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第5章 女神の間にて
亜梨沙の場合 -3-
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中学生亜梨沙さんは、何と言うか俺の予想の斜め上を行く広範囲オープンオタクとしての生を満喫していた。
料理マンガとアニメにハマって料理に勤しみ、バレーボールマンガにハマってバレーボール部に入りしていた彼女が最終的に腰を落ち着けたのは、アニメ部と演劇部だった。
その頃には、亜梨沙さんと同じ小学校出身者から水面下で彼女の噂が学校内に広まっていて、彼女に反発心や反抗心を抱く者もいたけれど、孤立を恐れず、好きなもの、やりたいことを決して諦めず、楽しそうにオタク学生生活を送る彼女を排斥するよりは、眺めて面白がる人間の方が増えていた。
学校の文化祭では最もそれが顕著に表れていて、彼女が描いたマンガが載っているアニメ部の部紙は午前中に彼女が売り子をしている間に完売となり、午後から演劇部の舞台を踏む姿を見る為に生徒達は講堂に集まり、劇の内容そっちのけで、彼女が登場する度「出た!」という誰かの叫びとまだ一言も発してはいないと言うのに、拍手喝采が沸き起こっていた。
彼女は、先生の間でも全校生徒の間でも、最早、名物生徒扱いされていたようだ。
面白いのは、本人が全然それを分かっていなくて「何でわたしが知らないのに、この子はわたしを知ってるんだろう?」「何で出てきただけなのに、出たとかお化けみたいな扱いされて拍手されてんの? わたし?」なんて、ハテナマーク塗れになっていた所だろうか。
「こうして、きゃっかんてきにみても、なんでわたし、あのとき、こういうあつかいされてたのか、ぜんぜんわかんないわね」
「そう? なんとなくだけど、わたしはわかるけど?」
生まれ変わって、こうして他人事のように当時の様子を見せられて、それでも尚、謎だ、と宣った亜梨沙さんに舞子さんがそう告げる。
「僕もです。自分達がやりたくても出来ないことを堂々と、好きだという理由だけでやることの出来る貴女を見て、応援することで、自分も一緒にそれが出来た気がして、開放感があるんじゃないでしょうか」
「そうだな」
マックスの推論に頷いた俺は、後を続けるようにして、該当していそうなシーンを思い浮かべて、それを言葉に乗せる。
「特にあの、尊敬出来ない教師を先生つけて呼ばない、とか。西崎先輩が先生つけて呼んでるからこの先生は信用出来る、とか後輩達に思われて、他の生徒が教師を評価する基準にされちゃってるとことか? しまいには、西崎に先生とつけて呼んでもらえることは、この学校で生徒達から信頼される証、みたくなって1種のステータス扱いされてるとことか。やろうと思って出来ることじゃないだろうしな」
「わたくしは、2ねんのときのたんにんのせんせいが、たいちょうふりょうで、がっこうをおやすみするれんらくを、がっこうにするよりさきに、ありささまにしてきたのが、いんしょうてきでしたわ」
俺の台詞を受けて、頬に右手を添えながらそう言ったのは友理恵さんだ。
「こうちょうのひょうかより、クラスのひょうかのほうがしんぱいだったんじゃないかな? ルナさまから、せんせいきょうかぜでおやすみなんだってってはなしをされるのと、あさ、ちがうせんせいがきて、そこではじめておやすみをしるのとじゃ、クラスのせいとがうけるいんしょうがちがうだろうから」
「そこで、なんでルナさまがしっているのか、とふしぎにおもわれないのでしょうか?」
友理恵さんの言葉を拾い上げて、エンディミオン殿下が感じたことを口にするとアルフレッドが、また1つ疑問を投げかける。
「おもわれたわよ? あさ、せんせいからちょくせつやすむってでんわあったっていったら、えっ? なんで? ってかんじなかおしたひとと、あー……みたいななっとくがおしたひとと、はんはんだったけど」
そりゃそうだ。
学級委員でもなけりゃ、生徒会長でもない亜梨沙さんに「先生、今日学校休むから、クラスのことよろしくな」って、学校より先に電話連絡してくるとか意味ワカランわ。
何をよろしくしとるんだ、この担任教師は。
「まぁ、そのひ、わたし、にっちょくだったしね」
絶対そこじゃない、という理由を口にした亜梨沙さんに、俺は天然までいかないけど、ある種の鈍感力というか……他人が自分をどう思っているか、どう評価しているのか、そういうことに関して、彼女はきっと、果てしなくどうでもいいんだろうな、なんて、この一連の行い、その根底に流れていそうなものを察して溜息をついてしまった。
料理マンガとアニメにハマって料理に勤しみ、バレーボールマンガにハマってバレーボール部に入りしていた彼女が最終的に腰を落ち着けたのは、アニメ部と演劇部だった。
その頃には、亜梨沙さんと同じ小学校出身者から水面下で彼女の噂が学校内に広まっていて、彼女に反発心や反抗心を抱く者もいたけれど、孤立を恐れず、好きなもの、やりたいことを決して諦めず、楽しそうにオタク学生生活を送る彼女を排斥するよりは、眺めて面白がる人間の方が増えていた。
学校の文化祭では最もそれが顕著に表れていて、彼女が描いたマンガが載っているアニメ部の部紙は午前中に彼女が売り子をしている間に完売となり、午後から演劇部の舞台を踏む姿を見る為に生徒達は講堂に集まり、劇の内容そっちのけで、彼女が登場する度「出た!」という誰かの叫びとまだ一言も発してはいないと言うのに、拍手喝采が沸き起こっていた。
彼女は、先生の間でも全校生徒の間でも、最早、名物生徒扱いされていたようだ。
面白いのは、本人が全然それを分かっていなくて「何でわたしが知らないのに、この子はわたしを知ってるんだろう?」「何で出てきただけなのに、出たとかお化けみたいな扱いされて拍手されてんの? わたし?」なんて、ハテナマーク塗れになっていた所だろうか。
「こうして、きゃっかんてきにみても、なんでわたし、あのとき、こういうあつかいされてたのか、ぜんぜんわかんないわね」
「そう? なんとなくだけど、わたしはわかるけど?」
生まれ変わって、こうして他人事のように当時の様子を見せられて、それでも尚、謎だ、と宣った亜梨沙さんに舞子さんがそう告げる。
「僕もです。自分達がやりたくても出来ないことを堂々と、好きだという理由だけでやることの出来る貴女を見て、応援することで、自分も一緒にそれが出来た気がして、開放感があるんじゃないでしょうか」
「そうだな」
マックスの推論に頷いた俺は、後を続けるようにして、該当していそうなシーンを思い浮かべて、それを言葉に乗せる。
「特にあの、尊敬出来ない教師を先生つけて呼ばない、とか。西崎先輩が先生つけて呼んでるからこの先生は信用出来る、とか後輩達に思われて、他の生徒が教師を評価する基準にされちゃってるとことか? しまいには、西崎に先生とつけて呼んでもらえることは、この学校で生徒達から信頼される証、みたくなって1種のステータス扱いされてるとことか。やろうと思って出来ることじゃないだろうしな」
「わたくしは、2ねんのときのたんにんのせんせいが、たいちょうふりょうで、がっこうをおやすみするれんらくを、がっこうにするよりさきに、ありささまにしてきたのが、いんしょうてきでしたわ」
俺の台詞を受けて、頬に右手を添えながらそう言ったのは友理恵さんだ。
「こうちょうのひょうかより、クラスのひょうかのほうがしんぱいだったんじゃないかな? ルナさまから、せんせいきょうかぜでおやすみなんだってってはなしをされるのと、あさ、ちがうせんせいがきて、そこではじめておやすみをしるのとじゃ、クラスのせいとがうけるいんしょうがちがうだろうから」
「そこで、なんでルナさまがしっているのか、とふしぎにおもわれないのでしょうか?」
友理恵さんの言葉を拾い上げて、エンディミオン殿下が感じたことを口にするとアルフレッドが、また1つ疑問を投げかける。
「おもわれたわよ? あさ、せんせいからちょくせつやすむってでんわあったっていったら、えっ? なんで? ってかんじなかおしたひとと、あー……みたいななっとくがおしたひとと、はんはんだったけど」
そりゃそうだ。
学級委員でもなけりゃ、生徒会長でもない亜梨沙さんに「先生、今日学校休むから、クラスのことよろしくな」って、学校より先に電話連絡してくるとか意味ワカランわ。
何をよろしくしとるんだ、この担任教師は。
「まぁ、そのひ、わたし、にっちょくだったしね」
絶対そこじゃない、という理由を口にした亜梨沙さんに、俺は天然までいかないけど、ある種の鈍感力というか……他人が自分をどう思っているか、どう評価しているのか、そういうことに関して、彼女はきっと、果てしなくどうでもいいんだろうな、なんて、この一連の行い、その根底に流れていそうなものを察して溜息をついてしまった。
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