上 下
290 / 458
第5章 女神の間にて

花咲く丘にキミと2人で -10-

しおりを挟む
 入学式の行われる講堂にある最前列の中央には、14歳エンディミオン殿下とその婚約者である14歳フランソワーヌの席がある。

 その左隣が宰相候補である14歳マックスとその婚約者ルピスの席。

 14歳エンディミオン殿下の右隣が、近衛騎士団長候補である14歳アルフレッドとその婚約者である14歳リリエンヌの席。

 王国騎士団は代々、前団長の指名制で決まるのでここに候補はいない。

 14歳エルドレッドは、魔法士団長候補なので、14歳マックスの隣、そしてアリューシャはその隣へとエスコートされた。

 周囲がザワついた何よりの理由がこれだ。

 これまで婚約者を決めていなかったエルドレッドが、ついに婚約するのか、と。

『ねぇ、エル。わたし、ここに座っても大丈夫だったの? 後ろの皆、何か色々言ってない?』
『気にしない、気にしない。面と向かって言えない癖に他人の背景になった途端、ピーチクパーチク言う奴等はね、噂雀ルーマスパロウの生まれ変わりなのさ。折角、人間に生まれ変わったっていうのに、雀の頃の習性が直らないなんて、可哀想な生き物だよね。いっそ、人間になんて生まれ変わらない方が好き放題、噂が出来て幸せだったんじゃないのぉ?』

 毒毒毒毒毒毒毒毒毒毒毒毒毒ぷはあぁっ。

 向こうがこっちに聞こえるように好き勝手言ってるんだから、こっちが向こうに好き勝手言うのだって有だよねっていう発想の元に発言しているので、ヒソヒソとかコソコソのレベルじゃない音量で、物凄く楽しげに吐き出された毒台詞は、後ろの席に座っている貴族の子女達を綺麗に全員黙らせる。

 その後ろに並んで座っている平民達は、全然状況も事情もわかっていないので、戸惑い顔をしていたけれど、こんな貴族がワンサカ居る場所で、それを話題に出来る度胸がある者などいなかったようで、講堂は静まり返ってしまった。

『はい、静かになったー。全員揃ってるみたいだし、学院長先生、ご挨拶どうぞー?』

 いつの間にやら前面の高くなっている講堂舞台にある教壇前に居た学院長に話しを振った14歳エルドレッドの言葉に、その場の全員がハッと気づいたような顔をして、そちらへ目を向けた。

 咳払いをして学院長が祝辞を語り出す。

「このソツがない感じは確かにウチの子だけど、何かが微妙に違うのよねぇ」

 母様の目にはアレがソツなく映ってる上に俺が同じカテゴリーに居ると感じてるらしい。

 あるぇ?

「うーん……常識を常識として理解してる所とか、それに自分を嵌め込むんじゃなく、利用してる所は同じなのよ。多分、違うのは……ウチの子は、理解して尚、鼻で笑って無視してる感じで、この子は、けらけら笑いながら遠慮なしに破壊しまくってる感じかしら?」
「だって? エル?」

 隔離空間内で母様が口にした俺2人への評価に、亜梨沙さんルナルリアがニヤつきながら反応を促して来る。

「無視してる訳じゃない。その常識を適用しなくていい相手だと決めたヤツには適用してないだけだ。常識とは、その規範内に収まることが出来る者にのみ、適用して然るべきだからな。それでもTPOくらいは弁えてるぞ、俺は」
「たしかにアンタ、やつあたりと、むさべつばくげきはしないおとこよね」

 俺の答えに舞子さんアリューシャが同意してくれて、俺は内心、ホッと息をついた。

 少なくとも俺は、面白ければ後はどうでいいっていう本物のエルドレッドと自分は、向いてる方向が違うと思ってるので、彼女の評価は有り難かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...