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第6章 プレ・デビュタント開催

勇者パーティ結成式 -8-

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 やがてわたくし達、勇者パーティの面々は落ち着いて行き、残るはエンディ兄様と影響を受けている一般の方々だけとなりました。

[ではまず、聖女と愛巫女の称号を覚醒させます]

 サーシャエール様がそう宣言して、アルフレッド様が覚醒した時と同じようにそれが分かったわたくしは、自分の両手に視線を落とすことで裡側に発生した力を探っていました。

「フラン、行けそうかい?」
「はい。大丈夫ですわ。お姉様?」
「問題ないわ。フラン、こっちに来て。エンディを何とかしなきゃ、皆も解放されないわ」
「はい」

 早速、力を使うおつもりなのでしょう。

 お姉様がそう仰って、わたくしを手招きました。

 いつの間にか座り込んでいたらしいわたくしは、ほんの僅かだけ、それをはしたなかったな、と反省してから右手を差し出してくださったアルフレッド様にエスコートされる形でお姉様とエンディ兄様の所へ移動しました。

 わたくし達は、ガタガタ震えてボロ泣きしているエンディ兄様を傍近くで見詰めます。

「アでぃ……ぶりゃン……っく、ふっ……ごべんね……ぼぐっ」
「エンディ兄様、謝らないでくださいませ。むしろ、本来の世界線であれば、こんな重いものを御一人で抱えて覚醒を乗り切っておられたのか、と驚いてしまいましたわ」
「そうよ。貴方が悪い訳でも、弱い訳でもないの。ただ、1人で乗り越えなきゃいけなかった世界の貴方と違って、エンディには、わたし達が居るの。それをもっと分かって欲しくて、皆で貴方の苦しみを分け合うことにしたのよ」

 一般の方々には、とんだとばっちりかもしれませんが、王族とはいえ、身も心も5歳でしかないエンディ兄様が、これから先も抱え続けなければならない苦しみを多少なりとも知っていれば、王族なんだから、勇者なんだからと無茶苦茶で過度な期待を背負わされることも軽減出来ることでしょう。

 残念ながら、全て無くなる訳ではないのだと、わたくし達も理解はしていますけれど。

「マックス、ルナ。合体技いけるか?」
「まっかしといて! わたくしとマックス様の親愛度100%バッチリよ!」
「よし。じゃ、マックスとルナ、リリエンヌと俺で外周作って、それぞれの合体技。アルフレッドは、フランと一緒にエンディとアリィをサポートする形で支援発動するぞ」
「はいっ」

 エルドレッド様の提案に、わたくし達は即座に賛意を示してお姉様とエンディ兄様を皆で囲みます。

「ルナ様!」
「マックス様っ!」
「せーの! 応援するよ☆」

 ルナ様たってのお願いで、ラブラブアタック方式で発動された支援系の合体技が、わたくし達を包み込みます。

 水中から、やっと空気のある地上へ出れたみたいな風情でエンディ兄様が、浅い呼吸を繰り返して見るからに焦点の合っていない目でマックス様とルナ様の方を見ました。

「ありがとう。マックス、ルナ様……少し、楽になったよ」
INT知性と魔力量が底上げされたことで、抵抗値にプラス修正が入ったんだろう。リリエンヌ。次は俺達の番だよ?」
「はいっ!」

 エルドレッド様からの呼びかけに答えたリリエンヌ様は、彼の正面に立って両手の指先だけを少しだけ重ねる形で横に交差させ、両肘を身体の横に広げて円を作ります。

「エルドレッド様、いけます!」

 準備が整ったらしいリリエンヌのお声にエルドレッド様が頷いて右手を掲げ、人差し指の先に光を灯します。

 その指先がリリエンヌ様の作った腕の円形を指し示すと中心部に、抹茶色やモスグリーンに近い色合いに輝度が入ったような色彩の光が粒となって降り積ります。

 まるで砂時計のガラス部分を連想させるオリフィス形状を丁度、リリエンヌ様の腕位置に形成して、容積の半分程までそれが溜まった所で、エルドレッド様が、光粒を止めました。

「合わせて」
「はい」

 リリエンヌ様の両手に外側から手を添えたエルドレッド様が、ゆっくりと指の重なりを解いて、お2人が向かい合わせに手を繋ぐような姿勢になりました。

 すうっ、と音をワザと立てる形でエルドレッド様が息を吸い込んで、2分休符程度の間を置いて。

砂流音の癒しディザリアルヒール

 タイミングぴったりで唱和したリリエンヌ様とエルドレッド様の声を合図にお2人の腕の中で、ゆっくりと上下を逆にする砂時計と同じ動きを連想させる回転でそれが動きました。

 サラサラと下へ流れている光の粒は、形状の下部分に溜まることなく、風に攫われるようにして、お姉様とエンディ兄様に降り注ぎます。

 蛇牙の精霊による癒しと優薬師の齎す物理的な癒しが融合したそれは、肉体的にも精神的にも課されていた疲労を取り去り、削り取られていた目に見えない何かを修復していきました。

 合体技の効果は、肉体損傷治癒、ステータス異常解消、そしてストレスやトラウマの軽減なのだそうで。

 エンディ兄様が、大きく息をついて、やっとお顔の色を取り戻されました。

「お。効いたな、コレ」
「エル。アリィと僕で実験しないでよ」
「そういう意味じゃねぇよ。覚醒時の負担軽減って、何すりゃ楽になんのか、人によって違うからよ」
「そうなの?」
「そ。たまたま、お前さんはコレが効いただけ」
「やっぱり実験じゃないか!」
「あははっ、気にしない気にしない。それよか、今のウチにとっとと覚醒終わらせちまえ」
「うー……」
「取り敢えず、エンディが楽になったことだけは、お礼を言っとくわ。ありがとう、リリエンヌ、エル」
「……ありがとう」
「はい。楽になっている間に進めてくださいませね」

 大分元気になられたエンディ兄様は、笑顔と共にそう仰られたリリエンヌ様のお言葉に、力強く頷いておられました。

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