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第4章 集まれ仲間達
1度きりのチャンス -5-
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「バカな! 招待状ならあると言うとるだろう⁈」
「王家から直々に招待を受けたファーフリスタ伯爵家の者だぞ、僕達は!」
「ああっ、寄るな、2人とも! 臭くてかなわんっ! 」
自分達が城へ招待されているのだと何度主張しても、交差された門兵の槍が解かれず、お父様とお兄様が、苛立ちも露わに詰め寄ろうとするけれど、門兵は槍を解かぬまま、腰に佩いた剣を抜き、邪魔臭そうにその剣先で、無理矢理距離を置かせた。
「お前達なァ、もっとマシな嘘をついたらどうなんだ? そんな臭くて見窄らしい格好の貴族など、いる訳がないだろうが」
貴方、先程「えげつない」って仰っていたじゃありませんか。
本当は、本物のファーフリスタ伯爵とその令息だと分かっておられるのでしょう?
「嘘じゃない! ちゃんと招待状を見てくれ!」
「そのクソ塗れの紙切れが招待状だと? 王家から送られた招待状をそんな風に扱う貴族家など居る筈なかろう。帰れ帰れ!」
これって、わたしはどうしたらいいのだろう。
素直にこのまま帰ればよいのか、それとも?
しばし悩んでから馬車のコーチから姿を見せたわたしに、御者が慌てて台から降りてきて手を差し出し、わたしを下ろしてくれた。
「さしでぐちをして、もうしわけございません」
お父様とお兄様の前に出る訳にはいかなかったので、2人の後ろから声をかけ、習って大分時の過ぎたカーテシーを送る。
「わたくしは、ほんじつ、だいちおうじ、エンディミオンでんかのちゃかいに、ごしょうたいをたまわっております、ファーフリスタはくしゃくけちょうじょ、リリエンヌ・ファーフリスタにごさいます。おいそがしいなか、おてすうをおかけいたしまして、まことにもうしわけございませんが、ほんじつのちゃかいをたんとうされておられますおかたに、おとりつぎをおねがいできませんでしょうか」
これでダメなら帰ろう。
そのくらいの気持ちで申し出た。
「はい。リリエンヌ・ファーフリスタ伯爵令嬢でございますね。こちらへどうぞ」
すると門兵の方は、そう言ってわたしだけを入口へと招いた。
「えっ?」
「登城の件は承っております。この先に案内の者が居りますので、真っ直ぐお進みください」
「あ、はい……ありがとう、ございます……?」
交差されていた槍が解かれ、わたしはそこを通り抜ける。
何が何だかよく分からないけれど、とにかく入れた以上、言われた通りに進もう、と足を踏み出し、数歩進んだ所で、わたしの後から、ガキン! と勢いよく鳴る金属の音がした。
反射でビクッとなって、思わず振り返ると再び交差された槍が、お父様とお兄様の行く手を遮っていた。
「何をする!」
「何であの女はよくて、父様と僕はダメなんだ! あの女の父親と兄だぞ、僕達は!」
「だから嘘を言うな! お前達は、馬車から降りて来なかったじゃないか! 第1、伯爵家の人間が、そんな汚らしい身形で、登城しようとなどするものか! 貧民街に居る連中の方が、余程、清潔じゃないか!」
絶対、本物だって分かっている筈なのに、頑なにお父様とお兄様を偽物扱いする門兵達。
(……もしかして、これも “ざまあ” なの……?)
何処か呆然としながら見ていたら、射殺されそうな程のキツイ視線で、わたしを睨みつけてきたお兄様と目が合った。
「何、ボケッと眺めてやがんだ役立たずのクソ女! お前が一言、父様と僕のことを付き添いだって言えばいいだけだろう⁈」
「っ!」
それは確かにその通りなので、わたしは言い淀んでしまった。
けれど、そもそもこのお茶会に、お父様とお兄様は招待自体をされていない訳で……そんな人達をこの有様のまま城へ入れてくれるように頼む度胸など、わたしにはなかった。
「殿方の付き添いなど必要ございませんわ」
迷っていたわたしの耳に凛とした女性の声が届いて、俯きかけていた顔を上げて声の方を見た。
「お初にお目にかかります。リリエンヌ・ファーフリスタ伯爵令嬢。わたくしは、センティエ城にて侍女長を務めております、クリシュナと申します。以後、お見知り置きの程を」
「は、はじめまして。リリエンヌ・ファーフリスタにございますっ」
センティエ城のクリシュナ侍女長と言えば、わたしでも知っている社交界の有名人だ。
何年か前、ご結婚された旦那様が病で身罷られるまでは、ディアネイト侯爵夫人として王妃様やランドリウス公爵夫人と共に社交界三華の内の1人に数えられておられた。
社交界の青き蘭…青蘭夫人と呼ばれていた、亡き母の憧れの方だったのだから。
「おめにかかれてこうえいです、せいらんふじん。なきははより、せいらんふじんのすばらしさは、かねがねうかがっておりました。あのかたのような、じょせいになりなさいと、びょうしょうですらいわれましたわ」
「あらあら、ほほほ。随分と懐かしい呼び名ですこと。ファーフリスタ伯爵夫人というと、去年、病で亡くなられたエーデルリット様ね」
「はい」
上品に笑いを溢される姿や1つ1つの仕草でさえも見惚れる程に美しく。
城のお仕着せを纏われておられるのに、それでも失われることのない気品に、これまで感じたことのないような胸の高鳴りを覚えました。
「本当に惜しい方が亡くなられたものだわ」
青蘭夫人は、悲しそうな瞳でお母様の死を悼んでくれた。
それだけで。
晩年は、お父様やお兄様に捨て置かれていたお母様が、少しだけ報われたような気がした。
「あの方がご存命だったなら、決して、貴女のこのような状況を許しはしなかったことでしょうに!」
強い言葉で言い切って、青蘭夫人が厳しい目を向けたのは、未だ門兵の所で騒ぎまくっているお父様とお兄様の姿に向かってだった。
「王家から直々に招待を受けたファーフリスタ伯爵家の者だぞ、僕達は!」
「ああっ、寄るな、2人とも! 臭くてかなわんっ! 」
自分達が城へ招待されているのだと何度主張しても、交差された門兵の槍が解かれず、お父様とお兄様が、苛立ちも露わに詰め寄ろうとするけれど、門兵は槍を解かぬまま、腰に佩いた剣を抜き、邪魔臭そうにその剣先で、無理矢理距離を置かせた。
「お前達なァ、もっとマシな嘘をついたらどうなんだ? そんな臭くて見窄らしい格好の貴族など、いる訳がないだろうが」
貴方、先程「えげつない」って仰っていたじゃありませんか。
本当は、本物のファーフリスタ伯爵とその令息だと分かっておられるのでしょう?
「嘘じゃない! ちゃんと招待状を見てくれ!」
「そのクソ塗れの紙切れが招待状だと? 王家から送られた招待状をそんな風に扱う貴族家など居る筈なかろう。帰れ帰れ!」
これって、わたしはどうしたらいいのだろう。
素直にこのまま帰ればよいのか、それとも?
しばし悩んでから馬車のコーチから姿を見せたわたしに、御者が慌てて台から降りてきて手を差し出し、わたしを下ろしてくれた。
「さしでぐちをして、もうしわけございません」
お父様とお兄様の前に出る訳にはいかなかったので、2人の後ろから声をかけ、習って大分時の過ぎたカーテシーを送る。
「わたくしは、ほんじつ、だいちおうじ、エンディミオンでんかのちゃかいに、ごしょうたいをたまわっております、ファーフリスタはくしゃくけちょうじょ、リリエンヌ・ファーフリスタにごさいます。おいそがしいなか、おてすうをおかけいたしまして、まことにもうしわけございませんが、ほんじつのちゃかいをたんとうされておられますおかたに、おとりつぎをおねがいできませんでしょうか」
これでダメなら帰ろう。
そのくらいの気持ちで申し出た。
「はい。リリエンヌ・ファーフリスタ伯爵令嬢でございますね。こちらへどうぞ」
すると門兵の方は、そう言ってわたしだけを入口へと招いた。
「えっ?」
「登城の件は承っております。この先に案内の者が居りますので、真っ直ぐお進みください」
「あ、はい……ありがとう、ございます……?」
交差されていた槍が解かれ、わたしはそこを通り抜ける。
何が何だかよく分からないけれど、とにかく入れた以上、言われた通りに進もう、と足を踏み出し、数歩進んだ所で、わたしの後から、ガキン! と勢いよく鳴る金属の音がした。
反射でビクッとなって、思わず振り返ると再び交差された槍が、お父様とお兄様の行く手を遮っていた。
「何をする!」
「何であの女はよくて、父様と僕はダメなんだ! あの女の父親と兄だぞ、僕達は!」
「だから嘘を言うな! お前達は、馬車から降りて来なかったじゃないか! 第1、伯爵家の人間が、そんな汚らしい身形で、登城しようとなどするものか! 貧民街に居る連中の方が、余程、清潔じゃないか!」
絶対、本物だって分かっている筈なのに、頑なにお父様とお兄様を偽物扱いする門兵達。
(……もしかして、これも “ざまあ” なの……?)
何処か呆然としながら見ていたら、射殺されそうな程のキツイ視線で、わたしを睨みつけてきたお兄様と目が合った。
「何、ボケッと眺めてやがんだ役立たずのクソ女! お前が一言、父様と僕のことを付き添いだって言えばいいだけだろう⁈」
「っ!」
それは確かにその通りなので、わたしは言い淀んでしまった。
けれど、そもそもこのお茶会に、お父様とお兄様は招待自体をされていない訳で……そんな人達をこの有様のまま城へ入れてくれるように頼む度胸など、わたしにはなかった。
「殿方の付き添いなど必要ございませんわ」
迷っていたわたしの耳に凛とした女性の声が届いて、俯きかけていた顔を上げて声の方を見た。
「お初にお目にかかります。リリエンヌ・ファーフリスタ伯爵令嬢。わたくしは、センティエ城にて侍女長を務めております、クリシュナと申します。以後、お見知り置きの程を」
「は、はじめまして。リリエンヌ・ファーフリスタにございますっ」
センティエ城のクリシュナ侍女長と言えば、わたしでも知っている社交界の有名人だ。
何年か前、ご結婚された旦那様が病で身罷られるまでは、ディアネイト侯爵夫人として王妃様やランドリウス公爵夫人と共に社交界三華の内の1人に数えられておられた。
社交界の青き蘭…青蘭夫人と呼ばれていた、亡き母の憧れの方だったのだから。
「おめにかかれてこうえいです、せいらんふじん。なきははより、せいらんふじんのすばらしさは、かねがねうかがっておりました。あのかたのような、じょせいになりなさいと、びょうしょうですらいわれましたわ」
「あらあら、ほほほ。随分と懐かしい呼び名ですこと。ファーフリスタ伯爵夫人というと、去年、病で亡くなられたエーデルリット様ね」
「はい」
上品に笑いを溢される姿や1つ1つの仕草でさえも見惚れる程に美しく。
城のお仕着せを纏われておられるのに、それでも失われることのない気品に、これまで感じたことのないような胸の高鳴りを覚えました。
「本当に惜しい方が亡くなられたものだわ」
青蘭夫人は、悲しそうな瞳でお母様の死を悼んでくれた。
それだけで。
晩年は、お父様やお兄様に捨て置かれていたお母様が、少しだけ報われたような気がした。
「あの方がご存命だったなら、決して、貴女のこのような状況を許しはしなかったことでしょうに!」
強い言葉で言い切って、青蘭夫人が厳しい目を向けたのは、未だ門兵の所で騒ぎまくっているお父様とお兄様の姿に向かってだった。
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