お金がないっ!

有馬 迅

文字の大きさ
上 下
112 / 124
第7章 ファイアースライムブロッカシア

ナジェット村 -5-

しおりを挟む
 話し合いの結果、ファイアースライムブロッカシアの契約者はカイゼルとルシアの兄妹が居るキイラの家とミネアとフランクの姉弟が居るティニエの家、そしてスタードとリリネの兄妹が居るセレニーの家、全3家が持ち回りで担当することに決まった。

 自分達がやりたいと村長に対して駄々を捏ね出した子供達を各家庭の父親達が揃って「ママがいいって言ったらな」と拾って来た動物を飼うか飼わないかみたいなノリで妻へと判断を丸投げした所為でファイアースライムブロッカシアが、この家の主たるリーダーは妻の方であると認識してしまったのが、担当家の呼称が妻の名になっている理由だった。

 子供達は早速、ファイアースライムとファイアーブロッカシアにつける名前の検討を始めていて、大人達は何とも言えない微妙な表情を浮かべたまま、村長夫妻とドルフを囲んでいた。

「……そんな顔をされてもな。魔獣に忖度なぞ、期待するだけ無駄なのは、べズラの件で分かったろうに」
「ウチの人の言う通りだよ。そんな顔するくらい自分達の面子が大事なら、重大な決定事項を妻に丸投げするんじゃないよ。バカだね、全く」

 村長夫妻に揃ってダメ出しをされた父親達は、始終しょぼんとした面持ちで子供達がキャイキャイ言いながら魔獣の名前を決めていく様子を拗ねまくって眺めていた。

「よし! 決まったぞ!」

 やがて、子供達の名前決定会議に結論が出たようで、1番年上なカイゼルが代表してファイアースライムブロッカシアの真下近くへやって来た。

「ファイアースライム! おまえのなまえは、きょうからグラナートだ! ファイアーブロッカシア! おまえのなまえは、きょうからヴォルカンだ! それでいいか⁈」
『イインジャネーノ?』
『ワリカシ マトモダナ』

 子供達につけられた名前は、ファイアースライムブロッカシアに拒否られなかったようだ。

『ソンジャ マ シゴトスッカネ』
『ヤクジョウ アッカラ シャーネーワナ』

 魔獣2体の間でも名付けが終わってからしか出来ないことがあったようで、細長くなったファイアースライムが魔石の下から上までを右回りに旋回して巻きつき、ファイアーブロッカシアが左回りで巻き付いた。

 2体は、同時に上空へ向けて赤と橙、2つの色を帯びた火の玉を吐き出す。

 何処かポカンとした風情でドルフや村人達が見守る中、かなりの高空でぶつかり合った2つの火の玉は、放射状に散って結界壁の外側だけに降り注いだ。

「やっぱりだ!」
「この中にファイアースライムブロッカシアが居るぞー⁈」
「撤退っ! 撤退だー‼︎」
「攻撃範囲外まで退避せよー!」

 壁の外から口々にそう叫ぶ虫人族の軍人達の声がして、彼等は慌ただしく村から離れて行ったようだった。

「びっくりするくらい、効果覿面なんだねぇ?」
「まぁな。俺達、虫人族にとっては未だ対処法の見つからない天敵中の天敵だから」
「ドルフは、グラナートとヴォルカンのこと怖くねぇのか?」

 単純な疑問を感じたのか、村人の1人がそう尋ねるとドルフは、魔石に巻きついている2体を見上げて言った。

「……いや。俺も最初は食う気満々で見られて冷や汗が出る思いをしたよ。オズワルド様が果物であいつらの意識を逸らしてくださらなかったら、今頃はあいつの腹の中だったかもしれないな」

 どうやら2体に与えられる果物には、ドルフを始めとした近場にいる人間の安全配慮という側面もあったらしい、と悟って村人達も彼同様に魔石に巻きつく2体を見上げる。

 一仕事終えたらしいファイアースライムとファイアーブロッカシアは、魔石の表面上をクルクルと周りながら移動して頂点付近へ辿り着いた時には、また1体の魔獣へと纏まって、地上に居る彼等を見下ろしていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

砕けた愛は、戻らない。

豆狸
恋愛
「殿下からお前に伝言がある。もう殿下のことを見るな、とのことだ」 なろう様でも公開中です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...