上 下
144 / 458
第4章 集まれ仲間達

ダンジョン行こうぜ! -4-

しおりを挟む
「つぎは、リリちゃんね!」
「えっ⁈ あ、はい! ありがとうございますっ!」

 まだ皮袋から出されてもいない装備品に、もう謝礼を送られたリリエンヌ様に、エルドレッド様が小さく笑われました。

「リリエンヌ、はやいはやい。まだ、でてきてないって」
「っ、いまのはっ、わたくしにもつくってくださったことへのおれいなのですっ!」
「なるほどね? じゃあ、おれからも。リリエンヌのこともかんがえてくれてありがとう、ルナ。たすかるよ」

 エルドレッド様がそう仰る本当の意味が分かったのは、恐らく転生者組だけでしょう。

 “花キミ” に於いて、ルナ様とリリエンヌ様は、メインストーリーに登場こそするものの、追加サブクエストを有料購入しなければ、仲間になるルートが開放されないキャラなのです。

 そのリリエンヌ様の分まで、予め装備品を作ってくださったのは、一重にルナ様の創作意欲といざという時にいつでも対応出来るよう、備えておかれる、お人柄によるものでしょうから。

「なんで、リリエンヌじょうのそうびをつくってくれたことにエルが、おれいをいうの?」
「うん? なに? エンディは、じぶんのそうびをつくってくれたことには、かんしゃするけど、アリィのそうびをつくってくれたことには、ルナにかんしゃしないの? おまえのかわりに、アリィをまもったり、つよくしたりしてくれるものなのに?」
「!」

 指摘されたエンディ兄様は、今、気がついた、みたいな顔をして、慌ててルナ様に頭を下げられました。

「ご、ごめんね、ルナ! そんなつもりじゃなかったんだ! ちゃんとかんしゃしてるよ! アリィのために、ありがとう!」
「ふふっ、いえいえ。わたくしがやりたくてしているだけですので。それに、エンディさまのたいおうは、ふつうですわ。このおとこが、きがつきすぎるんです」

 目の上を平らにして、エルドレッド様を指差したルナ様がそう仰ると負けじと目の上を平たくしたエルドレッド様が、やり返されます。

「ひとに、ゆびをささない。おうじょでしょ?」

 その一言にルナ様付の侍女さんが、その通りだとばかりに壁際で何度も頷かれておられました。

 それが視界の隅にでも入っているのか、毎度の事過ぎて予想出来ているのか、苦虫を噛み潰したような顔をして、振り返らぬまま、ちょっとだけ視線を侍女さんのいる方に向けたルナ様は、1度咳払いをして、場を濁すと皮袋からリリエンヌ様に渡す装備品を取り出されました。

「はい。リリちゃんのは、これね!」
「……てぶくろ、ですか?」
「そ! りょうてにつけて、てくびの部分にあるボタンをそれぞれおしてね!」
「……はい」

 てっきり武器を渡されるのだろうと思っておられたようで、リリエンヌ様は渡された手袋に不思議顔のままそれを両手に嵌められ、手首にあるリボンの先についた金具を留めると、それが勝手にキュッと締りました。

 金具の中央には薄紫の魔石がハート型になって嵌め込まれていて、すぐそばに例のボタンがありました。

 リリエンヌ様が、それを両手首分、順に押されます。

 すると全体に薄く魔力が広がって、ただの白手袋に見えていたものが、急に白レースのように透過しました。

 両の手の甲部分には、淡く透過した白い百合の意匠があって、中央の花芯も同じように黄色の透過色が。

 葉と茎も緑の透過色で彩られていて、リリエンヌ様が驚いた顔をしてレースの手袋越しにそこへ触れられます。

「ませき! すごい! この、おはなのぶぶん、ませきでできているのですね⁈」
「そうよ? まりょくこめながら、ビョーってのばすの」

 擬音。

 いえ、何となくどういう状態なのかは、それで十分、分かるのですけれど、凄さが半減して聞こえてしまうのは、わたくしだけなのでしょうか。

「んでね? こう、てのひらをじぶんのほうにむけて、おやゆびだけうちがわにまげてね? あたまのなかにー、んー……たとえば、すいみんやくとかのレシピをおもいうかべてみて?」
「え? すいみんやく、ですか?」
「そ。てつやしすぎて、かえってふみんしょうみたくなっちゃったひとが、いっしゅんで、どろのようにねむりこけることが、できるくらいのそっこうせいで、メッチャきょうりょくなヤツね?」
「……はい……」

 そこまで行くと下手に実作したら危険物でしかないと思ったのでしょう。

 やや、逡巡されながらも言われた通りに手指を構えられ、実際に作る訳ではないので、いいかな? と思われたのでしょう。

 恐らくは、リリエンヌ様がそのレシピを思い浮かべたのだろう瞬間、親指と掌の間へ左右1本ずつ白く光る針状の物が現れました。

「おし、せいこうせいこう! それをね、てきに向かってブンなげるとささるから。したらそのてき、ねるよ?」
「えっ⁈」
「おまえ……リリエンヌをあんきつかいにするきか?」

 物凄く胡乱な目付きでエルドレッド様がツッコミを入れるとルナ様が、可愛らしく右の頬に右人差し指をくっつけて、首を傾げられました。

「んー……むちと、どっちにしようか、まよったんだけどさー?」
「せんようスキルすらもってねぇ、そんなくろうとむけのぶきをしょしんしゃにつくろうとすんな」
「でしょ? それにこれなら、えんきょりこうげきできるから、てきにちかよんなくていいじゃん? したらあぶなくないしー? リリちゃんは、ゆうやくしだから、かくせいして、しばらくしたら、きそちょうごうひんなんか、まりょくだけでつくれるようになるじゃない? だから、それつかってなげて、とおくからブスっ☆てやればいっかなーって?」
「ささるぎおんにだけ、へんなふしつけたところで、じじつはかわいくならねぇから」
「あの……」

 不毛とも言えるエルドレッド様とルナ様のやり取りに、おずおずと手を上げて、お声をかけられたのは、当のリリエンヌ様でした。

「ルナルリアおうじょでんか。おききしてもよろしいでしょうか?」
「ルナでいいよー? なに?」
「わたくし、ゆうやくしには、たしかにかくせいしているのですけれど」
「それつくれるってことは、そうみたいねー?」
「これ、まりょくだけで、できているのですか? すいみんやくのこうのうをもたせるのに、ちょうごうはひつようないのですか? ざいりょうとかは⁈」
「そんざいはっせいエーテル!」

 リリエンヌ様の怪訝とも言える疑問3連続に、屈託ない返事に何故か、耳のない青のボディーカラーをしたロボットを思い浮かべでしまったのは、わたくしだけでしょうか……?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

純潔の寵姫と傀儡の騎士

四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。 世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴
恋愛
 私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。  もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。  ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。 番外編 謎の少女強襲編  彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。  私が成した事への清算に行きましょう。 炎国への旅路編  望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。  え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー! *本編は完結済みです。 *誤字脱字は程々にあります。 *なろう様にも投稿させていただいております。

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

処理中です...