お金がないっ！

第6章 ＜閑話＞ それぞれの胸中編

元師団長トゥラガルド -3-

「何してんですかアンタ⁈」

　思わず素でアルクレインに怒鳴ってしまったトゥラガルドだったが、この場合、彼は悪くないかもしれない。

「スパールとディアを逃すためよ！」

　悪びれもせず言い放ったアルクレインは、ラクダチョウの背に両手をつくと肉薄してきた兜人族に両足で後ろ蹴りを放った。

　身長の4分の3を誇る鶴人族特有の長い足で放たれた迎え蹴りは、硬い爪先が兜人の下腹部にメリ込んでいるのが見える。

　絶対、あれは痛い。

　序でに言うなら、もう少し下に食らわせていたら男性機能が終了のお知らせを受けていたかもしれない位置だった。

　兜人は駱駝鳥ラクダチョウから落駝鳥して、地面を転げ回っている。

　周囲に居るトゥラガルドが転がした者とは違って俯せで丸まっていた。

　この時の追っ手は兜人しか居なかったこともあって、制圧には成功したがスパールとディアを逃す為に自分達は公国へ向かわない方がいい、と判断したアルクレインによって、2人は帝国を目指すことになった。

　1番ヤバかったのは、蟷螂人と噛切人の混成部隊の時で、共に肉食種だったのがヤバさに拍車をかけた。

　アルクレインはこの時に泥まみれとなり、トゥラガルドは傷だらけになって、古代遺跡の瓦礫が、ポツポツと残る場所へ辿り着いた。

「トゥラガルド、大丈夫？」
「深い傷は腕のこれだけです。問題ありません」

　噛切人は、その名の通り半分がカミキリムシなので、何処にでもへばりつくし、顎の力が物凄くて文字通り腕の肉を噛みちぎられた。

　兜人から、かっぱらってきた剣槍の在庫が収納袋の中になかったら結構、危なかったかもしれない。

「次の捜索隊が来るまでに移動しましょう」
「そうですな。何だかんだと公国側へ押し戻されてしまいましたしな」

　2人は、虫人達の追跡隊や捜索隊から逃れる為に逃げ回っていて、結局、2人ずつに分断されることになった場所まで戻ってきてしまっていた。

「……スパールとディアは、逃げ切れたかしら？」
「どうでしょうな」
「ねぇ、わたくし達、もう諦めて公国を目指すべき？ それとも……本当にあるかどうかも分からないけど、宮廷魔法師長のくれた地図を頼りに悠久の地を目指すべき？」
「姫様が行きたいと思う方へどうぞ。どちらを選ばれても私は貴女を守るだけです」

　自分としては事実を口にしただけだった。

　けれど、アルクレインはこの時、ちょっとだけ悲しそうな顔をした。

　その表情の意味が分かったのは、悠久の地に辿り着いた後だったけれど。

「虎人のオッサン、そろそろ例のヤバい沼が近いんじゃねぇか？ 変な臭いする」

　傍近くからかかった少年の声にトゥラガルドは、過去から現在へと意識を戻した。

　狼獣化族の元第19王子。

「そうだな。オズワルド様からも警告されているからな。早めに迂回するとしよう」
「了解」

　こちらの提案に素直に従う彼に、変わった印象と素の姿を見て思う。

(種族が違っても分かり合う努力が互いにあれば蟠りは消える。俺達は、これまで虫人族に対してそれをちゃんとしてきたんだろうか……？)

　自身と自国の在り方に問題があったのではないか、なんてここへ来なければきっと考えもしなかっただろうな、と。