上 下
280 / 458
第5章 女神の間にて

ダリルの場合

しおりを挟む
 結局、あらゆる意味で巻き込まれる運命にあるのだと、この時になってやっと俺は理解した。

『あ! おもいだした! かくしこうりゃくたいしょうのダリル、だ!』

 殿下にこの妙な枕詞付きで名を呼ばれた時、俺はこの呼称について、もっと突っ込むべきだったんだ。

 隠し攻略対象。

 何の? 誰の?

 その答えが、この女神様に見せられている俺であって俺ではない男の所為で判明していた。

 目の前の景色がフワ~っとぼやけたと思ったらキラキラと漂ってきた光の粒が見たことのない文字を描き出す。

 見たことのない文字なのに、今は読めるし、意味も分かる。

     「花咲く丘にキミと2人で」

 ぼやけた景色の中、並ぶ少年達の中、ただ1人腰から上がシルエットな人物が1人。

 いやいやいや。

 確かに部長へ報告しに来る時は、いつも同じ姿だよ?

 他の人には、これが俺だって、1番判別しやすいのも認めるよ。

 でもさ?

 身体の上を影っぽくして隠したって知ってる人間には誰だか分かるってば、これ!

 自分を含めた彼等の姿が消え、暫く浮かんでいたその文字すら消え去ると次に現れたのは、ステータス画面によく似た四角だった。

 初めにあなたの名前をおしえてね!

 そう書かれた四角の中には、既に「アリューシャ」という名前が入っている。

 四角の中で下部に配置されている「これでいい!」が明るい橙色に光る。

 それが下に引っ込むような動きをすると四角に記されている文章の内容が変わった。

 ヒロインモードを選んでね!

 そんな内容の文字列に変わった文章の下には、また別の四角があって。

 現在のヒロインモード:穏やかモード
 ▼このモードのヒロインは、アルフレッドとマックスと早く出会えるよ!

 と書かれていた。

 四角の後半が「天然モード」に変わると早く出会える相手はエンディミオンとエルドレッドという文章に変わる。

 他にも組み合わせが変わったり、相手が1人だけになったりしたが、その中で「ミステリアスモード」というのになった時だけ出会える相手の名前が「??????」となっていた。

 ▼このモードのヒロインは??????と早く出会えるよ! 隠し攻略対象と確実に出会えるのはこのモードだけ!

 …ってね。

「うっわぁ、すっげぇ嫌な一致……」

 中には「逆ハールートに入れるのはこのモードだけ!」なんて書かれてるものもあったんだが、何とこの目の前の四角は、このモードを選んだようで「これでいい!」が下へと引っ込むと「真の逆ハーエンディングでは隠し攻略対象の??????も出てくるよ!」と書かれていた。

 うん、あのさ? 一応、俺、暗部の人間なので、そうホイホイと隠し攻略対象とかいう看板くっつけて、表舞台に動員しようとしないで欲しいんだけども?

 俺の願いも虚しく目の前の四角は、ステータスボードと同じ能力値とか属性値なんかを表記したんだけど、ここにも「未設定ボーナス」とか言う俺の知らない数値があって、何とこれは、自分の好きな所にこのボーナスという所にある数値分だけ自分のステータスを自分で調整出来るという優れものだった。

「え。何この、ずっこい機能? ……ステータスオープン」

 俺は以前、坊ちゃん達がやっていたと部長が報告され、以後、暗部では正式に使用を許可されたステータスボードを自分で開くことの出来る魔導を使った。

 だが、何も起こらない。

「ファイア」

 ごく、基礎的な魔法も発動しなかった。

 自分の魔力は感じられるし、循環もしてる。

 だけど使えない。

「とにかく、大人しく見てろってことなのかね?」

 これを見せているのが、女神様である以上、そういうことなんじゃないかと勝手に解釈して、俺は首の後ろを右手の爪でボリボリ掻いて溜息をついた。

 巻き込まれるの、何で俺なんだろ。

 どうして俺なんだろ。

 部長とか班長とかにすればいいじゃん‼︎

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

処理中です...