上 下
75 / 458
第4章 集まれ仲間達

子供ざまあの後始末 -1-

しおりを挟む
 六精霊の魔導術士様とリリエンヌ・ファーフリスタ嬢が紅薔薇宮殿に入ったのを確認した俺達、近衛騎士は、それからすぐにバタバタと慌てた調子で走っていることを自覚しながら、途中途中で出会った警備の騎士を拾いつつ、城の厩へと向かっていた。

 理由は言わずもがな、六精霊の魔導術士様の転移魔法によって「厩の肥溜の底」などと言う……恐らくは、飛ばされたくない場所ベスト3に間違いなくランクインするであろう所へ強制転移させられたバカ2人が、これ以上の更なるお馬鹿行為を重ねる前に、何としても回収し、殿下のお茶会が終わるまで地下牢に放り込んでおく為だ。

「で? あいつら、どうやって城に入ったって?」
「んー……それがですねぇ?」

 道すがら、合流してきた警備の騎士に走りながら問いかけると彼は、やや言いにくそうに答えてくれた。

「門兵が言うには、門で拘束した後、待機所の隣にある簡易尋問室に連れて行ってですね?」
「ああ」
「最初は、それっぽくアレコレ聞きながらニアリ尋問してたらしいんですよ?」
「そうか。それで?」

 まぁ、ここまでは「本当は本物の伯爵と令息だと分かっている」「こいつらにとって娘を虐待することは通常のこと過ぎて自分達の異常性に全く気がついていない」という2点を除けば、普通に門で行われる不審者対応だ。
 一応、形式上では何の問題もなかった。

「で。連中が何かを強調したり訴えたりする度、門兵達が臭いだの汚いだの言ってて、それを根に持ったらしくてですね」

 おっとお? 何だか急に普通の尋問からズレて、風向きがおかしくなってきたぞ?

 自分が城に不法侵入しようとした犯罪者だって自覚ないのか?

 根に持つって何だよ、根に持つって。

「まー、何がどうしてそうなったのか、サッパリ分からんのですが、馬の糞だの泥水だの汗だのでデロデロのグチャグチャな状態のまま、お前らも同じになれば気にならないだろー⁈ ってな主張で、ですね?」
「うおっ」
「言ってることヤベェ……」

 確かに。

 流石、普通の神経してない親子だ。

「門兵達に次から次へと抱きついて、デロデロのグチョグチョを擦り付けてですね?」
「うわぁ。当番の連中、可哀想……」
「この時点でもう発想が斜め上過ぎて、いっそ狂気を感じるな」

 まぁ、少なくともその門兵達と同じ目には遭いたくないな、うん。

「怯んだ所を逃亡、と?」
「なるほど」
「序でに、通りすがりの洗濯場で服を脱ぎ捨て、井戸水を浴びて、超適当な感じで臭い汚い言われて追い払われないようにしたつもりになって?」
「無茶言うな。そんなんでどうにかなる臭いか、アレが」
「渡廊下の装飾鎧から剣と馬上槍を失敬して、あの場に到着した、と。足取りを逆に追って情報を集めた結果、こんな感じなんじゃないかと思われます」
「そうだな」
「加えるとするなら、六精霊の魔導術士様に転移で飛ばされ、現在に至るってトコくらいですかね。正直言ってアレですよ、こっちの想定以上に派手な感じで盛大に踊りまくってくれたお陰で、いらん余罪を自らテンコ盛りした感は否めないかと?」

 そう。

 元々の計画段階では、連中が紅薔薇宮殿前まで無理矢理くっついてくるかもしれないことは、想定の範囲内だった。

 だが、あの親子が自宅を出た瞬間から娘を攻撃しだした所為で、万一の為にと潜入していた暗部の人間を介してかけられたリリエンヌ嬢の守りが早々に発動してしまったことが、連中の不幸の始まり……いや ”ざまあ” の始まり。

 もうこの段階で、あの親子の生殺与奪権の半分は、約定通り、陛下から六精霊の魔導術士様に移ったも同然だった。

 せめて、クリシュナ侍女長に追い払われた段階で帰るなり、着替えて出直すなりすれば、既に判明している犯罪の刑罰を含めても爵位剥奪、領地没収、王都所払いの3コンボくらいで勘弁してもらえたかもしれないのに。

「居たぞ!」

 俺達とは別に動いていたらしい同僚の近衛騎士が門兵の1人と警備の兵を連れて、先に捜索を開始していたらしく、親子は馬の糞塗れになりつつも簡単に見つかった。

 口から吐き出しているものが、スゲェ色と臭いを発してる。

 もう逃げる気力もないらしく、ぐったりした親子を見ながら俺は思う。

 世の中には、例え子供の姿をしていようと、決して敵に回してはいけない生き物がいるのだと。

 恐らく、彼以外の子供達は “ざまあ” が終わった今の段階で十分満足してるんじゃないかと普通に思えるんだ。

 だが、俺の近衛騎士としての勘が告げている。

 六精霊の魔導術士様 あ   の   こ だけは、絶対納得していない、と。

「とりあえず、井戸から水汲んである程度までは洗っちまえ。捕縛と投獄はその後だ。現状で確定している罪状は、城への不法侵入と第1王子殿下の客への暴行未遂だ。ほれ、動け!」

 全員が全員、嫌そうな顔を隠しきれないのをどうにか統制して俺達は犯人の確保に成功した。

 はぁ……どうか、これ以降は、何も起きませんように。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

処理中です...