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第4章 集まれ仲間達
エルドレッドの選択 -3-
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フランソワーヌに促されて室内を奥へ進むと、この国ではまだ珍しい筈のガラス張りになったサンルームに出た。
そこが、かなりの広さで存在しているらしいことを同じくガラス張りになった天井の高さで知る。
流石は公爵家。
金の掛け方が違う。
趣味のいい、深い臙脂色に黒と金ラインが縦に入った布張りの椅子は、貴族らしく綿詰めされているのが遠目にも分かるくらい背と座面が膨らんでいる。
椅子もテーブルも使われているのは鉄刀木やウエンジみたいな落ち着いた黒色で纏められていて、木地の描く木目の曲線が、素人の俺でも見事だと感じるような高級感があった。
そこにたった1人座っていた少年が、俺達3人を見て立ち上がる。
「はじめまして。ぼくは、エンディミオン・シグマセンティエ。このくにのだいいちおうじだよ。キミのなまえをきいてもいいかい?」
この場での最上位階級者であるエンディミオン殿下が、挨拶として投げかけてきた言葉に、俺は礼儀作法の教師が言っていたことを思い出しながら、黙したままで貴族式の礼を送った。
「ごしょうかいいたしますわ、エンディミオンでんか。このものは、アセンカザフはくしゃくけのごれいそくで、エルドレッドともうします。さ、でんかにごあいさつを」
殿下に直接問いを投げられても、ここはランドリウス公爵家の屋敷内なので、この家の者達からこうして声をかけられて。
「じきとうをゆるす。エルドレッド」
と、殿下から言われるまでは、頭どころか顔すら上げられない。
貴族社会メンドくさス。
「はい。おはつにおめもじいたします、エンディミオンでんか。わたくしは、おそれおおくも、でんかのおちちうえであられる、こくおう、フェルディエント・シグマセンティエ3せいへいかより、まほうしだんちょうのしょくをたまわっております、スターリング・アセンカザフはくしゃくがちょうし、エルドレッド・アセンカザフにございます。いご、おみしりおきを」
長い。
ちゃばけ舌噛みそうだわ。
「うむ。よしなにたのむ」
はー……やっと挨拶終わり! ないわー。
内心で溜息混じりの嘆きを溢していると、エンディミオン殿下が、唐突にパン、と1つ手を打った。
「かたくるしいのは、ここまでね! アリィ、フラン、おちゃにしよう!」
「かしこまりました、エンディミオンでんか」
「かたくるしいのはなし!」
「でん」
「なし‼︎」
「……わかりました」
よく分からない内に始まっていた殿下と悪役令嬢の攻防は、殿下勝利で決着がついたようだ。
「エルドレッドも、ぼくのことはエンディでいいよ? おないどしだしね。ぼくもキミのことエルってよんでいいかい?」
「ごずいに?」
「なし‼︎」
初対面の俺にも適用されんのかい。
「へいへい。いいならいいけどさー。とうさまにバレたとき、どやされんの、おれなんだけどなー」
「ぼくがゆるしたといえばいい。だいいちキミは、ぼくがゆうしゃにかくせいしたとき、いっしょにまおうせんをたたかってくれる、なかまなんだってきいてるよ? ともだちにだってなりたいし? そんなひとにまで、しんかづらされて、せんひかれるの、ぼくがさみしいからヤだ!」
何故か握った両の拳を腰に当て、頬を膨らませながら威張ってんだか拗ねてんだか謎な態度でそう主張する姿に抱く違和感。
あるぇ? エンディミオン殿下って、子供の頃から城でされてる教育の所為で、こういう思ってることとか、感じてることとかをサラッと表にだしたり、言葉にして言えない系の人格形成してて、学院で女主人公に会って素直な自分の気持ちを出すことが許される相手がいるんだってのが分かっ……てんだよな! もう、既に!
だって、俺の隣に居んもんな、そのアリューシャがさ⁈
完全にシナリオ崩壊してんじゃねぇか!
別の意味でないわ‼︎
「ああ、いけね。へんじへんじ。えーと……まぁ、いいならそうする。おれのこともエルでいいよ。なんかあるていどのネタバレは、すでにされてるっぽいし?」
「そうよ。まおうせんかんれんとはべつに、エンディにはもくてきがあるの。それが、こくおうになってないいまでも、やればかなうんだってしってほしかったから、しょうらいのそっきんメンバーは、サブストメンバーふくめて、さきにぜんいん、おしえちゃったのよね」
俺の疑問混じりな返答に、またもやサラッと入るカミングアウト。
おい! フランソワーヌ! 仕事しろッ⁈
アリューシャの暴走を全方位絨毯爆撃で止めまくるのは、乙女ゲー全般のメインシナリオ上で認められた悪役令嬢唯一の仕事だろうがッ⁈
そこが、かなりの広さで存在しているらしいことを同じくガラス張りになった天井の高さで知る。
流石は公爵家。
金の掛け方が違う。
趣味のいい、深い臙脂色に黒と金ラインが縦に入った布張りの椅子は、貴族らしく綿詰めされているのが遠目にも分かるくらい背と座面が膨らんでいる。
椅子もテーブルも使われているのは鉄刀木やウエンジみたいな落ち着いた黒色で纏められていて、木地の描く木目の曲線が、素人の俺でも見事だと感じるような高級感があった。
そこにたった1人座っていた少年が、俺達3人を見て立ち上がる。
「はじめまして。ぼくは、エンディミオン・シグマセンティエ。このくにのだいいちおうじだよ。キミのなまえをきいてもいいかい?」
この場での最上位階級者であるエンディミオン殿下が、挨拶として投げかけてきた言葉に、俺は礼儀作法の教師が言っていたことを思い出しながら、黙したままで貴族式の礼を送った。
「ごしょうかいいたしますわ、エンディミオンでんか。このものは、アセンカザフはくしゃくけのごれいそくで、エルドレッドともうします。さ、でんかにごあいさつを」
殿下に直接問いを投げられても、ここはランドリウス公爵家の屋敷内なので、この家の者達からこうして声をかけられて。
「じきとうをゆるす。エルドレッド」
と、殿下から言われるまでは、頭どころか顔すら上げられない。
貴族社会メンドくさス。
「はい。おはつにおめもじいたします、エンディミオンでんか。わたくしは、おそれおおくも、でんかのおちちうえであられる、こくおう、フェルディエント・シグマセンティエ3せいへいかより、まほうしだんちょうのしょくをたまわっております、スターリング・アセンカザフはくしゃくがちょうし、エルドレッド・アセンカザフにございます。いご、おみしりおきを」
長い。
ちゃばけ舌噛みそうだわ。
「うむ。よしなにたのむ」
はー……やっと挨拶終わり! ないわー。
内心で溜息混じりの嘆きを溢していると、エンディミオン殿下が、唐突にパン、と1つ手を打った。
「かたくるしいのは、ここまでね! アリィ、フラン、おちゃにしよう!」
「かしこまりました、エンディミオンでんか」
「かたくるしいのはなし!」
「でん」
「なし‼︎」
「……わかりました」
よく分からない内に始まっていた殿下と悪役令嬢の攻防は、殿下勝利で決着がついたようだ。
「エルドレッドも、ぼくのことはエンディでいいよ? おないどしだしね。ぼくもキミのことエルってよんでいいかい?」
「ごずいに?」
「なし‼︎」
初対面の俺にも適用されんのかい。
「へいへい。いいならいいけどさー。とうさまにバレたとき、どやされんの、おれなんだけどなー」
「ぼくがゆるしたといえばいい。だいいちキミは、ぼくがゆうしゃにかくせいしたとき、いっしょにまおうせんをたたかってくれる、なかまなんだってきいてるよ? ともだちにだってなりたいし? そんなひとにまで、しんかづらされて、せんひかれるの、ぼくがさみしいからヤだ!」
何故か握った両の拳を腰に当て、頬を膨らませながら威張ってんだか拗ねてんだか謎な態度でそう主張する姿に抱く違和感。
あるぇ? エンディミオン殿下って、子供の頃から城でされてる教育の所為で、こういう思ってることとか、感じてることとかをサラッと表にだしたり、言葉にして言えない系の人格形成してて、学院で女主人公に会って素直な自分の気持ちを出すことが許される相手がいるんだってのが分かっ……てんだよな! もう、既に!
だって、俺の隣に居んもんな、そのアリューシャがさ⁈
完全にシナリオ崩壊してんじゃねぇか!
別の意味でないわ‼︎
「ああ、いけね。へんじへんじ。えーと……まぁ、いいならそうする。おれのこともエルでいいよ。なんかあるていどのネタバレは、すでにされてるっぽいし?」
「そうよ。まおうせんかんれんとはべつに、エンディにはもくてきがあるの。それが、こくおうになってないいまでも、やればかなうんだってしってほしかったから、しょうらいのそっきんメンバーは、サブストメンバーふくめて、さきにぜんいん、おしえちゃったのよね」
俺の疑問混じりな返答に、またもやサラッと入るカミングアウト。
おい! フランソワーヌ! 仕事しろッ⁈
アリューシャの暴走を全方位絨毯爆撃で止めまくるのは、乙女ゲー全般のメインシナリオ上で認められた悪役令嬢唯一の仕事だろうがッ⁈
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