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第4章 集まれ仲間達
子供ざまあの後始末 -1-
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六精霊の魔導術士様とリリエンヌ・ファーフリスタ嬢が紅薔薇宮殿に入ったのを確認した俺達、近衛騎士は、それからすぐにバタバタと慌てた調子で走っていることを自覚しながら、途中途中で出会った警備の騎士を拾いつつ、城の厩へと向かっていた。
理由は言わずもがな、六精霊の魔導術士様の転移魔法によって「厩の肥溜の底」などと言う……恐らくは、飛ばされたくない場所ベスト3に間違いなくランクインするであろう所へ強制転移させられたバカ2人が、これ以上の更なるお馬鹿行為を重ねる前に、何としても回収し、殿下のお茶会が終わるまで地下牢に放り込んでおく為だ。
「で? あいつら、どうやって城に入ったって?」
「んー……それがですねぇ?」
道すがら、合流してきた警備の騎士に走りながら問いかけると彼は、やや言いにくそうに答えてくれた。
「門兵が言うには、門で拘束した後、待機所の隣にある簡易尋問室に連れて行ってですね?」
「ああ」
「最初は、それっぽくアレコレ聞きながらニアリ尋問してたらしいんですよ?」
「そうか。それで?」
まぁ、ここまでは「本当は本物の伯爵と令息だと分かっている」「こいつらにとって娘を虐待することは通常のこと過ぎて自分達の異常性に全く気がついていない」という2点を除けば、普通に門で行われる不審者対応だ。
一応、形式上では何の問題もなかった。
「で。連中が何かを強調したり訴えたりする度、門兵達が臭いだの汚いだの言ってて、それを根に持ったらしくてですね」
おっとお? 何だか急に普通の尋問からズレて、風向きがおかしくなってきたぞ?
自分が城に不法侵入しようとした犯罪者だって自覚ないのか?
根に持つって何だよ、根に持つって。
「まー、何がどうしてそうなったのか、サッパリ分からんのですが、馬の糞だの泥水だの汗だのでデロデロのグチャグチャな状態のまま、お前らも同じになれば気にならないだろー⁈ ってな主張で、ですね?」
「うおっ」
「言ってることヤベェ……」
確かに。
流石、普通の神経してない親子だ。
「門兵達に次から次へと抱きついて、デロデロのグチョグチョを擦り付けてですね?」
「うわぁ。当番の連中、可哀想……」
「この時点でもう発想が斜め上過ぎて、いっそ狂気を感じるな」
まぁ、少なくともその門兵達と同じ目には遭いたくないな、うん。
「怯んだ所を逃亡、と?」
「なるほど」
「序でに、通りすがりの洗濯場で服を脱ぎ捨て、井戸水を浴びて、超適当な感じで臭い汚い言われて追い払われないようにしたつもりになって?」
「無茶言うな。そんなんでどうにかなる臭いか、アレが」
「渡廊下の装飾鎧から剣と馬上槍を失敬して、あの場に到着した、と。足取りを逆に追って情報を集めた結果、こんな感じなんじゃないかと思われます」
「そうだな」
「加えるとするなら、六精霊の魔導術士様に転移で飛ばされ、現在に至るってトコくらいですかね。正直言ってアレですよ、こっちの想定以上に派手な感じで盛大に踊りまくってくれたお陰で、いらん余罪を自らテンコ盛りした感は否めないかと?」
そう。
元々の計画段階では、連中が紅薔薇宮殿前まで無理矢理くっついてくるかもしれないことは、想定の範囲内だった。
だが、あの親子が自宅を出た瞬間から娘を攻撃しだした所為で、万一の為にと潜入していた暗部の人間を介してかけられたリリエンヌ嬢の守りが早々に発動してしまったことが、連中の不幸の始まり……いや ”ざまあ” の始まり。
もうこの段階で、あの親子の生殺与奪権の半分は、約定通り、陛下から六精霊の魔導術士様に移ったも同然だった。
せめて、クリシュナ侍女長に追い払われた段階で帰るなり、着替えて出直すなりすれば、既に判明している犯罪の刑罰を含めても爵位剥奪、領地没収、王都所払いの3コンボくらいで勘弁してもらえたかもしれないのに。
「居たぞ!」
俺達とは別に動いていたらしい同僚の近衛騎士が門兵の1人と警備の兵を連れて、先に捜索を開始していたらしく、親子は馬の糞塗れになりつつも簡単に見つかった。
口から吐き出しているものが、スゲェ色と臭いを発してる。
もう逃げる気力もないらしく、ぐったりした親子を見ながら俺は思う。
世の中には、例え子供の姿をしていようと、決して敵に回してはいけない生き物がいるのだと。
恐らく、彼以外の子供達は “ざまあ” が終わった今の段階で十分満足してるんじゃないかと普通に思えるんだ。
だが、俺の近衛騎士としての勘が告げている。
六精霊の魔導術士様だけは、絶対納得していない、と。
「とりあえず、井戸から水汲んである程度までは洗っちまえ。捕縛と投獄はその後だ。現状で確定している罪状は、城への不法侵入と第1王子殿下の客への暴行未遂だ。ほれ、動け!」
全員が全員、嫌そうな顔を隠しきれないのをどうにか統制して俺達は犯人の確保に成功した。
はぁ……どうか、これ以降は、何も起きませんように。
理由は言わずもがな、六精霊の魔導術士様の転移魔法によって「厩の肥溜の底」などと言う……恐らくは、飛ばされたくない場所ベスト3に間違いなくランクインするであろう所へ強制転移させられたバカ2人が、これ以上の更なるお馬鹿行為を重ねる前に、何としても回収し、殿下のお茶会が終わるまで地下牢に放り込んでおく為だ。
「で? あいつら、どうやって城に入ったって?」
「んー……それがですねぇ?」
道すがら、合流してきた警備の騎士に走りながら問いかけると彼は、やや言いにくそうに答えてくれた。
「門兵が言うには、門で拘束した後、待機所の隣にある簡易尋問室に連れて行ってですね?」
「ああ」
「最初は、それっぽくアレコレ聞きながらニアリ尋問してたらしいんですよ?」
「そうか。それで?」
まぁ、ここまでは「本当は本物の伯爵と令息だと分かっている」「こいつらにとって娘を虐待することは通常のこと過ぎて自分達の異常性に全く気がついていない」という2点を除けば、普通に門で行われる不審者対応だ。
一応、形式上では何の問題もなかった。
「で。連中が何かを強調したり訴えたりする度、門兵達が臭いだの汚いだの言ってて、それを根に持ったらしくてですね」
おっとお? 何だか急に普通の尋問からズレて、風向きがおかしくなってきたぞ?
自分が城に不法侵入しようとした犯罪者だって自覚ないのか?
根に持つって何だよ、根に持つって。
「まー、何がどうしてそうなったのか、サッパリ分からんのですが、馬の糞だの泥水だの汗だのでデロデロのグチャグチャな状態のまま、お前らも同じになれば気にならないだろー⁈ ってな主張で、ですね?」
「うおっ」
「言ってることヤベェ……」
確かに。
流石、普通の神経してない親子だ。
「門兵達に次から次へと抱きついて、デロデロのグチョグチョを擦り付けてですね?」
「うわぁ。当番の連中、可哀想……」
「この時点でもう発想が斜め上過ぎて、いっそ狂気を感じるな」
まぁ、少なくともその門兵達と同じ目には遭いたくないな、うん。
「怯んだ所を逃亡、と?」
「なるほど」
「序でに、通りすがりの洗濯場で服を脱ぎ捨て、井戸水を浴びて、超適当な感じで臭い汚い言われて追い払われないようにしたつもりになって?」
「無茶言うな。そんなんでどうにかなる臭いか、アレが」
「渡廊下の装飾鎧から剣と馬上槍を失敬して、あの場に到着した、と。足取りを逆に追って情報を集めた結果、こんな感じなんじゃないかと思われます」
「そうだな」
「加えるとするなら、六精霊の魔導術士様に転移で飛ばされ、現在に至るってトコくらいですかね。正直言ってアレですよ、こっちの想定以上に派手な感じで盛大に踊りまくってくれたお陰で、いらん余罪を自らテンコ盛りした感は否めないかと?」
そう。
元々の計画段階では、連中が紅薔薇宮殿前まで無理矢理くっついてくるかもしれないことは、想定の範囲内だった。
だが、あの親子が自宅を出た瞬間から娘を攻撃しだした所為で、万一の為にと潜入していた暗部の人間を介してかけられたリリエンヌ嬢の守りが早々に発動してしまったことが、連中の不幸の始まり……いや ”ざまあ” の始まり。
もうこの段階で、あの親子の生殺与奪権の半分は、約定通り、陛下から六精霊の魔導術士様に移ったも同然だった。
せめて、クリシュナ侍女長に追い払われた段階で帰るなり、着替えて出直すなりすれば、既に判明している犯罪の刑罰を含めても爵位剥奪、領地没収、王都所払いの3コンボくらいで勘弁してもらえたかもしれないのに。
「居たぞ!」
俺達とは別に動いていたらしい同僚の近衛騎士が門兵の1人と警備の兵を連れて、先に捜索を開始していたらしく、親子は馬の糞塗れになりつつも簡単に見つかった。
口から吐き出しているものが、スゲェ色と臭いを発してる。
もう逃げる気力もないらしく、ぐったりした親子を見ながら俺は思う。
世の中には、例え子供の姿をしていようと、決して敵に回してはいけない生き物がいるのだと。
恐らく、彼以外の子供達は “ざまあ” が終わった今の段階で十分満足してるんじゃないかと普通に思えるんだ。
だが、俺の近衛騎士としての勘が告げている。
六精霊の魔導術士様だけは、絶対納得していない、と。
「とりあえず、井戸から水汲んである程度までは洗っちまえ。捕縛と投獄はその後だ。現状で確定している罪状は、城への不法侵入と第1王子殿下の客への暴行未遂だ。ほれ、動け!」
全員が全員、嫌そうな顔を隠しきれないのをどうにか統制して俺達は犯人の確保に成功した。
はぁ……どうか、これ以降は、何も起きませんように。
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