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第5章 女神の間にて
花咲く丘にキミと2人で -7-
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「……何と言うか……ルナルリア王女からの申し出がなかったら、我が息子がよもやこんな男になっとるとこだったとは。ただただ驚愕でしかないんだが?」
「おっかしぃわねぇ。誰に似たのかしら、この子? 強いて言うなら国王陛下? と、いうことは、王家男系の血筋ってことね。確かにこの、女にだらしなくて、いい加減で、惚れた女以外には敬意も愛情も欠片すら見せない感じは、該当するかしらね! わたくしが降嫁する時に公爵家へ陞爵する話し、断って正解だったわ!」
別々に隔離空間へ入っている筈の宰相夫妻が、まるで会話してるみたいに14歳マックスへの感想を紡いだ。
14歳マックスまで、国王が槍玉に上がってるんだけど?
日頃の行いが悪いからとは言え、ちょっと同情するわ。
『えっとぉ、マックスくんでいいのかしら? わたし、アリューシャっていうの。ねぇ、あなたもその年でもう婚約者がいるの?』
『そうですよ。私が3歳の時に決まった政略結婚ですので』
『ええっ⁈ 3歳っ⁈』
『上位貴族は、皆、そんなものですよ。殿下もアルフレッドも決まったのは、同じ年でしたし? ねぇ?』
『確かにな』
『プレ・デビュタント前に決めないと面倒なことになるからって言われた記憶しかないな』
『うわぁっ、3人とも大変だったのねぇ。わたしなんて、3歳の頃とか、起きて食べて遊んで食べてお手伝いして遊んで食べて寝る、の繰り返しだった記憶しかないわぁ』
アリューシャが、指折り数えながら並べた行動記録と感心しきりで言った言葉に、3人は一瞬、キョトンとした顔をしてから大爆笑した。
『それじゃ、まるきり平民と一緒じゃないか』
『そうよー。わたし、12歳の冬までは孤児院育ちだもの』
『えっ? じゃあ、キミがロモノデュース男爵令嬢?』
『うぐっ……れ、令嬢のなりそこないって言いたいんでしょ? 礼儀作法の先生にも散々言われたわ! だけど、男爵家の庶子だからって連れて来られて毎日毎日詰め込み勉強させられてさ! 入学試験に受かるのだって一杯一杯だったのに、令嬢として相応しいように、とかあっちもこっちも無理に決まってんじゃない! 生まれながらの令嬢と違って積み重ねで身につける時間なんてなかったんだから!』
訴えているのか、不平不満を口にしているのか微妙なラインでアリューシャが話したことには、3人も子供の頃の記憶から同情の余地があると思ったのか、礼儀を押し付けるようなことを重ねては言わなかった。
『それにさ! 皆は学院を卒業したら、大人達と一緒に面倒臭いこととか、煩わしいこととかも笑顔でこなさなきゃいけない毎日が待ってるんでしょ? ならここに居る間が最後の自由じゃない。楽しまなくちゃ勿体ないわ!』
生まれながらの王侯貴族である3人には、ない発想だったのだろう。
特に「最後の自由」という言葉への反応が、3人とも強く現れたのが、表情の描写で分かる。
『っ、キミだって、卒業後は私達と変わらない立場だろう?』
『そうかしら? わたしはきっと、下級貴族とか出入りの商家なんかの適当なとこに嫁に出されるか、義務は果たしたって放り出されるか、どっちかじゃない? だから勉強は頑張るけど、その他のことは別にいいやって思ってるの。生きていくのに困らない程度で構わないもの! なら、折角の学院生活を楽しむことにするわ!』
貴族であることに拘らないアリューシャの言動を眩しいものに感じるのは、ずっと背負っている重責が、負担であることをここまで意識しないで生きてきてしまった3人の共通する部分だった。
『……素敵な考えだね。私も見習わなくてはいけないな。自由に楽しくなんて、今迄、考えたこともなかったけれど、キミが学院でそう過ごせるように私も気を配ろう』
『エンディミオン!』
『何だい?』
『わたしの楽しいには、お友達と楽しくっていうのも含まれてるのよ! なら、わたしと一緒にあなたも楽しく過ごしてくれなきゃ、わたし、全然、楽しくならないわ! 本当に協力してくれるなら、あなたも楽しく過ごして!』
『……アリューシャ嬢、キミには驚かされるな。私に自由とか楽しくなんて言ったのは、キミが初めてだよ』
流石は逆ハールート。
女主人公に共感するのが早い。
『そうなの⁈ ひっどおい! そりゃ、エンディミオンは次の王様なんだから勉強しなきゃいけないことも、覚えなきゃいけないこともたくさんあるんだろうけどさ! 楽しいことや嬉しいことを心の底から体験出来てない人が、わたし達、下々の者を幸せにするにはどんな政治をすればいいのか、なんて分かる訳ないじゃない! そんなんだからベーターグランディアみたいな戦争大好き迷惑国家みたいのが出来ちゃうのよ!』
プンスカしながら女主人公が主張したことは、多少の学がついて、貴族社会を知らない者が1度は思うことだったけど、権謀術数に晒されて、軈て忘れてしまい「綺麗事」に分類してしまうような事だった。
今、彼女の目の前にいる3人は、ほんの少し前まで自分も民の為の政、皆が幸せになる世の中を夢見ていたことを思い出してしまったのだろう。
悲しげに目を伏せていた。
「おっかしぃわねぇ。誰に似たのかしら、この子? 強いて言うなら国王陛下? と、いうことは、王家男系の血筋ってことね。確かにこの、女にだらしなくて、いい加減で、惚れた女以外には敬意も愛情も欠片すら見せない感じは、該当するかしらね! わたくしが降嫁する時に公爵家へ陞爵する話し、断って正解だったわ!」
別々に隔離空間へ入っている筈の宰相夫妻が、まるで会話してるみたいに14歳マックスへの感想を紡いだ。
14歳マックスまで、国王が槍玉に上がってるんだけど?
日頃の行いが悪いからとは言え、ちょっと同情するわ。
『えっとぉ、マックスくんでいいのかしら? わたし、アリューシャっていうの。ねぇ、あなたもその年でもう婚約者がいるの?』
『そうですよ。私が3歳の時に決まった政略結婚ですので』
『ええっ⁈ 3歳っ⁈』
『上位貴族は、皆、そんなものですよ。殿下もアルフレッドも決まったのは、同じ年でしたし? ねぇ?』
『確かにな』
『プレ・デビュタント前に決めないと面倒なことになるからって言われた記憶しかないな』
『うわぁっ、3人とも大変だったのねぇ。わたしなんて、3歳の頃とか、起きて食べて遊んで食べてお手伝いして遊んで食べて寝る、の繰り返しだった記憶しかないわぁ』
アリューシャが、指折り数えながら並べた行動記録と感心しきりで言った言葉に、3人は一瞬、キョトンとした顔をしてから大爆笑した。
『それじゃ、まるきり平民と一緒じゃないか』
『そうよー。わたし、12歳の冬までは孤児院育ちだもの』
『えっ? じゃあ、キミがロモノデュース男爵令嬢?』
『うぐっ……れ、令嬢のなりそこないって言いたいんでしょ? 礼儀作法の先生にも散々言われたわ! だけど、男爵家の庶子だからって連れて来られて毎日毎日詰め込み勉強させられてさ! 入学試験に受かるのだって一杯一杯だったのに、令嬢として相応しいように、とかあっちもこっちも無理に決まってんじゃない! 生まれながらの令嬢と違って積み重ねで身につける時間なんてなかったんだから!』
訴えているのか、不平不満を口にしているのか微妙なラインでアリューシャが話したことには、3人も子供の頃の記憶から同情の余地があると思ったのか、礼儀を押し付けるようなことを重ねては言わなかった。
『それにさ! 皆は学院を卒業したら、大人達と一緒に面倒臭いこととか、煩わしいこととかも笑顔でこなさなきゃいけない毎日が待ってるんでしょ? ならここに居る間が最後の自由じゃない。楽しまなくちゃ勿体ないわ!』
生まれながらの王侯貴族である3人には、ない発想だったのだろう。
特に「最後の自由」という言葉への反応が、3人とも強く現れたのが、表情の描写で分かる。
『っ、キミだって、卒業後は私達と変わらない立場だろう?』
『そうかしら? わたしはきっと、下級貴族とか出入りの商家なんかの適当なとこに嫁に出されるか、義務は果たしたって放り出されるか、どっちかじゃない? だから勉強は頑張るけど、その他のことは別にいいやって思ってるの。生きていくのに困らない程度で構わないもの! なら、折角の学院生活を楽しむことにするわ!』
貴族であることに拘らないアリューシャの言動を眩しいものに感じるのは、ずっと背負っている重責が、負担であることをここまで意識しないで生きてきてしまった3人の共通する部分だった。
『……素敵な考えだね。私も見習わなくてはいけないな。自由に楽しくなんて、今迄、考えたこともなかったけれど、キミが学院でそう過ごせるように私も気を配ろう』
『エンディミオン!』
『何だい?』
『わたしの楽しいには、お友達と楽しくっていうのも含まれてるのよ! なら、わたしと一緒にあなたも楽しく過ごしてくれなきゃ、わたし、全然、楽しくならないわ! 本当に協力してくれるなら、あなたも楽しく過ごして!』
『……アリューシャ嬢、キミには驚かされるな。私に自由とか楽しくなんて言ったのは、キミが初めてだよ』
流石は逆ハールート。
女主人公に共感するのが早い。
『そうなの⁈ ひっどおい! そりゃ、エンディミオンは次の王様なんだから勉強しなきゃいけないことも、覚えなきゃいけないこともたくさんあるんだろうけどさ! 楽しいことや嬉しいことを心の底から体験出来てない人が、わたし達、下々の者を幸せにするにはどんな政治をすればいいのか、なんて分かる訳ないじゃない! そんなんだからベーターグランディアみたいな戦争大好き迷惑国家みたいのが出来ちゃうのよ!』
プンスカしながら女主人公が主張したことは、多少の学がついて、貴族社会を知らない者が1度は思うことだったけど、権謀術数に晒されて、軈て忘れてしまい「綺麗事」に分類してしまうような事だった。
今、彼女の目の前にいる3人は、ほんの少し前まで自分も民の為の政、皆が幸せになる世の中を夢見ていたことを思い出してしまったのだろう。
悲しげに目を伏せていた。
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