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第4章 集まれ仲間達

砦 of Dead -9-

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「ぶんかい、ぶんかーい! うりぃぃぃぃ! ああっ、ネタわかってくれるひとがいないとむなしー!」

 ルナ様が、よく分からないことを時折、叫びながら手にした槍の5本もある穂先から金色の光を連続、且つ、大量に飛ばしていく。

 僕達の前に現れた大きな生腐屍者アンデット・ドラゴンは、成す術もなく、順調にガツガツと削られていて、部隊長は、早々に生腐屍者アンデット・ドラゴンの相手をルナ様に任せ、僕や砦兵達には、擁壁の外に次々と現れるアンデットを焼き払う作業を続けさせた。

「どうでもいいけど、これ、村何個かって規模の人数じゃないぞ。町を幾つか潰してるんじゃないのか? ベーターグランディアの連中」
「ぼくもそうおもいます。これまでの、こっきょうごえとちがって、デルタズマフェンが、かかわってるせいか、じこくみんにたいする、はいりょがまったくないきがします。へいをそんもうしなけりゃいいだろ、みたいな、すごくむせきにんで、なげやりなかんじがするっていうか……」
「ああ。言いたい事は分かる。考えようによっちゃ、ヤケクソにすら見えるよな、これは」
「はい。とにかく、こっきょうがやぶれればそれでいいんだっておもってるだれかが、いるんじゃないでしょうか?」

 僕は、すぐ隣にやってきた部隊長とそんな会話を交わしながら消耗戦対殲滅戦とでも言い換えられそうな現在の状態をお互いに評していた。

 やがて、擁壁下の人が生腐屍者アンデットになったものは全て動かなくなり、ルナ様が相手取っている生腐屍者アンデット・ドラゴンも骸骨スケルトン・ドラゴンになりつつあって、終わりが見えて来たかな? と思った時。

 殆ど骨だけになった生腐屍者アンデット・ドラゴンが上を向く。

 淀み、くぐもった叫び声みたいな咆哮が辺りに響くと生腐屍者アンデット・ドラゴンの背後に金の額縁みたいな飾りがついた巨大なウォールミラーが現れた。

 楕円の鏡部分が黒と紫のまだらに塗り潰されて、禍々しいどんよりとした雲状の物がそこから生腐屍者アンデット・ドラゴンに伸びていく。

「ちょっとまって……このドラゴン、まさか……ミラードラゴンなの?」
「ミラードラゴン?」
「イプシロンニェーターにしかいないドラゴンよ! ゲームでも、このイベにでてくる、いろんなドラゴン、どっからちょうたつしてきたんだろうって、ずっとおもってたけど、コイツらもデルタズマフェンのていきょうだったわけ⁈ そりゃ、ちょうきゅうイベになるはずだわ‼︎」

 ルナ様の言うことは、やっぱり色々分からない単語が一杯あったけれど、それでもイプシロンニェーターにしかいないドラゴン、と聞いて僕達の中に驚かない人は誰も居なかった。

 魔族国イプシロンニェーター。

 常より、魔物や魔族が跋扈する大陸最北端の場所。

 人々にとって最も恐れられる禁足地であり、何より。

 ──… 魔王降誕の地。

「ヤバイ! やっぱコイツ、ミラードラゴンだわ! さいせいしてる‼︎」

 ルナ様が生腐屍者アンデット・ドラゴンの正体を確定させたようで、攻撃対象を生腐屍者アンデット・ドラゴン自体から後ろの巨大な鏡に切り替えた。

 ボコボコと穴あきになっていく鏡を見て、誰かが土属性の石礫魔法をそれに放ったけれど、石の礫は、全て鏡を通過して向こう側に行ってしまった。

「どうやら実体のある、物理的な鏡ではないようですね?」
「そうみたいだね。ぼくもミラードラゴンって、はじめてきいたけど、まほうこうげきもぶつりこうげきも、はんしゃされるから、ほとんどこうかがなくて、ゆいいつ、まともにつうようするこうげきしゅだんが、れんきんじゅつの “ぶんかい” だなんて、おもわなかったよ」
「……魔法戦の常識が根底から覆りそうな話しですな。錬金術士が戦闘職になりえるなんて、我が国では、これまで誰も考えたことがなかったでしょうから」
「ね。こくないの、れんきんじゅつしのじゅうようどランクが、すごくあがりそうだよ」

 最もルナ様とリリエンヌ嬢のお陰で、国内の錬金術士と薬師への認識は既に変わってきていて、存在価値を見直す動きが加速しているようだけど。

 今もルナ様が孤軍奮闘していて、人の生腐屍者アンデットがこれで片付いてしまうなら、僕達はもう、彼女を応援することくらいしか出来ない。

 そんなことを考えながら再生していく生腐屍者アンデット・ドラゴンを見ていた時だった。

 穴ぼこだらけの鏡と生腐屍者アンデット・ドラゴンの間で、ほんの一瞬だけ、何かが光ったような気がして、嫌な予感がした僕は、手にしていた短杖を頭上に掲げた。

たいまほうけっかいアンチ・マジック・シェル!」

 僕がルナ様に向けてかけた防御魔法は、間一髪で間に合って、彼女に向かって飛んで来た魔法弾マジックボールは全て防ぎ切ることができた。

 危ない危ない。

 任せっきりにしたい訳じゃないんだから、こういうのは、僕がちゃんと注意しとかないとな。

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