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第5章 女神の間にて

衝撃の行方 -4-

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「あの……サーシャエール様?」
[何かしら?]
「この、今見た、あれやこれやって、もう、起こんないヤツだと理解していいんですよね?」
[そうねぇ……]

 虚空から視線を戻さぬままダリルが問いかけたことにサーシャエールが困り顔で答えを濁す。

「おこんない! おこさせないっ! ぜったいやだっ! アリィやフランにあんなことするぼくになんか、ぜったいならないっ‼︎」
「だいじょうぶよ、エンディ! いまのあなたのほうが、なんばいもすてきなおとこのこだから! じしんもって! あなたがまちがえないように、わたし、ちゃんとそばにいるから! ねっ⁈」

 慰め兼、励ましみたいな言葉をかけたアリィにしがみついたまま泣き叫んでいたエンディミオン殿下は、グッチャグチャに泣きまくった顔のまま、何故か「キッ!」と鋭く父親である国王へと振り返った。

「ちちうえっ! あの、だんとうだいとかいう、しょけいどうぐ、いらないっ! そもそもあんなのがあるのがいけないんだっ‼︎」
「うーーーーーーむーーーーーーー」

 死刑って制度の是非は、それはもう人類の法と倫理の歴史と共に永遠のテーマレベルで継続していく問題なので、この場で即答は難しいだろうな、とは俺も思う。

「エンディの気持ちは分からんでもないが、正直な所、使用に関する規制を今よりもっと厳格化するか、代替え手段を作る程度にしか出来ないのが現実だろうな。公開処刑のエンターテインメント性は理性ある人として、否定出来る人間でありたいと個人的は思うが、怒りや憤りを元にした集団暴走を劇的に鎮静化する手段であり、犯罪者を誰の目から見ても明らかに死んだと確認させることで、恐怖を安堵に変え、犯意を抑制する強い効果が望めることは否定出来ない。そもそも、お前達が今回見た処刑風景の最も問題視するべき点は、本来、この国では認められない筈の “王族の意向のみによって処刑が実行されたこと” だ。分かるか?」
「………どうぐがわるいんじゃなくて、それをつかうにんげんのもんだいだって、こと?」
「そうだ。私利私欲や自分の利益のみを追求した強奪または簒奪。国の代表である王族の一員が、自国の法を自分の都合のいいように曲解して、証拠も裁判も何の議論も差し挟むことなく行われた断罪。最初の逆ハーENDの時に、映像で見た国王が、聖女を含む俺達、勇者パーティに下した決定は、今のお前と同じく、あれはおかしい、と国政を担う者達が受け止めている何よりの証拠だ。勿論、この根底に聖女が無意識に使っている魅了魔法、という前提があったけどな」
「わたし、みりょうまほうとか、つかいたいとかおもわないし? つかうりゆうもないし! エンディいがいのおとことか、はてしなくどうでもいいから、わたしにかんしては、あんしんして? けいかいしなくちゃいけないのは、あくまで、イタインよ! いまのとこ、つかうのをのぞみそうなのは、そいつしかいないんだから!」

 確かにあらゆる意味で白黒が、キッパリサッパリハッキリしっかり分かれてる舞子さんアリューシャは、好きになった相手の心を捻じ曲げてまで自分に惚れさせる形での恋愛って発想とは、無縁に思えた。

「………そうだ! ルナさまっ!」
「ふぁいっ⁈」

 真っ黒マックスの背中を撫でていた亜梨沙さんルナルリアが、話しの流れがいきなり自分に向いたことで発音のおかしな応答を返す。

「あのえいぞうのなかにでてきた、ダリルのもってたペンダント! あれとおなじこうかをもったものって、つくれない⁈ つくれるなら、それをみんなでもてば、1ばんのイタインじょうたいさくになるよねっ?」
「あれ、まおうせんみるかぎりじゃ、じょうたいいじょうぜんむこうっぽくみえたけど、じんいてきにつくるの、かのうなの?」
「ええっ? ……わかんない……かんがえたことなかったし……」

 エンディミオン殿下の思い付きによる提案と舞子さんアリューシャの紡いだ疑問に亜梨沙さんルナルリアは首を傾げたけれど。

「出来ますよ?」
「出来なかねぇな」
[可能ですよー?]

 マックス、俺、サーシャエールが、ほぼ同時にその可否を断じていた。

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