上 下
31 / 458
第3章 それぞれのスタートライン

国王謁見 -1-

しおりを挟む
 昏森塚の地下迷宮での目的を想定以上の成果を以って完遂し、ランドリウス公爵家へと戻ったわたくしとアリューシャちゃんは、御父様と御母様にメッチャ叱られた。

 一応、家令のグレイディスは、わたくしの言葉通りに説明と説得をしてくれてはいたのだけれど、そういう問題じゃない、とか自分の年齢を考えろ、とか公爵家の令嬢なんだぞ、お前達は! みたいなことを懇々と並べ立てられた。

 最初は、私関係ありません、みたいな顔をしていたアリューシャちゃんも。

「アリューシャ。貴女は、聖女となる前にまず、公爵家の長女になるのよ?」

 と、鬼女みたいな顔をした御母様に詰め寄られ。

「あ、はい。すいません! ごめんなさい! ちゃんとききます!」

 なんて迫力負けして謝罪していた。

 そんなこんなでガミガミお説教されること3時間。

 御父様はとうに飽きて、お茶をしながら急ぎの仕事を片付け始め、夕飯の支度をする為にメイドと侍従数人が席を外した頃になって、やっと御母様は満足したのか。

「次からは、ちゃんと説明してから動きなさいね!」

 と言って、話を締め括った。

 わたくしとアリューシャちゃんは心の中で「Yes, ma'am!」と唱えながらソファを立ち、2人揃って敬礼後、御母様に向かって頭を下げた。

「いご、きをつけます!」

 綺麗に揃ったわたくし達の言葉と動きに御母様が溜息をついて、執務机を離脱した御父様が、再び御母様の隣へと戻って来た。

「それで? 修行というのは、結局、何だったんだ? アリューシャ、フランソワーヌ」
「はい、おとうさま。わたくしたちは、くらもりづかのちかめいきゅう、そのさいかそうにあるボスべやにむかい、そのおくに、そうちょうの、みじかいじかんにだけ、はいることのできる、かくしべやにいってまいりましたの」
「何だと⁈」

 思わず声を上げてしまったのだろう、御父様の驚きは理解出来る。

 あそこは、ランドリウス領やダータルヘッジ領の領民、そして冒険者達にとっては、結構、昔からあるただの初級ダンジョンで、隠し部屋の存在なんて、これまで噂話しや与太話しにすら出てこなかったのだろうから。

「あー、旦那様。フランソワーヌお嬢様の仰っていることは、事実です。隠し部屋の手前までは、俺とアルバロス、リゼラの3人が一緒でしたから」

 護衛兼冒険者として迷宮内に同行してくれた方の1人、シュリットが右手を上げながらお父様にそう説明すると訝しげな表情を扇の端で隠しながら御母様が口を開く。

「貴方達は、隠し部屋には入っていないということかしら?」
「そうです。そこは、めがみのま。めがみサーシャエールさまにゆるされたものしか、はいることができないので、せいじょであるわたしと、ういみこであるフランしか、はいることができなかったのです」

 御母様の疑問に答えたのは、シュリットではなく、アリューシャちゃんでした。

「ういみこ? 聞かぬ称号だな」
「はい。フランのことをいたくおきにめしたサーシャエールさまが、フランのためだけに、あらたにおつくりになられたしょうごうですので」
「………」
「………」

 アリューシャちゃんの、残念ながら真実な説明に御父様と御母様は、目を瞠って言葉をなくしたようだった。

 そりゃそうだろう。

 娘が高熱でブッ倒れ、復活して来てからコッチ、我が家は蜂魔物の巣を誤って叩き落としたような騒動の渦に放り込まれていて、ストーリー展開をある程度、知っているわたくし達ですら、ややついていけてない部分が発生してきているのだから。

 そんな無言の嵐が渦巻く中、執務室の扉をノックし、入室を許可された侍従が、更なる嵐の種を投下した。

「失礼致します。旦那様。王都の国王陛下と聖サーシャエール女神教会のサーシャリスト枢機卿猊下より、書状が参りました。使者の方が、出来るだけ早急にお返事を賜りたいとのことで、応接室でお待ちにございます」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

処理中です...