくださいませ。むしろ、本来の世界線であれば、こんな重いものを御一人で抱えて覚醒を乗り切っておられたのか、と驚いてしまいましたわ」
「そうよ。貴方が悪い訳でも、弱い訳でもないの。ただ、1人で乗り越えなきゃいけなかった世界の貴方と違って、エンディには、わたし達が居るの。それをもっと分かって欲しくて、皆で貴方の苦しみを分け合うことにしたのよ」
一般の方々には、とんだとばっちりかもしれませんが、王族とはいえ、身も心も5歳でしかないエンディ兄様が、これから先も抱え続けなければならない苦しみを多少なりとも知っていれば、王族なんだから、勇者なんだからと無茶苦茶で過度な期待を背負わされることも軽減出来ることでしょう。
残念ながら、全て無くなる訳ではないのだと、わたくし達も理解はしていますけれど。
「マックス、ルナ。合体技いけるか?」
「まっかしといて! わたくしとマックス様の親愛度100%バッチリよ!」
「よし。じゃ、マックスとルナ、リリエンヌと俺で外周作って、それぞれの合体技。アルフレッドは、フランと一緒にエンディとアリィをサポートする形で支援発動するぞ」
「はいっ」
エルドレッド様の提案に、わたくし達は即座に賛意を示してお姉様とエンディ兄様を皆で囲みます。
「ルナ様!」
「マックス様っ!」
「せーの! 応援するよ☆」
ルナ様たってのお願いで、ラブラブアタック方式で発動された支援系の合体技が、わたくし達を包み込みます。
水中から、やっと空気のある地上へ出れたみたいな風情でエンディ兄様が、浅い呼吸を繰り返して見るからに焦点の合っていない目でマックス様とルナ様の方を見ました。
「ありがとう。マックス、ルナ様……少し、楽になったよ」
「INTと魔力量が底上げされたことで、抵抗値にプラス修正が入ったんだろう。リリエンヌ。次は俺達の番だよ?」
「はいっ!」
エルドレッド様からの呼びかけに答えたリリエンヌ様は、彼の正面に立って両手の指先だけを少しだけ重ねる形で横に交差させ、両肘を身体の横に広げて円を作ります。
「エルドレッド様、いけます!」
準備が整ったらしいリリエンヌのお声にエルドレッド様が頷いて右手を掲げ、人差し指の先に光を灯します。
その指先がリリエンヌ様の作った腕の円形を指し示すと中心部に、抹茶色やモスグリーンに近い色合いに輝度が入ったような色彩の光が粒となって降り積ります。
まるで砂時計のガラス部分を連想させるオリフィス形状を丁度、リリエンヌ様の腕位置に形成して、容積の半分程までそれが溜まった所で、エルドレッド様が、光粒を止めました。
「合わせて」
「はい」
リリエンヌ様の両手に外側から手を添えたエルドレッド様が、ゆっくりと指の重なりを解いて、お2人が向かい合わせに手を繋ぐような姿勢になりました。
すうっ、と音をワザと立てる形でエルドレッド様が息を吸い込んで、2分休符程度の間を置いて。
「砂流音の癒し」
タイミングぴったりで唱和したリリエンヌ様とエルドレッド様の声を合図にお2人の腕の中で、ゆっくりと上下を逆にする砂時計と同じ動きを連想させる回転でそれが動きました。
サラサラと下へ流れている光の粒は、形状の下部分に溜まることなく、風に攫われるようにして、お姉様とエンディ兄様に降り注ぎます。
蛇牙の精霊による癒しと優薬師の齎す物理的な癒しが融合したそれは、肉体的にも精神的にも課されていた疲労を取り去り、削り取られていた目に見えない何かを修復していきました。
合体技の効果は、肉体損傷治癒、ステータス異常解消、そしてストレスやトラウマの軽減なのだそうで。
エンディ兄様が、大きく息をついて、やっとお顔の色を取り戻されました。
「お。効いたな、コレ」
「エル。アリィと僕で実験しないでよ」
「そういう意味じゃねぇよ。覚醒時の負担軽減って、何すりゃ楽になんのか、人によって違うからよ」
「そうなの?」
「そ。たまたま、お前さんはコレが効いただけ」
「やっぱり実験じゃないか!」
「あははっ、気にしない気にしない。それよか、今のウチにとっとと覚醒終わらせちまえ」
「うー……」
「取り敢えず、エンディが楽になったことだけは、お礼を言っとくわ。ありがとう、リリエンヌ、エル」
「……ありがとう」
「はい。楽になっている間に進めてくださいませね」
大分元気になられたエンディ兄様は、笑顔と共にそう仰られたリリエンヌ様のお言葉に、力強く頷いておられました。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる