上 下
318 / 458
第5章 女神の間にて

修行パート? -6-

しおりを挟む
 ダリルの称号は、どうせこの先 “花キミ” 内で出てくることになるからそれで本人にも分かるだろう。

 さて、問題の17歳アルフレッドからの手紙が、女主人公ヒロインの手に渡って開かれることで、俺達にもその文面が晒される。

『親愛なるアリューシャ嬢へ。
 ブロッサプラミーの花咲く卒院式より暫し、君の姿を垣間見ることも叶わぬまま過ごす寂しくも辛い日々が過ぎた。
 君は元気にしているのだろうかと案じていた俺の元に届いた書簡に望外の喜びを感じると共に、ふと、君と過ごした時間が薄いカーテンを通した向こう側の景色であったかのように、ぼんやりとしていることに気づき、思いがけない恐怖に苛まれ、筆をとることの出来なかった俺を許してくれ』

 そんな出だしで始まった17歳アルフレッドの手紙が真面だったのは、ここまでだった。

『俺は君が好きだ。
 その筈なのに。
 君の何処が好きだったのか、何を好きだったのか思い出せない。
 俺は君を愛している。
 その筈なのに。
 君をどう愛していたのか、それがどんな愛だったのか思い出せない。
 忘れているんじゃない。
 俺のその思いは、薄いカーテンの向こう側にあって、俺と隔てられてしまったかのように、それを思い出して、感じ入ることが出来ないんだ。
 これは、魔王の策略なのだろうか。
 だとしたら、俺はいつから魔王に嵌められていたんだろうか?
 1人1人分断されることになった時から?
 だとしたら、この国も王家も既に魔王の手中にあるということか?
 そう言えば、魔王と四天王は、何をしにわざわざ魔族国からこの国に来たんだろうか?
 もう、あの時から俺達の国は、内側から敵に掌握されていたんだろうか?
 アリューシャ。
 アリィ。
 俺は負けられない、負けたくない。
 なのに俺の中から君が、君への思いが霞ががって消えていく。
 君に会えない日々が、それを加速させて行く。
 魔王の力が俺の中から君との絆を消して行く!
 俺はどうしたらいい?
 どうすればいい?
 教えてくれ!
 俺の傍に帰って来てくれ!
 アリィアリィアリィアリィアリィアリィアリィアリィアリィアリィアリィアリィ!
 ダメだ!
 君を忘れてしまう!
 助けてくれ! アリィ!』
『いけない! アルフが魔王の手に落ちてしまうわ! 彼の所に行かなくちゃ!』
「いやいや、単に魅了魔法切れかかっとるだけだろう。何でもかんでも魔王の所為にするのは、どうかと思うぞ?」
「魔王に冤罪がかかるとか、新しいですわねぇ……」

 宰相夫妻が、またもや息ぴったりで別空間からそれぞれに17歳アルフレッドと女主人公ヒロインにツッコミを入れた。

「……そんなことだから、せいきしにかくせいできなんじゃないのか、おまえは? たしゃにたすけをもとめなければならないばあいと、じりきでのりこえなきゃならないばあいの、くべつができてないじてんで、せいきしうんぬんより、ひととしてのせいしんのせいちょうが、せいじょうにおこなわれていないあかしだとおもうんだが?」

 うん。

 正常かどうかの基準で言ったら、間違いなく3歳児の基準から外れてるだろうお前達も、それに含まれちまうとは思うけど、プラス方向な分、世間と大人の見る目は、ゲーム内のお前達に対する物とは真逆に作用するだろうしな。

 エンディミオン殿下やマックスに比べて、アルフレッドは思ったよりショック受けてないようで、少し安心したけど。

『院長先生! 私、アルフレッドの所に行かなくちゃ行けないの! ここから出して!』
『なりません。貴女は未だ修道中の身。全てのぎょうを修めるまではここから出す訳には行きません』
『でも! 仲間のピンチなのよ⁈』
『それを乗り越えることこそが、彼の修行なのでしょう。貴女は貴女の為すべきことをなさい』

 女主人公ヒロインの主張に当然ながら否を発する院長。

 そして現れる選択肢。


◆どうする?
     大人しく引き下がる
     猛抗議する‼︎
     夜中にこっそり脱出しちゃう!


[ここまでの流れを見ると3番目なのかしら?]
「そうなりますね。1ばん、あたまおかしいせんたくしを、えらびながらすすめていますので」
「つくづくおもうんだけどさ? ここが、みずうみのことうだって、わすれさってるせんたくしよねぇ」

 俺達ですら感じることを親世代組や勇者パーティ組が思わないなんてことはない訳で。


◆どうする?
     大人しく引き下がる
     猛抗議する‼︎
 ピコッ▶︎ 夜中にこっそり脱出しちゃう!


 選ばれた選択肢によって、ノープランで脱走を謀った女主人公ヒロインは、当然のように見つかって、当たり前に連れ戻され、決まり通りに地下の懲罰房へと入れられた。

『やめて! 私をここから出して! アルフレッドが危ないのよ⁈ 魔王に洗脳されちゃったらどうするのよ⁈ ……ハッ! もしかして、貴女達も既に魔王の手に落ちてるのね⁈ だから私の邪魔をするのね⁈』
『……………』

 呆れて物も言えないらしい院長達が、無言のまま女主人公ヒロインの居る懲罰房前から去って行く。

『目を覚まして! 私を皆の所へ行かせて! エンディ! マックス! アルフ! エル! ダリル! 皆が私を忘れちゃう! 魔王の策略に乗っちゃダメ! 私をここから出してー‼︎』

 女主人公ヒロインの叫びも虚しく、バタン、と扉の閉まる音がして画面表示は闇に包まれた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?

真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

砕けた愛は、戻らない。

豆狸
恋愛
「殿下からお前に伝言がある。もう殿下のことを見るな、とのことだ」 なろう様でも公開中です。

処理中です...