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第4章 集まれ仲間達

冒険者ギルド長の悲哀 -3-

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 さて、最後に残していたのは、近衛の騎士団長からの書状だ。

 この人は、学院で同級生だった国王夫妻と俺にとっては、2個上の先輩であり、王妃であるカトリアーヌ様の兄上に当たられる。

 元第2王女である国王の妹君を娶ったことで、公爵家となる筈だったセッツリナーレ先輩が、宰相職を引き受ける交換条件に何故か「陞爵辞退」を出してきて、その代わりにと伯爵家から侯爵家へと陞爵したのが、カトリアーヌ様の実家であり、近衛の騎士団長の継いだ家でもあるグレンバランド家だった。

 近衛の騎士団長は、2人の婚約が決まった7歳当初から女癖の悪さを露呈していた現国王に妹君を嫁がせることを良く思っておらず、可能な限り傍に居て、いざとなったらいつでも連れて逃げられることを考えて城勤めの、それも奥入りの騎士職を選んだと噂されている、筋金入りのシスコンだ。

 因みに学生時代にカトリアーヌ様を蔑ろにする国王に唯一物申した女生徒が、今の近衛騎士団長夫人で、この夫婦は2人で王妃様をお助けすることを前提とした謂わば「同盟婚」(家同士ではなく本人達のみ有効な同盟)をしている。

 社交界で「国王派? 何ですの、それ? 尻の軽そうな集団のお名前ですこと。わたくし達は、王妃様派ですわ! お間違えなく!」と豪語して憚らない夫人は、怪我や老齢で退役した騎士達や冒険者達の生活支援を行う事業を興してくれた、有り難い女性でもある。

 カサカサ、と畳まれていた書状の紙を開くとそこには几帳面な文字列が並んでいた。

『久しいな、ダナルセック。
 妹や私達夫婦と同じく、アホ王に振り回される立場にあるそなたには、兼ねてより海より深い同情を禁じ得ない同志であると私は認識している。
 またアホ王が無茶振りするつもりではないかと王国騎士団のロルダン騎士団長より情報共有があったゆえ、書を認めることとした。
 恐らくは、昨今、城内を席巻しておる子供達に戦闘での経験を積ませる為、パーティを組んでのダンジョン行きがそなたの所に話しとして舞い込むだろう。
 3歳の子供達ばかりなパーティに、さぞやそなたは心配の種を芽吹かせるだろうことは、想像に難くないが、彼等は全員、魔王戦を控えている子供達なのだ。
 伝え聞いた話しでは、近々ヴェスタハスラム辺境伯領が危機的状況に陥る神託が、女神サーシャエール様から降ったようで、子供達は国境の前線行きを目論んでいるらしい。
 あそこの長男が魔王戦パーティ最後の1人なんだそうだ。
 そなたも仕事であれこれと大変なことを承知な上で、頼む。
 子供達が、未来に起こる不可避な戦いに勝って戻れるよう、今現在、そなたに出来る最大限の助力を。
 私と妻も城内や社交界で、宰相閣下夫妻やランドリウス公爵夫妻と共に根回しを始めている。
 そなたも市井の制御と統制を。
 魔王との戦いには参加権を得られなかった私達だが、せめて子供達の足を引っ張らぬよう、互いに力を尽くそう。
 そなたの働きに期待している』

 重いっ……3人の中で1番内容が重ぇよ、先輩!

 アンタって人は、いつもそうだよな⁈

 涼しい顔して自分が出来るんだから他人もやれば出来るだろ? だって自分が出来るんだから、っていう卑下してんだか無茶振りしてんだか分からん基準で求める成果の達成レベルをガツっと上げて来るっていうさぁ⁈

 盛大に溜息を溢して書状の紙を机上へ放り出し、頭を抱えた俺の視界からその紙を摘んで持っていったのは、既にこのギルドでSクラスの冒険者証を与えてるエルドレッドの小僧だった。

「さすが、おうひさまのあにぎみですわね。じょうほうのはあくと、こうどうをおこされるのが、おはやいですこと」
「リリエンヌとルナのへやにいる、じょせいきしのラムタラさんとシャルティさんは、このえきしだんちょうのこがいだし、じじょのマルティナさんとヴェニアさん、メイドのエステルさんとナルルーさんは、あんぶのしょぞくだ。ごえいもかねて、じょうほうのしゅうしゅうとはあく、ほうこくは、とうぜんしてるだろうからね」

 黒紫の髪の娘が発した言葉に、エルドレッドの小僧がそう答える。

 どっちも精霊使うお前には敵わねぇよ。

 配下と暗部が入り込んでるって、早々にバレてるとか公爵と先輩は知ってんのかねぇ?

「まぁいいや、はなさなきゃいけないうらじじょうは、この3つうでだいだいほかんできてるみたいだしさ? ギルドちょう?」
「………何だ?」
「そういうわけなんで、ここにいるなかまたちのぼうけんしゃしょうと、ダンジョンはいるきょかしょう、はっこうしてくんない?」

 これで文句なかろう、とばかりに笑顔で言い放った小僧に俺はかなり本気で思う。

 これ、何処から何処までがお前の仕込みなんだ、小僧⁈

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