37 / 458
第3章 それぞれのスタートライン
聖女 アリューシャ・ランドリウス -4-
しおりを挟む
「おなじことですわ。ごじぶんでなおせないのならば、なおせるだれかになおしてもらう。それはたりきほんがんとか、せきにんてんかではないのです」
「うん。わかるよ。だって、ただしいなおしかたをしらないのに、きっとこれでだいじょうぶっておもうくらいまで、ぼくがなおしたとしても、もしダメだったなら、もっとひどいケガをしちゃうひとがでるかもしれないんだから……それとおなじってことは、ひんみんがいのひとたちを、たすけてあげられるだれかをみつけて、たのめばいいってこと?」
僕が、どうして直せる人に頼むという判断をしたのか追加で答えてから、その例え話しを元に彼女が言いたいことを聞いてみた。
けれど、アリューシャ嬢はそれに頷かす、穏やかに笑んだだけだった。
「おうひさまと、きしだんちょうかっかのおかんがえでは、それがおうさま、というこたえだっただけなのです。でも、よくおもいだしてみてくださいませ? こくおうへいかだって、おしごとで “こうしましょう” ってきめられた、おくにのことを、ごじぶんでぜんぶは、おこなわれませんでしょう?」
「……さいしょうや、きしだんちょうにたのんでる」
「そうですわね。そこから、たんとうだいじんや、たんとうぶしょへしじがいって、さらにぶんかんのかたたちが、どうやってそれをじつげんするのか、おかねがどれだけかかるのか、そのおかねは、どうやっててにいれるのか、しじされたことをなすために、きかんがどのくらいかかるのか、だれにどうじつげんしてもらって、それをだれがほうこくするのか。ほかにもたくさんのことをはなしあってきめて、これでいいですかって、こんどはうえのひとをぎゃくにたどって、さいしょうかっかや、こくおうへいかのきょかをもって、ようやくことにあたれるのです」
うん。
僕はまだ、薄ぼんやりとしか分からないけど、父上や宰相の仕事を見学すると大体、アリューシャ嬢の言った流れになっている気がして頷いた。
「ひんみんがいをなくしたい、ではなくすためにひつようなのはなにか。それはそこにあつまらざるをえなかったひとたちのりゆう、ひとつひとつをつぶしていく、というのが、とおまわりなようで、じつはいちばんのちかみちなのではないでしょうか」
彼らがそこに居る理由。
仕事がない、親がいない、他に住む所がない、あとは……人によっては、やる気がない。
そんな所だろうか。
多分、最後のをなくすのが1番難しそうだ。
「……りゆうは、いくつかあるとおもうし、たとえば、しごとがないから、というりゆう1つでも、そうなるようそは、ふくすうあるとおもうんだ」
僕がそう言うとアリューシャ嬢は、その通りだ、と言ってくれているように頷いてくれた。
あ。
何かいいな、こういうの。
僕の話しをちゃんと聞いてくれて、考えている時は待っててくれて、ただ適当に返事するんじゃなく、意味を理解して頷いてくてれて。
必要なことは、提案でも否定でもキチンと僕に話してくれる。
これまでは、どうにかできないのかな、と気ばかり焦って、でも漠然としか考えられなかったことが、アリューシャ嬢と話していると僕の中で形になっていく。
少しずつ、こうすればいいのかなって、具体的になっていく。
「1つは、こどものころに、ちちうえやははうえ、しゅういのめうえのひとなんかに、おしえてもらえるはずのいろんなことを……べんきょうだけじゃなく、ひととしてだいじなことなんかも、おしえてもらえるかんきょうにいなくて、そのせいで、しごとをえるまえに、ひつようなのうりょくがないっておもわれたり、きているものや、すんでいるところで、そのひとこじんがどんなひとなのかをみないまま、しんようができないとおもわれて、やとってもらえないこと」
「はい」
「もう1つは、そういう、きじゅんみたいなものをつくらなくても、できるしごとっていうのじたいが、すくないこと」
「はい」
「あとは、ダメなほうのりゆうで、そもそもしごとをする気がない、とか。じぶんがやりたいっておもうしごといがいは、やりたくない、とか。うーん……ほかにも、あるのかもしれないけど、そういうの、かな」
僕が思いつくままに並べてゆくことをアリューシャ嬢は時に頷いたり、相槌を打ってくれたりしながら聞いてくれた。
そんな彼女に、どうしてだろう。
僕は、大人の人や年上のお姉さんと話しているような感覚がしていた。
「うん。わかるよ。だって、ただしいなおしかたをしらないのに、きっとこれでだいじょうぶっておもうくらいまで、ぼくがなおしたとしても、もしダメだったなら、もっとひどいケガをしちゃうひとがでるかもしれないんだから……それとおなじってことは、ひんみんがいのひとたちを、たすけてあげられるだれかをみつけて、たのめばいいってこと?」
僕が、どうして直せる人に頼むという判断をしたのか追加で答えてから、その例え話しを元に彼女が言いたいことを聞いてみた。
けれど、アリューシャ嬢はそれに頷かす、穏やかに笑んだだけだった。
「おうひさまと、きしだんちょうかっかのおかんがえでは、それがおうさま、というこたえだっただけなのです。でも、よくおもいだしてみてくださいませ? こくおうへいかだって、おしごとで “こうしましょう” ってきめられた、おくにのことを、ごじぶんでぜんぶは、おこなわれませんでしょう?」
「……さいしょうや、きしだんちょうにたのんでる」
「そうですわね。そこから、たんとうだいじんや、たんとうぶしょへしじがいって、さらにぶんかんのかたたちが、どうやってそれをじつげんするのか、おかねがどれだけかかるのか、そのおかねは、どうやっててにいれるのか、しじされたことをなすために、きかんがどのくらいかかるのか、だれにどうじつげんしてもらって、それをだれがほうこくするのか。ほかにもたくさんのことをはなしあってきめて、これでいいですかって、こんどはうえのひとをぎゃくにたどって、さいしょうかっかや、こくおうへいかのきょかをもって、ようやくことにあたれるのです」
うん。
僕はまだ、薄ぼんやりとしか分からないけど、父上や宰相の仕事を見学すると大体、アリューシャ嬢の言った流れになっている気がして頷いた。
「ひんみんがいをなくしたい、ではなくすためにひつようなのはなにか。それはそこにあつまらざるをえなかったひとたちのりゆう、ひとつひとつをつぶしていく、というのが、とおまわりなようで、じつはいちばんのちかみちなのではないでしょうか」
彼らがそこに居る理由。
仕事がない、親がいない、他に住む所がない、あとは……人によっては、やる気がない。
そんな所だろうか。
多分、最後のをなくすのが1番難しそうだ。
「……りゆうは、いくつかあるとおもうし、たとえば、しごとがないから、というりゆう1つでも、そうなるようそは、ふくすうあるとおもうんだ」
僕がそう言うとアリューシャ嬢は、その通りだ、と言ってくれているように頷いてくれた。
あ。
何かいいな、こういうの。
僕の話しをちゃんと聞いてくれて、考えている時は待っててくれて、ただ適当に返事するんじゃなく、意味を理解して頷いてくてれて。
必要なことは、提案でも否定でもキチンと僕に話してくれる。
これまでは、どうにかできないのかな、と気ばかり焦って、でも漠然としか考えられなかったことが、アリューシャ嬢と話していると僕の中で形になっていく。
少しずつ、こうすればいいのかなって、具体的になっていく。
「1つは、こどものころに、ちちうえやははうえ、しゅういのめうえのひとなんかに、おしえてもらえるはずのいろんなことを……べんきょうだけじゃなく、ひととしてだいじなことなんかも、おしえてもらえるかんきょうにいなくて、そのせいで、しごとをえるまえに、ひつようなのうりょくがないっておもわれたり、きているものや、すんでいるところで、そのひとこじんがどんなひとなのかをみないまま、しんようができないとおもわれて、やとってもらえないこと」
「はい」
「もう1つは、そういう、きじゅんみたいなものをつくらなくても、できるしごとっていうのじたいが、すくないこと」
「はい」
「あとは、ダメなほうのりゆうで、そもそもしごとをする気がない、とか。じぶんがやりたいっておもうしごといがいは、やりたくない、とか。うーん……ほかにも、あるのかもしれないけど、そういうの、かな」
僕が思いつくままに並べてゆくことをアリューシャ嬢は時に頷いたり、相槌を打ってくれたりしながら聞いてくれた。
そんな彼女に、どうしてだろう。
僕は、大人の人や年上のお姉さんと話しているような感覚がしていた。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる