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第4章 集まれ仲間達

辺境伯領の落日 -19-

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「あせってるぅ? さきっぽに、ちょっとしたきんぞくつけただけの、はじょうづちなんて、とおりそうもないぼうへきだもんねー? モチ、そんなもん、とおしっこないけど? そのために、つくるまえ、キッチリきょうどけいさんしたんだしぃ?」
「な、何のことだ?」
「つちかべ、どかーんってやって、あなあけて、ひるまのせんとうが、ひとだんらくしたあとに、よる、そのあなから、アンデットがしこたま、ほうりこまれるてはずになってるの。しってるぅ?」

 「ルナさま」が言ったその台詞にシュバックは、作り物ではなさそうな驚愕の表情を向けて彼女に詰め寄った。

「はあっ⁈ アンデット⁈ な、何のことだ⁈ し、知らんっ! 本当に・・・知らん‼︎ 一体何のことだ、それは⁈」
「ルナさまが、もうしあげたはずですわ。わたくしたちは、めがみサーシャエールさまの、ごしんたくによってこのちに、まいっていると。ベーターグランディアが、こたびのけんでもくろむそのいっさいを。わたくしたちは、すべてしらされているのですよ」
「もちろん、てびきしたのがアンタなこともね」

 2人が後で、と言っていたことを口にするタイミングが来たのだろう。

 俺が懸念していたことを踏襲しているような形で、それは告げられた。

「っ‼︎ わた……」
「ああ、いいわけとかいらないわ。アンタとベーターグランディアのあいだでかわされてる、けいやくしょのないようも、わたくしたちは、ぜんぶしってるから。めがみのちからをナメるなよ?」
「そんなデタ……!」
「アンタが、いまも? ごしょうだいじに、けいやくしょもってることも? もちろん、しってるしね!」

 「ルナさま」が、そう言った瞬間、領軍の兵達が4人、シュバックの傍へ殺到して、あっと言う間に彼を拘束してしまった。

「ま、待て! やめろ! こんなガキのいうことを信じるのか⁈」
「何処に契約書持ってるって?」

 証拠品を押さえる為の拘束であることを示唆する問いかけが、俺の1番近くへ来ていた領軍兵から発せられる。

「ブレストアーマーのしたにきてる、ぼうかんぎのさらにした。こしのベルトでとめてあるから、それはずせば、すそのしたからぬけるんじゃない?」
「や、やめろ! 私は! 私は、嵌められんだ!」

 俺の傍から離れた領軍兵が、地面に拘束されているシュバックの防寒着と上着を腰位置から剥ぎ取るようにして、現れた羊皮紙を腹巻から抜き取ると、その場で開いて目を通す。

 最後まで見た後に漏れたのは、深い溜息。

「…………確かに、嵌められたのは、嘘じゃないようだな」

 そこに何が書いてあるのか、俺は勿論、他の領軍兵の誰にも分からない。

 その筈なのに。

「そうですわね。おされてるいんじは、にせものですし、しょめいも、ベーターグランディアこくおう、のぶぶんがベータグレンデアになっておりますし。じじつはどうあれ、こうしきぶんしょとしては、とてもみとめられることはないでしょう。さいしょから、むこうにするきしかない、けいやくしょのたぐいですわ」
「何だと⁈」

 羊皮紙をチラとも見ていないフランソワーヌが言い切ったことにシュバックは血色ばみ、羊皮紙を手にした領軍兵は渋面を作りながら、俺の傍に戻ってきて、手にしたそれを差し出した。

「若。フランソワーヌ嬢の言う通りです。御覧ください」

 “ベータグレンデア”。

 印璽の真偽まで、俺には分からなかったけれど、少なくとも署名に関してはフランソワーヌの言う通りで、契約の内容は「防壁を破壊して国内に侵入する者達を見逃して、そのまま国内奥へと入らせること。見返りとして、シグマセンティエ国内で、扉を閉ざした建物の中に居る者達は、襲撃の対象から外すことと、ヴェスタハスラム辺境伯領は通過だけとすることを約する」と書かれていた。

「ざんねんだよ」

 俺は落胆を隠すことが出来ぬまま、そう告げて、丸め直した羊皮紙を再び領軍兵へと渡し返した。

「若様……わ、わたっしはっ……‼︎」
「くわしいはなしは、とりででちょうしゅを。ここは『ルナさま』のおかげで、だいじょうぶそうだから……つれていけ」
「はっ‼︎」

 俺の決定を聞いてガックリと力を無くし、大人しく連行されて行くシュバックの後ろ姿を眺めて思う。

 何がいけなかったのだろう。

 何がダメだったのだろう。

 やはり、俺は、王都に行くべきではなかったのじゃないだろうか。

 父上は、このことを何処まで把握されておられるのだろう。

 口に出すことのない、様々な疑問や思いが俺の中に生まれては、脳裏を駆け抜けていく。

「……アルフレッドさま」
「シュバックのこころをつなぎとめておけなかった、ちちうえと、おれのせきにんだな」
「ちがいます」

 何処に責任の所在があるのか、突き詰めれば、そこに行き着くのではないかと考えて発言した俺に、フランソワーヌは、間髪入れずにハッキリとそう言った。

「かれは、くにをうらぎってはおりますが、とりでのみんなや、ヴェスタハスラムへんきょうはくりょうをまもるみんなのことは、うらぎっておりませんのよ?」
「どういうことだい? フランソワーヌじょう」

 俺を励ます為だけではないような言葉に、いつの間にか俯いていた顔を上げて問いかけた俺の目に、彼女が浮かべる柔らかな微笑みが映った。

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