上 下
267 / 458
第4章 集まれ仲間達

辺境伯の忘れ事 -1-

しおりを挟む
 兵を半数程、国境門周辺へと残して僕達は砦へと凱旋した。

 到着早々、拗ねて膨れてしまったリリエンヌ嬢の御機嫌取り(?)をする為にエルは彼女を連れて転移で何処かに消えて行き、残った僕達は、ツェルデンテ伯爵と共に辺境伯へと報告に向かった。

 砦内は、何処も彼処も戦勝に沸き立っていて、すれ違い様にかけられる喜びや労いの声は、それだけで僕達の気持ちを明るくしてくれた。

「ねぇ、マックスさま。こっきょうもんのところにいた、アンデット・ドラゴンって、なんでエルっちとこうたいするみたいにしてきえてっちゃったの?」
「あれは、師匠の所為というよりは精霊達の所為ですね」

 ルナ様に説明を求められたマックスが、少し困ったような顔をしながら続きを口にする。

「普段は精霊界から力を及ぼすだけで、僕達の世界へは、直接、現れることのない上位階精霊が5属性全て来ていましたし、リリエンヌ嬢が無属性の魔力をくださったことで、全属性があの場に揃うことになりました。形成されたその力場が及ぼす影響は、地のことわりから外れているあの生腐屍者アンデット・ドラゴンの存在を継続させなかったようです」

 歩きながら聞いたマックスの説明は、結構、分からない単語がいっぱいあって、僕はまだまだ自分が勉強不足だな、と思ってしまう。

「んー……むずかしくって、くわしいことは、ぜんぜんわかんないけど、せいれいたちのおかげで、そんざいできなくなってきえちゃったんだってところは、わかったかな!」
「はい。それが分かれば十分かと思います」
「じゃあ、へんきょうはくにもそれでせつめいすればいいの?」

 僕達は、報告に向かっているので流石にその辺りの説明を省いて「勝ちました! おしまい‼︎」って訳にはいかないと思うんだよね。

「いえ、辺境伯様には、僕とツェルデンテ伯爵様で詳細のお話しは致しましょう。殿下には、国王陛下と王妃陛下への報告書類の作成をアリューシャ様達と一緒にしていただければ助かります」
「そうだね、それもひつようだもんね。じゃあ、へんきょうはくのしつむしつにある、はしづくえでもかりて、5にんでやろうか」
「そうね」

 大体の方針が決まった所で丁度よく辺境伯様の執務室前に辿り着いた僕達は、ツェルデンテ伯爵と入口を警備する兵のやり取りを待った後、彼の後に続いて部屋の扉を潜った。

「アルフレッド! すまん!」

 僕達の姿を見るなり、挨拶も報告もスッ飛ばした辺境伯が、アルフレッドに向かって頭を下げ、その頭の上で両手を合わせ、勢いよく謝罪の言葉を投げて来た。

「いきなりなんですか? とうさま?」

 唐突過ぎて事態が把握出来なかったらしいアルフレッドは、当然、そう尋ねる。

 そりゃそうだよね。

 僕でも聞くよ。

 もし、過去に話してあることなんだとしてもタイミングからして思い出せそうにないだろうし?

「ヘルガティーエが、お前とライオネルを連れて砦を出たそもそもの理由は、私が、これの存在を綺麗サッパリ忘れていて、お前に渡していなかったのを怒ったからなのだと、先程、王都の邸から連絡があった。誓って故意ではないが、本当にすまん!」

 そんな疑問を抱きながら顔を見合わせた僕達に、辺境伯はそう言って執務机の上に積まれていた冊子の束をアルフレッドに差し出した。

 見た目にも結構な重量感を伴ったその束を受け取ったアルフレッドは、僕達と同じ疑問顔のまま1番上にある冊子の表紙を開いた。

 そこには、貴石絵具で描かれた可愛らしい女の子の姿絵が左側に、右側の表紙裏には、その女の子の名前、家柄、家内序列、得意な事や勉強中なこと、趣味などが書かれている。

 うん。

 どっからどうみても釣書だよね、これ。

 あーあ……これを本人に見せるの忘れたら、奥方が怒るの当たり前だよー……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

純潔の寵姫と傀儡の騎士

四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。 世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...