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第4章 集まれ仲間達
エルドレッドの選択 -1-
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「失礼いたします」
軽いノック後、父様に入室を許可された家令が扉を閉めて一礼し、真っ直ぐ父様の居る執務机へと向かう。
「旦那様。ランドリウス公爵家より、エルドレッド様を御令嬢達とのお茶会に招待したいと御連絡を賜りました。エンディミオン殿下も御同席の予定だそうでございます。こちら、至急対応をお願いいたします」
家令が、そう言って豪奢な布に包まれた手紙を3通差し出した。
1通は取り次ぎをする家令宛、つまり今来ているこの男に手紙の内容を父様に伝えてもらう為のものなので開封済み。
残りの2通は当然ながら未開封で、内1通は、父様に俺を招待することへの許可を打診する為のものなので、父様宛。
残りが俺宛なのだろう。
家令宛と父様宛の手紙に押された封緘はランドリウス公爵家の家紋だが、俺宛の物は別の封緘で閉じられていた。
父様が自分宛の手紙を開けて、内容に目を通し、チラッと俺を見た。
無言のまま考えていることをご親切に光の精霊が頭上に文字書きして教えてくる。
“……ウチの息子、こんなんだが、まだ3歳だぞ? 手紙なんか読めるのか?”
失礼だな。
俺もう魔導書読んでるだろが。
“……我が家より遥に格上の家格を持つ公爵家唯一の嫡男だった男が、陛下の御学友となり、城の職に就くこと自体は辞したものの、未だ、よくご政務の相談に乗っておるのは有名な話しだ。そんな家の御令嬢からお茶会の誘いとか、ある意味、拒否権ゼロなんだが、大丈夫か? ウチの息子……”
あははー。
礼儀作法って点では不安になってもしょーがねーよなー。
自覚はあるよ。
……それにしても。
ランドリウス公爵家って言や、表向きは城での役職を辞退したことにして、王室暗部を取り仕切ってるってのが、公式の裏設定だった筈。
それに “花キミ” では唯一の公式悪役令嬢、フランソワーヌの生家だ。
悪役令嬢が、俺に何の用だ?
ついつい訝しげな顔をした俺に、父様が片眉だけを器用に上げながら俺宛の手紙を差し出して来た。
俺は素直にそれを受け取って、自分の周りをクルクル回していた属性塊から風の塊を引き寄せて、封筒のかぶせ側を細く潜らせた。
ペーパーナイフ真っ青の切れ味で開封されたそれを確認して、風の塊をまたクルクル群に戻し、封筒の中から折り畳まれた紙を取り出す。
流石は公爵家。
前世の物には及ばないが、それでも手触りいい紙使ってんな。
そんなどうでもいいことを考えながら開いたそこに並ぶ文字列は、この世界の物ではなかった。
『やっほー、エルドレッド! アンタ、この文字分かるでしょ? サーシャエール様からアンタも転生者だって聞いてるかんね? リリエンヌちゃん最推し男子なんでしょ? アンタが本懐遂げられるように協力したげるから、こっちのことも手伝って。お茶会って名目で呼び出すから、とにかく1回合流しましょ。いい返事を待ってるわ。
聖女[覚醒前]アリューシャ・ランドリウス
並びに
女神サーシャエールの愛巫女[覚醒前]フランソワーヌ・ランドリウス』
「………はぁッ⁈ ちょっとまて! とうとつかつ、じょうほうかた&イミフすぎて、こんな、かみっペラいちまい、10ぎょうていどのないようじゃ、まったくりかいがおよばんわ! なんでヒロインがよりにもよって、あくやくれいじょうと、しかもこうしゃくけで、いっしょにいたりとかしてんだよ⁈ どうしてそうなった⁈ つか、せいじょはともかく、ういみこってなんぞぉっ⁈」
父様と家令が居るにも関わらず、思いくそ叫び上げてしまった俺に2人が飛ばす疑問符輪舞曲。
当然の流れだろうが、父様は手紙を見せろと言ってきて、素直に渡した俺に「これは暗号か何かなのか?」と聞いてきた。
デスヨネー。
前世でも外人さん、特に英語圏の人達に於いては、平仮名カタカナ漢字にアルファベットおまけに各種記号から絵文字に顔文字まで普通に乱舞する日本語って、表記習得に関しては、最難関って言われてたもんなー。
確かに自分達が日本からの本物の転生者であると1発で証すのに、これ程簡単な方法はない。
それは認める。
だけどさ?
(……とうさまへのせつめいが、ちょうぜつメンドくさス。どないしょ?)
茶会の日時は1週間後の午後。
所謂、ティータイムの指定になっていた。
「とうさま。とにかく、おれ、このおちゃかい、いってくる。せいじょさまと、ういみこさまに、あってくるよ」
「は⁈ ……聖女と、ういみこ? エルドレッド、どういうことだ⁈」
父様の発音と家令の疑問を浮かべた目を見る限りでは、愛巫女ってのは、あまり有名な称号じゃなさそうだ。
確かに、熟読用で1日1回は必ず目を通していた公式設定資料集にもそんな称号載ってなかった。
「いや、だから。わかんないからいってくるんだってば。おれ、かいてあることはわかるけど、かいてあるないようっていうか、イミ?が、ところどころ、よくわかんないからさ?」
「待て待て! 茶会は……1週間後だな。よし、情報収集してくるからまだ返事は書くな」
「どうせ、ことわれないんでしょ?」
「うぐっ」
「だったら、こうしゃくけのしんしょうがよくなるように、いきますっていうへんじはすぐだして、じょうほうしゅうしゅうにじかんかけるほうが、かしこいとおもうけど?」
俺の突っ込みに家令も賛成してくれて、少し考えた父様は頭の中でLine Abacus ── 算盤に似ていて平版の上に色のついた溝で線が引かれていて、その上に実際の硬貨を置いて使う金額計算機のようなもの ── が整ったのか、頷いた。
ま、俺も風の精霊使って情報を集めようとは思うけど、どの道、このお茶会に行くことに関して、向こうは俺のメリットを明確かつ的確に提示してきてる。
(お望み通り行ってやるさ。リリエンヌの為なら、俺は何だって利用してやる!)
軽いノック後、父様に入室を許可された家令が扉を閉めて一礼し、真っ直ぐ父様の居る執務机へと向かう。
「旦那様。ランドリウス公爵家より、エルドレッド様を御令嬢達とのお茶会に招待したいと御連絡を賜りました。エンディミオン殿下も御同席の予定だそうでございます。こちら、至急対応をお願いいたします」
家令が、そう言って豪奢な布に包まれた手紙を3通差し出した。
1通は取り次ぎをする家令宛、つまり今来ているこの男に手紙の内容を父様に伝えてもらう為のものなので開封済み。
残りの2通は当然ながら未開封で、内1通は、父様に俺を招待することへの許可を打診する為のものなので、父様宛。
残りが俺宛なのだろう。
家令宛と父様宛の手紙に押された封緘はランドリウス公爵家の家紋だが、俺宛の物は別の封緘で閉じられていた。
父様が自分宛の手紙を開けて、内容に目を通し、チラッと俺を見た。
無言のまま考えていることをご親切に光の精霊が頭上に文字書きして教えてくる。
“……ウチの息子、こんなんだが、まだ3歳だぞ? 手紙なんか読めるのか?”
失礼だな。
俺もう魔導書読んでるだろが。
“……我が家より遥に格上の家格を持つ公爵家唯一の嫡男だった男が、陛下の御学友となり、城の職に就くこと自体は辞したものの、未だ、よくご政務の相談に乗っておるのは有名な話しだ。そんな家の御令嬢からお茶会の誘いとか、ある意味、拒否権ゼロなんだが、大丈夫か? ウチの息子……”
あははー。
礼儀作法って点では不安になってもしょーがねーよなー。
自覚はあるよ。
……それにしても。
ランドリウス公爵家って言や、表向きは城での役職を辞退したことにして、王室暗部を取り仕切ってるってのが、公式の裏設定だった筈。
それに “花キミ” では唯一の公式悪役令嬢、フランソワーヌの生家だ。
悪役令嬢が、俺に何の用だ?
ついつい訝しげな顔をした俺に、父様が片眉だけを器用に上げながら俺宛の手紙を差し出して来た。
俺は素直にそれを受け取って、自分の周りをクルクル回していた属性塊から風の塊を引き寄せて、封筒のかぶせ側を細く潜らせた。
ペーパーナイフ真っ青の切れ味で開封されたそれを確認して、風の塊をまたクルクル群に戻し、封筒の中から折り畳まれた紙を取り出す。
流石は公爵家。
前世の物には及ばないが、それでも手触りいい紙使ってんな。
そんなどうでもいいことを考えながら開いたそこに並ぶ文字列は、この世界の物ではなかった。
『やっほー、エルドレッド! アンタ、この文字分かるでしょ? サーシャエール様からアンタも転生者だって聞いてるかんね? リリエンヌちゃん最推し男子なんでしょ? アンタが本懐遂げられるように協力したげるから、こっちのことも手伝って。お茶会って名目で呼び出すから、とにかく1回合流しましょ。いい返事を待ってるわ。
聖女[覚醒前]アリューシャ・ランドリウス
並びに
女神サーシャエールの愛巫女[覚醒前]フランソワーヌ・ランドリウス』
「………はぁッ⁈ ちょっとまて! とうとつかつ、じょうほうかた&イミフすぎて、こんな、かみっペラいちまい、10ぎょうていどのないようじゃ、まったくりかいがおよばんわ! なんでヒロインがよりにもよって、あくやくれいじょうと、しかもこうしゃくけで、いっしょにいたりとかしてんだよ⁈ どうしてそうなった⁈ つか、せいじょはともかく、ういみこってなんぞぉっ⁈」
父様と家令が居るにも関わらず、思いくそ叫び上げてしまった俺に2人が飛ばす疑問符輪舞曲。
当然の流れだろうが、父様は手紙を見せろと言ってきて、素直に渡した俺に「これは暗号か何かなのか?」と聞いてきた。
デスヨネー。
前世でも外人さん、特に英語圏の人達に於いては、平仮名カタカナ漢字にアルファベットおまけに各種記号から絵文字に顔文字まで普通に乱舞する日本語って、表記習得に関しては、最難関って言われてたもんなー。
確かに自分達が日本からの本物の転生者であると1発で証すのに、これ程簡単な方法はない。
それは認める。
だけどさ?
(……とうさまへのせつめいが、ちょうぜつメンドくさス。どないしょ?)
茶会の日時は1週間後の午後。
所謂、ティータイムの指定になっていた。
「とうさま。とにかく、おれ、このおちゃかい、いってくる。せいじょさまと、ういみこさまに、あってくるよ」
「は⁈ ……聖女と、ういみこ? エルドレッド、どういうことだ⁈」
父様の発音と家令の疑問を浮かべた目を見る限りでは、愛巫女ってのは、あまり有名な称号じゃなさそうだ。
確かに、熟読用で1日1回は必ず目を通していた公式設定資料集にもそんな称号載ってなかった。
「いや、だから。わかんないからいってくるんだってば。おれ、かいてあることはわかるけど、かいてあるないようっていうか、イミ?が、ところどころ、よくわかんないからさ?」
「待て待て! 茶会は……1週間後だな。よし、情報収集してくるからまだ返事は書くな」
「どうせ、ことわれないんでしょ?」
「うぐっ」
「だったら、こうしゃくけのしんしょうがよくなるように、いきますっていうへんじはすぐだして、じょうほうしゅうしゅうにじかんかけるほうが、かしこいとおもうけど?」
俺の突っ込みに家令も賛成してくれて、少し考えた父様は頭の中でLine Abacus ── 算盤に似ていて平版の上に色のついた溝で線が引かれていて、その上に実際の硬貨を置いて使う金額計算機のようなもの ── が整ったのか、頷いた。
ま、俺も風の精霊使って情報を集めようとは思うけど、どの道、このお茶会に行くことに関して、向こうは俺のメリットを明確かつ的確に提示してきてる。
(お望み通り行ってやるさ。リリエンヌの為なら、俺は何だって利用してやる!)
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