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第4章 集まれ仲間達
エンディミオン & アリューシャ
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僕とアリィは、ルナの作った「じどうこうげきがたぼうへき」の上に何人かの兵達と一緒に立ち、防壁の攻撃範囲内に居ない敵の動きに注意払っていた。
アリィが城で教えてくれた、迷宮に出るゾンビやグールは決定的に違う生腐屍者達。
それは、己の死を理解していないとか、自分を殺した者への恨みがあるとか、そういう話しとは根本的に違った。
『今回、砦に出る生腐屍者は、謂わば病人の成れの果てなの。迷宮に出るアンデットは、そこで死んだ冒険者の死体が材料になってるものと迷宮が作り出してるものに二分されてはいるけど、聖魔法の浄化が通用する。昇天させてしまえば終わりな魔物の一種よ。だけど、わたし達が相手取る辺境伯領を襲撃する生腐屍者は違う。アンデット・ウイルスに侵されて、生きながらにしてアンデット化された人達なのよ』
迫り来る生腐屍者は、どう見てもベーターグランディアの民だった。
兵士でも犯罪者でもなく、好きでベーターグランディアに生まれて来た訳でも、自由に選んでベーターグランディアに住んでいる訳でもない。
ごく普通の人達。
「ほんとうに、くさりきってるのは、ベーターグランディアのじょういかいきゅしゃみたいだね」
僕が、心の奥底から湧き上がって来る怒りを殺し損ねて発した声は、自分で想定していたより、随分、低く聞こえた。
「エンディ、きいて」
僕の右手をキュッと握ったアリィが、真剣な声で訴えて来たことに僕は、無言のまま視線だけを彼女に向ける。
「はんめんきょうし、ということばは、こういうときにつかうべきことばだわ。このありさまをみて、いかり、いきどおることのできるあなたは、けっして、たみをしいたげない。たこくにそそのかされて、りんごくのとちや、おんけいをうばうために、ぐんや、へいをうごかし、ぎせいをしいることなどしない。いま、わたしのことばをきいて “それは、こくおうとして、いせいしゃとして、あたりまえのこと” だと、おもってくれたなら、あなたは、ぜったいにまちがえない。そして、まちがえているれんちゅうをあいてに、くっし、ひざをおることはない。わたしは、そうしんじてる」
強い瞳と言葉でそう言ってくれたアリィに僕は、しっかりと彼女の手を握り返し、頷いた。
「こくおうとか、いせいしゃとか、ゆうしゃとか、そんなかたがきや、ちすじなんかのもんだいじゃない。ぼくは、このこういを、ひととしてまちがっているとおもう。たしかに、あらそいはなくならないのかもしれない。たしゃをしいたげるものが、このよからいなくなることは、ないのかもしれない。だけどそれをへらすことだって、じぶんじんが、そうならないことだって、できるはずだ。なのにそれをえらばない、えらぶきすらないベーターグランディアを。そのしはいしゃかいかいきゅうのものたちを。ぼくがうらやんだり、みならったりすることは、ぜったいにない」
アリィではなく、眼下の生腐屍者にされてしまった者達を見据えながら僕は、そう言い切った。
忘れない。
僕は、この光景を絶対に忘れない。
シグマセンティエの民達をこんな目には決して遭わせない。
「それでこそ、わたしがあいしたエンディだわ。ありがとう。あなたがそれをしっかり、ことばにして、こうどうにうつしてくれるひとなのが、なによりも、うれしいわ。わたしも、あなたのそばにいて、あなたのりそうをじつげんするてだすけを、せいいっぱいするわ!」
アリィの言葉に怒りと憤りしかなかった僕の中に、ふんわりとした柔らかな気持ちが戻って来るのを感じた。
ああ……そうだ。
虐げられ生腐屍者に堕とされてしまった人々を、例え敵国の者であろうと怒りのままに討てば、僕も奴等と同類だ。
それじゃダメだ。
僕がしなくてはいけないことは、ただ自分の思う正義を振り翳して実行することじゃない。
自分で自分を落ち着かせようと大きく深く息を吸って、一旦、止めてからゆっくりと吐く。
頭の中を1度空っぽにして、目を閉じてそれを繰り返す。
魔力の制御と一緒だ。
僕は生まれの所為もあって、誰よりも自制することと自分の言葉や態度が周囲に与える影響を考えて動くことを叩き込まれて育ってきたから、これは得意科目だ。
少し窮屈で、我慢の多さを感じていたけど、アリィに会って、全部が全部、僕の中へ閉じ込めなくちゃいけない訳じゃないんだってことも分かった。
仲間に会って、僕だけが孤独に1人で頑張らなくちゃいけないのじゃなく、僕自身が努力しなくちゃいけないことと、皆で協力してやれることの2つが存在してるんだってことも分かった。
世界は、皆が皆、味方じゃない。
だけど、自分で思ってたよりずっと、受け入れてくれる人も手助けしてくれる人も居るんだって、僕は知ってる。
だから、大丈夫。
「うん。ぼくは、まちがえないよ。アリィがこうしてそばにいてくれるなら、ぼくひとりでぼうそうしちゃうことも、やけになることもない。だいじょうぶだよ」
そう答えて僕達は、微笑み合った。
周囲の兵達も眼下の光景と防御壁の猛攻をこの瞬間だけは忘れて、僕達を暖かく見守ってくれているようだった。
アリィが城で教えてくれた、迷宮に出るゾンビやグールは決定的に違う生腐屍者達。
それは、己の死を理解していないとか、自分を殺した者への恨みがあるとか、そういう話しとは根本的に違った。
『今回、砦に出る生腐屍者は、謂わば病人の成れの果てなの。迷宮に出るアンデットは、そこで死んだ冒険者の死体が材料になってるものと迷宮が作り出してるものに二分されてはいるけど、聖魔法の浄化が通用する。昇天させてしまえば終わりな魔物の一種よ。だけど、わたし達が相手取る辺境伯領を襲撃する生腐屍者は違う。アンデット・ウイルスに侵されて、生きながらにしてアンデット化された人達なのよ』
迫り来る生腐屍者は、どう見てもベーターグランディアの民だった。
兵士でも犯罪者でもなく、好きでベーターグランディアに生まれて来た訳でも、自由に選んでベーターグランディアに住んでいる訳でもない。
ごく普通の人達。
「ほんとうに、くさりきってるのは、ベーターグランディアのじょういかいきゅしゃみたいだね」
僕が、心の奥底から湧き上がって来る怒りを殺し損ねて発した声は、自分で想定していたより、随分、低く聞こえた。
「エンディ、きいて」
僕の右手をキュッと握ったアリィが、真剣な声で訴えて来たことに僕は、無言のまま視線だけを彼女に向ける。
「はんめんきょうし、ということばは、こういうときにつかうべきことばだわ。このありさまをみて、いかり、いきどおることのできるあなたは、けっして、たみをしいたげない。たこくにそそのかされて、りんごくのとちや、おんけいをうばうために、ぐんや、へいをうごかし、ぎせいをしいることなどしない。いま、わたしのことばをきいて “それは、こくおうとして、いせいしゃとして、あたりまえのこと” だと、おもってくれたなら、あなたは、ぜったいにまちがえない。そして、まちがえているれんちゅうをあいてに、くっし、ひざをおることはない。わたしは、そうしんじてる」
強い瞳と言葉でそう言ってくれたアリィに僕は、しっかりと彼女の手を握り返し、頷いた。
「こくおうとか、いせいしゃとか、ゆうしゃとか、そんなかたがきや、ちすじなんかのもんだいじゃない。ぼくは、このこういを、ひととしてまちがっているとおもう。たしかに、あらそいはなくならないのかもしれない。たしゃをしいたげるものが、このよからいなくなることは、ないのかもしれない。だけどそれをへらすことだって、じぶんじんが、そうならないことだって、できるはずだ。なのにそれをえらばない、えらぶきすらないベーターグランディアを。そのしはいしゃかいかいきゅうのものたちを。ぼくがうらやんだり、みならったりすることは、ぜったいにない」
アリィではなく、眼下の生腐屍者にされてしまった者達を見据えながら僕は、そう言い切った。
忘れない。
僕は、この光景を絶対に忘れない。
シグマセンティエの民達をこんな目には決して遭わせない。
「それでこそ、わたしがあいしたエンディだわ。ありがとう。あなたがそれをしっかり、ことばにして、こうどうにうつしてくれるひとなのが、なによりも、うれしいわ。わたしも、あなたのそばにいて、あなたのりそうをじつげんするてだすけを、せいいっぱいするわ!」
アリィの言葉に怒りと憤りしかなかった僕の中に、ふんわりとした柔らかな気持ちが戻って来るのを感じた。
ああ……そうだ。
虐げられ生腐屍者に堕とされてしまった人々を、例え敵国の者であろうと怒りのままに討てば、僕も奴等と同類だ。
それじゃダメだ。
僕がしなくてはいけないことは、ただ自分の思う正義を振り翳して実行することじゃない。
自分で自分を落ち着かせようと大きく深く息を吸って、一旦、止めてからゆっくりと吐く。
頭の中を1度空っぽにして、目を閉じてそれを繰り返す。
魔力の制御と一緒だ。
僕は生まれの所為もあって、誰よりも自制することと自分の言葉や態度が周囲に与える影響を考えて動くことを叩き込まれて育ってきたから、これは得意科目だ。
少し窮屈で、我慢の多さを感じていたけど、アリィに会って、全部が全部、僕の中へ閉じ込めなくちゃいけない訳じゃないんだってことも分かった。
仲間に会って、僕だけが孤独に1人で頑張らなくちゃいけないのじゃなく、僕自身が努力しなくちゃいけないことと、皆で協力してやれることの2つが存在してるんだってことも分かった。
世界は、皆が皆、味方じゃない。
だけど、自分で思ってたよりずっと、受け入れてくれる人も手助けしてくれる人も居るんだって、僕は知ってる。
だから、大丈夫。
「うん。ぼくは、まちがえないよ。アリィがこうしてそばにいてくれるなら、ぼくひとりでぼうそうしちゃうことも、やけになることもない。だいじょうぶだよ」
そう答えて僕達は、微笑み合った。
周囲の兵達も眼下の光景と防御壁の猛攻をこの瞬間だけは忘れて、僕達を暖かく見守ってくれているようだった。
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