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第4章 集まれ仲間達
父と息子 -1-
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「エルドレッド。ちょっと来なさい」
父様が、そう言って俺に声をかけたのは、フランソワーヌと俺がルナルリア王女から貰った武器を試し使いした後だった。
いつになく真剣、且つ、真面目……言い方を変えるなら、腹を括って覚悟したような表情に、俺は思う。
(……やっと突っ込む気になったんだ、この父様)
別に父様が現実から目を逸らしてるとは思ってないけど、アセンカザフ家次期当主として、可能なら魔法士団の将来的な団長候補として、この2点に於ける合格点を持っているかどうかくらいしか、この人が息子に向ける興味なんかないのが当然だったから。
「かあさまには、きかせなくていいはなしなの?」
静かに笑みすら浮かべて問う俺へ、暫し、考えを巡らせているような間を開けて。
「そうだな。一旦、帰るぞ」
「わかった」
大事な局面だと分かってる時に最愛の妻である母様を除け者にする選択肢は、この父様にはない。
そこは、男としてこの人を素直に尊敬できる点の1つだった。
「エンディ、アリィ。どうせダンジョンいきは、あしたからだし、わりぃけどおれ、ぬけるな? あとたのむわ」
「……だいじょうぶなの?」
「しんぱいされるほど、よわくねぇよ」
アリューシャの言う “大丈夫“ が俺の心の問題であり、これから俺が置かれることになるだろう立ち位置の問題でもあることは、ちゃんと理解できていた。
「エルドレッドさま……」
雰囲気に押されてか、リリエンヌまでが心配そうな声で俺を呼ぶので。
「リリエンヌ、またあしたね!」
俺は殊更明るく、軽い感じで別れの挨拶を口にして。
「はい……またあした、おあいできるのを、こころまちにしております」
3つの星をギュと抱きしめて、嬉しい挨拶を返してくれたリリエンヌに、わざと大きく手を振って父様の背を追いかけ、その場を離れた。
父様は飛翔魔法も転移魔法も使えないから、城からの行き帰りは馬車になる。
針の筵になるのは分かっていたけど、俺だけ先に家へと戻る訳にもいかなかったので、大人しく馬車のコーチに腰掛ける。
こんな時でも進行方向側の座面を息子に譲ってくれる父様は、世間で言われているよりずっと家族思いなんだと俺は感じていた。
「マルグリットにいらん誤解をされたくない。この場で1つだけ確認させてくれ」
「いいよ? なに?」
「お前は、正真正銘、うちのエルドレッドなんだな?」
ああ……その台詞、母様の前で言ったら父様が母様の不貞を疑ってると思われかねないもんね。
父様のそういうトコ、好きだよ、俺。
「とうさまが、そうやって、かあさまにきをつかうってことは、おれがとうさまとかあさまのちをわけたむすこなことをうたがってるわけじゃないんだろ?」
「当たり前だ。マルグリットがお前を産み落とす瞬間、私は傍に居ったのだし、お前が六精霊王と契約するまでは、マルグリットの髪色に俺の目の色だった。疑う余地なぞない」
「なら、なにをさして “うちのエルドレッド” なのか、をきいてるの?」
「………諸説あるが、この世に関わりを持つ精霊は、6属性ではなく、本当は9属性だとされている」
「そうだね。せいれいぞくせいとしては、9ぞくせい。まほうぞくせいとしては10ぞくせい。まじゅつぞくせいとしては11ぞくせい。まどうぞくせいとしては12ぞくせいだね」
俺がこの世界ではまだ認識の薄い事柄をサラッと口にすると父様は、驚きに目を見開いた後、物凄ぉくその話題を掘り下げて聞きたそうな顔をした。
けど、俺がそれを読み取って呆れたような目を向けるとわざとらしく咳払いなんかして、気持ちを切り替えていた。
「私が聞きたいのはだな。お前が高熱を出して倒れてから……そう、それだ」
俺がこれみよがしで属性塊を6種類クルクル自分の周りを回して見せると、父様はそれを指差して代名詞を口にする。
「それをやりだしてから、お前は、目に見えて別人みたいになって、どんどん訳の分からんことをやり出した。最初は六精霊王に精神をバラバラにされたと言うとったからその影響かと思っとったが、よくよく思い出してみれば、倒れて目が覚めてからだったのだと国王に指摘されて気がついた。ローのトコの娘……フランソワーヌの方もそうだったらしいし、ルナルリア王女も似たような経緯でいきなりアレコレ作り出すようになったのだと生まれた時から彼女についとるという傍付の侍女から聞いた。エルドレッド。お前達は、神霊や精霊の類に身体を乗っ取られとるとかじゃないんだろうな?」
念の為とか一応って表現が付きそうな言い方をして問いかけて来る父様は、俺が答える前にその回答を自分で確認する術を持っている筈の人だった。
それより何より。
「ねぇ、とうさま。もしそうだったとしたらだけどさ? そのといかけに、せいれいはともかく、しんれいは、すなおにそうだよって、こたえないとおもうんだけど、そのへんのにんしきは、とうさまてきにどうなの?」
「例えそうだったとしても問わぬ訳にはいかん。お前は本当に、うちのエルドレッドなのだな?」
「ああ、なるほど。そのしつもんは、そこにかかってくるわけね」
「そうだ」
まぁ、やっぱり気になるだろうな。
エンディミオン殿下ですら俺達の前世における言葉にはハテナマークを飛ばすのだし、父様はアリューシャとフランソワーヌ連名になってた俺宛の手紙 ── 日本語で書いてあった ── を実際、自分の目で見てるんだしな。
「そういういみでいうなら、おれはまちがいなく、とうさまとかあさまのこである、エルドレッドだよ? ただし、がついちゃうから、そこからさきのはなしは、かあさまふくめてしよう。ながくなるからさ?」
残念ながら乗っ取り転生ではないので、そこのことは説明しないといけないだろうし、まだサーシャエール様に直で会ってない俺は、また聞きな部分が出てきちまうのは申し訳ないとこだけど。
真面目に問われれば、話すつもりではいたから、俺はごく普通の調子で言って、父様と2人、馬車に揺られて王都の城にほど近い所へ建っているアセンカザフ伯爵邸を目指した。
父様が、そう言って俺に声をかけたのは、フランソワーヌと俺がルナルリア王女から貰った武器を試し使いした後だった。
いつになく真剣、且つ、真面目……言い方を変えるなら、腹を括って覚悟したような表情に、俺は思う。
(……やっと突っ込む気になったんだ、この父様)
別に父様が現実から目を逸らしてるとは思ってないけど、アセンカザフ家次期当主として、可能なら魔法士団の将来的な団長候補として、この2点に於ける合格点を持っているかどうかくらいしか、この人が息子に向ける興味なんかないのが当然だったから。
「かあさまには、きかせなくていいはなしなの?」
静かに笑みすら浮かべて問う俺へ、暫し、考えを巡らせているような間を開けて。
「そうだな。一旦、帰るぞ」
「わかった」
大事な局面だと分かってる時に最愛の妻である母様を除け者にする選択肢は、この父様にはない。
そこは、男としてこの人を素直に尊敬できる点の1つだった。
「エンディ、アリィ。どうせダンジョンいきは、あしたからだし、わりぃけどおれ、ぬけるな? あとたのむわ」
「……だいじょうぶなの?」
「しんぱいされるほど、よわくねぇよ」
アリューシャの言う “大丈夫“ が俺の心の問題であり、これから俺が置かれることになるだろう立ち位置の問題でもあることは、ちゃんと理解できていた。
「エルドレッドさま……」
雰囲気に押されてか、リリエンヌまでが心配そうな声で俺を呼ぶので。
「リリエンヌ、またあしたね!」
俺は殊更明るく、軽い感じで別れの挨拶を口にして。
「はい……またあした、おあいできるのを、こころまちにしております」
3つの星をギュと抱きしめて、嬉しい挨拶を返してくれたリリエンヌに、わざと大きく手を振って父様の背を追いかけ、その場を離れた。
父様は飛翔魔法も転移魔法も使えないから、城からの行き帰りは馬車になる。
針の筵になるのは分かっていたけど、俺だけ先に家へと戻る訳にもいかなかったので、大人しく馬車のコーチに腰掛ける。
こんな時でも進行方向側の座面を息子に譲ってくれる父様は、世間で言われているよりずっと家族思いなんだと俺は感じていた。
「マルグリットにいらん誤解をされたくない。この場で1つだけ確認させてくれ」
「いいよ? なに?」
「お前は、正真正銘、うちのエルドレッドなんだな?」
ああ……その台詞、母様の前で言ったら父様が母様の不貞を疑ってると思われかねないもんね。
父様のそういうトコ、好きだよ、俺。
「とうさまが、そうやって、かあさまにきをつかうってことは、おれがとうさまとかあさまのちをわけたむすこなことをうたがってるわけじゃないんだろ?」
「当たり前だ。マルグリットがお前を産み落とす瞬間、私は傍に居ったのだし、お前が六精霊王と契約するまでは、マルグリットの髪色に俺の目の色だった。疑う余地なぞない」
「なら、なにをさして “うちのエルドレッド” なのか、をきいてるの?」
「………諸説あるが、この世に関わりを持つ精霊は、6属性ではなく、本当は9属性だとされている」
「そうだね。せいれいぞくせいとしては、9ぞくせい。まほうぞくせいとしては10ぞくせい。まじゅつぞくせいとしては11ぞくせい。まどうぞくせいとしては12ぞくせいだね」
俺がこの世界ではまだ認識の薄い事柄をサラッと口にすると父様は、驚きに目を見開いた後、物凄ぉくその話題を掘り下げて聞きたそうな顔をした。
けど、俺がそれを読み取って呆れたような目を向けるとわざとらしく咳払いなんかして、気持ちを切り替えていた。
「私が聞きたいのはだな。お前が高熱を出して倒れてから……そう、それだ」
俺がこれみよがしで属性塊を6種類クルクル自分の周りを回して見せると、父様はそれを指差して代名詞を口にする。
「それをやりだしてから、お前は、目に見えて別人みたいになって、どんどん訳の分からんことをやり出した。最初は六精霊王に精神をバラバラにされたと言うとったからその影響かと思っとったが、よくよく思い出してみれば、倒れて目が覚めてからだったのだと国王に指摘されて気がついた。ローのトコの娘……フランソワーヌの方もそうだったらしいし、ルナルリア王女も似たような経緯でいきなりアレコレ作り出すようになったのだと生まれた時から彼女についとるという傍付の侍女から聞いた。エルドレッド。お前達は、神霊や精霊の類に身体を乗っ取られとるとかじゃないんだろうな?」
念の為とか一応って表現が付きそうな言い方をして問いかけて来る父様は、俺が答える前にその回答を自分で確認する術を持っている筈の人だった。
それより何より。
「ねぇ、とうさま。もしそうだったとしたらだけどさ? そのといかけに、せいれいはともかく、しんれいは、すなおにそうだよって、こたえないとおもうんだけど、そのへんのにんしきは、とうさまてきにどうなの?」
「例えそうだったとしても問わぬ訳にはいかん。お前は本当に、うちのエルドレッドなのだな?」
「ああ、なるほど。そのしつもんは、そこにかかってくるわけね」
「そうだ」
まぁ、やっぱり気になるだろうな。
エンディミオン殿下ですら俺達の前世における言葉にはハテナマークを飛ばすのだし、父様はアリューシャとフランソワーヌ連名になってた俺宛の手紙 ── 日本語で書いてあった ── を実際、自分の目で見てるんだしな。
「そういういみでいうなら、おれはまちがいなく、とうさまとかあさまのこである、エルドレッドだよ? ただし、がついちゃうから、そこからさきのはなしは、かあさまふくめてしよう。ながくなるからさ?」
残念ながら乗っ取り転生ではないので、そこのことは説明しないといけないだろうし、まだサーシャエール様に直で会ってない俺は、また聞きな部分が出てきちまうのは申し訳ないとこだけど。
真面目に問われれば、話すつもりではいたから、俺はごく普通の調子で言って、父様と2人、馬車に揺られて王都の城にほど近い所へ建っているアセンカザフ伯爵邸を目指した。
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