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第5章 女神の間にて

どうしてこうなった? -6-

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「〈ᚹᛇᛚᛞᛒᚱᚨᚾᚲᚱᚢᚾᛖ ᛢᚪᛇᚺᚩᛃᚨᚪ〉」

 うぃにゅうらぁあぐ……う? は?

 いや、待て待て待て待て待て!

 小僧! お前、今、何つった?

 今のは何処の魔法言語だ? 何を言うとるのか、サッパリ分からんかったぞ⁈

 だが、しっかり魔法としての効果はあるようで、天から降りくる光は教会の屋根を綺麗に突き抜けて祭壇の前へと到達し、何かの形を作り出した。

 あれは、門? 鏡?

 小僧が転移で教会の中へと移り、その門だか鏡だかよく分からん物の前に女をエスコートする時のように右手を差し出す。

 すると天から落ちてくる様々な光の粒が門だか鏡だかに吸い寄せられて集まり、段々と淡く発光する物を作り出していく。

 あれは、女の指先? 細く、長く、嫋やかで、白く、美しい、王族の女ですら滅多に居ない、淑女の見本のような、手。

 小僧の手に、ゆっくりと引かれ、まるでそこからこちらへ現れ出てきているかのように、光の粒が集まっては淡く輝くその身が出来上がっていく。

 すらりと細い腕、丸い肩、なだらかな鎖骨の線から胸元にたっぷりとしたドレープの取られたドレスのラインが描かれ、それを押し上げる豊満なバストラインが、これまで見てきたどの女よりも美しく完璧な稜線を作り出す。

 細く括れた腰が模様の描かれた帯紐で縛られているだけなのに、それでも尚、胸の大きさとの落差で殊更、細く柔らかなカーブを描き、膝元まで絞られたドレスのラインが、形の良い尻をより強調している。

 大胆にスリットの開いたドレスラインは、足元で百合の花のように広がり、スリットからほんの僅かに覗く白い脚は、艶やかで細く、それでいて女らしさを損なわない見事な曲線を描いていた。

 踵の高い、踝までのレースが施されたショートブーツを1度だけ、コツン、と鳴らして陽の光を移し取った金の髪が緩やかに波打ちながら頭頂に向かって形作られ、空の色を落とし込んだ瞳の色は晴れやかに、その花弁を思わせる薄桃色の唇と共に微笑みを刻む。

 鼻梁の高さと幅、目の位置と大きさ、眉の形に頬と額の広さとバランス、顔の形や顎の細さに至るまで、非の打ち所のない、完璧な美。

 遂に全身を現した女の前に2人の少女が、こちらを向いて侍る。

「めがみ、サーシャエールさまのごこうりんでごさいますわ」
「こたびは、とくべつに、じきとうがゆるされます。こころして、めがみさまのじひにすがりなさい」

 そう言って淡く光る美しい女へと向き直り、両膝をついて深く頭を垂れた。

 この女が……いや、女性が女神サーシャエール様!

「素晴らしい! 何と美しい……正に女神!」

 感動に打ち震えた俺は、そのかんばせから目を逸らすことすら出来ず、勝手に膝が廊下の床へと落ちていた。

「全ての生命の母にして恋人、全世界の崇敬と愛を一身に集める、ただ1人の女神、サーシャエール様……この世に2人と存在せぬ美の結晶!」

 本気でそう思い、心の底からそれを讃えてから、ふと、気がついて俺は驚愕した。

「カトリアーヌ! ロー! セツ! スター! 大変だ! 一大事だ!」
「あ? 何だよ、何がどうしたんだよ?」

 女神様が降臨している時点で十分大事だろうが、と言わんばかりの声で問うスターに言い返す形で俺は皆に向かって叫んだ。

「この世に2人といない、こんなにいい女が目の前に居るのに、この俺が欲情しない! 凄いぞ、これは! 流石は女神様だ!」

 こんなことは生まれて初めてで、心の底からの驚愕と感心と感動を味わったから、素直にそれを称賛しただけなのに。

「ばっ……⁈」

 いつもの調子で、バカモン! とか怒鳴るつもりだったらしいスターが女神様の前だったのを思い出し、慌てて自分の口を両手で塞いで、その言葉を押し留めた。

 代わりに。

「ちちうえ。まじめに。めがみさまをたたえることばに、しつげんをまじえないでください」

 目の上を真っ平らにしたエンディミオンに、物凄く冷たい目で突っ込まれ。

「この空気の中でそれ言えるとか、アンタの女好き、マジ、ブレねぇよなっ!」

 女神様をエスコートしとる小僧に、ゲラゲラ笑われた。

 おかしいな。

 初体験なんだぞ。

 吃驚して感動するだろうが、普通?

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