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第5章 女神の間にて

どうしてこうなった? -5-

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 ローの邸からほぼ外に出ることなく、渡り廊下のような所を通った先に、そのこじんまりとしているものの品良く纏められた教会は存在していた。

 教典の一節を表した連作だろうステンドグラスは、作者の思い入れ己の腕への自負、そして、これを収めるランドリウス公爵家への感謝と敬意が透けて見える程の力作で、王都の教会本部にあってもおかしくないような出来であったが。

 不思議とこの教会にあるからこそ、そう感じられる気がして、女神様が降臨する場所としてローがここを提案した理由が少しだけ理解出来た。

「じゃ、始めるか。アリィ、フラン。頼むぞ」
「わかってるわ」
「おまかせくださいませ」
「ランドリウス公爵、入口の扉だけでいいから全開に開けといて貰っていい? 次元干渉波で、ステンドグラス割れたら勿体ねぇから」
「分かった」
「他の皆は、なるべく通路の端に寄って真ん中開けといてくれ。じゃねぇとフッ飛ばされるぞ」

 小僧の言葉に俺達は素直に頷いて、通路の左右に分かれて待つ。

 腹立たしいことにこの小僧の言うことには、嘘や誇張が一切なく、信じないヤツは馬鹿しか見ない。

 それをここにいる親世代は、ほぼ全員知っとるからな。

「あの……王妃様? 女神様をお呼びして、一体、何をいたしますの?」
「大丈夫ですよ、ヘルガティーエ。貴方の息子が聖騎士の称号持ちである事実は変わりませんが、女神様にお会いして、すぐに覚醒させるような話しをする為ではないと、わたくしは聞いています。ちょっとした秘密を女神様とわたくし達で共有する集まりなのですよ」
「………はい………」

 俺達は、半分は子供達の為、もう半分は女神様に直に会える! みたいな、やや俗っぽい理由で集まっていたりする。

 だからだろう。

 カトリアーヌの返答は、辺境伯夫人の疑問を完全には解消しきれないくらいの、ワクワク感が漏れ出ていた。

 珍しいな。

 彼女が、熱心な女神教徒ではないことくらい、長い付き合いから俺は知っている。

 強いていうなら、これは、アレだな、アレ。

 王都の有名劇団の売れ筋俳優とかに向ける熱と同じ類いの……何といったかな?

 ルナルリア王女が前に言うとった……。

「おうひさまって、いがいとミーハーですよねぇ。まぁ、わたくしも、じかにサーシャエールさまにおあいできるのは、これがはじめてなので、おきもちは、わかりますけれど」

 あー、そうそう、それだ。

 みぃはぁ。

 あー、スッキリした。

 思い出せんモヤモヤ感を持ったままというのは、気持ちが悪いからな。

「うん。ぼくもはじめておあいするから、きんちょうしてるみたいでね。ちょっとドキドキしちゃってるかなっ」
「そうですね。わたくしも、かってにいきがはやくなっているようなきがいたしますわ」
「お優しい女神様ですから硬くならなくても大丈夫ですよ」
「だが、きんちょうするなというのは、むずかしいな。なにせ、かみにちょくせつ、あえるというのだから」

 息子達が、廊下の中央を挟んだ向い側で、妙に可愛らしい感じでしとるやりとりを聞いて和んだ空気も束の間。

 教会を挟んで対角線上に立つ、聖女の娘と愛巫女の娘を起点に教会の真下に当たる地面に巨大な魔法陣が描かれる。

 そして教会の上空に陣取っていた小僧が、纏め上げた強大な魔力を空に向かって解き放つ。

 初めて見る、俺の知らぬ属性魔法だった。

 雲間に消えたその光が、波のように揺らめきを纏いながら様々な光の粒となって降り注いで来るのが見えた。

 その中央をゆっくりと空から地へ向かって伸びてくる白い光の帯は北の地で真冬に時折、垣間見ることが出来るという、極光現象に似た印象を以って瞬いていて、今、正に、神聖なる物が天空より降り来たりていることを俺達に連想させた。

 2人の娘が両手をその光に向かって掲げ、聖属性の魔力が身体から立ち昇る。

 その様は、昼日中だというのに篝火のような印象を俺に抱かせていた。

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