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第3章 それぞれのスタートライン

聖女 アリューシャ・ランドリウス -4-

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「おなじことですわ。ごじぶんでなおせないのならば、なおせるだれかになおしてもらう。それはたりきほんがんとか、せきにんてんかではないのです」
「うん。わかるよ。だって、ただしいなおしかたをしらないのに、きっとこれでだいじょうぶっておもうくらいまで、ぼくがなおしたとしても、もしダメだったなら、もっとひどいケガをしちゃうひとがでるかもしれないんだから……それとおなじってことは、ひんみんがいのひとたちを、たすけてあげられるだれかをみつけて、たのめばいいってこと?」

 僕が、どうして直せる人に頼むという判断をしたのか追加で答えてから、その例え話しを元に彼女が言いたいことを聞いてみた。

 けれど、アリューシャ嬢はそれに頷かす、穏やかに笑んだだけだった。

「おうひさまと、きしだんちょうかっかのおかんがえでは、それがおうさま、というこたえだっただけなのです。でも、よくおもいだしてみてくださいませ? こくおうへいかだって、おしごとで “こうしましょう” ってきめられた、おくにのことを、ごじぶんでぜんぶは、おこなわれませんでしょう?」
「……さいしょうや、きしだんちょうにたのんでる」
「そうですわね。そこから、たんとうだいじんや、たんとうぶしょへしじがいって、さらにぶんかんのかたたちが、どうやってそれをじつげんするのか、おかねがどれだけかかるのか、そのおかねは、どうやっててにいれるのか、しじされたことをなすために、きかんがどのくらいかかるのか、だれにどうじつげんしてもらって、それをだれがほうこくするのか。ほかにもたくさんのことをはなしあってきめて、これでいいですかって、こんどはうえのひとをぎゃくにたどって、さいしょうかっかや、こくおうへいかのきょかをもって、ようやくことにあたれるのです」

 うん。

 僕はまだ、薄ぼんやりとしか分からないけど、父上や宰相の仕事を見学すると大体、アリューシャ嬢の言った流れになっている気がして頷いた。

「ひんみんがいをなくしたい、ではなくすためにひつようなのはなにか。それはそこにあつまらざるをえなかったひとたちのりゆう、ひとつひとつをつぶしていく、というのが、とおまわりなようで、じつはいちばんのちかみちなのではないでしょうか」

 彼らがそこに居る理由。

 仕事がない、親がいない、他に住む所がない、あとは……人によっては、やる気がない。

 そんな所だろうか。

 多分、最後のをなくすのが1番難しそうだ。

「……りゆうは、いくつかあるとおもうし、たとえば、しごとがないから、というりゆう1つでも、そうなるようそは、ふくすうあるとおもうんだ」

 僕がそう言うとアリューシャ嬢は、その通りだ、と言ってくれているように頷いてくれた。

 あ。

 何かいいな、こういうの。

 僕の話しをちゃんと聞いてくれて、考えている時は待っててくれて、ただ適当に返事するんじゃなく、意味を理解して頷いてくてれて。

 必要なことは、提案でも否定でもキチンと僕に話してくれる。

 これまでは、どうにかできないのかな、と気ばかり焦って、でも漠然としか考えられなかったことが、アリューシャ嬢と話していると僕の中で形になっていく。

 少しずつ、こうすればいいのかなって、具体的になっていく。

「1つは、こどものころに、ちちうえやははうえ、しゅういのめうえのひとなんかに、おしえてもらえるはずのいろんなことを……べんきょうだけじゃなく、ひととしてだいじなことなんかも、おしえてもらえるかんきょうにいなくて、そのせいで、しごとをえるまえに、ひつようなのうりょくがないっておもわれたり、きているものや、すんでいるところで、そのひとこじんがどんなひとなのかをみないまま、しんようができないとおもわれて、やとってもらえないこと」
「はい」
「もう1つは、そういう、きじゅんみたいなものをつくらなくても、できるしごとっていうのじたいが、すくないこと」
「はい」
「あとは、ダメなほうのりゆうで、そもそもしごとをする気がない、とか。じぶんがやりたいっておもうしごといがいは、やりたくない、とか。うーん……ほかにも、あるのかもしれないけど、そういうの、かな」

 僕が思いつくままに並べてゆくことをアリューシャ嬢は時に頷いたり、相槌を打ってくれたりしながら聞いてくれた。

 そんな彼女に、どうしてだろう。

 僕は、大人の人や年上のお姉さんと話しているような感覚がしていた。

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