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第5章 女神の間にて

隆之の場合 -7-

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 まぁ、正直言って、そんなにイジメが苛烈な時代じゃなかったし、あくまでもまだ、のほほん空気が残っている小学生年齢の子がやることだったので、その時見たのは、他の女の子達がその子のスカートに掃除用具……箒の先を突っ込んで、教室に残っていた男子にワザと見えるような具合でスカート捲りをしようとしてる、そんな感じの場面だった。

『何してんの?』

 当日の4年生俺は、本気でこの時、この子が彼女にしていることの意味が理解出来ていなかったので、そう聞いただけのことだった。

 だが、箒の先を突っ込んでいた子も、周りでそれを見て笑ってた男女も、皆、ヤバい所を見られたって感じで顔を顰めて黙りこくってしまったので、何となーく、しちゃダメなことをしている自覚はあったらしい、と言うことだけは察することが出来た。

 俺が空気を読みながらも敢えてそれを無視して教室に入り、自分の席に向かったことで脱出のタイミングは今しかないと思ったのだろう。

 イジメられていた子は、自分の荷物を引っ掴んで教室を走り去って行った。

『あのさ』

 まるで獲物を逃した、とでも思っていそうな凄い形相をしているイジメていた女の子に、帰り支度をしながら俺は声をかけた。

 イジメいくない、とか言われると思ったんだろうな。

 振り向いたその子、俺をハッキリと睨みつけていた。

『お前、女なのに女のパンツ見てぇの? 変わってんな?』

 心底、不思議そうな声と顔でそう言うと、一拍間があって、男共が大爆笑をしだした。

 他の女の子達は、バツ悪げに顔を逸らしたままだ。

『そんなに見たいなら、他人のスカートわざわざ捲んないで、鏡の前で自分のスカートめくって見れば? どれも似たようなもんだろ。パンツなんて』

 男共の大爆笑する意味が「こいつ分かってねぇ!」から「自分のパンツ見てどうすんだよ?」に変わったのは分かったが、俺はそれに一切構わず、用のなくなった教室を後にした。

「……お前、ぜんせとか言う時から女の子のパンツに興味のない男だったんだな」
「父様、それ何か違う⁈ これの論点、そこじゃなくない⁈」

 亜梨沙さんルナルリアの魔女っ子変身時に絡めて言ったのだろう父様に、俺は全力で突っ込みを入れてしまった。

 そして、イジメられていた女の子は、翌日から学校に来なくなった。

 電話した担任教師に「イジメられるから行きたくない」とハッキリ言ったらしく、その日は急遽、1時間目を潰しての学級会が開かれた。

『最初にキミ達に聞いておきます。イジメをやっていた子、それを見たことのある子は、正直に手を上げてください』
『先生、その前に1個聞いていい?』

 前置きとしてそう切り出した担任教師に、俺は手をあげて確認の質問を投げた。

『何だ? 天宮』
『何人かで周り囲んで逃げられないようにして、箒の先、スカートに突っ込んで捲ろうとするのはイジメ? だとしたら俺、その現場、見てるけど?』
『いつだ?』
『昨日』
『その時、お前はイジメを止めたのか?』
『確かにそのタイミングで、彼女は走って教室から出て行ったけど、助かったと思ったのかは、分からない。俺としては、荷物取りに来ただけだし。それをやってた連中が、邪魔されたとか止められたと思ってるのかも聞いてないから分からない』
『イジメを止めた訳じゃないのか?』
『最初に聞いた通り、俺は昨日のことをイジメの現場に遭遇したとは思ってなかった。集団で1人の女の子を囲んで箒でスカート捲りしてた、というのが俺の見た全てなので、そんなに見たけりゃ鏡の前で自分のスカート捲れば? って言っただけ。走って逃げた以上、彼女はそれを嫌だと思っていたんだろうし、イジメられていると感じていたから、今日、この話し合いがあるんだろうけど。やってた奴等が、それをどんな意味でやっていたのかは、俺には分からない』
『可哀想だって、思わないのか?』

 事実と感想だけを並べた俺に担任教師がそう言った。

 この問いは、俺に言っているようで担任教師はちゃっかり教室に居る皆に向かって言っていた。

 恐らくは、俺と話す体を取ってクラスの皆に問いかけていたんだろう。

 俺は、少し考えて。

『正直、俺は昨日初めてイジメだったらしい現場に遭遇したし、やってた方のことも、やられてた子の方も、どっちのこともよく知らない。だから、どっちにも本当の意味で同情も共感も出来ない。だけど、じいちゃんに “自分がやられて嫌なことは他人ひとにもすんな” って言われて俺は育って来てるから、そう言うことを他人にするヤツは、自分が同じ目に遭うことを想像出来ない人間なんだと思ってる』
『想像なんかしなくても分かってるわよッ! わたしは、あいつの家みたいにパパとママが離婚する家の子になりたくない! だから弱っちいあの子を鍛えてやって、わたしも強くなって、大丈夫になるのよ!』

 俺がツラツラと並べ立てたことの何処が琴線に触れたのか、未だに良く分からないが、イジメの主犯らしい女の子が、そう叫んで立ち上がり、俺を睨みつけた。

『……何言ってるか全然分かんねぇんだけど? お前ん家の親が離婚するかもしれんのと、お前がそれに耐えらるような強い意志が欲しいことは理解出来たけど、それが何であの子イジメる理由になんの? 俺から見たら繋がりゼロなんだけど?』
『あの子は、パパとママが離婚して惨めになったわたしなのよ!』
『いやいやいやいやいや、あの子とお前はどっからどう見ても100%別人なんだけど? 後、何で惨めになる前提なんだ? お前のとーちゃんとかーちゃんは、別れられてラッキー! ってなるかもしれないし、お前もグチャグチャ揉められまくっとるより気が楽になりましたー!とかなるかもしんねぇじゃん? つか、何処がどう繋がってんのか全っ然、分かんねぇんだけど?』
「たかっち、せいろんぜめ、つらぁ」
「なんて、らっかんてきな、りこんそうどうのうけとめかたなのでしょうか」

 しょうがねぇだろ、まだ小学校4年生だ、当時の俺。

 情緒面がね?

 育ち切ってないんですよ、まだ!

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