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第5章 女神の間にて

花咲く丘にキミと2人で -14-

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『アリィ、有り難う。私は大丈夫だ。こんな誹謗中傷など父上が亡くなられた後で腐る程浴びて来たからね』
「その割にメンタル弱いですね、貴方。11年も期間があれば普通、慣れるでしょう? 女性の前でいい格好したいのなら、せめて動揺は表に出さないでくださいよ。わざとらしい」

 ルピスにちょっと突っ込まれただけで動揺しといてこの言い草か、とばかりにマックスが言い放つ。

 我らが覚醒賢者様は、元第2王女ははおや似で、ぽやぽやして見える癖に意外と辛辣だ。

 宰相閣下ちちおやを見習って、オブラート3億枚くらいに包みなさい。

『そんなのダメよ! あなたもエンディもマックスも! エルを見習って、学院に居る間だけでも我慢することを減らさなきゃ! そうすれば、本当に我慢しなくちゃいけないことと、実は我慢しなくてもいいことの区別が自然と出来るようになるわ!』
「いやぁねぇ。14年も育ててる自分の子供にそんなこと1つ教えてやれない親ってどうなの?」

 母様が、溜息混じりに呟いて。

「実は我慢しなくていいことって何よ? 何かある?」

 と宣ったのは王妃様だ。

「あるでしょ? アンタのだんなのうわきしょうって、がまんしなくちゃいけないことなの?」
「この、ははおやのはっそうのさが、そのままゲームせかいのエンディさまとエルっちの、さになっちゃってるんでしょうね。きっと」

 舞子さんアリューシャ亜梨沙さんルナルリアが呆れたように言ったことは、これからの親世代に関しても課題となっていく事案かもしれなかった。

『アリィ……私は、この学院に来て……キミに会えて良かった。キミのお陰で、大事なことにたくさん気づけているのが分かるんだ。有り難う』
『アルフ……』

 最後に14歳アルフレッドとアリューシャが見つめ合うシーンが入ってイベントが終了すると、唐突に画面は残りのターン消化に入って「ピロリン♪」「ピロリン♪」「デュディン↓」「ピロリン♪」「ピロリン♪」と軽快なSE音と2等身女主人公ヒロインが飛び跳ねたり、落ち込んだりする代物へと変わる。

「うん? 今、1人増えとらんかったか?」

 宰相閣下が疑問符を浮かべた通り、体育を選択設定している授業科目では、お助けキャラである2等身アルフレッドが登場して、一緒に飛び跳ねて喜んだり、落ち込んだアリューシャを慰めたりしてくれる演出に変わっている。

「このえんしゅつがでるということは、アルフレッドさまのこうかんどは、80%のってますわね」
「さすがは、ぎゃくハールート。こうかんどあがるの、はっや」

 そして一事が万事この調子で、イベントが発生しては、それぞれの得意科目に2等身キャラが追加されていく。

 語学と歴史と地理に2等身エンディミオン、算術と理学と魔法学に2等身エルドレッド、体育と魔物学と護身武術にアルフレッド、教養礼儀作法と産業貿易学と経営学にマックス。

 勿論、それぞれの女の子達や、その取り巻き、同じように婚約者を取られかけている御令嬢達が仕掛けてくる、乙女ゲー的には「お邪魔虫」であるイベントも発生していての結果だ。

 その度にこちら側では、疑問と非難と突っ込みが相次いでいて、皆がヤキモキしている中、ついにそのイベントは発生した。

『あ! ダリル先生。こんにちわ!』
「は? 先生? えっ? 何? どゆこと?」

 元気いっぱい女主人公ヒロインアリューシャの挨拶で始まったイベントの出だしで早くも声を上げたのは、このストーリーイベの隠し攻略対象キャラ、しかも「こっち側」であるダリルだった。

『おやぁ。ロモノデュース男爵令嬢。こんにちわ~。いつも元気がよくて、大変よろしいですねぇ~』

 現れた姿は、これまでのどの出立いでたちとも違い、緑の髪に茶色の目、野暮ったい丸眼鏡に、にぶにぶ~んとした雰囲気を纏い、ふやふや~んとした口調をして、穏やかそうに見える表情を浮かべている、男性教師用のローブを着た男だった。

 どうでもいいけど、潜入先で顔や姿は同一人物感ゼロレベルまで変えるまくるのに、名前がそのままなのは、何か意味があるのか? ダリル?

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