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第4章 集まれ仲間達
1度きりのチャンス -4-
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そこから城に辿り着くまで、わたしと御者をほぼ蚊帳の外にして、お父様とお兄様だけが散々な目に遭い続けた。
それも、わたしを罵ろうとか、殴ったり蹴ったりしてこようとした時に限って馬車が揺れて頭をぶつけたり、腰を打ったり。
その度に、わたしの耳にはこれまで1度たりとも聞こえたことなんかなかった精霊達の声が聞こえてきていた。
それも俗に「チビ精霊」と呼ばれる、精霊になりたてで、まだたいした力を持たず、精々がイタズラをする程度の存在達の声が……。
『ヨシ! デテクルゾー! チビチセイレイブタイ! サンバンカラヨンバン、コウゲキヨーイ!』
先程から馬車のコーチ内に居てもロクな目に遭わないお父様が、とうとう我慢の限界を迎えた。
御者の所為だと言い出して、馬車を止めさせるとコーチの扉を中から開けて外に出る。
『イマダ! ヤッチマエー!』
何かのチビ精霊らしき声がそう言った瞬間に、わたしは見てしまった。
「‼︎」
地面がズルっと横に動いて、道端に除けてあった馬の糞が、お父様のおろしかけていた足の下へ滑り込むようにして移動した。
その証拠に地面に刻まれた馬車の轍跡が、地面が移動した場所だけ横にズレている。
「うわっ⁈ あああああああっ⁈」
派手に転んで馬の糞に塗れてベチャベチャになったお父様が叫ぶ。
『ツギガデテクルゾー! チビミズセイレイブタイ! ダイニ、ダイサン! コウゲキヨーイ!』
えっ⁈ 今度は何をする気⁈
「父様っ! 大丈夫ですかっ⁈」
『イマダ! ヤレー!』
お兄様が、とんでもない状態になったお父様を案じて馬車から駆け降りた瞬間、何故かお兄様の頭の上にだけ雨雲が発生して、物凄く局地的過ぎる激しい雨が降り注いだ。
「うわっ⁈」
「ザグナル!」
道端で、ピョンピョン跳ねている小さな蛙みたいな生き物と、何かの水生植物の根を交えた泥が雨に混じって大量に降り注いでいるのが分かる。
この雨は、一体どこから水を持って来たのだろうか?
「お、おとうさまっ、おにいさまっ!」
ちょっと流石にこれはっ、と慌てたわたしがコーチの座面を開けて中から取り出したタオルを手に外へ出ようとしたら。
『シロへ、ウマヲ、ススメヨー!』
『オー!』
え?
ペチーン、と馬を鞭打ったような音が聞こえ、次いで、御者の悲鳴に近い叫び声が響き。
「おとうさまっ! おにいさまっ!」
2人を道端に置き去りにして、馬車が走り出してしまった。
「お、おい! 主を置いて行くヤツがあるか⁈」
「戻ってこーい!」
「すみません、旦那様! 若様っ! 馬が言うことをきかなくて止まりませーん!」
(……そうでしょうとも……)
わたしの耳には、たくさんのチビ精霊達が楽しそうにケラケラと笑いながら、定期的にペチーン、ペチーンと馬を叩く音が聞こえていて、思わず口には出さず、そんなことを思った。
ただ、お父様とお兄様は、この程度で諦めるような方々ではなく。
気力と根性だけで、わたし達の乗った馬車を走って追いかけ、市街地に入り、速度の落ちた馬車に肉薄し、何と城へ着く直前には、追いついてきてしまった。
ただ、馬の糞に塗れたお父様と、局地的泥混じり豪雨に見舞われたお兄様は、ここまで全力疾走してきた所為で、滝のような汗が頭の天辺から全身に吹き出していて、当然ながら異様に息も荒く、発する臭いも凄まじく。
身内のわたしから見ても酷い有様だとしか言いようがなかった。
「…………聞きしに勝る、えげつなさだな」
「容赦ねぇえー………」
お父様とお兄様を見た城の門兵達が、手にした槍を交差しながら2人の行手を阻みつつ溢した一言に、わたしはコーチの中で遠い目をしてしまった。
(……ああ。やっぱりこれって、既に “ざまあ” が始まっているってことなんですね……)
それも、わたしを罵ろうとか、殴ったり蹴ったりしてこようとした時に限って馬車が揺れて頭をぶつけたり、腰を打ったり。
その度に、わたしの耳にはこれまで1度たりとも聞こえたことなんかなかった精霊達の声が聞こえてきていた。
それも俗に「チビ精霊」と呼ばれる、精霊になりたてで、まだたいした力を持たず、精々がイタズラをする程度の存在達の声が……。
『ヨシ! デテクルゾー! チビチセイレイブタイ! サンバンカラヨンバン、コウゲキヨーイ!』
先程から馬車のコーチ内に居てもロクな目に遭わないお父様が、とうとう我慢の限界を迎えた。
御者の所為だと言い出して、馬車を止めさせるとコーチの扉を中から開けて外に出る。
『イマダ! ヤッチマエー!』
何かのチビ精霊らしき声がそう言った瞬間に、わたしは見てしまった。
「‼︎」
地面がズルっと横に動いて、道端に除けてあった馬の糞が、お父様のおろしかけていた足の下へ滑り込むようにして移動した。
その証拠に地面に刻まれた馬車の轍跡が、地面が移動した場所だけ横にズレている。
「うわっ⁈ あああああああっ⁈」
派手に転んで馬の糞に塗れてベチャベチャになったお父様が叫ぶ。
『ツギガデテクルゾー! チビミズセイレイブタイ! ダイニ、ダイサン! コウゲキヨーイ!』
えっ⁈ 今度は何をする気⁈
「父様っ! 大丈夫ですかっ⁈」
『イマダ! ヤレー!』
お兄様が、とんでもない状態になったお父様を案じて馬車から駆け降りた瞬間、何故かお兄様の頭の上にだけ雨雲が発生して、物凄く局地的過ぎる激しい雨が降り注いだ。
「うわっ⁈」
「ザグナル!」
道端で、ピョンピョン跳ねている小さな蛙みたいな生き物と、何かの水生植物の根を交えた泥が雨に混じって大量に降り注いでいるのが分かる。
この雨は、一体どこから水を持って来たのだろうか?
「お、おとうさまっ、おにいさまっ!」
ちょっと流石にこれはっ、と慌てたわたしがコーチの座面を開けて中から取り出したタオルを手に外へ出ようとしたら。
『シロへ、ウマヲ、ススメヨー!』
『オー!』
え?
ペチーン、と馬を鞭打ったような音が聞こえ、次いで、御者の悲鳴に近い叫び声が響き。
「おとうさまっ! おにいさまっ!」
2人を道端に置き去りにして、馬車が走り出してしまった。
「お、おい! 主を置いて行くヤツがあるか⁈」
「戻ってこーい!」
「すみません、旦那様! 若様っ! 馬が言うことをきかなくて止まりませーん!」
(……そうでしょうとも……)
わたしの耳には、たくさんのチビ精霊達が楽しそうにケラケラと笑いながら、定期的にペチーン、ペチーンと馬を叩く音が聞こえていて、思わず口には出さず、そんなことを思った。
ただ、お父様とお兄様は、この程度で諦めるような方々ではなく。
気力と根性だけで、わたし達の乗った馬車を走って追いかけ、市街地に入り、速度の落ちた馬車に肉薄し、何と城へ着く直前には、追いついてきてしまった。
ただ、馬の糞に塗れたお父様と、局地的泥混じり豪雨に見舞われたお兄様は、ここまで全力疾走してきた所為で、滝のような汗が頭の天辺から全身に吹き出していて、当然ながら異様に息も荒く、発する臭いも凄まじく。
身内のわたしから見ても酷い有様だとしか言いようがなかった。
「…………聞きしに勝る、えげつなさだな」
「容赦ねぇえー………」
お父様とお兄様を見た城の門兵達が、手にした槍を交差しながら2人の行手を阻みつつ溢した一言に、わたしはコーチの中で遠い目をしてしまった。
(……ああ。やっぱりこれって、既に “ざまあ” が始まっているってことなんですね……)
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