上 下
61 / 458
第4章 集まれ仲間達

エルドレッドの選択 -11-

しおりを挟む
「皆様。楽しんでいらっしゃるかしら?」

 明るく問いかけてきた声に皆が、入口の方へ驚いた顔を向けたことで、夫人が笑顔のまま小さく左へ首を傾げて動きを止めた。

 その間、俺と公爵は、互いの目を見詰めて一切視線を逸らさずに居た。

 再び俺は、右手の指を鳴らす。

『おい! グズ女! いい加減にしろ! その魔法薬は王家への納入品なんだぞ⁈ 作れないじゃ済まされないんだからな⁈』

 突然、室内に響いた少年の声に、今度は公爵夫人が、びっくりしたような顔をした。

 同時に、ぎしり、と嫌な音が鳴る。

 歪んだ俺の顔を見て、公爵だけが、その音の発生源を俺の奥歯の音だと看破したようだった。

『すみません、おにいさま』
『すみませんで済むか! この能無し!』
『キャッ!』

 バシッと乾いた音がして、彼女の小さな悲鳴が聞こえた。

 このクソ野郎、ふざけやがって!

 てめぇだけは、絶対ぇこの手でブチ殺す!

 殺意と共に握った左手が、椅子の肘かけをゴリっと爪で削る音を響かせて、隣にいたエンディミオン殿下とアリューシャの視線がそこへ向いたのが気配だけで分かった。

『期限は明後日だ! それまでに魔法薬を作れなかったら、お前は鞭打ちの仕置きだ! 分かったな⁈』
『………はい』
「もういい。風の精霊を止めたまえ」

 彼女の返事を聞いてすぐ、公爵がそう言ったので、俺は風精霊の中継を遮断した。

 この会話が交わされている場所が何処なのか、俺は一切口にしなかったのに、公爵は全て分かっているような顔をしていた。

「キミが欲しているのは、物的な証拠だね?」
「そうだ」

 公爵に問われたことに、俺は単語と称して差し障りのない、短い返事を紡いだ。

「ファーフリスタ伯爵家を潰せというのかね?」
「それはいい。かのじょをすくいだしたら、じりきでつぶす。そのまえに、ファーフリスタけが、かのじょをとりかえせない、せいとうなりゆうがほしい」

 そう。

 リリエンヌをこれだけイジメ抜いて、こきつかって、迫害レベルなことをしといて、一瞬でその苦しみを終わらせてなんかやるもんか。

「かぜのせいれいで、あのいえのじょうきょうは、こうしてさぐれる。やみのせいれいで、しょうこになりそうなものが、どこにかくされてるのかもつかんでる。だが、げんりんしているわけではない、せいれいたちに、ませきいがいのぶっしつは、きほん、つかさどっているぞくせいかんれんのものしか、はこぶことができない。かといって、おれがじぶんでのりこめば、あやしんだはくしゃくやクソアニキが、しょうこをいんめつするおそれもあるし、かのじょにだって、なにをするかわかったもんじゃない。それが、こうしゃくにたのんでる、おもなりゆうだ」
「恐らく、これがキミの秘密とやらの内の1つなのだろう? もう1つは?」
「……光の精霊。俺に見せてる物を皆にも見せてやれ」

 公爵の言葉を交渉成立と受け取った俺は、右の掌上に光属性の魔力を集積して、ダリルの頭の上に放った。

 俺から魔力を供給された光の精霊によって、パアッと明るいけれど、柔らかな光がそこに灯り。

『この人、王室暗部の人! ダリルっていうんだよ!』

 と、描き出していた文字を光の精霊が具現化して、その場の全員が呆気に取られた顔をした。

 良い子の皆は、言わなくても分かるよな!

 光の精霊が、この文字を書いたのは、さっきじゃない。

 今だ!

 目的の1つも達成出来て、逃げ道の確保も出来る、一石二鳥の手段なんだよ!

 いいじゃねぇか、ちょっとくらい誤魔化しても!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

純潔の寵姫と傀儡の騎士

四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。 世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...