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第1章 思い出したらやるしかない

それからの3日間 -2-

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◆どうしますか?
 ピコッ▶ ダッシュで逃げる
      大人しく子爵の養女になる

 や、当たり前じゃんね?

 分かり切ってんだから選択肢出すまでもなく、元から取れる行動なんざ逃亡1択っしょ?

 悪いけどわたしは、何も知らずに天然ほけほけぽけらんらんとして生きてきた3歳児じゃない。

 大学まできっちり進学してる前世の記憶を持ったままヒロイン転生してきた女だ。

 死因なんざ思い出せないけど、大学病院勤務に片足突っ込んでる医大生。

 しかも空き時間は全てこのゲームに突っ込む重課金ユーザーだったんだって言ったじゃん?

 だから “大丈夫よ、1週間くらい寝なくても人間は死なない!” とか?

 “徹夜も3日過ぎれば不眠症気味になるから却って寝れなくなるしね!” なんてのは、ほぼ合言葉並みに自分へ適用していたし?

 “食事しながらとかお風呂入りながらとかでも携帯アプリゲーなら余裕で出来るし! 充電器とUSB変換器&ケーブル、そして携帯防水カバーは切っても切れない仲の戦友よ!” みたいな?

 両親が留守がちなのをいいことに、小学生くらいからずっとそんな生活してたからさ?

 どうせインターンで連夜の宿直してて過労死とか、意識朦朧としたまま帰り道に画面見ながら歩いてて事故ったとか、風呂で意識不明になって溺死or脳卒中とか、多分、そんな感じのお決まりパターンなんじゃないかなー? とか思ってんだよね。

(フッ……折角、ヒロイン転生したのよ⁈ 生のエンディミオン王子と迎えるラブラブエンドを拝むんだから‼︎ 他の男の物になんかなってたまるもんですかっ‼︎)

 3歳児のダッシュなんて歩幅小さいんだから大したことないだろ? とか思ってるならアンタはまだまだ甘いわね。

 大人は皆、椅子に座っていて唯一、立ってたその場の人間は、お爺ちゃんの執事だけ。

 そんな状態から急にダッシュした子供を捕まえられる反射神経を誰かが発揮できるなら、大人が目を離した隙に事故る子供はこの世に存在しないのだよ、諸君。

 充電切れが早い代わりに起きてる時には常に全力、エネルギーとバイタリティの塊、それが子供。

 しかもわたしは記憶が戻ってからのこの3日間、町外れの森に出没するスライム相手にレベリングしまくっていて、齢3歳にして既にレベル5というこの世界では立派な異端児 ── 普通、レベル上げなんて始めるのは早くて10~12歳から ── だ。

(おーほほほほほ! ほ~ら、捕まえてごらんなさ~い)

 気分だけは、そんな感じで優雅に。

「つかまえられるもんならつかまえてみろや、ゴルァ!」

 現実としては、背中にエ○ゴリ君の幻影を背負う勢いで教会の敷地を駆け抜けたわたしは、大人が絶対に通れない狭い道とか塀の上とかを駆使して子爵の子飼共を振り切る為に街中を奔走した。

「居たぞ!」
「しつこいわね!」

 子飼の1人に見つかったわたしは、どんどん合流して人数を増やしていく連中を引き連れて行く形で、尚、走る。

 大通りを横切り、街の反対側の区画へ逃げ込む為のタイミングを見計らっていた、その時。

 結構な勢いで後ろから走って来てるっぽい馬車の音が耳に届いて、わたしは肩越しに背後をチラ見した。

「おぶっ⁈」
「ぐあっ⁈」

 追い越す寸前に扉を開くことで後ろから彼等にそれをぶつけたのだろう。

 追手の男達が全員、無様に倒れ込んだのが見えた。

 それを尻目に1人の少女が馬車の中から、わたしに向かって叫んだ。

「ヒロインちゃん! のって!」
「⁈」

 “ヒロインちゃん” その呼びかけ方で、“私” はその少女が誰なのかと言うことより先に “私” と同じ転生者がこの世界に居ることを理解して、そちらへ視線をやり、くわっ、と驚愕に目を見開いた。

 声をかけて来た少女と共に馬車から身を乗り出して手を伸ばしてくれている男性は、忘れもしない。

 公式の悪役令嬢、フランソワーヌの父。

 乙女ゲーモブ部門ダンディなイケパパ枠ダントツ1位、ローヴァイン・ランドリウス公爵閣下!

「ヒロインちゃん! わたしくたちはみかたよ! しんじて!」

 ということは、わたしを 「ヒロインちゃん」と呼ぶこの黒紫の髪に琥珀の瞳の娘っコが、悪役令嬢フランソワーヌ……になってしまったらしい、多分、“私” と同じ転生者。

「お乗りください。未来の聖女様。お迎えに上がりました」

 ダンディなイケパパのイケメンボイスと柔らかな笑顔で差し出された手に逆らえと?

 このゲームの重課金者だった “私” にそんな選択肢選べとか、無理に決まってんだろ⁈

◆手を引かれて馬車に飛び乗りますか?
 ピコッ▶︎ 乗る       
      乗らない

「はいっ! らんどりうすこうしゃくかっかさまっ!」

 こうして、ダンディなイケパパの超イケボに釣られたわたしの運命は、この後、大きく変わっていくこととなる。




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